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報告書&レポート

2012年12月13日 ロンドン事務所 北野由佳
2012年72号

国際非鉄研究会参加報告(4)2012年秋季国際非鉄3研究会合同セミナー~重要性が高まるインドの鉱業~

 2012年10月8~12日、ポルトガル・リスボンにて国際非鉄研究会の秋季会合である国際ニッケル研究会(INSG)、国際鉛・亜鉛研究会(ILZSG)、国際銅研究会(ICSG)及び3研究会合同セミナーが開催された。今回の合同セミナーは、インドの鉱業をテーマにして2012年10月10日午後に開催された。インドの鉱山省が共催者として参加するとともに、在ポルトガルインド大使が冒頭の挨拶を行った。その後、業界コンサルタント、鉱業団体、民間企業等が鉱種別に講演を行い、続いてパネルディスカッションが行われた。

写真1. 国際非鉄3研究会合同セミナー:パネルディスカッション

写真1. 国際非鉄3研究会合同セミナー:パネルディスカッション

1. 冒頭の挨拶

(在ポルトガルインド大使館、Brij Tyagi大使)

 インドは豊富な鉱物資源に恵まれており、89種類の鉱物を生産している。鉱業がGDPに占める割合は2.5%であり、インドが2桁のGDP成長を達成するための重要な役割を鉱業が担っている。
 インド政府は鉱物生産量の増大を目標として、鉱業法の改正を行ってきた。2008年には国家鉱物政策(National Mineral Policy)を策定し、2011年には新鉱山鉱物(開発・規制)法案(Mines and Minerals(Development and Regulation) Bill)が国会に提出された。国家鉱物政策のとおり、インド政府は外国資本と同国内のパートナーとのJVを歓迎しており、特に銅、鉛、亜鉛、白金族金属等の開発を促進している。またインド第12次5か年計画(2012~2016年度)では1兆US$をインフラに投資することを目標としており、発電所、電気通信設備、道路、港、空港といったインフラの建設によって非鉄金属の需要がさらに高まると考えられる。

2. 基調講演:『インドのベースメタル市場:機会と課題』

(CRU Strategies社、Rebecca Gordon氏)

 インドは過去10年間約8%のGDP成長を続けており、ベースメタルの消費量も飛躍的に増加した。供給面では、インドは銅、鉛、亜鉛の地金に関しては世界生産トップ10に入っているが、ニッケルの一次生産はない。
 銅に関しては、国内の銅鉱石生産量では製錬所の需要を賄えておらず、銅精鉱を輸入している。銅鉱床の探鉱活動が不十分であったため、確定埋蔵量が少ないことに加え、現在の埋蔵量の大半は品位が1~1.85%程度で、残りの資源量の品位は1%以下がほとんどである。銅の二次生産産業は十分に組織化されておらず、多数の小規模業者が存在している。また、銅の最終用途は電気通信(37%)と電気機器(27%)に集中している。
 鉛・亜鉛の生産に関しては、Hindustan Zinc Limited(HZL)が国内第一位で、5つの鉛・亜鉛鉱山と4つの製錬所を所有している。インドでは鉛の二次生産産業が発達しており、鉛地金生産の約70%を占めているが、亜鉛では10%程度である。主な最終用途に関しては、鉛では蓄電池、亜鉛ではめっきとなっている。
 ニッケルは国内生産がなく、ステンレス鋼の生産に必要なニッケルは輸入に頼っている。
 今後の見通しとしては、人口増加や都市化、自動車産業の発展が予想されることから、2012~2017年のGDP成長率は平均約8%と予想する。また政府の第12次5か年計画で約1兆US$がインフラに投資されるなど、ベースメタル需要を支える要素があることから、2012~2030年の金属消費量の推移は、銅はCAGR(年平均成長率)7.0%、鉛は5.4%、亜鉛は4.8%、ニッケルは8.4%と見積った。その一方で、資源量の拡大の遅れ、環境や住民の再定住に関する明確な法的枠組みの欠如、組織化されていない二次生産産業といった対処すべき課題が残っている。

3. 鉛・亜鉛

3-1.講演:『インドの鉛・亜鉛供給量』

(Vedanta/Hindustan Zinc社、Sundeep Prasanna氏)

 インドにおける鉛・亜鉛の埋蔵量及び資源量の合計は、2002年には1億4,370万tだったが2012年には3億3,230万tに増加し、製錬能力は2002年の23.4万t/年から2012には110.2万t/年となった。鉛の一次生産能力は現在の10万t/年から2年後には18.5万t/年に増強される予定である。今後数年間の見通しとしては、Sindesar Khurd鉱山やZawar鉱山、Rajpura Dariba鉱山といった既存鉱山での増産が予定されているほか、新規のKayar鉱山では2013年から、Ambaji鉱山では2015年から生産が開始される見込みである。また鉱山生産の増大にあわせて製錬能力も増強される。長期的には、新しい大規模鉱床の特定及び開発のためグリーンフィールド(未開発地域)での探鉱活動が行われていく予定である。

