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報告書&レポート

2012年12月27日 サンティアゴ事務所 神谷夏実
2012年74号

チリの銅鉱業と電力供給

 チリは世界最大の銅生産国であるが、これを支えるインフラ、ユーティリティー、環境問題等について課題が指摘されている。中でも、電力供給については、鉱業セクターを中心とする電力消費量の増加、脆弱な供給構造、新規発電所建設の遅れから、今後の電力不足、停電の可能性が指摘されている。鉱業セクターは、チリの電力消費量の約3分の1を占める最大セクターとなっている。また鉱業セクターの電力消費量が、同生産量の伸びを上回るペースで増加している。
 本稿では、チリの電力供給の現状と鉱業セクターでの電力消費について述べる。

1.電力供給

1-1 電力供給システム
 チリの電力供給システムは、独立した4システムから構成されており、各システム間の相互の接続はない。このうち、チリ北部をカバーする北部供給システム(SING)、サンティアゴ首都圏を含むチリ中部をカバーする中央供給システム(SIC)が、発電量の99%(2010年)を占めている。このほかに、チリ南部をカバーする二つのシステム(Aysen及びMagallanes)があるが、これらはチリ全体の1%を占めるに過ぎない。チリの発電、送配電事業は70社によって行われているが、このうち発電は28社、送電は5社、配電は37社で構成されている。
 2011年のチリの発電能力は16,481 MWで、発電方法別では、水力が34%、火力が62%、新エネルギーが4%であった。発電能力は、2006年の12,342 MWから2011年の16,481 MWまで34%(年平均6%)増加してきた。発電能力は、1998年6,789 MW、2004年11,435 MWであったので、1998年から2011年は年平均7.0%で、2004年から2011年は年平均5.4%で伸びてきたことになる。2006年以降、水力の割合は38%から2011年の34%に下がっている。また新エネルギーの割合は、2011年に4%とわずかであるが、2011年は、前年の180 MWから587 MWと大幅に引き上げられた。
 以下に、電力供給システムについて説明する。

◆ 北部供給システム(Sistema Interconectado del Norte Grande:SING)

チリ北部のArica y Parinacota、Tarapaca、Antofagasta地域をカバーするシステムで、電力供給の約80%は鉱業向けである。設備能力(2010年)は3,999 MWで、チリ全体の23%を占める。傘下に、発電と送電を兼ねる6社があり、主として火力発電によって発電を行っている。2011年の発電量は、15,881 GWhに達した。SINGに属する主要鉱山には、
Collahuasi、Chuquicamata、Escondida、Esperanza、Tesoro各鉱山の他、Sierra Gordaプロジェクトがある。

◆ 中央供給システム(Sistema Interconectado Central:SIC)

チリ最大の供給システムで、サンティアゴ首都圏を含み、北はAtacama地域から、南はLos Lagos地域にわたるチリ中部地域をカバーしている。設備能力は12,147 MWで、チリ全体の75%を占めるとともに、人口の90%に対して電力を供給している。傘下に、発電、送電会社が20社ある。2011年の発電量は、46,052 GWhに達し、発電方法別では水力(45.1%)、火力(石炭、石油、天然ガス)(53.6%)、風力(1.7%)であった。SICに属する主要鉱山は、La Canderalia、Atakamakozan、Andina、El Teniente、Los Perambles、Los Bronces各鉱山の他、Caseronesプロジェクトがある。

◆ その他

チリ南部に供給するAysenシステム(Sistema de Aysen、49 MW)、Magallanesシステム(Sistema de Magallanes、89.1 MW)がある。2011年の発電量は、前者が130 GWh、後者が276 GWhであった。発電量の85%は火力発電、13.5%が水力発電、1.5%が再生可能エネルギーであった。

