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報告書&レポート

2013年2月14日 バンクーバー事務所 片山弘行
2013年07号

米国環境保護庁の権限拡大を目指した動き

 米国の環境行政で重要な役割を担う連邦環境保護庁(U.S.Environmental Protection Agency)(以下、EPA)は、米国内での鉱山開発に必要となる許認可の発行権限を有する機関の一つであり、鉱山開発を進めるうえでも重要な政府機関である。1970年に国家環境政策法(National Environmental Policy Act)に基づき設立されて以降、世間一般の環境意識の高まりを背景に、その役割の重要性はますます高まっている。

 一方で、近年、EPAは金属鉱山開発で必要となる水質浄化法(Clean Water Act)(以下、CWA)に基づく許認可に対する権限の拡大を幾度となく図っており、北西鉱業協会などの業界団体を始めとする産業界や鉱業を経済振興・雇用促進の一つの方策としたい州政府及び当該州選出の連邦議員などから強い非難の声が出ている。

 本稿では、近年のEPAによるCWA権限拡大の動きと鉱山プロジェクトに対する影響について報告する。

1. 水質浄化法に基づく許認可

 EPAが権限拡大を図っているCWAでは、鉱山開発時に必要とされる許認可として以下のものが規定されている。

・ CWA第402条に基づく許認可(NPDES (National Pollutant Discharge Elimination System) permit)
排出源からの排水の放出を許可するもので、EPA(あるいはEPAから権限委譲を受けた州政府機関)が権限を有する。

・ CWA 第404条に基づく許認可(Section 404 permit)
鉱山操業の際に発生する廃さい1などを湿地帯や水系に排出する際に必要となる許認可で、陸軍工兵司令部(Army Corp of Engineer)(以下、ACE)(あるいはACEから権限委譲を受けた州政府機関)が許認可権限を有する。

 審査はEPAとACEが協議して制定したガイドライン2に基づくとともに、審査プロセスにおいてもEPAと協議することとされている。本ガイドラインは、行政手続法(Administrative Procedure Act)に則って、一般告知及びパブリックコメントにより改正が行われるとしている。

 さらに第404条(c)において、EPAは許認可プロセスにおいてACEによるSection 404 permit発行を認めないとすることが可能な拒否権を有する「veto authority」とされており、過去に後述のSpruce No.1石炭鉱山の事例も含め14件のプロジェクトに対して拒否権を行使している。

2. EPAによる権限拡大事例

2-1. 許認可発行後の拒否権行使 -Spruce No.1石炭鉱山の事例-
 Spruce No.1石炭鉱山は、ウエストバージニア州南西部のLogan郡に位置する。付近では最大規模の露天採掘鉱山であり、Mingo Logan Coal Company Inc. (以下、Mingo Logan社)が所有している。

 Spruce No.1石炭鉱山は1998年から開発に向けた許認可申請が開始され、ACEはSection 404 permitの審査にあたり環境影響評価書(Environmental Impact Statement)(以下、EIS)を作成、パブリックコメントに付している。EPAは2006年9月に公開された最終版EIS等に対して、Spruce No.1石炭鉱山からの廃さいなどが投棄される予定のPigeonroost川やOldhouse川下流に位置するLittle Coal川流域に対する影響に懸念を表明する一方で、これらの懸念を解消すべくACEを始めとする連邦政府機関、州政府機関、Mingo Logan社と適切な緩和措置の策定に向けた協業を行うとした前向きなコメントを発している。

 EPAも交えた協議を経て、ACEは2007年1月22日にMingo Logan社に対して本鉱山開発に係るSection 404 permitを発行した。本許認可では、Mingo Logan社がSpruce No.1石炭鉱山からの廃さいなどをSeng Camp Creekの支流、Pigeonroost川とその支流、Oldhouse川とその支流、White Oak川へ投棄することを許可している。また、Section 404 permitと並行して、ウエストバージニア州環境保護省からNPDES permit等必要な許認可も取得している。

