報告書&レポート
中国企業の鉱物資源分野における対外投資動向-アフリカを始めとする各地域への投資状況-
中国人民銀行(中央銀行)が2012年7月に発表した中国の外貨準備高(2012年6月末時点)は3兆2,400億US$であり、近年やや頭打ち傾向が見られるものの、世界第2位である日本(1兆2,728億US$)の2.5倍の規模となっている(図1参照)。中国はこの膨大な資金力をバックとして走出去政策の下、「世界の工場」たるべく必要な原材料を確保するため資源分野での対外投資を主に国営企業を通じ拡大させているところである。 ![]() 図1 外貨準備高の推移 中国の主要な対外投資案件について米国Heritage財団がwebサイトで情報を提供しており(The China Global Investment Tracker)、その最新版が2012年7月に公表された1。Heritage財団のデータベースでは、2005年以降になされた投資案件のうち100百万US$以上の主要案件を取り上げており、中国企業による対外投資案件を網羅している点で非常に有用なデータといえる2。 |
1 以下のサイト参照。
http://www.heritage.org/research/reports/2012/01/china-global-investment-tracker-2012
2 Heritage 財団のデータは、投資が表明された時点を以てデータ化されるため、ディスバースメントベースではなく、プレッジベースの内容である。
3 アフリカ向けの投資や援助、貿易に関しては、金属資源レポート2012 年9 月号「中国のアフリカ進出について(2)」で詳しい分析をしているので適宜参照ありたい。
http://mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2012-09/MRv42n3-10.pdf
1. 中国企業の対外投資の概況
1-1 全体像
Heritage財団のデータベースによれば、2005年以降の中国企業の対外投資総額は3,349.9億US$である4。セクター別の内訳ではエネルギーが最も多く1,575億US$であり、投資額全体の約半分(47%)を占めている(図2参照)。次に多いのが鉱物資源分野であり、投資額は815.7億US$、割合では24%となっている。エネルギーと鉱物資源分野で投資額の7割を超えており、これは1980年代以降の改革開放政策により外資誘致を積極的に推進し、製造業の世界的集積地として近年10%前後の高い経済成長率を維持している中国が、原材料として不可欠な資源の獲得に向け積極的に対外投資を展開していることを如実に示している。

図2 中国企業の対外投資(全世界)のセクター別内訳
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
次に、鉱物資源分野での投資を地域別に見てみたい。図2は鉱物資源分野での投資額(815.7億US$)を地域別に分類したものであり5、大洋州が最も多く32.8%(267.7億US$)、次いでアフリカ18.5%(150.7億US$)、南米18.2%(148.5億US$)、アジア16.0%(130.9億US$)の順になっている6。大洋州向けのほとんどは豪州向けの投資であり、豪州向け投資の過半は2008年及び2009年のChinalcoによるRio Tinto株式取得(143億US$)が占めている(内訳は後述)。第2位のアフリカは、歴史的に中国との関係が深い国々が多いが、最近では資源の新たな供給ソース(フロンティア)としての重要性が高まっている。アフリカ地域は投資額では大洋州に次いで第2位となっているが、前述のように大洋州地域への投資額はRio Tinto株式の取得が過半を占めるため、実質的にはアフリカ地域が第1位であると言える(Rio Tinto株式の取得を除くと、大洋州への投資額はアジアを下回る)。以下、南米、アジアと続き、アジアは中国と地理的に近いものの、既に日本などが資源開発で先鞭を付けていることもあり、中国企業にとっては比較的進出しにくい地域となっているようである。

図3 中国企業による鉱物資源分野での投資に係る地域別内訳
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
