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報告書&レポート

2013年3月14日 メキシコ事務所 高木博康
2013年12号

ドミニカ共和国の鉱業の状況

 ドミニカ共和国の鉱業においては、2012年から2013年にかけていくつかの大きな動きが出ている。2013年2月に、かねてから業界より要望のあったエネルギー鉱山省を創設する法案を国会に提出した旨大統領が発表する一方、2012年7月に新鉱床の開発を発表したXstrataのFalcondoニッケル鉱山が抗議行動、裁判に直面し、また、2013年1月に商業生産の開始を発表した加Barrick Gold社60%、加Goldcorp社40%権益保有のPueblo Viejo金・銀鉱山に対し政府とBarrick社との契約の違憲性を問う訴訟が発生するとともに、権益の50%をドミニカ共和国政府のものにすることを目指した契約の見直しに関する報告書を作成するための委員会が下院に設置された。

 2013年1月下旬、ドミニカ共和国を訪問し、Xstrata現地法人、国家地質センター(SGN)、ドミニカ鉱業・石油会議所、日本大使館及びJICA事務所から話を聞くことができたので、2011年3月にBarrick社現地法人から聞いた話と合わせ、ここに紹介する。

1.Falcondoニッケル鉱山を巡る状況

(1) 概 要
 様々な関係者からの話をまとめると事実関係は以下のとおりとなっている。

① 2012年7月、Xstrataの現地法人Falcondo Xstrata Nickel社は、現在主に採掘しているBonao地域の北西部のLoma Miranda地域の開発を開始する旨公表した。

② その後、同社とかつて金銭関係でトラブルになったことのある人物を中心とする地元の環境NGO等が水源が汚染されるとして抗議活動を開始した。

③ 2012年9月末、環境NGO等の訴えを受けたLa Bega県の地方裁判所がLoma Miranda地域における一切の活動を禁止する裁定を下した。同社は、水源を守るために地元住民が伐採した森林の植林活動を行っていたが、この裁定を受け、植林活動を中断した。なお、同社は、水源の重要性を認識した上で、開発を行うのは水源と反対側の山の斜面から東側とのことである。

④ 同社は、直ちに高等裁判所に告訴するとともに、政府に仲介を依頼した。

⑤ 2012年10月、8月に就任したメディーナ新大統領が両者から意見を聞いた上で、国連開発計画(UNDP)に調査を依頼し、この調査結果を尊重して判断することを表明した。

⑥ UNDPの調査は、6月頃までに結論が出る見通しである。

⑦ 同社は、同国政府によりLoma Miranda地域の開発が認められた場合には今後25年間鉱山を続けるが、仮に認めなかった場合には4~5年で同国から撤退する旨表明している。

(2) Xstrata社現地法人(Falcondo Xstrata Nickel社Gabriek Rodríguez企画・開発部長)からの情報(2013年1月下旬)
 上記①で発表したLoma Mirandaプロジェクトの概要は以下のとおりである。

  ・ 位置:現在主に採掘しているBonao地域の北西部
  ・ 操業区域:460 ha
  ・ 鉱化区域:313.3 ha
  ・ 資源量:19.25百万t
  ・ ニッケル品位:1.62%
  ・ マインライフ:20年(Bonao地域等の既存の鉱床と併せ25年)

 なお、Bonao地域は、鉱石の形態が砂状から岩石状になり、粉砕等にコストがかかるため、ニッケル価格が低迷すると採掘を中止せざるを得ない。今後は、両鉱床の鉱石をバランスさせて採掘することにより、Falcondo鉱山全体でマインライフ25年を実現する予定である。

 上記②の人物は、かつてFalcondoニッケル鉱山の地元対策費を直接渡していた人物である。しかしながら、本来渡さなければならないところに地元対策費が渡っていない事実が判明したため、その人物を通すことを止めた。その人物は、このことに恨みを持って抗議行動を行っている可能性がある。また、地元のLa Bega県出身の上院議員1名及び下院議員2名も抗議活動に参加し、政府にも圧力をかけた。

 上記③に関し、地方裁判所は明らかに間違った判決をした。探鉱活動は既に終了しており、当社が当時行っていた唯一の活動は水源を守るために地域住民が伐採した森を植林していたこと及び地域住民が森林を伐採しないように監視していたことであった。プロジェクトの西境界付近に重要な水源となる川が流れている。その川の東側に山があり、開発するのはその山の東側の斜面から東側である。裁判所から判決が出たので植林を今は止めている。

