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報告書&レポート

2012年11月8日 メキシ事務所 高木博康
2012年66号

メキシコ合衆国・シナロア州の鉱業事情

 シナロア(Sinaloa)州は、2011年の金属鉱物生産額が州別で第12位の14.4億ペソ(約1.0億US$)とメキシコ全体の金属鉱物生産額2,078億ペソ(約148.7億US$)の約0.7%にすぎないが、金属鉱物生産額が第1位のソノラ州、第3位のチワワ州、第4位のドゥランゴ州等に接している(図1)。
 また、メキシコ鉱業センター(SGM)作成のメキシコの鉱物資源分布図においても、ソノラ州とともに銅、モリブデン及び金が分布する地域として位置付けられている(図2)。
 また、現在は加Scorpio Mining社が保有するNuestra Señora多金属鉱山の他は地元資本の鉄鉱山と小規模非鉄金属鉱山が操業している程度であるが、探鉱プロジェクト数においては、ソノラ州、チワワ州に次ぐ第3位に位置している。
 著者は、2012年10月にシナロア州政府、SGMクリアカン事務所、マサトラン港等を訪問し、関係者からシナロア州の鉱業の現状、今後の見通し等について聴取したので、ここに報告する。

図1.シナロア州位置図

図1.シナロア州位置図
図2.メキシコの鉱物資源分布図

(出典)メキシコ鉱業センター(SGM)

図2.メキシコの鉱物資源分布図

1.シナロア州の地理について

 同州は、北北西から南南東にかけ細長い形をしているが、その西部の太平洋岸及び中央部は、一部地域を除き概ね平坦で水も豊富なことから、メキシコ有数の穀倉地帯となっている。一方、東部は、チワワ州及びドゥランゴ州の国境にかけて3,000 m級の山が連なる西シエラマドレ山脈の一部となっている。なお、西シエラマドレ山脈の分水嶺は東側のチワワ州及びドゥランゴ州内に位置している。

2.シナロア州の鉱業の現状

 シナロア州の主な金属の鉱石生産量は、州別で鉛、亜鉛及び鉄が第7位、銅が第9位、金及び銀が第13位にすぎない(表1)。しかも、加Scorpio Mining社が保有するNuestra Señora多金属鉱山、2012年9月に生産を開始した加McEwen社のEl Gallo鉱山、中国資本が入ったメキシコ企業による3つの鉄鉱山の他は、メキシコ資本の企業が小規模に操業を行っている程度である。特に州の南部には数多くの小規模鉱山が存在している。

表1.シナロア州の主要鉱石生産量(金属換算量)と国内シェア(2011年)

鉱種 シナロア州 メキシコ計 国内シェア 国内順位
金 (kg) 111 88,649 0.1% 13位
銀 (t) 47.8 4;778 1.0% 13位
銅 (t) 1,379 433,621 0.3% 9位
鉛 (t) 4,261 223,717 1.9% 7位
亜鉛 (t) 9,640 631,859 1.5% 7位
鉄 (t) 286,345 12,805,778 2.2% 7位

(出典)メキシコ国立地理情報院(INEGI)

表2.シナロア州主要鉱山の2011年生産量

  金 (kg) 銀 (t) 銅 (t) 鉛 (t) 亜鉛 (t) 鉄 (t)
Nuestra Señora鉱山 42.4 972 3,271 9,251
Paradox鉄鉱山 108,745
その他 111 5.4 407 990 389 177,600
合 計 111 47.8 1,379 4,261 9,640 286,345

(出典)INEGI、各社HP

 一方、メキシコ鉱業会議所(CAMIMEX)が2012年5月に発表した資料によるとメキシコ全体で320社が746の探鉱プロジェクトを実施しているが、シナロア州においては、ソノラ州、チワワ州に次ぐ第3位の82件の探鉱プロジェクトが実施されている。また、州政府によると2011年のシナロア州への外国企業の投資額は6,660万US$であった。