1-2 電力消費量の推移
 SING及びSICの電力消費量の推移を図1に示す。2001年の38,135 GWh から2011年の61,933 GWh まで、年平均5.0%で増加した。ネットワーク別では、SINGは年平均5.9%、SICは年平均4.7%で増加しており、SINGの増加量の方が大きい。なお、2001年から2010年までは年平均4.1%で増加してきたが、2011年は対前年比12.9%増と大幅に増加した。COCHILCO(b)によると、銅生産の電力消費量は2001年の12,292 GWhから、2011年には20,924 GWhに年平均5.5%で増加した。SINGでは年平均5.1%、SICでは同6.0%でである。電力消費量に占める銅生産の割合は、2001年の32%から2011年の34%まで、わずかに増加している。なお、銅生産が電力消費量に占める割合は、チリ北部をカバーするSINGシステムで約80%、中央部をカバーするSICシステムで約18%を占めている。

図1.チリの電力消費量の推移(SING、SIC)

図1.チリの電力消費量の推移(SING、SIC)

1-3 発電方法別の発電量
 2011年の発電方法別の発電量を図2に示す。これによると水力(33%)、天然ガス(7%)、LNG(16%)、石炭(26%)、石油(17%)となっている。再生可能エネルギーとして、風力、バイオガス(1%)があるがわずかである。

図2.チリの発電方法別の発電量(SIC及びSING、2011年)

図2.チリの発電方法別の発電量(SIC及びSING、2011年)

 2006年から2011年の発電方法別の発電量の推移を図3に示す。2006年時点において、水力発電が52%を占めていたが、その後は、全体の発電量が増加しているにもかかわらず、水力発電の割合は減少傾向にあり、2011年には全体の33%まで下がった。現在は、輸入を中心とする石油、石炭、天然ガスを中心にした火力発電の割合が増加している。天然ガスは、1995年頃から、主にアルゼンチンからの輸入によって供給されてきたが、アルゼンチンが自国の供給を優先させチリへの供給を制限したことから、2004年以降供給が減少し、2008年以降供給途絶となった。このため、天然ガスの割合は、2006年の23%から、2011年の6.8%まで減少している。これに対し、2007年以降は火力発電(石油コークス、ディーゼル)が大幅に増加し、全体の発電量の維持が図られた。石炭も2006年以降増加傾向にあり、特に2011年は対前年比で42%の増加となっている。また、2009年以降、LNGの輸入が始まり、2011年は対前年比59%増となっている。新エネルギーの発電能力は、2010年には、前年の2倍の180 MWとなっているが、その割合はまだ小さい。

図3.チリの発電方法別の発電量の推移

図3.チリの発電方法別の発電量の推移

 以上のように、発電方法別の発電量は、2004年以降の輸入天然ガスの急激な減少、その後、石油、石炭、LNGによって維持されている。なお、チリエネルギー委員会(CNE)によると、現在建設中の新規発電プロジェクトの62%(発電能力ベース)が火力発電で、そのほとんど(94%)が石炭火力となっている。

2.銅鉱業の電力消費量

2-1 銅鉱業の電力消費量の推移
 前述のとおり、2011年の銅生産の電力消費量は20,924 GWhで、SIC及びSINGシステムの消費量54,853 GWhの34.9%であった。2001年の銅鉱業分野の電力消費量は12,292 GWhであったので、2011年電力消費量は、2001年比で55.8%(年平均5.1%)増加したことになる。これに対し、銅生産量(金属純分)は、2001年の4,739千tから2010年の5,263千tまで11.0%増加(年平均1.1%)しただけなので、電力消費量の伸びは銅生産量を上回っている。特に2004年から2011年の銅生産量は5.2%(年平均0.7%)しか増加していないにも関わらず、電力消費量は33.5%(年平均4.2%)伸びており、2004年以降、電力消費量の伸びは、銅生産量を大きく上回っている。
 2001年から2010年の銅の生産のための電力消費量と銅生産量から算出した電力消費原単位の推移を図4に示す。電力消費原単位は、2001年から2010年まで36%(年平均3.5%)増加している。2011年以降も、電力消費原単位は増加傾向が続くものとみられる。2011年の電力消費原単位は3.53 MWh/銅-tであったが、今後の銅生産量及び電力消費量の見込みから推定すると、2016年に4.36 MWh/銅-tまで消費原単位の増加が続き、その後2020年までほぼ横ばいとなるとみられる。今後、採掘深部化、鉱石品位低下等の要因により、電力消費原単位はさらに増加していくと考えられる。また、海水淡水化及び揚水も電力消費量の増加要因としての重要性が増している。

