報告書&レポート
豪州探査ジュニア企業等のアフリカ鉱業への投資状況- Africa Downunder 2012参加報告 その2-
2012年8月29日~31日の3日間、豪州パースに於いてアフリカ鉱業投資大会Africa Downunder 2012が開催された。同大会は、アフリカ以外の国で開催される鉱業投資大会としては世界最大規模、豪州国内の鉱業大会でも最大級の鉱業大会となっている。 |
はじめに
Africa Downunder(ADU)は、第1回会合が豪州の鉱山ジュニア企業数社を中心に100名程度が参加して2003年にパースで開催されて以来、回を重ねるごとにその規模が拡大し、今年は参加者数約2,500人、講演数80件、展示ブース件数約150件(探鉱ジュニア企業及び鉱山会社約80社、鉱山関係企業約70社)となった。
本稿では、Africa Downunder 2012参加企業の講演・展示ブース等の情報をもとに豪州鉱山ジュニア企業等のアフリカ各国への投資状況を紹介する。
1.豪州企業によるアフリカ投資の傾向
(1) 国・地域
豪州鉱山ジュニア企業等今回のAfrica Downunder参加企業の鉱業投資相手国は、アンゴラ(ポ)、ボツワナ(英)、ブルキナファソ(仏)、ブルンジ(ベ)、カメルーン(仏、英)、コンゴ共和国(仏)、コンゴ民主共和国(ベ)、エリトリア(他)、エチオピア(-)、ガボン(仏)、ガーナ(仏)、コートジボアール(仏)、ケニア(英)、マダガスカル(仏)、マラウイ(英)、マリ(仏)、モーリタニア(仏)、モロッコ(仏)、モザンビーク(ポ)、ナミビア(南ア、独)、セネガル(仏)、南アフリカ(英)、スワジランド(-)、タンザニア(英)、ザンビア(英)等20数カ国に及ぶ1。
(2) 鉱種・鉱床タイプ
豪州鉱山ジュニア企業等今回のAfrica Downunder参加企業の探査・採掘対象鉱種(鉱床タイプ)は、金・銀(グリーンストーンベルト、構造規制型等)、銅(堆積性、正マグマ性、IOCG;酸化鉄銅金型、斑岩銅型等)、ウラン(火成岩関連型、カルー型等)、亜鉛・鉛等ベースメタル(SEDEX型、VMS;火山性塊状硫化物型等)、白金族(正マグマ性)、レアアース(カーボナタイト、アルカリ花崗岩、風化残留型等)、ニッケル(正マグマ性、ラテライト型等)、マンガン(堆積性)、錫・タングステン(火成岩関連等)、ミネラルサンド(漂砂)、リン(カーボナタイト等)、石炭(カルー層群等)、鉄鉱石(縞状鉄鉱層等)、ダイヤモンド(キンバーライト、漂砂)等であった。
件数として最も多いのは金、次いで銅及び亜鉛・鉛等、白金族及びニッケル、ウラン、レアアース等レアメタル、石炭、鉄鉱石等となっている。