表1は投資先を国別に並べたものであるが、豪州が圧倒的に多く全体の32%を占めている。2位以下は投資額では豪州の1/3以下となり、インドネシア(75.2億US$)、ペルー(71.8億US$)、DRCコンゴ(71.7億US$)の順となっている。
表1 中国企業による鉱物資源分野での投資に係る投資対象国
(単位:百万US$)
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(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
4 Heritage 財団のデータベースでは投資案件の他に、契約案件や表明されたものの最終的に投資されなかった案件についてもデータベース化している。本稿においては投資案件のみを取り扱うこととする。
5 本稿では地域分類上、「中東」には北アフリカ諸国を含むとする。よって、本稿において「アフリカ」は狭義のアフリカ、即ちサブサハラアフリカを指す。
6 中国商務部の発表によるデータ(「2010 Statistical Bulletin of China’s Outward Foreign DirectInvestment」)では、中国の対外投資の72%がアジア向けとなっている。この点に関しHeritage 財団は、商務部の統計では香港を投資先(仕向地)として扱っているため、対外投資の太宗を占める香港企業による投資や本土発香港経由の投資が「投資先:アジア」として計上される統計上の誤謬を理由として挙げている。
1-2 地域別
Heritage財団のデータベースを基に地域別の主な投資案件を整理した(表2~9参照)。Chinalco(中国鋁業公司)やSinosteel、金川集団、五鉱集団のような現業を扱う大手国営鉱山企業の他に、中国中鉄や中国鉄建のような鉄道建設企業も鉱物資源分野での投資を行っている点が中国投資の特徴と言える。また、CIC(中国投資有限責任公司)やCITIC(中国中信集団公司)のようなファンドによる投資も多く見られる。以下、投資が多い地域の順に特徴を見てみたい(アフリカについては後述)。
(1) 大洋州地域
大洋州での特徴は、上述のとおり2008年及び2009年のChinalcoによるRio Tinto株式取得(143億US$)が投資額全体の過半を占めている点である。鉱種別では、鉄鉱石が最も多く投資額全体の約3割を占め、次いでウラン(2012年のExtract Resources社の株式取得)、アルミニウムとなっている。
表2 大洋州での鉱物資源分野における主な投資案件
年 | 月 | 国名 | 投資企業名 | 鉱種 | 投資額 (百万US$) |
投資内容 |
2005 | 3 | PNG | MCC(中国冶金建設集団公司) | ニッケル・ コバルト |
560 | Ramuニッケルプロジェクトに参画(権益85%) |
2005 | 10 | 豪州 | SinoSteel | 鉄鉱石 | 600 | Midwest Corp.(WA州で鉄鉱石権益保有)とのJVプロジェクトに出資 |
2006 | 3 | 豪州 | CITIC(中国中信集団公司) | 鉄鉱石 | 2,920 | Mineralogy社よりBalmoral Central鉱床にかかる磁鉄鉱の採掘権を購入 |
2007 | 9 | 豪州 | 鞍山鋼鉄集団 | 製鉄 | 330 | 鉄鉱石権益を保有するGindalbieMetals社の株式13%取得とJV企業への出資 |
2008 | 2 | 豪州 | MCC(中国冶金建設集団公司) | 鉄鉱石 | 370 | Cape Lambert Iron Ore社よりCapeLambert鉄鉱石プロジェクトの権益を取得 |
2008 | 2 | 豪州 | Chinalco(中国鋁業公司) | (資源メジャー株式の取得) | 12,800 | Rio Tinto株式の11%取得 |
2008 | 7 | 豪州 | SinoSteel | 鉄鉱石 | 1,320 | Midwestを完全子会社化 |
2008 | 9 | 豪州 | 江蘇沙鋼集団有限公司 | 鉄鉱石 | 360 | Grange Resourcesの株式45%取得 |