 許認可発行のおよそ2年半後となる2009年9月3日、EPAは、許認可発行後に下流地域での水質に影響が出ており、適切な解決が図られていないとして、ACEに対して、ACEが有する許認可変更・停止権限3を行使し、Spruce No. 1鉱山に対するSection 404 permitを取り消すよう要求したが、ACEはこれを根拠がないとして拒否。その半年後の2010年3月26日には、EPAはCWA第404条(c)の「veto authority」として、Seng Camp Creek、Pigeonroost川、Oldhouse川とそれぞれの支流を廃さい投棄禁止区域として設定する提案を通知、2011年1月13日には正式にPigeonroost川、Oldhouse川とそれぞれの支流を廃さい投棄禁止区域として設定する通知(Final Determination)を発した。禁止区域はSection 404 permitで許可された区域のおよそ80%を占めるもので、事実上同鉱山の操業を中止に追い込むものであった。従来、EPAは許認可プロセス中に拒否権を行使していたが、本件に関しては、許認可プロセスが終了しACE によりSection 404 permitが発行されて約3年経過した後に行使されたものであり、EPAにとっても初めてのケースであった。

 本禁止区域設定を受けてMingo Logan社は、ACEから付与された許認可は引き続き有効であり、EPAには本許認可を発行後に無効とする権限はなく、CWAにより与えられた権限を逸脱して禁止区域を設定したとして直ちにEPAを提訴した。

 2012年3月23日、コロンビア特別区連邦地方裁判所は簡易判決4としてMingo Logan社の訴えを認めた。EPAは、第404条(c)で与えられている「veto authority」は、ACEが発行した許認可を一方的に修正または取り消すことができる無条件の権限との立場であったが、簡易判決においては、このEPAの立場について、法律には一切述べられておらず、また法律の構成や立法過程からしてもそのような権限は一切付与されていないとし、EPAが不当に権限を得ようとしていると断言している。

 本簡易判決を受けて、EPAは同年5月11日、コロンビア特別区連邦控訴裁判所に上訴し、控訴裁判所による判決は2013年中盤が見込まれている。

 なお、このような流れを受けて、前州知事でウエストバージニア州選出のJoe Manchin上院議員は超党派による法案Clean Water Cooperative Federalism Act (S.3558)を提出、下院においても同州選出のNick Rachall下院議員が同名の法案(H.R.2018)を提出しており、EPAの「veto authority」としての権限を制限しようとする動きが出ている。

2-2. 許認可申請前の拒否権行使の可能性 -Pebble銅・金プロジェクトの事例-
 Pebble銅・金プロジェクトは、Northern Dynasty社とAnglo AmericanとのJV会社であるPebble Partnership Ltd.により開発に向けて探鉱が実施されているアラスカ州の未開発大規模斑岩型銅・金鉱床である。アラスカ州政府が天然資源開発用途として連邦政府からアラスカ州設立法(Alaska Statehood Act)に基づいて譲渡を受けた州有地に位置し、2011年2月付けで公開された予備的評価書では、精測及び概測資源量が59億4,200万t(平均品位0.42% Cu, 0.35 g/t Au, 0.025% Mo)と算出されており、マインライフも最長の場合で78年とされるなど、世界的にも最大級の未開発銅鉱床である。したがって、本プロジェクトが開発された場合、アラスカ州経済への貢献や世界の銅需給に及ぼす影響は多大なものになると期待されている。本プロジェクトは、未だ探鉱段階のプロジェクトであり、開発に向けた正式な許認可申請には至っていないが、大規模な露天採掘が想定されるとともに、Bristol湾に注ぐKvichak 川とNushagak 川など関係する水系が世界的な天然ベニサケの回遊地、産卵地となっていることから、地元コミュニティや環境保護団体などによる開発反対運動が激しい(カレント・トピックス12-24号)。

 環境保護団体のNatural Resources Defense Councilは、2012年3月28日、EPAに対して請願書を発し、EPAがCWA の拒否権を行使して、Bristol湾水系における廃さいの投棄を禁止するよう求めた。本請願は、事実上、Pebbleプロジェクトを狙い撃ちにしたものであった。EPAにはそのような要請に応じる法的根拠はないものの、プロジェクトに対する世間一般の関心の高さから、2012年5月18日、Pebbleプロジェクトを想定したドラフト版の環境評価報告書「An Assessment of Potential Mining Impacts on Salmon Ecosystem of Bristol Bay, Alaska」を作成、公表し、パブリックコメントに付した。

 評価報告書では、Bristol湾水系で大規模な金属鉱山が開発された場合のサケ等の生態系に及ぼす影響について評価したものであり、仮想の鉱山とはしているものの、20~65億tの資源量を有し、Kvichak 川とNushagak 川上流に位置する露天採掘鉱山をモデルとしており、事実上、Pebbleプロジェクトが開発された場合を想定している。