図1.ADU参加企業のプロジェクト

図2.ADU参加企業の金プロジェクト

図3.ADU参加企業の銅プロジェクト

図4.ADU参加企業の亜鉛・鉛等プロジェクト

図5.ADU参加企業の白金族プロジェクト

図6.ADU参加企業のニッケルプロジェクト

図7.ADU参加企業のレアメタルプロジェクト

図8.ADU参加企業のウランプロジェクト

図9.ADU参加企業の鉄鉱石プロジェクト

図10.ADU参加企業の石炭プロジェクト
1 括弧内は旧宗主国等歴史的に関係のあった国(ポ;ポルトガル、英;英国、仏:フランス、ベ;ベルギー、独ドイツ、他;その他、-;独立国、南ア:南アフリカ)
2.豪州企業はなぜアフリカ鉱業へ投資するのか
(1) 政治的・社会的・経済的安定
1960年代の独立以来、紛争の絶えなかったアフリカ地域であったが、各国で民主的な選挙の実施等政治的安定が進みつつある。鉱山ジュニア企業は、このような投資環境の改善傾向に敏感である。例えば、2000年代初頭まで紛争・混乱が続いていたコンゴ民主共和国へもいち早く参入している(Anvil Mining Limited社2、Tiger Resources Limited社等)。今回も2008年のハイパーインフレから経済状況が回復しつつあるジンバブエ共和国鉱山鉱業開発副大臣や2011年7月に独立したばかりの南スーダン石油鉱山副大臣を招聘している。
(2) 投資環境の改善(鉱業法制、投資法制の確立)
今回のAfrica Downunderに参加したアフリカの鉱業関係大臣等の多くが、「投資家に魅力的な鉱業法制・税制及び地質情報提供」を挙げ、投資環境の改善に取り組んでいる。世界銀行も鉱業投資環境の改善支援(表1参照)を進め、ガーナやタンザニアでは金資源の探査・開発が進んでいる。
(3) 資源ポテンシャル(未発見、未開発資源が期待できる)
アフリカでは、西アフリカ、タンザニア等における金資源に加え、鉄鉱石、ダイヤモンド、カルー層群に沿って分布する石炭とウラン、更に、最近注目されているカラハリ・カッパーベルトの銅・銀、ザンビア中央部のIOCG鉱床等未開発の鉱物資源が多数残されている。鉱山ジュニア企業にとって未探鉱地域はそれだけで注目すべきポテンシャル地域となっている。
(4) 諸制度・文化が類似している
多くの金属鉱物資源が存在するアフリカ南部から東部にかけての南アフリカ・ボツワナ・ザンビア・マラウイ・タンザニア・ケニア等は、豪州と同じ「英連邦(Commonwealth of Nations)」の加盟国である(フランスとの関係が強い西アフリカにおいても、ガーナ・カメルーン等は英連邦加盟国)。
(5) ジュニア企業間のネットワーク
Africa Downunderが今年で10回目を迎える様に、豪州では以前からジュニア企業同士で情報交換等の相互協力を行っていた。2011年10月にはそれを発展させる形でAustralia-Africa Mining Industry Group;AAMIG(豪州アフリカ鉱業グループ)が設立され、元Anvil Mining社の社長であったBill Turner氏が会長に就任、アフリカに進出する豪州企業のCSR活動を支援する形で、プロジェクトリスクを低減する試みを行っている。現在アフリカに進出する豪州企業約250社のうち、78社がAAMIGのFinancial Memberとなっている。
表1.世界銀行によるアフリカへの鉱業投資環境改善支援一覧
西暦 | 国 | プロジェクト | 金額 |
1988 1993 1995 1995 1996 1997 1998 2004 2006 2007 2007 2009 2009 2011 |
Ghana Mali Ghana Tanzania Zambia Burkina Faso Madagascar Uganda Mali DR Congo Central African Sierra Leone Sierra Leone Tanzania DR Congo |
Mining Sector Rehabilitation Project Growth Support Project (Infrastructure for Mining) Republic Reengagement and Institution Support Building Program (Mining Sector Reform & Promotion, Artisanal Mining) Natural Resources and Environmental Governance (Fiscal management, governance, transparency & social issues) |
40 6 12 13 23 21 5 25+5 13.5 20 2 2 50 50 |
注) プロジェクト;百万US$以上、太字;鉱業セクター改革・人材育成プロジェクト、TA;技術協力(Technical Assistance)、金額:百万US$
出典) World bank (2010),“The World Bank’s Evolutionary Approach to Mining Sector Reform”, Extractive Industries for Development Series #19 October 2010から抜粋
