閉じる

報告書&レポート

2012年9月27日 ロンドン事務所 北野由佳
2012年59号

ERNST & YOUNGによる鉱業におけるビジネスリスクの分析

 監査法人Ernst & Young(以下E & Y、本社:ロンドン)は2012年7月、鉱業が直面しているビジネスリスクを分析した「Business risks facing mining and metals 2012-2013」を発表した。同報告書は、主要鉱山・金属企業に対するインタビューに基づきリスクのランキングを提示すると共に、それぞれのリスクに対して鉱山・金属企業が実施することができる対策についても言及している。昨年に引き続き、本カレント・トピックスでは、同報告書の概要を報告する。
 なお、同報告書の要約(英文)は以下のリンクからダウンロード可能である。
 http://www.ey.com/Publication/vwLUAssets/Business_risks_facing_mining_and_metals_2012_-_2013_Executive_summary/$FILE/Business_Risks_in_Mining_and_Metals_Executive_Summary.pdf

1. 2012年の鉱業ビジネスリスクランキングトップ10

 2012年の鉱業におけるビジネスリスクランキングのトップ10に特定された項目は、1位から10位まで昇順に、①資源ナショナリズム、②技能不足、③インフラへのアクセス、④コストのインフレ、⑤設備投資計画の実行、⑥社会的営業免許、⑦価格と通貨のボラティリティ、⑧資本の配分と資本へのアクセス、⑨利益の共有、⑩不正・腐敗という結果であった(図1参照)。前年のランキングと比較すると、表面的にはあまり変化が無いように見えるが、実際には、過去12カ月間において、鉱業界が直面するリスクの深刻度が増し、リスクがより複雑化した。この主な要因としては、1)コモデティ価格が下落基調であるため、鉱山会社が短期で投資収益が得られるプロジェクトを選択する傾向にあること、2)技能及びインフラの面でのキャパシティに変化があり、それが投資プロジェクトの実施に影響を与えていること、の2点が挙げられる。

図1. 2011年のランキングとの比較

図1. 2011年のランキングとの比較

(出典:E & Y「Business risks facing mining and metals 2012-2013」)

2. ビジネスリスクのトップ10に特定された項目の詳細及び対策

第1位:資源ナショナリズム(前年第1位)

 2011年に引き続き、2012年も資源ナショナリズムが第1位となった。資源国政府は、鉱業から得られる利益を増やすために、従来の課税の範囲を超えた政策を実施するようになった。E&Yでは、2012~13年にも継続すると予想される資源ナショナリズムの3つの重要な傾向を、以下のとおり特定した:

1) ロイヤルティまたは鉱業税の導入及び引き上げ

2010年に豪州が新たに「超過利潤鉱業税(super profits mining tax)」を導入することを提案したことが、世界中の資源国に波及し、2011~12年には多くの国でロイヤルティ及び鉱業税の引き上げが発表された。例えばインド政府は2012年3月、森林地域で採掘された鉱物資源に対して新たに課税する手段を検討するためのタスクフォースを編成した。またペルーでは、2011年の大統領選挙の後、鉱業税及びロイヤルティ制度の改革が行われた。その他、2011年及び2012年前期において、DRCコンゴ、ガーナ、モンゴル、ポーランド、米国等の国々でも鉱業税及びロイヤルティの引き上げが実施または発表された。

2) 高付加価値化の義務化及び輸出税

多くの資源国において、鉱物資源の国内での高付加価値化(beneficiation)を要求する動きが見られる。南ア、ジンバブエ、インドネシア、ブラジルそしてベトナムは高付加価値化戦略を発表した。資源国内で高付加価値化が義務付けられることによって、ビジネスリスクには以下の様な点で変化が生じる:
 ・ 製・精錬所を建設するための高いコスト
 ・ 付加価値生産を行うための電力とインフラの必要性(資源国では不足する場合が多い)
 ・ 付加価値生産を行うための熟練技術者の必要性
 ・ 国際的な供給チェーンにおけるフレキシビリティの損失
 ・ 投資リスクの集中
 ・ 付加価値に対する比較的高い税
 ・ 顧客の供給チェーンとの一体化が減少
 ・ 鉱山会社が下流への事業展開(投資)を強いられることによる現在のビジネスモデルに対する脅威
国内での高付加価値化を確実にするため、資源国政府の中には未精練鉱石の輸出に対して高い関税をかけている場合がある。例えば、インドネシア政府は2012年には鉱物資源に20%の輸出税を、2015年には50%の輸出税を課すことを提案している。

