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報告書&レポート

2012年10月18日 メキシコ事務所 高木博康
2012年63号

メキシコ合衆国のベースメタルの製・精錬事業の現状と今後の見通し

 メキシコの鉱山からのベースメタル鉱石の生産の現状と今後の見通しについては、2012年8月に「メキシコ合衆国の銅鉱石の生産の現状と今後の見通しについて」(CT 12-49号)及び「メキシコ合衆国の鉛・亜鉛鉱石の生産の現状及び今後の見通しについて」(CT 12-50号)において紹介したところである。
 この度、メキシコのベースメタルの製・精錬事業について、2012年6月にGrupo Mexico社のSan Luis Potosíプラント関係者から亜鉛精錬所の現状及び銅製錬所が廃止された経緯等について聴取し、2012年9月にメキシコ鉱業会議所のAlmazán事務局長からメキシコの製・精錬事業の概況、Met-Mex Peñoles社関係者からPeñoles社の製・精錬事業の現状及び今後の見通しについて聴取したので、ここに紹介する。

1.メキシコの製・精錬事業の概況

 2012年9月にメキシコ鉱業会議所(CAMIMEX)Almazán事務局長からメキシコの製・精錬事業の概況を聴取したところ、以下のとおりである。
 メキシコには、現在、銅の製・精練所が1つ、亜鉛の精練所が2つ、鉛の製錬所が1つ、鉛の精練所が2つ存在している。
 銅については、2010年初頭にGrupo Mexico社のSan Luis Potosí銅製錬所が閉鎖になった。また、世界的な大富豪カルロス・スリム氏の持つ財閥グループGrupo CarsoのCondumex社が銅のスクラップを対象とした二次精錬をメキシコ市北部で行っていたが、採算の悪化から2012年3月に精練所を閉鎖している。このため、現在、銅の製・精練所は、ソノラ州のLa Caridad銅鉱山に隣接する同社のLa Caridad製・精練所だけとなっている。なお、Grupo Mexico社は、2015年までにソノラ州の太平洋岸Guaymas港に面したEmpalmeに銅の製・精練所を建設することを計画している。
 亜鉛の精練所は、Grupo Mexico社がサン・ルイス・ポトシ州サン・ルイス・ポトシ市に、Peñoles社子会社のMet-Mex Peñoles社がコアウイラ州トレオン市にそれぞれ電解精練所を保有している。Grupo Mexico社は自社の鉱山からの精鉱のみを対象としているが、Met-Mex Peñoles社はカナダ企業等から亜鉛精鉱を購入している。
 鉛の製・精練所は、Met-Mex Peñoles社がコアウイラ州トレオン市に保有する他、米・ウィスコンシン州ミルウォーキーに本社があるJohnson Controls社がヌエバ・レオン州モントレー市で鉛バッテリーの再生のための二次精錬所を保有している。Met-Mex Peñoles鉛製錬所は、自社の精鉱の他、Grupo Mexico社をはじめとするメキシコ企業、カナダ企業等から鉛精鉱を購入している。

2.銅の製・精練所について

-San Luis Potosí銅製錬所の廃止とGrupo Mexico社の今後の計画について-
 2012年6月にGrupo Mexico社のSan Luis Potosíプラント関係者から聴取したところ、以下のとおりである。
 San Luis Potosí銅製錬所は、2010年初頭に閉鎖した。その背景としては、①製錬所周辺に民家が増え、住民との軋轢が生じてきたこと、②製錬所ができてから110年が経ち老朽化してきたこと、③同社の銅の生産はソノラ州等のメキシコ太平洋側に重心があること、④バハ・カリフォルニア半島のEl Arco銅プロジェクトが計画され、同社として将来的に太平洋側に製・精錬所の新設が必要となったこと等があげられる。

写真1.San Luis Potosí銅製錬所跡地から見た周辺の住宅街(2012年6月)

写真1.San Luis Potosí銅製錬所跡地から見た周辺の住宅街(2012年6月)