3-2. 講演:『インドの鉛・亜鉛市場』

(ILZDA(インド鉛亜鉛開発協会)、L Pugazhenthy氏)

<亜鉛>

インドにおける亜鉛の用途別の内訳は77%が亜鉛めっき、10%が亜鉛合金である。インド政府の第12次5か年計画では発電所や電気通信施設、高速道路等のインフラの整備に1兆US$を費やすことになっており、亜鉛の需要がますます高まることが予想される。亜鉛の2012/13年度の需要は約60万tで、これが2016/17年度には約88万tにまで増加する見込みである。同国では継続的な経済成長が見込まれ、インフラへの大規模な投資が行われることから、インドの亜鉛市場の成長も持続すると考えられる。

<鉛>

インドで鉛の一次生産を行っているのはHindustan Zinc社のみで、2011/12年度には92,098 tを生産した。鉛のリサイクルは盛んに行われているが、無認可のリサイクル業者の活動もある。用途別の内訳は、75%が鉛蓄電池で、20%が合金及び化学製品となっており、2011/12年度の鉛需要は約41万tであった。インドの鉛蓄電池の市場規模は約32.5億US$で、自動車産業が60%、工業が40%を占める。インド政府は、「バッテリー(管理及び処理)規則2010年」の改正により、リサイクル業者の登録、輸入業者の登録、大手の消費者の特定等を行えるようになり、使用済み鉛蓄電池のリサイクル業務に関する管理体制を強化している。今後数年間の見通しとしては、自動車、通信機器、インバーターにおける需要増が見込まれる。

4. ニッケル

4-1. 講演:『インドのステンレス鋼産業』

(SMI社、Wolfgang Lipp氏)

 インドの粗鋼(crude steel)生産量は、2010年には対前年比9%増の273万t、2011年には同7%増の293万tを記録しており、1978年から2011年の推移を見てみると年平均約16%増で成長してきた。Jindal社が同国のステンレス鋼生産最大手であり、ステンレス鋼の生産は主に同国の北部に位置している。
 2011年におけるステンレス鋼のシリーズ別内訳では、200シリーズ(クロムマンガン系を含む)が57%、300シリーズが31%、400シリーズが12%を占めている。数年前は200シリーズが約75%を占めていたことから、300及び400シリーズの生産が急激に成長したことがうかがえる。今後も300及び400シリーズのシェアが増加することが予想される。ステンレス鋼生産における2011年のニッケル消費量は、対前年比12%増の9.2万tで、うち53%はスクラップからの生産によるものである。300シリーズの生産量が増加することにより、ステンレス鋼生産におけるニッケルの消費量は17.5万/年にまで増加すると見積もられている。

5. 銅

5-1. 講演:『インド銅産業の機会と課題』

(Hindustan Copper社、K D Diwan氏)

 インドの銅埋蔵量は3億6,940万t(品位1.19%)、資源量は10億2,490万t(品位0.68%)で合計すると13億9,440万t(品位0.81%)と見積もられている。インドは銅地金の純輸出国であるが、銅精鉱のほとんどを輸入に頼っており、銅の鉱山生産量と製錬能力において深刻なミスマッチがある。銅の賦存地域は6万km2にわたるが、探鉱が行われているのはそのうち2万km2のみである。インド政府の第12次5か年計画でインフラに1兆US$以上が費やされることもあり、インドの銅需要は今後10年間で倍増することが予想され、銅精鉱の輸入への依存が悪化する可能性がある。インド政府は銅の鉱山生産量を確保するために、探鉱・採掘が促進されるように鉱業法を改正した。Hindustan Copper社においては、2017年までに鉱山生産量を4倍の1,240万tに増やすことを目標にしているほか、グリーンフィールドの探鉱活動も積極的に進めていく予定である。
 インドの銅産業において、銅の鉱山生産量が十分でないことは課題であるが、まだ探鉱されていない銅資源が豊富に残っているため、既存鉱山の拡大や新規探鉱プロジェクトを行う機会でもある。

5-2. 講演:『インドにおける銅カスタムスメルターとその課題』

(Aditya Birla Group(Hindalco社)、Dilip Gaur氏)