3) 資源の国の所有権または国民の所有権の保持

資源国政府は鉱物資源の所有権をさらに保持しようとしており、かつ、これは新しい現象ではない。南ア政府は、鉱山国有化の議論を排除しようとしているが、既にBEE政策を実施しており、国営鉱山会社の鉱山プロジェクトへの参加を義務付けることを検討している。インドネシアは操業開始から10年以上が経過した鉱山における外国鉱山会社の権益を49%以下に制限する計画を発表している。またジンバブエは既に現地資本の比率を51%にまで引き上げることを義務づける現地化・経済権限拡大法を施行している。一方、モンゴルでは戦略的鉱山における外国鉱山会社の権益を49%以下に制限しており、中国及びインドでも特定の鉱物資源に関して外国鉱山会社の権益比率に制限を設けている。

 資源ナショナリズムの動きは、鉱山会社がどの国に投資を行うかという判断に影響を与える。鉱山会社は投資を行う際に、リスク報酬比率(risk-reward ratio)を検討するため、税制度の改正といった資源ナショナリズムによるリスクの上昇は投資判断に確実に影響をもたらす。また鉱山会社は、新しい投資を行う時だけではなく、既存の鉱山プロジェクトのリスク報酬比率も見直すべきであり、その結果として、プロジェクトの権益を売却するという選択が報酬を最大化するために必要な策となる場合もある。
 鉱山プロジェクトにおける権益を拡大している資源国政府は、鉱山会社にとってのリスクを増加させるとともに鉱山会社の報酬を減少させており、将来の直接外国投資に悪影響を及ぼす可能性がある。

<主な対策>

・ 鉱業プロジェクトがもたらす利益を受入れ国側に理解してもらうため、受入れ国政府との透明な関係(transparent relationships)構築のために投資する。

・ 受入れ国政府の経済的及び政治的な奨励政策に沿った事業展開を行い、受け入れ国のインフラの貴重な一部分となる。

・ 有効な地域コミュニティ開発プログラムを積極的に実施することにより、受入れ国の地域コミュニティに直接的かつ持続可能な利益をもたらす。

・ 世界銀行のような多国間組織と提携し、資源ナショナリズムの被害者としての立場を認識されるよう努める。

・ 政府間での強力な関係を築いている国営企業と提携する。

・ 政府の直接的な(市場価格での)プロジェクトへの参画を慫慂する。

第2位:技能不足(前年第2位)

 豪州及びカナダで起こっていた深刻な技能不足は過去1年間でより多くの国々へと広がっており、インドネシア、モンゴル、ブラジル、チリ、ペルー、モザンビークにおける鉱山プロジェクトで技能不足に関係する問題が生じた。コモデティ価格の上昇に加えて、金属需要の長期的な伸びが予期されていたことから、新規プロジェクトの開発及び既存プロジェクトの拡大への投資が再び活発化し、熟練鉱山労働者の需要も増加した。しかし、将来的な投資の見通しは不確定であり、必要な労働力を事前に計画することは難しいため、技能不足のリスクは資源ナショナリズムに次いで重大なリスクであると考えられている。
 技能不足に付随する重要なリスクには以下の様な項目が挙げられる:

1) 生産量への影響

技能不足は現在及び将来の生産量を制限する恐れがある。BHP Billitonによると、豪州の資源産業は今後5年間で、17万名の労働者を追加する必要があり、またカナダの鉱業人材評議会(Mining Industry Human Resources Council)によると、カナダの鉱業労働者の約40%は2014年までに定年退職を迎え、2017年までに6万~9万人の労働者不足に陥る可能性があるとされている。