2009 | 2 | 豪州 | 湖南華菱鋼鉄集団 | 鉄鉱石 | 770 | Fortescue Metalsの17.55%の株式取得 |
2009 | 5 | 豪州 | 中国広晟資産経営有限公司 | 銅・金 | 140 | PanAustの株式20.0%を取得 |
2009 | 6 | 豪州 | 鞍山鋼鉄集団 | 鉄鉱石 | 130 | Gindalbie Metals社株式の追加取得とKarara鉄鉱石プロジェクトへの出資。 |
2009 | 6 | 豪州 | 五鉱集団 | (準メジャー株式の取得) | 1,390 | Oz Mineralsを買収 |
2009 | 7 | 豪州 | Chinalco(中国鋁業公司) | (資源メジャー株式の取得) | 1,500 | Rio Tinto株式の9%取得 |
2009 | 11 | 豪州 | 宝鋼集団 | 鉄鉱石 | 240 | Aquila Resources社の株式15%取得 |
2009 | 11 | 豪州 | 武漢鋼鉄 | 鉄鉱石 | 250 | Centrex Metals社の株式15%取得 |
2010 | 4 | 豪州 | 漢龍集団 | モリブデン | 140 | Moly Minesの株式55%取得 |
2011 | 3 | 豪州 | 四川漢龍集団 | 鉄鉱石 | 180 | Sundance Resourcesの株式16%取得 |
2012 | 3 | 豪州 | 広東核電集団 | ウラン | 2,380 | Extract Resourcesの株式取得 |
2012 | 6 | 豪州 | 紫金鉱業 | 金 | 190 | Norton Gold社の株式取得 |
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
(2) 南米地域
南米地域では銅が投資額全体の過半を占め、さらに鉄鉱石が約3割となっている。銅と鉄鉱石で8割超の圧倒的なシェアとなっており、南米への鉱物資源投資の双璧を成している。これら以外の鉱種では、2011年の太原鋼鉄、CITIC(中国中信集団公司)、 宝鋼集団コンソーシアムによるCBMM社の株式15%取得が投資額全体の13%を占めている。
表3 南米での鉱物資源分野における主な投資案件
年 | 月 | 国名 | 投資企業名 | 鉱種 | 投資額 (百万US$) |
投資内容 |
2005 | 2 | チリ | 五鉱集団 | 銅 | 500 | Codelcoとの銅オフテイク契約(57千t/年を15年間)及びGabyプロジェクトへの参画 |
2007 | 2 | ペルー | 紫金鉱業、銅陵、厦門建設公司 | 銅 | 190 | Rio Blanco銅プロジェクトを保有するMonterrico社株式50.2%を取得 |
2007 | 6 | ペルー | Chinalco(中国鋁業公司) | 銅 | 790 | Peru Copper社を買収 |
2007 | 12 | ペルー | 五鉱集団、広西銅業 | 銅 | 450 | Northern Peru Copperを買収 |
2008 | 5 | ペルー | Chinalco(中国鋁業公司) | 銅 | 2,160 | Toromocho銅プロジェクトの開発権を旧鉱山公社(Centromin)より取得 |
2009 | 2 | ペルー | 首鋼集団 | 鉄鉱石 | 990 | Shougang鉄鉱石鉱山の開発 |
2009 | 5 | ペルー | Najinzhao | 鉄鉱石 | 100 | Cardero社よりPampa De Pongo鉄鉱石プロジェクトの権益を取得 |
2009 | 11 | ブラジル | 武漢鋼鉄 | 製鉄 | 400 | 鉄鉱石生産企業MMX Mineracao社の株式21.52%を取得 |
2009 | 12 | チリ | 順徳日新発展有限公司、五鉱集団 | 鉄鉱石 | 1,910 | 鉄鉱石鉱山の開発 |
2009 | 12 | エクアドル | 中国中鉄、銅陵有色 | 銅 | 650 | Panantza-San Carlos銅プロジェクトの権益を保有するCorriente Resources社を買収 |
2009 | 12 | ブラジル | CIC(中国投資有限責任公司) | 資源メジャー株式の取得 | 500 | Vale株式の約0.35%取得 |