2 2012年3月にMinmetal Resources Limitedに買収される。
3.アフリカの新しい銅鉱床
アフリカの銅鉱床といえば、ザンビアとコンゴ民主共和国国境付近に分布するザンビア・カッパーベルト(Zambian Copper Belt)が有名で両国は銅の世界的産地として知られている。
一方、ボツワナとナミビア両国にまたがるカラハリ・カッパーベルト(Kalahari Copper Belt)でも、2012年9月7日に開山式を行ったDiscovery Metals Limited社(本社:豪・ブリスベン)のBoseto銅鉱山の他、周辺地域でも活発に探査が行われている。
また、IOCG鉱床を対象とした探査も活発で、ザンビア中央部で探査を行っているBlackthorn Resources社(本社:豪・シドニー)は2012年9月17日、KitumbaプロジェクトについてScoping Study結果を発表し、Potential minable oreとして8,450万t、銅品位1.19%を計上した(大部分は概測鉱物資源量から、残りは予測鉱物資源量から計上)。
Africa Downunder 2012では、Discovery Metals社、Blackthorn Resources社以外に、興味深いグリーンフィールド探査プロジェクトが紹介されていた。Golden Rim Resources社(本社:豪・パース)は、ブルキナファソ中央南部のBalogoプロジェクトで、下部原生界のBirimian層を対象に探査を行っており、地上磁気アノマリーに一致して広がる銅及び金の土壌地化学アノマリーに実施したRCボーリングにおいて、掘進長11 m銅品位2.7%、金品位2.2 g/t、掘進長24 m銅品位0.9%、金品位1.4 g/tを確認しており、2孔実施したダイヤモンド試錐では磁鉄鉱を捕捉している。また、Gryphon Minerals社(本社:豪・パース)はFirst Quantum社が操業するGuelb Moghrein銅・金鉱山の西方30 kmに位置するAkjoujtプロジェクトにおいて、空中物理探査を行い、重複する重力及び磁気アノマリーを抽出している。
4.アフリカ鉱業投資の課題
(1) 鉱業政策・税制の動向 -資源ナショナリズム的傾向-
1990年頃から世界銀行による鉱業法制の改正、空中物理探査データ取得等の地質情報の整備による鉱業投資促進事業によって鉱業投資が進む一方、ジンバブエの現地化法(Indigenization)、鉱山公社設立による政府の鉱業活動への関与(南アフリカ、ナミビア、モザンビーク、ザンビア等)、税率の引き上げ等、資源ナショナリズム的な動きも顕著になっている。
(2) インフラ整備状況
ザンビア、コンゴ民主共和国、ジンバブエ、ブルキナファソ、ニジェール等内陸国だけでなく、アンゴラ、ナミビア、ナイジェリア等海に面した国でも内陸部から鉱物資源を輸出するためには、大量輸送手段(鉄道等)の整備が必要であることは、関係者の共通認識ではあるものの、その建設資金を如何に調達するかもまた、共通の課題である。
(3) ガバナンス
アフリカでは、独立後も政治的に不安定な時期が続いたこともあり、鉱山開発における諸手続き等の透明性が確保されない国が多かった。このような状況は鉱業投資を困難なものとしていたが、国際的な枠組みの中で状況の改善に努めている。
アフリカにおける採取産業透明性イニシアティブ(Extractive Industries Transparency Initiative:EITI)3の遵守国(Compliant Country)には、ガーナ、中央アフリカ、ニジェール、ナイジェリア、マリ、モーリタニアが、候補国(Candidate Country)には、カメルーン、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、コートジボワール、ガボン、ギニア、マダガスカル(停止中)、シエラレオネ、ブルキナファソ、モザンビーク、タンザニア、ザンビア、チャド、トーゴがある。
3 採取産業透明性イニシアティブ(Extractive Industries Transparency Initiative:EITI)とは、石油・ガス・鉱物資源等の開発にかかわるいわゆる採取産業から資源産出国政府への資金の流れの透明性を高めることを通じて、腐敗や紛争を予防し、もって成長と貧困削減に繋がる責任ある資源開発を促進するという多国間協力の枠組み。途上国政府、採取企業、市民社会の平等で開放的な参加形態が特徴。(外務省ホームページ; http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/commodity/eiti.html)
おわりに
豪州鉱山企業、特に鉱山ジュニア企業は、アフリカ各国の投資環境の変化に敏感に対応し、いち早く探鉱開発プロジェクトを形成しており、今回も南スーダンで金の探査を開始したジュニア企業が講演を行っていた。アフリカ各国は政治的安定に加え、経済的安定から更なる経済発展へと進む一方で、資源ナショナリズ的な政策が台頭する可能性もあり、これまで以上に鉱業投資環境が変化するものと思われる。そのような状況にあって、鉱山ジュニア企業の挙動は鉱業投資環境の指標となるのかもしれない。