2) プロジェクトの遅延、縮小、キャンセル

熟練労働者及び非熟練労働者の不足はプロジェクトの遅延につながる。計画した数々のプロジェクトをスムーズに実行に移すための十分な労働力が確保できない場合、プロジェクトに関する契約内容を履行することが難しくなる。例えば、カナダでは2009~11年に、32の鉱山で操業を停止または縮小したとされる。

3) グローバル・モビリティ(労働者の流動性)

鉱山プロジェクトが位置する地域の労働市場では十分な技能及び労働力を確保できないことが多いため、世界規模で必要な人材を確保し移動させることが重要になってくる。しかし、外部から労働者を確保することに関しては地域コミュニティや政府の支援を得られないことがあり、政府の政策で国際的な労働者の移動に制限を設けている場合がある。

4) 労働コストの上昇
 不足している熟練労働者を獲得するために雇用コストが上昇し、生産マージンが減少する。

 鉱山会社の中には技能不足に対応するための短期及び長期的な対策を事前に講じている会社がある。以下の様な革新的なアプローチが確認されている:
 ・ 雇用者に対して、給与だけではなく、一人一人のニーズにあわせた福利厚生を提案する。
 ・ 女性や先住民といった未だ非伝統的で少数派の労働者層を取り入れる。
 ・ 鉱業に類似または補完的な技術を有する石油、ガス、製造といった産業から人材を確保する。

<その他の主な対策>
 ・ 投資に関する決定を下す際に、人口動態や多様性を考慮に入れる。
 ・ 半熟練(semi-skilled)労働者及び引退した元労働者の就業を促進するプログラムを実施する。
 ・ 引退間近の熟練労働者が持つ重要な技能を引き継ぐためのプログラムに焦点をあてる。
 ・ 能力開発を目的とした雇用プログラムを実施する。
 ・ 鉱山の経営計画の中に早期の人員確保を組み込む。
 ・ 関連団体やコミュニティとの戦略的な協力関係を確立しておく。

第3位:インフラへのアクセス(前年第3位)

 歴史的な平均値よりも高い金属価格が長期間継続していることから、低品位の鉱床や遠隔地にある鉱床でのプロジェクトが実現可能とみなされるようになったが、インフラ施設の不足がプロジェクト開発の主な障害となっている。以前であれば政府が大規模なインフラプロジェクトの資金を提供していたが、世界中の国々で財政状態が悪化する中、鉱業関連のインフラ整備への投資は民間企業にゆだねられるようになった。しかし、経営状態の良いメジャー企業では、株主が新しい設備投資を制限する圧力をかけており、一方で中小企業は、鉱業プロジェクトのためだけのインフラを整備する資金を調達するのが困難である。
 インフラ整備における政府の役割は、資金を提供する立場からインフラ事業を計画、承認、奨励する立場に変化した。一方、中国、日本、韓国、インドといった国々の政府の支援を受けた企業が、資源国でのインフラ事業に投資をするという事例も増えている。また機関投資家がインフラ事業に、年金基金、政府系ファンド、公共投資基金といった新しい形での投資を行っていることも確認されている。インフラの必要性を満たすためには、調達手順や政府、利用者、開発者及び資金提供者の間でのリスク配分のあり方を考え直す必要がある。商業的リスクが適切に対処されなければ、インフラ開発の遅延が継続し、必要以上に問題が複雑化する可能性がある。

<対策>
 ・ インフラ不足が企業価値に与えうる影響の範囲を特定する。
 ・ インフラを含めたすべての設備投資から得られる利潤を理解した上で、適切な資金調達を行う。
 ・ インフラに関する問題に他の利害関係者と協力して取り組み、利益を共有する。
 ・ テイク・オア・ペイ契約(引取保証)が最適な水準で遵守されることを確実にするため、鉱山計画を改善する。

第4位:コストのインフレ(前年第8位)