2010 | 3 | ブラジル | 有色金属華東地質勘査局 | 鉄鉱石 | 1,200 | Itaminasの株式100%取得 |
2010 | 10 | ペルー | 五鉱集団 | 銅 | 2,500 | Peruvian Galeno銅プロジェクトへ投資 |
2011 | 8 | ブラジル | 太原鋼鉄、CITIC(中国中信集団公司)、宝鋼集団 | ニオブ | 1,950 | CBMMの株式15%取得 |
2012 | 3 | エクアドル | 中国鉄建、銅陵有色 | 銅 | 100 | Mirador銅・金・銀プロジェクトへの投資 |
2012 | 6 | ベネズエラ | 中国鉄建 | 鉄鉱石 | 410 | C.V.G. Ferrominera Orinocoからの鉄鉱石オフテイクに関し合意。 |
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
(3) アジア地域
アジア地域では、2011年9月の吉林昊融有色金属集団公司によるスラウェシ(インドネシア)でのニッケル銑鉄プラント建設が最も大きな投資案件となっている(59.9億US$)。そのほか、インド等での製鉄プラントの建設やフィリピンでの銅製錬所の建設、マレーシアでのアルミニウム製錬所建設などが挙げられるが、鉱山権益への参画は比較的少ないことが窺える。アジアでは戦後以来、日本を始めとする先進国企業が既に上流権益へ相当数参画しているため、後発である中国企業は参入の余地をなかなか見いだすことができず、その代替地としてアフリカ等のフロンティア地域へ投資が流れていると推察できる。
表4 アジアでの鉱物資源分野における主な投資案件
年 | 月 | 国名 | 投資企業名 | 鉱種 | 投資額 (百万US$) |
投資内容 |
2007 | 3 | インド | SinoSteel | 製鉄 | 500 | Jharkhandでの製鉄プラントへの投資 |
2008 | 2 | インド | 五鉱集団、Xingxing Iron | 製鉄 | 1,200 | Kelachandra社、Manasara社(いずれも製鉄会社)の株式取得 |
2008 | 4 | モンゴル | Hopu | 鉄鉱石 | 150 | 鉄鉱石の権益を保有するLung Ming社の株式取得 |
2008 | 7 | ミャンマー | 中国有色金属公司 | ニッケル | 810 | Tagaung Taungニッケルプロジェクトの権益50%取得 |
2008 | 11 | フィリピン | MCC(中国冶金建設集団公司) | 銅 | 1,020 | 銅製錬所の建設 |
2010 | 2 | マレーシア | Chinalco(中国鋁業公司) | アルミニウム | 350 | Gulf International Investment GroupHoldings (GIIG)とのJVで製錬所建設 |
2011 | 4 | マレーシア | Chinalco(中国鋁業公司) | アルミニウム | 800 | Smelter AsiaとのJVで製錬所建設 |
2011 | 9 | インドネシア | 吉林昊融有色金属集団公司 | ニッケル銑鉄 | 5,990 | スラウェシでのニッケル銑鉄プラントの建設 |
2011 | 10 | インドネシア | 中国ニッケル資源有限公司 | 鉄鉱石・ ニッケル |
270 | 鉄鉱石及びニッケルの権益を有するPT Yiwan Miningの株式80%を取得 |
2011 | 11 | カンボジア | 広西有色金属 | 製鉄 | 500 | プレアビヘア州での製鉄プラント建設 |
2011 | 12 | マレーシア | 首鋼集団 | 製鉄 | 240 | Hiap Teck Venture Berhad社とのJVで製鉄プラント建設 |
2012 | 6 | インドネシア | 中国ニッケル資源有限公司 | 製鉄 | 1,260 | PT JhonlintoとのJVでPT Batilicin製鉄プラント建設プロジェクトに参画(権益61%) |
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
(4) 中東地域