 その後、2010年6月にCananea(現Buenavista)銅鉱山のストライキが解決したことから、2015年までにBuenavista鉱山の銅生産を18万t(精鉱によるものは12万5,000 t)体制から45万t(精鉱によるものは31万3,000 t)体制に拡張するとともに、ソノラ州のGuaymas港に面した鉄道の終点Empalmeに銅の製・精錬所を建設する計画を2010年8月に決定、公表した。この製錬所の粗銅生産能力は35万tで、精練所の銅地金生産能力は33万tとなっている。
 なお、La Caridad精練所の銅地金生産能力は30万tであり、Grupo Mexico社の銅地金生産能力は2015年までに30万tから63万tに拡張される。Buenavista鉱山は、Empalmeと鉄道で繋がっており、同鉱山で生産された銅精鉱はLa Caridad製・精錬所とEmpalme製・精練所で処理される。また、2016年からバハ・カリフォルニア州のEl Arco銅プロジェクトの銅精鉱(SX-EWは2015年から)の生産開始を予定しており、トラックと船で銅精鉱をEmpalme製・精練所に運ぶ計画となっている。
 Grupo Mexico社では、他社からの銅精鉱の購入はせず、また、原則として、自社で生産した銅精鉱は自社の製・精練所で処理している。製・精練所のトラブル等で銅精鉱を処理しきれなくなった場合には、同社の米国又はペルーの製・精練所で処理するのが原則となっている。
 Peñoles社を含む他社は、銅の製・精練所を持たないため、銅精鉱は輸出している(例外的にMet-Mex鉛製錬所における銅を43%含有する残渣はGrupo Mexico社に売却している。)。

図1.Grupo Mexico社の銅鉱山と銅の製・精錬所の位置図

図1.Grupo Mexico社の銅鉱山と銅の製・精錬所の位置図

(注1) 鉱山の生産量は精鉱中の銅含有量のみ(SX-EWを含まず)。括弧内は2011年生産量と増産後の生産量
(Buenavistaは2015年から、El Arcoは2016年から、Empalme製・製錬所は2015年から)

表1.La Caridad銅精練所における銅地金の生産量の推移(千t)

2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
204.4 173.2 140.8 117.6 233.8

(出典)Grupo Mexico社年次報告書


(注2) 最大生産能力(30万t)を大幅に下回っているのは2007年~2010年5月までのCananea鉱山
のストライキの影響が2011年6月まで続いたことによる。

3.亜鉛の精練所について

(1) San Luis Potosí亜鉛精錬所
 2012年6月にGrupo Mexico社のSan Luis Potosíプラント関係者から聴取したところ、以下のとおりである。
 亜鉛精鉱を電解精錬し、純度99.995%及び純度99.99%の亜鉛地金を製造している。亜鉛地金10.5万t体制である。Grupo Mexico社は、自社の鉱石を対象としており、買鉱は行っていない。
 San Luis Potosí亜鉛精練所の最大生産能力は、10万5,000 t(亜鉛精鉱処理量20万t)であるが、2011年の稼働率は86.3%であり、同社は亜鉛の生産量を増加すべく探鉱活動を実施している。Charcas鉱山の生産量は、減少傾向にあるが、探鉱の成果が出てきており、2009年度までの水準で今後長期にわたり生産を継続できる見通しである。また、2014年にはストライキの発生を契機に2007年途中から生産を休止していたSan Martín多金属鉱山(サカテカス州。2006年の亜鉛生産量15.4千t)及びTaxco多金属鉱山(ゲレロ州。2006年の亜鉛生産量 14.4千t)の生産を再開させる予定である。
 San Luis Potosí亜鉛精練所についても2010年初頭に閉鎖した銅製錬所同様、住民との間で軋轢が生じているが、ISO14000を取得し、銅製錬所の跡地を製・精錬博物館の他、Grupo Mexico社が公園として整備する(市に寄贈するが、メインテナンスはGrupo Mexico社が実施する)などして、住民との関係改善に努め、今後とも精練所を続けていきたいと考えている。

表2.San Luis Potosí亜鉛精錬所における亜鉛地金の生産量(千t)