表3.メキシコの主な州別の探鉱プロジェクト数

ソノラ州 156
チワワ州 92
シナロア州 82
ドゥランゴ州 73
その他 343
合計 746

(出典)CAMIMEX

図3.シナロア州及びその周辺の主要な金属鉱山及び探鉱プロジェクト

(出典)SGM、各社HP

図3.シナロア州及びその周辺の主要な金属鉱山及び探鉱プロジェクト

 また、シナロア州の国境付近には、ソノラ州のPiedras Verdes銅鉱山(2011年の銅生産 22.8千t(同年の国内順位4位))、Alamo Dorado金銀鉱山(2011年の銀生産 165 t(同5位))、チワワ州のPinos Altos金銀鉱山(2011年の金生産6.4 t(同3位))、Ocampo金銀鉱山(2011年の銀生産130 t(同9位))、Palmarejo金銀鉱山(2011年の銀生産280 t(同3位))、El Sauzal金鉱山(2011年の金生産3.1 t(同10位))、ドゥランゴ州のLa Cienega多金属鉱山(2011年の金生産3.5 t(同9位)、鉛生産6.3千t(同9位))、San Dimas多金属鉱山(2011年の銀生産143 t(同6位))等の鉱山が多数存在している(図3)。また、チワワ州のBahuerachi多金属プロジェクト(精測及び概測資源量:5億2,500万t(平均品位 銅0.4%、亜鉛0.55%))、ドゥランゴ州のMetates多金属プロジェクト(精測及び概測資源量(含有量):金591 t、銀16,133 t、亜鉛190万t)といった大規模プロジェクトもシナロア州との国境近辺に存在している。
 シナロア州Moreno Medina鉱山振興課長の話では、シナロア州の周辺に鉱山が多数存在しているのにもかかわらず、シナロア州には探鉱プロジェクトが多数存在する一方で、鉱山が少ない理由は、シナロア州の鉱業の歴史が浅いことにその理由がある。ソノラ州、チワワ州、ドゥランゴ州等は植民地時代から鉱山が存在しており、鉱山の歴史があったことから古くから探鉱活動が行われてきた。シナロア州は、歴史的に鉱山が無く、農業州として有名であった。2004年当時、シナロア州で本格的に探鉱活動を行っていたのは現在のNuestra Señora鉱山だけであった。2005年頃から金属価格が上昇し始めたことから、西シエラマドレ山脈のチワワ州及びドゥランゴ州側に有望な鉱床が見つかっているのだから、シナロア州側にもあるのではないかということでカナダ企業等に興味を持たれるようになった。探鉱プロジェクトの数は多いが、金属価格が高騰した2007年以降に探鉱を開始したものが多く、初期段階のものが多いとのことである。
 一方、SGMクリアカン事務所Vásquez Mendosa所長によると、シナロア州東部には、銅、鉛、亜鉛、金及び銀のポテンシャルがあるものの、同じ西シエラマドレ山脈であってもシナロア州側は標高が低いところが多く、植生が多いことから、衛星画像解析が使えない、雨期に立ち入ることが困難になる等の問題があったが、金属価格の高騰により、これまで探鉱が困難とされていた地域もプロジェクトの対象となったため、シナロア州のプロジェクトが増加したと見ることができる。
 2010年12月に就任した現知事は、鉱業や産業の振興に特に熱心であり、2012年から小規模鉱山所有者に対し、鉱業権を担保に1,500万ペソ(約120万US$)を上限に融資する州独自の制度を設けた(この他、国の融資制度も存在している。)。また、鉱業大会(2011年10月にアカプルコで開催されたExpomin Mexico 2011及び2012年4月にチワワで開催されたChihuahua Minero2012)に州政府のブースを出すとともに、2012年6月にはシナロア州で鉱業投資促進セミナーを開催している。

3.シナロア州の主な鉱山

(1) Nuestra Señora多金属鉱山
 加Scorpio Mining Corp.が2009年から生産を開始している多金属鉱山で、粗鉱処理能力は1,500 t/日である。シナロア州Moreno Medina鉱山振興課長の話では、これまで順調に生産量を伸ばしてきており、2017年頃まで採鉱を続ける予定であったが、2012年6月に発表した資源量評価結果は同社の想定を下回った。このままでは後3年程度しか採掘を続けらないため、9月にアクションプランを発表し、同鉱山の資源量アップのためのボーリング調査を更に行うとともに、同鉱山の周辺のプロジェクトを早急に立ち上げるべく、JVの相手探しをしているとのことである。