中東では案件数は少ないが、産油国での安価な電力価格を利用したアルミニウムプロジェクトが多いのが特徴である。またアフガニスタンのAynak銅プロジェクトは2013年の操業開始に向け現在建設が進んでおり、銅量20万t/年の精鉱生産が計画されている。
表5 中東での鉱物資源分野における主な投資案件
年 | 月 | 国名 | 投資企業名 | 鉱種 | 投資額 (百万US$) |
投資内容 |
2006 | 10 | エジプト | CITIC(中国中信集団公司)、Chinalco(中国鋁業公司) | アルミニウム | 940 | アルミ製錬プラントの建設 |
2007 | 11 | サウジアラビア | Chinalco(中国鋁業公司) | アルミニウム | 1,200 | Binladin社(サウジ)、 MMC社(マレーシア)とのJVでアルミ製錬プラント建設(権益40%) |
2007 | 11 | アフガニスタン | MCC(中国冶金建設集団公司)、広西銅業 | 銅 | 2,870 | Aynak銅鉱床の開発権取得 |
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
(5) 北米地域
北米では、2009年のCIC(中国投資有限責任公司)によるTeck株式の17%取得が最も大きな投資案件となっている。鉱種別では、銅や鉄鉱石をターゲットとした投資が多い。
表6 北米での鉱物資源分野における主な投資案件
年 | 月 | 国名 | 投資企業名 | 鉱種 | 投資額 (百万US$) |
投資内容 |
2006 | 10 | カナダ | 広西銅業 | 銅 | 110 | bcMetalsの株式75%取得 |
2009 | 3 | カナダ | 武漢鋼鉄 | 鉄鉱石 | 240 | Consolidated Thompsonの株式20%取得 |
2009 | 7 | カナダ | CIC(中国投資有限責任公司) | 銅 | 1,500 | Teck Resourcesの株式17%取得 |
2010 | 6 | カナダ | 雲南馳宏亜鉛・ゲルマニウム株式有限公司 | 鉛・亜鉛 | 100 | Selwyn Resources社が保有する SelwynプロジェクトへのJV出資 |
2010 | 9 | カナダ | 金川集団 | 銅 | 420 | Continental Metalsの株式取得 |
2011 | 1 | カナダ | 武漢鋼鉄 | 鉄鉱石 | 120 | Adriana Resourcesの株式60%取得 |
2012 | 4 | カナダ | 河北鋼鉄集団有限公司 | 鉄鉱石 | 200 | Alderon Iron Ore社の株式20%取得 |
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
(6) CIS地域
CIS地域では、2009年のXiyang Groupによる東シベリアでの鉄鉱石開発プロジェクトへの投資とCIC(中国投資有限責任公司)による産金企業の株式取得が投資額の面で主要なプロジェクトとなっている。
表7 CISでの鉱物資源分野における主な投資案件
年 | 月 | 国名 | 投資企業名 | 鉱種 | 投資額 (百万US$) |
投資内容 |
2009 | 7 | ロシア | Xiyang Group | 鉄鉱石 | 480 | 東シベリアChitaでの鉄鉱石開発へ投資 |
2010 | 4 | カザフ | 金川集団 | 銅 | 120 | Aktogay銅プロジェクトの権益49%取得 |
2012 | 3 | ロシア | 紫金鉱業 | 鉛・亜鉛 | 100 | クズルタシティグ多金属鉱床の開発に参画 |
2012 | 5 | ロシア | CIC(中国投資有限責任公司) | 金 | 420 | Polyus Gold社の株式5%取得 |
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
(7) 欧州地域
欧州地域では、中国開発銀行によるAnglo American(本社:ロンドン)の株式取得、紫金鉱業によるGlencore(本社:スイス・バール)の株式取得が挙げられる。
表8 欧州での鉱物資源分野における主な投資案件
年 | 月 | 国名 | 投資企業名 | 鉱種 | 投資額 (百万US$) |
投資内容 |