 Aditya Birla Groupは27か国に活動拠点を持つ国際的なコングロマリットであり、アルミニウム及び銅製品の生産大手である。
 現在、インドの銅製錬能力は約100万t/年であるが、そのうちの90万t/年はカスタムスメルターによるものである。2011年における銅製錬能力は99.8万t/年だが、銅精鉱の低品位化等の影響で銅地金の生産量は65.5万tであった。銅地金の消費量に関しては、2010年は58万tであったが、2015年には85.9万t、2020年には133.9万t、そして2025年には208.3万tに大幅に増加していくことが予想されており、製錬能力を増強する必要がある。インドの銅製錬産業が抱える課題としては、銅精鉱の確保、環境保護、持続可能な成長が挙げられる。Aditya Birla GroupのHindalco社では、大気質や水質保全に関するプログラムを積極的に行っているほか、銅スラグからタイルや舗道のブロックといった有用な製品を生産する「Waste to Wealth(ごみを宝に)」プロジェクトも行っている。

5-3. 講演:『銅の最終用途の概要』

(Indian Copper Development Centre、D De Sarka氏)

 インドにおける銅の用途別の内訳は、電気機器及び電気通信機器が56%と最大で、他には輸送、建設、耐久消費財が主な最終用途である。銅需要を後押しする要素としては、国内市場が農村地域にまで拡大すること、政府がインフラ整備を優先事項としていること、品質意識が高まっていること、ライフスタイルが向上していること等が挙げられる。インドの国民一人当たりの電力消費量は大変低いため発電量を増やす必要があることに加えて、送電・配電・電力消費の質を向上させる必要があるため、電気産業は成長が期待できる分野である。また空調設備市場に関しては、エアコンの国内需要が高まっており、またエネルギー効率のよいVRFエアコンの人気も高まりつつあることから、空調設備における銅管の消費量が今後15~20%増となることも可能である。また銅の最終用途として新しい市場としては、建物内の水道及びガス管、太陽熱温水器、農業用のスプリンクラー、銅の抗菌作用の利用等が考えらえる。
 概して、今後数年間におけるインドの銅消費量は年平均7~8%増となり、2020年までにはインドは世界第3位の銅市場、2025年までには世界第2位の銅市場となることが予想される。

6. パネルディスカッション

 司会:Don Smale事務局長(国際非鉄研究会)
 パネリスト:本セミナーの講演者8名
 講演の後、パネリストに対する質疑応答が行われた。会場からでた主な質問とパネリストの回答は以下のとおり:

Q: インドの銅プロジェクトからはセレニウムといった副産物は生産されているのか。

A: 副産物の生産を視野に入れているプロジェクトもあり、製錬プロセスを向上する努力が行われている。

Q: 過去、インドの銅産業の発展がとても遅かったのはなぜか。

A: 経済における探鉱及び採掘活動の重要性に気づくのに時間がかかった。鉱業プロジェクトが実現するまでには多くのステップを踏まなければならない。

Q: インドの経済成長に関する見通しはどうであるか。

A: 2020年にむけて6~8%での成長が期待できる。中国のテイクオフ(経済の離陸)前の状態に類似している。

Q: インドの経済成長における課題は電力、政治、または行政手続きであるか。

A: インド企業は中国企業と違って、許可が取れるまでは投資をしない。許可を取るための手続きは時間がかかる場合がある。

A: 中国では物事が進展するスピードが速いが、インドでは政治構造が民主主義であるため、プロジェクトの遅延がある。しかし状況は変化しており、インドは今後数年間に9%のGDP成長が期待されており、2025年までにはインドが中国を追い越す可能性がある。

Q: インドはニッケルを生産していないにもかかわらず、ニッケルの輸入には2.5%の関税がかけられているようだが。

A: インドの企業は国内の需要を満たすために、他国の資源を探している。

Q: 鉛酸蓄電池を用いたE-bike(電動自転車)がインドで今よりも人気が出る可能性はあるか。

A: インドでは電力不足という課題があるため、中国と同じようにE-bikeの人気が高まる可能性は低いが、需要は伸びると思われる。電気自動車に関しても、インドで流行するかどうかは不明確である。

7. 2013年春季3研究会合同セミナーについて

 次回の3研究会合同セミナーはポルトガルのリスボンにて、2013年4月24日午後に開催される予定である。次回のテーマは、「金属業界の金融的側面:価格のボラティリティ、投資家活動、プロジェクト・ファイナンス」である。

< 2013年春季の国際非鉄金属3研究会の日程 >

4月22~23日  : 国際ニッケル研究会(INSG)
4月24日午前  : 国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)
午後  : 三研究会合同セミナー
4月25~26日  : 国際銅研究会(ICSG)


おわりに

 インド第12次5か年計画でインフラ整備に大規模な投資が予定されていることは、インドにおけるベースメタルの需要を確実に押し上げると思われるため、どの講演者も需要に関しては強気な見通しをしていた。一方で、資源量が豊富であるにもかかわらず鉱山生産量が未だボトルネックになっていることが認識されており、今後、グリーンフィールドにおける探鉱・採掘活動がより活発になると考えられる。金属業界におけるインド市場の影響力は今後ますます強まっていくことが考えられるため、インドのベースメタルの需給や政策等に関しては引き続き注目していきたい。

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