 EPAは、環境評価書を将来、CWA第404条(c)の拒否権を行使するかどうか検討する際の参考資料とすると称しており、また申請前プロジェクトに対するCWA第404条(c)の拒否権行使の可能性についても否定していない。

 本ドラフト評価報告書の内容及びEPAの行為に対しては、

・ EPAが現時点で環境評価書を作成する法的権限がない

・ 申請前のプロジェクトであり、廃さい投棄場所や尾鉱ダムの設計など詳細な情報が欠如している状態で評価を実施している

・ 許認可プロセスで求められるEPA自身が制定したガイダンスに合致しない(すなわち環境影響を低減させるための施設がないなど)非現実的な設計をベースとした評価を実施している

・ 評価開始からわずか1年ほどで作成した報告書で、主として聞き取り調査によるものであり、十分な科学的データに基づくものではない

・ 報告書は推測に基づいた結論を導き出している

・ 仮にEPAが本報告書を作成する権限があったとしても、本報告書が拒否権行使の根拠とはなり得ない

・ 第404条(c)の拒否権は許認可申請がなされていない状況では適切に行使できない

 等、様々な批判が寄せられており、特にプロジェクトを申請前に閉め出してしまうことに対しての産業界の反発は大きい5。さらに、アラスカ州のMichael Geraghty司法長官は、EPAに対して、Mingo Logan社の判例を引用するとともに、CWAを起草した議員によるEPA拒否権の本来の認識は、廃さい等の廃棄場所としてプロジェクトが選定した地域に対するものにあることを指摘した上で、Bristol湾水系の評価を中止するよう求めるコメントを発している。

2-3. アパラチア地域露天採掘石炭鉱山に対するEPAガイダンス
 米国東部アパラチア山脈一帯は、前述のSpruce No.1鉱山を始め多数の石炭鉱山が稼行している。2009年6月11日、EPAはACEと内務省との間でアパラチア地域露天採掘石炭鉱山における省庁間アクションプラン遂行に係る覚書6(Memorandum of Understanding on Implementing the Interagency Action Plan on Appalachian Surface Coal Mining)を締結し、同地域の露天採掘石炭鉱山に関する許認可についてCWAに基づいてEPAとACEが協力して環境評価を行うとしている。

 本覚書と並行してEPAとACEの間で締結された別の覚書では、同地域の露天採掘石炭鉱山に対するSection 404 permitについて強化調整プロセス(Enhanced Coordination Process)(以下、EC Process)を適用するとしている。EC Processでは、EPAがACEに対して追加の環境影響評価の必要性を指示することで、CWAでは定められていない別の環境評価プロセスをプロジェクトに対して課すことができる。EPAは、2010年4月1日にこれらの方針に沿った暫定版ガイダンスを発表、行政手続法に則りパブリックコメントに付した。

 米国鉱業協会(National Mining Association)は、2010年7月20日、本ガイダンスはアパラチア地域での露天採掘石炭鉱山に多大なダメージを与えるものとしてコロンビア特別区連邦地方裁判所にEPAを提訴した。2011年10月6日、裁判所は、EPAが導入を図るEC Process等は、Section 404 permitにおけるEPAの権限拡大を意図するものであるとして原告の申し立てを認めている。

 EPAは係争中の2011年7月21日、最終版のガイダンスを公表、米国鉱業協会は同年12月22日に申し立てを行った。2012年7月31日、裁判所は米国鉱業協会の申し立てを認め、最終版ガイダンスではEPAはCWAで付与された権限を大きく越えているとして、最終版ガイダンスを破棄するよう命じた7。現時点では、EPAによる控訴裁判所への上訴はなされておらず、EPAのウェブサイト上でも最終版ガイダンスは取り下げられている。

2-4. Aquatic Resources of National Importance指定の拡大
 EPAは、1992年8月にSection 404 permitを始めとする許認可発行の遅延、重複プロセス、不必要な事務手続き等を低減させることを目的とする覚書8をACEと締結した。本覚書では、EPAが環境に懸念を有するプロジェクトに対してACEがSection 404 permitを付与しようとするような相反する見解の時の解決手順を規定している。本覚書によると、許認可に関して両者の見解が相反する場合、現場レベルから陸軍省次官補へと審査が付託され、それでも許認可が発行される場合、EPAは第404条(c)の拒否権を行使できるとしている。