図4.チリの銅生産の電力消費原単位の推移(2011年以降は予測)

図4.チリの銅生産の電力消費原単位の推移(2011年以降は予測)

2-2 銅生産工程と電力消費量
 銅生産の工程ごとの電力消費原単位及び電力消費量を表1、図5及び図6に示す。図5に示すとおり、銅の生産において、選鉱工程とLX/SX/EW工程が電力消費原単位が大きい。ここで、LX/SX/EW工程とは、鉱石処理、鉱石ダンプ、リーチング、溶媒抽出及び電解工程である。両工程とも、鉱石の前処理工程(破砕、粉砕)を含んでいるため、電力消費量が大きいと考えられる。また、採掘において、坑内採掘の方が電力消費原単位が大きいが、これは鉱石の運搬にベルトコンベアが使われているためであると考えられる。
 2011年の銅生産のための電力消費量は71.9千兆ジュールであったが、電力消費量の47%が選鉱工程で、31%がLX/SX/EW工程で消費された。電力消費原単位と逆に、露天採掘は、坑内採掘に比べ、電力消費量が約3倍弱大きいが、チリ全体では露天採掘量が圧倒的に多いので、露天採掘の電力消費量が大きくなっている。
 以上のように、銅生産において、選鉱工程、LX/SX/EW工程にかかわらず、鉱石処理(破砕、粉砕)における電力消費量が大部分を占めることがわかる。

表1.チリの銅生産と電力消費量(COCHILCO(a)(c)による)

工程 電力消費原単位
(百万ジュール/銅-t)
電力消費量
(兆ジュール)
生産量
(千t、金属純分)
露天採掘 653.8 4,130.9 (鉱石)6,318.5
坑内採掘 2,169.4 1,528.6 (鉱石)704.6
採掘(露天・坑内) 840.5 5,659.5 (鉱石)7,023
選鉱 10,283.5 33,946.5 (精鉱)3,301
製錬 3,920.4 5,348.2 (粗銅)1,364
精錬 1,337.9 1,336.0 (地金)999
LX/SX/EW 11,067.4 22,409.3 (地金)2,025
その他 603.1 3,174.2 (鉱石)5,263

* 露天、坑内を含む採掘の銅生産量(7,023千t)は、採掘され鉱石処理工程に投入された銅量であり、商業的な銅鉱石生産量
 (鉱石処理、選鉱のアウトプットとしての銅量)とは異なる。
* LX/SX/EWは、鉱石処理、リーチング、溶媒抽出及び電解工程で、採掘は含まない。

図5.チリの銅生産の電力消費原単位(プロセス別、2011年)

(単位:百万ジュール/銅t)

図5.チリの銅生産の電力消費原単位(プロセス別、2011年)
(注): LX/SX/EW=鉱石処理、リーチング、溶媒抽出及び電解工程で、採掘は含まない。

図6.銅生産の工程別電力消費量(71.9千兆ジュール、2011年)

図6.銅生産の工程別電力消費量(71.9千兆ジュール、2011年)

 2002年から2011年の銅生産の工程別の電力消費原単位の推移を図7に示す。これによると、2002年以降、電力消費原単位は、露天採掘で1.35倍、坑内採掘で1.6倍、選鉱で1.5倍増加している。坑内採掘では、鉱石の運搬にベルトベアを使用しており、採掘の深部化に伴い電力消費原単位が増加しているとみられる。また選鉱工程も、鉱石品位低下等の要因で電力消費原単位が増加している。また電力消費原単位の増加傾向が続いていることも特徴的である。同期間において、チリの平均銅品位は、2002年の1.13%から2011年の0.84%まで低下している。

図7.チリの銅生産工程別の電力消費原単位の推移(銅生産量1 t当たり、2002年=100)

図7.チリの銅生産工程別の電力消費原単位の推移(銅生産量1 t当たり、2002年=100)