2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
90.9 95.4 98.7 95.7 90.9

(出典)Grupo Mexico社年次報告書

(2) Met-Mex Peñoles亜鉛精錬所
 2012年9月にMet-Mex Peñoles社関係者から聴取したところ、以下のとおりである。
 亜鉛精鉱を電解精錬し、亜鉛地金を製造している。自社鉱だけでなく、他社から買鉱もしており、買鉱の比率は年により大きく変動するが、概ね30~40%である。精練所の能力は一杯になっており、自社の亜鉛精鉱も25~30%(このうちDOWAメタルマイン等との契約により日本に輸出されるTisapa鉱山の亜鉛精鉱は15~20%)は輸出している。また、他社の精鉱も購入をお断りすることも多い。特に、最近生産量が急増し、メキシコ最大の亜鉛生産量を記録しているGoldcorp社のPeñasquito鉱山の鉱石は有害物質が多く、少量しか受け入れることができない。なお、同鉱山の亜鉛精鉱は、韓国のKorea Zinc Companyに輸出されている。
 また、Peñoles社は2013年からドゥランゴ州のVelardeña多金属プロジェクト(注3)の操業開始を予定しており、亜鉛精錬所の容量が足りなくなるので、2014年から現在の亜鉛地金25万t体制を40万t体制に拡張することとしている。


(注3) Peñoles社の年次報告書によると同プロジェクトの亜鉛の含有量は420万tとなっている。

 亜鉛精錬所の敷地には、1,000万tのスラグが山積みされており、このスラグには12%の亜鉛が含まれている。オアハカ州のSGM(メキシコ鉱業センター)の試験場でこの亜鉛の回収実験を行い、技術的には回収が可能であることが判ったが、現在の価格では採算が取れないので、亜鉛の価格が上昇するのを待って回収することとしている。

表3.Met-Mex Peñoles亜鉛精錬所における亜鉛地金の生産量(千t)

2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
229.1 225.2 236.7 232.7 231.2

(出典)Peñoles社年次報告書

表4.メキシコの亜鉛精鉱の輸出量の推移(参考)(単位:千t)

  2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
輸出量 143 177 301 478 484
うち 韓国 62 6 124 256 268

(出典)メキシコ国立地理情報院(INEGI)

4.鉛の製・精練所

 2012年9月にMet-Mex Peñoles社関係者から聴取したところ、以下のとおりである。

(1) Met-Mex Peñoles鉛製錬所
 Grupo Mexico社をはじめとするメキシコ企業やカナダ企業等から鉛精鉱を購入しており、他社からの買鉱の比率は50~60%となる。
 トラックにより搬入した鉛精鉱の成分をサンプリングにより測定した後、巨大な倉庫に入れ、他の鉱山のものと混ぜ合わせることで、炉に害を与えるおそれがあるシリカやヒ素等の有害物質の含有率を規定値以下にしている。その後、その鉛精鉱を炉に入れ、硫化鉛を酸化鉛にした後、いくつかの炉を経て、品位96%の鉛を取り出す。その時の残渣には、43%の銅が含有し、これはGrupo Mexico社に売却している。また、副産物の酸化硫黄からは、SX-EWに用いられる硫酸及び肥料に用いられる硫安が生産される。
 (亜鉛精錬所同様、拡張の計画があるか質問したところ)鉛製・精錬所については拡張の計画は無い。メキシコの鉛の生産量は近年急増しているが、その要因のほとんどはGoldcorp社のPeñasquito鉱山による。しかし、同鉱山の鉛精鉱には不純物が多い。製・精練所から半径2 km以内に28のモニタリング・ポストを設け、有害物質の濃度を測定しているが、地元との協定で一定の値を越えると全てのプラントを直ちに停止しなければならないこととなっている。そうならないように予め数値を監視しながら製錬所の操業をしているが、Peñasquito鉱山の精鉱が混ざったときには数値が高まることがよくある。このため、同鉱山の鉛鉱石は受け入れるとしても極く僅かである。
 (2011年に加Impact Silver社のRoyal Mines of Zacualpan鉱山の鉛精鉱の購買を製錬所の精鉱スペースの不足を理由に中断した旨業界紙に報道されていたことの事実関係を質問したところ)Royal Mines of Zacualpan鉱山の鉛精鉱の買鉱を中断したのは事実であるが、理由は精鉱スペースの不足のためではない。同鉱山の鉛精鉱は炉をいためる恐れがある不純物の濃度が高く、他の鉱山の鉱石と混ぜることで影響が出ない状況になるまで、買鉱を中断していた。
 (周辺住民との関係維持の方策について質問したところ)トレオン市は、Met-Mex Peñoles製・精練所の歴史とともに125年前に出来た町である。しかし、人口も80万人に増えてきているので、周辺住民との関係には注意している。有害物質のモニタリング以外にも公害対策には力を入れている。当初は、鉛及び亜鉛精鉱を野積みにしていたが、それぞれの精鉱用に巨大な倉庫を建設した。精鉱を運搬してきたトラックは、製・精練所の敷地を出るまでに3回水洗いをする。周辺の住宅を買い取って公園にしている。