2006 | 11 | 英国 | 中国開発銀行 | (資源メジャー株式の取得) | 800 | Anglo American株式の1.1%を取得 |
2011 | 5 | スイス | 紫金鉱業 | (資源メジャー株式の取得) | 100 | Glencore株式の0.57%を取得 |
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
(8) 中米・カリブ海地域
最後に中米地域では、キューバのフェロニッケルプロジェクトへの投資等が挙げられる。
表9 中米・カリブ海地域での鉱物資源分野における主な投資案件
年 | 月 | 国名 | 投資企業名 | 鉱種 | 投資額 (百万US$) |
投資内容 |
2005 | 1 | キューバ | 五鉱集団 | ニッケル | 500 | CubapetroleoとのJVでフェロニッケルプラント建設 |
2008 | 1 | メキシコ | 金川集団 | 銅・亜鉛 | 210 | Bahuerachi銅・亜鉛プロジェクトを保有するTyler Resources社を買収 |
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
2. アフリカ向け投資の現状
2-1 投資状況
後半部では各論として、中国のアフリカ投資について見てみたい。世界全体で見た場合の鉱物資源分野の割合は既に図2で示したとおりエネルギー分野に次ぐ24%のシェアとなっているが、アフリカについては様相が逆転している。図4にアフリカにおける中国投資の分野別割合を示したが、アフリカに限っては鉱物資源分野がエネルギー分野を凌駕しており、全体の約6割を占めている。中国がアフリカを鉱物資源の主要な供給ソースとして捉えていることをデータ的に裏付けるものである。

図4 中国企業の対アフリカ投資のセクター別内訳
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
次に中国企業によるアフリカでの鉱物資源分野の投資案件について見てみることとしたい。Heritage財団のデータを基に、さらにJOGMECが各種報道等から入手した情報により精査を加え、2005年以降の主な投資案件を表10に示す。2005年からの中国企業による投資総額は約160億US$であり、うち50億US$は2008年の中国輸銀/中国中鉄/中国水利水電建設(Sinohydro)によるDRCコンゴへの大型投資案件が占めている。本投資案件は、Katanga州での銅・コバルトプロジェクトの利益を返済原資としていることから、投資が発表された際、メディアは「China’s Angola Model comes to the DRC.」と報じ、アンゴラに対する石油権益を担保にした資金供与(2004~2007年に40億US$が供与)との類似性を指摘した。
銅以外では、鉄鉱石の投資案件が多く、特に西アフリカ(ギニア、シエラレオネ)への投資が目立つ。2012年の五鉱資源有限公司によるAnvil Miningの買収(13.3億US$)は大型企業買収案件として記憶に新しいところである。
表10 アフリカでの鉱物資源分野における主な投資案件
月 | 投資企業名 | 投資対象国 | 鉱種 | 投資金額(百 万US$) |
投資内容 | |
2006 | 11 | 中国有色金属 | ザンビア | 銅 | 310 | Chambishi鉱山への投資 |
2007 | 10 | 中国有色金属 | ザンビア | 銅 | 100 | Chambishi West orebody Projectへの投資 |
2007 | 12 | SinoSteel | ジンバブエ | 鉄鉱石 | 100 | Zimascoへの出資(権益92%取得) |
2008 | 6 | 中国核工業集団 | ニジェール | ウラン | 190 | Azelic鉱山への投資 |
2008 | 7 | 中国輸銀 | DRCコンゴ | 銅 | 3,000 | 当初発表額は6,000百万US$であったが、その後IMFとの調整により3,000百万US$に減額。 |
2008 | 7 | 中国中鉄、中国水利水電建設 | DRCコンゴ | 銅 | 2,000 | JV企業Sicominesへの出資(権益68%取得) |