 これらのプロセスが適用されるプロジェクトは、国家的に重要な水資源(aquatic resources of national importance)(以下、ARNI)に重大な影響が懸念されるものに限定されているが、CWAや各規則、本覚書にはARNIについての定義がなく、EPAがARNIと指定する水域を決定する要素としてはEPAのウェブサイト上の文書9に以下が記載されているのみである。

 ・ 水資源の経済的重要性

 ・ 希少性/独自性

 ・ 国家の水資源の水質を保護、維持、強化に対する重要性

 特定の水域をARNIとして指定することで、Section 404 permit審査に要する期間が長くなり、またEPAによる拒否権行使への道が明確となる。近年、EPAによりARNIと指定する水域が増加しており、開発プロジェクトに対する許認可遅延が懸念されている。EPAによるARNI指定は、行政手続法に則った一般告知-パブリックコメント期間が設けられずに決定され、また指定された場合の対抗手段も設けられていないため、プロジェクト申請者にとって不透明な障害となっている。

 この不透明なARNI指定に関しては、アラスカ州選出で上院エネルギー・天然資源委員会のランキングメンバーであるLisa Murkowski上院議員が幾度となくEPAを非難しているが、現在のところ、大きな変化は認められない。

おわりに

 EPAは米国の環境行政において主導的な役割を担う行政機関であるが、現時点ではSection 404 permitに関する権限拡大に関しては裁判所の支持が得られていない。

 環境重視のオバマ大統領の再選により、業界団体である北西鉱業協会は2012年12月にワシントン州Spokaneで開催された年次総会において、大統領任期であるこの4年を「タフな4年間」になると評している。業界として「タフな4年間」の懸案の一つとしてEPA権限拡大の動きが挙げられているが、これはプロジェクトの申請者側にとって予見・回避不可能なリスクの増大に対する懸念として捉えられるであろう。

 法改正を伴わないガイドラインの制定を含む新たな手段により、今後もEPAはその権限拡大を模索していくことになるだろうとの業界の観測である。EPAによる権限拡大を意図した動きには、その成否に関わらず、米国における鉱山開発プロジェクトに対する許認可遅延など多大な影響が考えられることから、今後とも注意を払う必要があろう。

 参考文献

・ アメリカの環境訴訟;北海道大学大学院法学研究科研究選書,北海道大学出版会;畠山武道;2007.

・ 諸外国の環境影響評価制度調査報告書;環境省;2004.

・ アラスカ州Pebble銅・金プロジェクトへの反対運動とアラスカ鉱業への影響;カレント・トピックス12-24号;片山弘行;2012.

・ The EPA’s Expanding Interpretation of Its Regulatory Authority Under Section 404 of The Clean Water Act – Practical Implications For The Mining Industry; Kusske Floyd, Kathryn, Johnson, Jay C., and Stastny, Kristin; The Water-Energy Nexus, Paper No. 13; Rocky Mountain Mineral Law Foundation; 2012.

・ A Summary Technical Review of the EPA Bristol Bay Watershed Assessment; Loeffler, Bob; Alaska Miners Association 2012 Annual Convention.


1 CWA Section 404(a)では、「dredged or fill material」と規定され、40 C.F.R Part 232.2の定義によると「fill material」に当たるものとして「rock, sand, soil, clay, plastics, construction debris, wood chips, overburden from mining or other excavation activities」を例として挙げている。本稿では、便宜上、「廃さい」と訳出している。

2 CWA Section 404(b)(1)、または40 C.F.R. Part 230.10(b)(1)

3 33 C.F.R. Part 325.7; Modification, suspension, or revocation of permits

4 Mingo Logan Coal Co. Inc. v. U.S. EPA, 2012 WL 975880, Case No. 10-cv-0541

5 例えばAlaska Oil and Gas Associationなど

6 http://water.epa.gov/lawsregs/guidance/wetlands/upload/2009_06_10_wetlands_pdf_Final_MTM_MOU_6-11-09.pdf

7 National Mining Association v. Jackson, Case No. 1:10-cv-1220, 1:11-cv-0295, 1:11-cv-0446, 1:11-cv-0447

8 http://water.epa.gov/lawsregs/guidance/wetlands/dispmoa.cfm

9 http://water.epa.gov/type/wetlands/outreach/upload/404q.pdf

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