 鉱業部門では2011年にコストが約10~15%も上昇したとされており、今後数年間はコストのインフレがますます悪化することが予想されている。コストのインフレを引き起こす要因としては、原油・エネルギー価格の上昇、賃上げ、為替レートなどが挙げられる。また、鉱山では鉱石の低品位化や採掘の深部化が進んだことで、必要な技術や設備またインフラ整備に関わるコストが上昇した。
 このような状況を背景に、鉱山会社は不採算資産を特定するため、資産の見直し作業を行っており、高コストな事業や非中核事業を停止もしくは処分することを検討している。また、コストのインフレの影響を緩和するための対策として、企業合併、作業のオートメーション化、エネルギー産業への投資といったことも行われている。

<対策>
 ・ 持続可能な費用削減プログラムを実施する。
 ・ 中核部門以外の資産を売却する。
 ・ 鉱山の操業契約、売却、リースバック契約を検討する。
 ・ サプライヤーとの契約を見直す。
 ・ 外部委託を検討する。
 ・ 規模の経済性(economies of scale)の原理を最大限に活かすために、戦略的な合弁事業を行う。

第5位:設備投資計画の実行(前年第5位)

 多くのプロジェクトが2012~15年に生産開始を予定しており、2011年に企業が発表した鉱業分野への投資額が対前年比20%増だった一方で、2012年は新規プロジェクトの発表が減退している。
 鉱山会社はコストのインフレ及び景気の先行き不安の現状を十分に認識しており、プロジェクト実行に関する戦略を随時見直している。金属需要、主要なコモデティ価格、及び各種規制の見通しに関する不確実性は、2011年後半から金属価格を押し下げており、鉱山会社はリスクを軽減するために、既に発表した投資計画の見直し、改正、優先順位付け等を行っている。

<対策>
 ・ ポートフォリオを厳密に管理する。
 ・ プロジェクトの選択、優先付け及び管理に関してより綿密な調査をする。
 ・ 潜在的なプロジェクトリスクに対処できる効率的なリスク管理手順を構築する。
 ・ プロジェクトの所有者と請負業者が協調し、プロジェクトのパフォーマンスが監視及び管理されていることを確実にする。
 ・ 第三者によるプロジェクトの評価及び監督を行い、問題を初期段階で特定する。

第6位:社会的営業免許(前年第4位)

 社会的営業免許(social license to operate)は、過去5年間のE&Yのビジネスリスクランキングで第6位以上を常に維持してきたことから、鉱業ビジネスの重要な要素であることが分かる。また全ての利害関係者に「正しいことを行う企業」として認識されることで、新規プロジェクトへのアクセスや資金調達が容易になる。企業が高い評判を持つことは、地域コミュニティ、NGO団体、雇用者との信頼関係や、資源国政府との関係構築において大変有益になる。社会的営業免許に関する最近の傾向としては、1)政府や地域コミュニティ等の利害関係者からの期待が増大、2)買収対象企業が残した未解決の問題の取り扱いに関する課題が浮上、3)鉱山会社は全ての利害関係者との関係強化を重視、といった点が例として挙げられる。

<対策>

・ 企業のリスク管理フレームワークに社会的営業免許に関するリスクも組み入れるとともに、明確なリスク軽減戦略も構築しておく。またその戦略がきちんと実行されていることを確認する。

・ 持続可能性に関する地域コミュニティと労働者との話し合いを促進する。

・ 鉱山における安全衛生の向上、水消費量及び廃棄物の削減等の持続可能性に関する重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)を生産量に関する報告書に取り入れる。

・ 持続可能性に関する業績を労働者の確保及び維持に結び付ける。

・ 社会的営業免許に関する問題に対処するスピードを向上させる。

・ 紛争地域においては安全面でのリスクを軽減するために、全ての利害関係者との友好的な信頼関係を促進する。

・ 全ての長期計画に持続可能性に関する目標を含める。

第7位:価格と通貨のボラティリティ(前年第6位)