表4.Nuestra Señora多金属鉱山の生産量の推移

  2009年 2010年 2011年
銀 (t) 18.7 28.3 42.4
亜鉛 (千t) 4.0 6.4 9.3
鉛 (千t) 1.9 2.8 3.3
銅 (千t) 0.5 0.8 1.0

(出典)Scopio Mining社HP

表5.Nuestra Señora多金属鉱山の精測及び概測資源量

発表年月 資源量
(百万t)
平均品位(銀はg/t、その他は%)
銀 (g/t) 亜鉛 (%) 鉛 (%) 銅 (%)
2012年6月 2.42 94.9 1.74 0.90 0.27
2010年10月 3.07 114 3.41 1.56 0.47

(出典)Scopio Mining社HP

(2) El Gallo金銀鉱山
 加McEwen Minig Corp.が保有する金銀鉱山である。同社は、2012年1月に加US Gold社と加Minera Andes社の合併により誕生している。同鉱山は、フェーズ1の金酸化鉱の露天掘とフェーズ2の金銀硫化鉱の露天掘からなっており、フェーズ1の金の生産が2012年9月から開始されたところである。フェーズ1は、マインライフが6~7年で、金の平均年間生産量が933 kgとなっている。
 フェーズ2は、現在、環境影響評価報告書の認可待ちの状態で、2013年Q3から生産を開始する予定となっている。フェーズ2は、マインライフが7年で、年間生産量が金190 kg、銀162 tとなっている。

(3) 鉄鉱山
 シナロア州北部のParadox Global Resources社のParadox鉄鉱山(採掘量:約8万t/月)、クリアカン市近くのCinco Construccines社のLas Tapias鉄鉱山(採掘量:約15万t/月)及びCia.Minera Mexico Sinaloense社のDos Hermanos鉄鉱山(採掘量:約5万t/月)の3鉱山が操業している。これらの3社は、いずれもメキシコ資本であるが、州政府によれば、中国資本が入っており、中国に輸出されているとのことである。

4.シナロア州の主な鉱業プロジェクト

(1) San Rafael多金属プロジェクト
 Scorpio Mining社が保有する多金属プロジェクトで、Nuestra Señora多金属鉱山から北北西約7 kmに位置している。同社は、2012年10月に資源量評価結果を公表している(表6)。

表6.San Rafael多金属プロジェクトの精測及び概測資源量

資源量
(百万t)
平均品位(金、銀はg/t、その他は%) 含有量(金、銀はt、その他は千t)
亜鉛 亜鉛
19.9 0.11 61.6 0.09 0.65 1.56 2.21 1,226 17.7 130.3 301.2

(出典)Scorpio Mining社HP

(2) El Cajón銀・銅プロジェクト
 Scorpio Mining社が保有する銀・銅プロジェクトで、San Rafael多金属プロジェクトの南に接する鉱区である。同社は、2012年9月に資源量評価結果を公表している(表7)。

表7.El Cajón銀・銅プロジェクトの精測及び概測資源量

資源表
(百万t)
平均品位 含有量
銀 (g/t) 銅 (%) 金 (g/t) 銀 (t) 銅 (t) 金 (kg)
2.60 149.1 0.48 0.21 387 12,584 560

(出典)Scorpio Mining社HP

(3) La Verde銀・銅プロジェクト
 Scorpio Mining社が保有する銀・銅プロジェクトでNuestra Señora多金属鉱山から北西約8 kmに位置している。同社は、現在、同プロジェクトの資源量評価を行っている。

(4) San José de Gracia金プロジェクト
 シナロア州北部のチワワ州との国境付近に位置している金プロジェクトで、米Dyna Resource社と加Goldgroup社が50%づつ権益を持っている。2012年3月に公表された技術レポートによると銀、銅、鉛及び亜鉛も含まれているが、Dyna社は年間3.11 tの金を生産するとしている。