2009 | 1 | 五鉱資源有限公司 | 南ア | クロム | 数百万US$ | Vizirama社(クロム鉱山/探鉱企業)への出資(権益70%取得) |
2009 | 4 | 五鉱資源有限公司 | 南ア | クロム | 81 | Townlands/ Kookfonteinクロム鉱山への投資 |
2009 | 5 | 中国有色金属 | ザンビア | 銅 | 300 | Luanshya鉱山への投資(権益85%取得) |
2009 | 8 | 金川集団 | ザンビア | ニッケル | 37 | Munali鉱山への参画(権益51%取得) |
2010 | 1 | 金川集団 | タンザニア | ニッケル | n/a | Tanzania Royalty Exploration社が保有するKabangaプロジェクトへの参画 |
2010 | 1 | 中国核工業集団 | ニジェール | ウラン | 53 | Azelik鉱山の株式37.2%取得。 |
2010 | 4 | China Railway Materials | シエラレオネ | 鉄鉱石 | 260 | African Minerals社への出資(Tonkolili鉄鉱石プロジェクトの権益12.5%取得) |
2010 | 5 | 金川集団、中国アフリカ開発基金 | 南ア | プラチナ | 878 | Wesizwe社の権益51%取得 |
2010 | 7 | Chinalco | ギニア | 鉄鉱石 | 1,350 | Simandou Block 3 & 4への参画についてRioTintoと合意(権益45%取得) |
2010 | 8 | CIF(中国国際基金) | ギニア | 鉄鉱石 | 1,200 | Kalia鉄鉱石プロジェクトとForecariah鉄鉱石プロジェクトのインフラ整備を負担する代わりに、CIFが両プロジェクトへ参画。 |
2010 | 9 | Bosai Minerals | ガーナ | アルミニウム | 1,200 | Ghana Bauxite社(Awasoプロジェクト)の権益80%をRio Tintoより買収 |
2011 | 4 | 中国輸銀 | ニジェール | ウラン | 99 | Azelik鉱山の拡張費用 |
2011 | 5 | 山東鋼鉄集団 | シエラレオネ | 鉄鉱石 | 1,490 | African Minerals社への出資(Tonkolili鉄鉱石プロジェクトの権益25%取得) |
2011 | 7 | Sinosteel | ジンバブエ | クロム | 300 | Zimascoへの出資 |
2011 | 9 | 金川集団 | 南ア | 銅 | 1,280 | Chibulma銅鉱山(ザンビア)、Ruashi銅鉱山(DRCコンゴ)の権益を有するMetorex社を買収 |
2012 | 2 | 五鉱資源有限公司 | DRCコンゴ | 銅 | 1,330 | Anvil Miningの買収 |
(出典:Heritage財団のデータを基に作成)
2-2 FOCAC第5回会合の開催
2012年7月19~20日、第5回中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)閣僚級会合が北京で開催された。FOCACは3年ごとに中国とアフリカで交互に開催され、前回(2009年)はエジプトのシャルムエルシェイクで開催されている。今回の第5回会合では、アフリカからは南ア・ズマ大統領、ニジェール・イスフ大統領、赤道ギニア・オビアン大統領、ジブチ・ゲレ大統領、コートジボアール・ウワタ大統領、ケニア・オディンガ首相などアフリカ48か国の首脳・閣僚や、潘基文国連事務総長、アフリカ連合(AU)のジャン・ビン委員長らが参加した。
胡錦濤国家主席は基調講演において、アフリカに対し今後3年間で200億US$の資金支援を行うことを発表した(供与条件等は不明)。また、第3回FOCAC(2006年)の際に、アフリカでの製造業、資源エネルギー、農業等の分野への投資促進を目的として10億US$の資金により拠出された中国アフリカ発展基金に関し、前回FOCACでの40億US$の増額に続き、今回はさらに20億US$の増額が発表された。