 株式市場はマクロ経済に関するニュースにますます敏感になってきている。そして、コモデティ価格の上昇は企業の株価に完全には反映されないが、コモデティ価格の下落は株価に反映されるという状況である。また鉱山会社の運営コストが機能通貨(functional currency)で計上されない場合は、為替レートから大きな影響を受け得る。価格と通貨のボラティリティに対処するため、鉱山会社はヘッジ戦略(hedging strategy)を構築する必要がある。ダイナミックDCF(Dynamic Discounted Cash Flow)やリアル・オプション(Real Option)といった考え方を取り入れることで、リスク評価を向上しキャッシュフローを強化できることが期待できるが、まだ一握りの企業しか実行していない。
 今後の見通しとしては、世界市場の回復の遅れと景気後退により、コモデティ価格と通貨のボラティリティは継続すると考えられる。効果的な戦略と実行計画によってボラティリティを管理することは必須であり、ボラティリティから価値を生み出すことができる企業は将来的な成功を手に入れることができるだろう。

<対策>
 ・ ボラティリティの要因を特定し、効果的に管理する。
 ・ キャッシュフローを予想範囲内に維持するため、ボラティリティを軽減できるヘッジ戦略を考案する。
 ・ 生産活動における融通性を向上させる。また融通性がもたらす利益を計測する。
 ・ 様々なシナリオにおける計画を立てる。
 ・ 資本配分を慎重に行い、極端な価格予想に関してストレス試験を行う。
 ・ 金属価格の変動と通貨の影響を緩和するため、金属ポートフォリオを多様化する。

第8位:資本の配分と資本へのアクセス(前年第7位)

 2012年は資本配分の決定を下すには極度に複雑で不確実性の高い環境となっている。需要パターンは変わり易くて予測が困難、コストのインフレは悪化、コモデティ価格のボラティリティは高い、といった様な状況は、必然的に企業利益の見通しに影響を与えており、短期投資収益を株主に還元することが以前にも増して求められるようになっている。
 準最適な(sub-optimal)な資本分配を行った場合、長期にわたって大きな影響がでる可能性がある。鉱山会社にとっての課題は、短・中期的なチャンスとリスクに対応する融通性を保ちながら、長期的な戦略に忠実に従うことである。
 また資本へのアクセスに関しては、2012年前期には世界経済が再び悪化したことから、資本提供者のリスク回避傾向が強まった。リスクの高いプロジェクトへの新規資本投資が制限されたことから、ジュニア企業は企業成長のための資本を調達することがより困難になっている。

<対策>
 ・ 企業利益に影響を与えうるリスクの許容レベルを明確にし、事前合意しておく。
 ・ リスク、プロジェクトの経済性及び想定事項を定期的に評価する。
 ・ 明確で客観的なガバナンス(統治)を確立する。
 ・ 投資後のレビューを実施し、実績と計画とを比較する。
 ・ 既存のプロジェクトを新規プロジェクトと同じ基準で評価する。
 ・ 資本の支出先を順序付け、優先付けまたは変更するための融通性を持つ。
 ・ 資金調達に関して、革新的な代替手段を模索し、選択性を保つ。

第9位:利益の共有(新たにランク入り)

 他の産業が低迷している中、鉱業では好調な業績が続いているため、様々な利害関係者が、鉱山会社が生み出した利益から少しでも多くの分け前を得ようとしている。それぞれの利害関係者は分け前を得る資格があると考えており、相反する様々な要望のバランスを取ることが困難である。
 利害関係者とそれぞれの要望には以下の様なものがある:

・ 政府:鉱山会社にロイヤルティや鉱業税の支払いによる資源国政府の国家歳入への直接的な貢献だけではなく、社会的インフラ(例:学校、病院)、輸送インフラ(例:港、鉄道、道路、発電所)、能力開発、地域コミュニティの健康改善、優先的雇用(例:市民、民族)、現地調達等によって地域開発への関与を拡大することを期待している。