表8.San José de Gracia金プロジェクトの概測資源量

資源量
(百万t)
平均品位(金、銀はg/t、その他は%) 含有量(金、銀はt、その他は千t)
亜鉛 亜鉛
2.20 5.69 11.75 0.25 0.03 0.17 12.5 25.8 5.48 0.65 3.73

(出典)Dyna Resource社HP

(5) Santo Domingo銅・モリブデンプロジェクト
 北部のソノラ州、チワワ州国境近辺に位置し、米Azteca Copper社が保有するポーフィリーカッパー鉱床である。探鉱の初期段階であり、Azteca社は情報公開をしていないので、詳細は不明であるが、SGM、州政府ともに有望なプロジェクトとして期待していた。

5.マサトラン港の整備と鉱物資源の輸出について

 シナロア州南部のマサトラン港は2011年に拡張工事が終了したところである。シナロア州経済振興部Gonzárez Shinagawa次長(日系人)は、アジア向けの輸出拠点としてシナロア州の産業を発展させたいと考えており、また、鉱物資源の輸出拠点としても発展したいと期待を表明していた。現在、メキシコにおいては、少量の鉄鉱石を輸出しているロス・モチス港、エンセナダ港、グアテマラのチタン鉱石を輸出しているマデロ港以外、ほとんどの鉱石、精鉱及び地金は、メキシコ最大の貿易港であるコリマ州のマンサニージョ港から輸出されている。しかし、マサトラン市とドゥランゴ市を結ぶ高速道路が完成間近であり、Peñoles社のMet-Mex Peñoles製・精練所のあるトレオン市とほぼ一直線で高速道路がつながることから、州政府はマサトラン港からの金属地金のアジア向け輸出に期待している。また、大規模なMetates多金属プロジェクト(前述)は、ドゥランゴ州のシナロア州国境付近で完成間近の高速道路の近くに位置していることから、州政府は将来的に同プロジェクトの精鉱をマサトラン港から輸出することにも期待している。

図4.メキシコの太平洋側の主な貿易港

図4.メキシコの太平洋側の主な貿易港

 マサトラン港を運営管理する会社は、チリの港管理会社SAAM社の子会社である。
 TMAZ(Terminal Martima Mazatlan)社である。2011年11月に管理会社の国際入札が行われ、
 連邦政府は2012年4月に落札会社であるTMAZ社と2044年までの管理契約を締結した。TMAZ社Jorge Cárdenas社長によれば、現在、港の第6デッキ、2.4 haを鉄鉱石の輸出拠点とすべく税関に申請中であり、将来的には、精鉱についても取り扱っていきたいとのことである。現在は、喫水が11 mで3万tの船舶までが入港可能であるが、浚渫を行い、更に大型船まで入港できるようにするとのことである。
 ライバルの港は、マンサニージョ港であるが、料金を同港の10%引きとし、また、チリで培われた民間のサービスを提供することによって、(サービスの評判が良くない)マンサニージョ港に対抗したいとのことである。

写真1.鉄鉱石の輸出を予定している桟橋

写真1.鉄鉱石の輸出を予定している桟橋

おわりに

 メキシコ各州の鉱業の現状等については、これまでも2010年9月の「メキシコ合衆国・Durango州の鉱業事情」(CT10-46号)、2011年8月の「バハカリフォルニア半島の鉱業の現状と自然保護地域でび鉱業活動について」(CT11-43号)、2011年10月の「メキシコ・サカテカス州の鉱業の現状について」(CT11-52号)、2012年4月の「メキシコ・オアハカ州の鉱業の現状について」(CT12-20号)、2012年6月の「メキシコ・チワワ州の鉱業の現状について」(CT12-28号)
「メキシコ合衆国・サン・ルイス・ポトシ州の鉱業事情」(CT12-46号)等において報告してきたところである。メキシコの鉱業は投資も盛んであり、発展の余地も大きいと思われるので、メキシコ事務所としては、今後とも様々な側面からメキシコの鉱業の現状等につき紹介していきたい。

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