今回の会合では北京アクションプランが採択され、資源分野での協力としては、持続可能な開発に向け、採取国での資源の高付加価値化を推進することが謳われている(アクションプラン4.6.2)。また、エネルギー資源については、FOCACの枠組みで、中国-アフリカエネルギーフォーラム設立が規定されている(同4.6.1)。
貿易促進に向けた取組みとしては、アフリカの後発開発途上国(LDC)からの輸入に関しては関税撤廃措置を行うとしている(同4.4.5)。これに基づき、2012年9月にはシエラレオネからの関税撤廃が発表されている7。現在アフリカにおいては、ザンビア、マラウィ、ギニア、マダガスカル、アンゴラ等33か国がLDCとして国連より認定8されており、本措置により今後、中国はアフリカからの資源調達をさらに加速化させるものと考えられる。また経済特区(Business Cooperation Zone)の設置を加速化し、進出中国企業による現地への技術移転を促進することも約束されている9(同4.2.5)。
次回FOCACは2015年に南アで開催される予定である。
7 在シエラレオネ中国大使館のweb サイト参照。http://sl.china-embassy.org/eng/xwdt/t970430.htm
8 LDC 認定の要件は以下3 点。①一人あたりGNI(2005-2007 年平均):905 米ドル以下、②人的資源開発の程度を表す指標であるHAI(Human Assets Index)が一定値以下、③外的ショックからの経済的脆弱性を表す指標であるEVI(Economic Vulnerability Index)が一定値以下。なお、アフリカのLDC 諸国名は以下の外務省のweb サイトを参照。http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/af_data/pdfs/ldc.pdf
9 中国は現在、ザンビアを始めとしてアフリカの7 箇所に経済特区を設置。ザンビアの経済特区はカッパーベルト州にあり、銅加工等の下流産業企業が進出。カッパーベルト州での経済特区が成功したことから、首都ルサカでSub-Zone を建設中。
3. 所感
2012年10月9日にIMFが発表した世界経済見通しによれば、中国の2012年のGDP成長率は直近(7月)の予測値(8.0%)から下方修正され7.8%となった(図5参照)。

図5 GDP成長率の推移
成長率が8.0%を下回るのは実に1999年以来である。中国の景気減速に引きずられる形で世界経済も成長が減速すると予想され、2012年の世界のGDP成長率も当初予測(3.5%)から3.3%に下方修正された。
中国では大規模な海外投資案件については、国家発展改革委員会による審査を受けることになっているが、2012年に入り経済の高成長に翳りが見え始めたことから、対外投資案件に対し「引き締め」を始めている模様である。最近の事例では、Mbalam鉄鉱石プロジェクト(カメルーンとコンゴ共和国の国境付近に立地。現在F/S中)を保有するSundance Resources社に対する漢龍アフリカ鉱業有限公司(四川漢龍集団のグループ企業)による買収提案に関し、国家発展改革委員会は2012年7月、買収金額の見直しを条件として認可をした。その後、四川漢龍集団公司は国家発展改革委員会や中国開発銀行、またSundance Resources社と協議を行った結果、中国国内での鉄鋼需要の急激な落ち込みを背景に、最終的に当初オファーより20%低い14億US$が「適切な買収金額」であるとして関係者間の合意を得たところである。
中国政府は9月上旬、鉄道や高速道路等インフラ整備の資金として1,500億US$規模の財政政策発動を発表した。中国政府としては公共事業を増やすことで内需拡大を図り、景気減速を食い止めたい考えであるが、政府支出の増大はインフレを引き起こす懸念もあり、どの程度の景気刺激効果を有するかは専門家により意見が異なる。景気の先行き不安が広がる中、対外投資に関しても、国家発展改革委員会の認可が今後厳しくなることが予想されるが、中国の外貨準備高は依然として高い水準にあるため、投資案件の「選択と集中」が一層加速化するものと考えられる。鉱物資源分野の投資についても、国内の景気動向を窺いながら投資案件をこれまで以上に吟味し、優良案件の発掘・形成に努めていくものと予想されることから今後の動向を注視して参りたい。