表5.メキシコの鉛精鉱の輸出量の推移(参考)(単位:千t)

  2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
輸出量 13 50 87 99 157
うち 中国 10 45 61 60 50
うち 韓国 0 0 14 21 42

(出典)INEGI

(2) Met-Mex Peñoles鉛精練所
 鉛製錬所の96%の品位の粗鉛から99.99%の品位の鉛地金と金、銀、アンチモン、ビスマス等を電解精錬により分離している。精練所の内部は気温も高く、高熱の電気炉が数多く存在しているため、精練所に入る前には労働者も見学者も健康診断を受けることが義務付けられている。
 全体の5%程度は、スクラップからの二次精錬である。ただし、品位90%以上のスクラップしか受け入れていない。
 (最近生産量が微減しているビスマス(注4)の今後の生産見通しについて質問したところ)メキシコ北部の鉛精鉱にはビスマスが混じっている。混じっている地域は、チワワ州、ドゥランゴ州及びサカテカス州であるが、Peñasquito鉱山を除くとこの地域の鉛生産量は微減している(特にチワワ州のNaica鉱山の鉛精鉱の生産量減少の影響が大きい。)。
 サカテカス州の最東部に位置するPeñasquito鉱山の鉛精鉱におけるビスマスの含有量は、同州中央部のF.I.Madero鉱山、Fresnillo鉱山等と比べ低く、また、前述のように有害物質の濃度が高いため、同鉱山の鉛精鉱は少量しか受け入れることができない。このため、精練所のビスマス生産量も微減している。この傾向は今後とも続くと考えている。


(注4) メキシコのビスマスの生産量(2011年)は、中国に次ぐ第2位であるが、その全量はMet-Mex Peñoles鉛精練所において生産されている。なお、鉱山毎の生産量はPeñoles社の企業秘密となっている。

表6.Naica鉱山(Peñoles社)とPeñasquito鉱山(Goldcorp社)の鉛生産量の推移

(参考)(単位:千t)

  2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
Naica鉱山 23.7 20.8 20.7 15.1 15.5
Peñasquito鉱山 (注5) 44.2 70.2

(出典)Peñoles社年次報告書、Goldcorp社年次報告書


(注5) Peñasquito鉱山は2009年10月から鉛精鉱の生産を開始しているが、試験操業中として非公表。

 (INEGIの2011年の統計では、アンチモンの生産量がゼロとなっているが、精練所でアンチモンを分離していると説明があったのはどういうことか質問したところ)2011年のアンチモンの生産量がゼロとなったのはケレタロ州で採鉱し、コアウイラ州で精錬していたUS Antimony社が生産を中止したためだと思われる。Met-Mex Peñoles鉛精練所ではアンチモンは金属では無い三酸化アンチモンに加工し、出荷しているため、金属生産量の統計には表れない。40 t/月の三酸化アンチモンを生産しているが、年次報告書等にも生産量を公表していない。このうち60%はメキシコ国内の化学メーカーで難燃性プラスチックの製造に使われ、残りは欧州等へ輸出されている。

表7.Met-Mex Peñoles鉛精錬所における生産量(千t)

  2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
鉛地金 140.5 141.4 113.8 142.2 131.7
ビスマス 1.18 1.18 0.85 0.90 0.86

(出典)Peñoles社年次報告書


(注6) 2009年2月~4月にストライキによって操業停止。

おわりに

 Met-Mex Peñoles製・精練所の訪問に当たっては、写真の撮影、携帯電話の持込禁止等に加え、企業秘密が多く、話せないことが多いとの事前注意があったが、製・精練所の見学に加え、今後の亜鉛精練所の拡張の予定やビスマスの生産量の見通し等について情報を得ることができた。メキシコの鉱業は、投資も盛んであり、発展の余地も大きいと思われるので、メキシコ事務所としては、今後とも様々な側面からメキシコの鉱業の現状と見通しにつき紹介していきたい。

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