・ 地域コミュニティ:鉱山会社に鉱業プロジェクトが地域にもたらす悪影響を最小にすることに加えて、雇用創出、教育への投資、インフラ整備といった形で、地域コミュニティに経済的及び社会的な貢献をすることを求めている。要望が満たされない場合、地域コミュニティは鉱業プロジェクトの進展を阻害したり、操業を阻害するなど、大きな影響を及ぼす可能性がある。

・ 雇用者:鉱業における技能者不足の状況を利用し、鉱山会社の雇用者は賃上げや福利厚生の向上といった形で企業利益から受ける恩恵を拡大しようとしている。要望が満たされなかった場合にはストライキを起こし、生産に影響を与えることで大きな損失を生む可能性がある。

・ サプライヤー(鉱業関連サービス及び設備提供会社):鉱山会社は生産を拡大するためにサプライヤーのサービスや商品に頼らなくてはならないため、サプライヤーはより高いマージンを設定するようになった。

・ 株主:鉱山会社の株式を有するというリスクに対してより大きな見返りを求めている。しかし、他の全ての利害関係者が鉱山会社の利益における分け前を増やしているため、株価や配当金といった形で株主に報酬を与えることがより困難になってきている。

 鉱業はリスクを伴うビジネスであり、鉱山会社はリスクの移転に見合った報酬を他者に譲渡することをいとわない。しかしながら、利益の共有を求める多くの利害関係者は、追加的なリスクを請け負うことをせずに、受理できる利益のみを拡大しようとしているため、鉱山会社は利益が減少する中でより多くのリスクを請け負わざるをえなくなっている。

<対策>
 ・ 鉱山評価(mine valuation)のコンテクストの中で利害関係者の意見を評価する。
 ・ 鉱山評価への影響を制限するようなトレードオフ(妥協点)を導く。
 ・ 価値を創造するようなトレードオフとして、リスクの移転を行う。
 ・ 価値の共有は短期的な解決法であるため、利害関係者をより長期的な解決法に導く。
 ・ 鉱山及び関連施設から誰が利益を受けるかに関する報告書の透明性を高める。

第10位:不正・腐敗(前年第10位)

 鉱山会社は辺境地域(frontier countries)へ事業を拡大しているため、不正・腐敗のリスクは2012年も依然として高い。不正・腐敗が起こった場合には、会社の評判や社会的営業免許に深刻なダメージを与え、結果として会社の収益に影響が出る可能性がある。また、不正・腐敗の事例の影響で、政府が広範囲に及ぶ規制改革を実施することにもつながっている。特に英国では2011年7月に施行した英国贈収賄防止法(The UK Bribery Act)に見られるように、企業及び個人に対する責任をより強化している。不正・腐敗を一掃するためにより厳格になっている規制を遵守するために、鉱業に関与する企業は、社内における不正・腐敗対策の現状と他社の先導的な取り組みとを比較し、評価をする必要がある。

<対策>
 ・ 重要な不正・腐敗防止法の内容とその対象範囲を理解する。
 ・ 効果的なコンプライアンス・プログラムに関して一般的に認められた基準及び手引きを熟知しておく。
 ・ 不正リスク評価を行う。
 ・ 腐敗防止コンプライアンス・プログラムを設定、実施、監視する。
 ・ 上記プログラムをM & A及び合弁事業の際のデューディリジェンスに組み込む。
 ・ 定期的にリスクを再評価し、プログラムを修正する。

3. 所感

 2011年に引き続き、2012年も資源ナショナリズムがビジネスリスクランキングで第1位となったことは、ロイヤルティの引き上げや輸出制限に関するニュースが頻繁に報道されてきたことを考えれば驚きではない。上記に挙げられた殆どのリスクの根本には、全ての利害関係者が好業績を収める鉱業から少しでも多くの利益を得たいと考えていること、そして鉱業に対する期待、要望、要求が年々高くなっていること、といった現状があるように感じる。2012年のリスクランキングトップ10は、2011年のランキングからほとんど入れ替わりがなかったが、リスクの内容はより複雑化し、深刻度が増しているため、鉱業関係者はそれぞれのリスクを十分に分析し、継続的に対策を講じる必要があるだろう。

ページトップへ