 2001年から2020年までの電力消費量、銅生産量、銅生産原単位の推移を図8に示す。これによると、2010年を基準とした場合、それ以前、以後とも、電力消費量は、銅生産量の伸びを上回って上昇している。2016年までは、電力消費原単位も増加傾向にあるあるとみられる。電力消費原単位の増加の要因は、採掘の深部化、鉱石の硬度の上昇、鉱石品位の低下等による採掘量、選鉱処理量の増加が主な原因として考えられる。また、海水淡水化及び揚水にかかる電力消費量も増加傾向にあるとみられる。

図8.チリの銅生産と電力消費量の推移 (2010年=100)

図8.チリの銅生産と電力消費量の推移 (2010年=100)

 いずれにしても、電力消費量は銅生産量を上回って増加する傾向が続くとみられる。銅生産の各工程において、様々な省エネ技術が取り入れられていると思われるが、鉱石品位低下、採掘深部化等の外的要因の増加の方がより大きな影響を与えているとみられる。

2-3 銅生産の電力消費量の見込み
 COCHILCO(b)によると、2010年の銅生産の電力消費量は19,152 GWhであったが、2020年には、2010年比で1.8倍(年平均6.0%)の34,364 GWhまで増加すると予測している。この間の銅生産量は、2010年の5,419千tから、2020年の7,751千tまで増加(年平均3.6%)すると予測しており、電力消費量の増加は銅生産量の増加を上回るという予測となっている。これを電力システムごとに見ると、SINGは年平均4.9%、SICは年平均7.4%で増加する予測となっている。
 図8に示すとおり、2010年を100とすると、2020年には、銅の生産量は43%増加するが、電力消費量は79%増加となる。また電力消費原単位も、2020年には25%増加するとみられる。
 COCHILCOでは、現在、2020年までの鉱業セクターでの電力消費量の見直し作業を進めている。この中で、もっとも重要なファクターは、海水淡水化及び揚水にかかる電力消費量の増加であるという。これまでCOCHILCOの予測にこうしたファクターが含まれていないが、今後発表する新しい予測では、このファクターが含まれるという。COCHILCOの暫定的な予測では、銅生産の電力消費量に占める海水淡水化及び揚水の割合は、3%(2012)、16%(2017)、14%(2020)と今後大幅に増加するという。

3.まとめ

 チリの電力供給体制は、発電システム毎に独立して経営され相互に接続されておらず、送電障害、停電が発生しやすい等の脆弱性があることが指摘されている。2011年9月に起きた大停電は、たった1か所の変電所設備の故障が大規模停電の原因となった。また今後、チリの経済成長を支えるために、新たな発電設備能力の増強が必要であるが、最近、Castilla発電所建設差し止め判決、Hydro Aysen水力発電所建設に対する環境保護運動等、新たな発電設備の建設に対する社会的な反発も強い。
 2011年におけるチリ銅鉱業の電力消費量は、チリ全体の電力消費量の約34%を占めている。銅生産のための電力消費量と電力消費原単位は、2001年以降上昇を続けており、今後も銅生産量の伸びを上回って電力消費量が増加する可能性が強い。その主な要因は、採掘の深部化、鉱石品位低下による粗鉱処理量の増加、海水淡水化、揚水量の増加等であると考えられる。チリの持続的な銅鉱業の成長にとって、安定した電力供給は最重要課題であり、今後もその動向を注視していく必要がある。

【参考文献】

・ Publicaciones de EDITEC S.A.(2011):Compendio de la Mineria Chilena (Chilean Minerals Compedium)(2011)

・ COCHILCO(a)(2012):Anuario de Estadisticas del Cobre y Otros Minerales(Yearbook:Copper and other Mineral Statistic)(1992-2011)

・ COCHILCO(b)(2012):Recopilacion de studios, Factores Clave para un Analisis Estrategico de la Mineria

・ COCHILCO(c)(2012):Actualizacion de Informacione sobre el Consumo de Energia Asociado a la Mineria del Cobre al Ano 2011(DE/10/2012)

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