 上記⑤に関し、メディーナ大統領が正しい判断をしてもらえることに期待している。

 上記⑦に関し、2012年10月に当社社長が発表したことであるが、実際、Bonao地域の埋蔵量等から考えると撤退せざるを得ない。

2.Pueblo Viejo金・銀鉱山を巡る状況

(1) 鉱山の概要

 加Barrick Gold社60%、加Goldcorp社40%権益で、2013年1月中旬、商業生産の開始を公表している。現在は、金・銀ドーレの生産であるが、SGN及びドミニカ鉱業・石油会議所によると銅の生産についても検討しているとのことである。2013年に34.2 tの金の生産を予定しており、2011年に0.5 tであったドミニカ共和国の金の生産量は大幅に増加する見通しとなっている。

 2011年末現在の埋蔵量は、表1のとおりで、マインライフは25年以上が予定されている。

表1.Pueblo Viejo多金属プロジェクトの埋蔵量

  鉱量
(百万t)
平均品位 含有量
金(g/t) 銀(g/t) 銅(%) 金(t) 銀(t) 銅(千t)
確定埋蔵量 13.4 3.32 21.9 0.12 44.3 293.9 15.9
推定埋蔵量 241.3 2.87 17.8 0.09 691.3 4,287.6 225.9

(出典:Barrick Gold社HP、Goldcorp社)

写真1.Pueblo Viejo金・銀鉱山遠景

(出典:Barrick Gold社HP)

写真1.Pueblo Viejo金・銀鉱山遠景

(2) Pueblo Viejo金・銀鉱山を巡る最近の状況
 現地報道、日本大使館等の情報に基づくPueblo Viejo金・銀鉱山を巡る最近の状況は、以下のとおりである。

① 2012年12月6日、同鉱山が位置するコトゥイ市のラファエル・モリーナ市長等が2009年6月の政府とBarrick社との契約が憲法違反であるとして裁判を起こした(この裁判は、憲法裁判所で審議されることとなった。)。

② 2013年1月下旬、下院において、野党議員等からPueblo Viejo金・銀鉱山に係る2009年6月の政府とBarrick社との契約はBarrick社に優位すぎる内容であり、環境面への配慮と国へのより一層の享受を目的に契約を修正すべきとの意見が相次ぎ、1月29日、アベル・マルティネス下院議長は、上記契約を下院において見直す旨を発表した。

③ 2月6日、下院の法務委員会、環境委員会、鉱業・財務委員会において、Barrick社との契約に関する報告書を30日以内に作成することが決定された。なお、この報告書は、政府とBarrick社との話し合いを通じ、政府とBarrick社等との権益比率を50%ずつとするよう契約を見直すことを目指すものである。

④ 2月18日、憲法裁判所は上記訴訟の審議結果を出すことをペンディングとする旨発表した。

⑤ こうした中、鉱山の地元住民が同鉱山によって健康が脅かされるとして、地元コトゥイ市、サント・ドミンゴのカナダ大使館前等で抗議活動を頻繁に実施している。

(3) Barrick Gold社現地法人Pueblo Viejo Dominicana社Méjico Angeles渉外部長からの情報(2011年3月)

 1975年から1999年まで国営企業が酸化鉱から計156 tの金を生産した。鉱山表層の酸化鉱が無くなり、硫化鉱に変わった後、技術的・経済的に生産が困難となり、1999年に鉱山を閉鎖した。その際、国営企業は、採掘した硫化鉱を2つのテーリングダムに放置したため、雨水がPH2の強酸性へと変化した。幸いなことにドミニカ共和国の土壌は石灰質であることから中和され、深刻な環境問題とはならなかった。2006年にPlacer Dome社から買収した際、ドミニカ共和国政府と契約書を締結したが、その中で、①過去の環境問題の責任はドミニカ政府にあり、Barrick社には無いこと、②新たなプロジェクトの実施の責任はBarrick社にあること、③Barrick社は政府を支援し、政府とともに環境改善計画書を作成すること、④改善するための資金をBarrick社が提供し、政府に代わって計画を実施することとなっている。過去の政府の責任は政府にあることを明らかにするが、実際には対策は分けられないので、このような契約とした。

 税金は、①法人税が25%、②ロイヤルティとして売上高からコストを引いた金額の3.2%及び③2009年の政府との契約に基づき、投資額の10%を越える粗利益があがった場合に、粗利益の28.75%となっている。以前の契約では単に粗利益の25%となっていたが、リスクを低減するため、25%から28.75%に上げる一方、粗利益が10%以下の時は支払わなくても良い契約とした。

3.エネルギー鉱山省の創設

(1) 現地報道振り

 2013年2月17日、メディーナ新大統領は、エネルギー鉱山省を創設する法案を上院に提出した旨明らかにした。

 現在は、探鉱・採掘許可等は商工省の鉱山総局が所掌しており、地質図の作成、閲覧等は経済・企画・開発省の国家地質センター(SGN)が所掌している。新たに設けられるエネルギー鉱山省は、金属、非金属鉱物資源及びエネルギー政策の企画立案、鉱区登録、探鉱・採掘許可、適切な鉱業活動の監督等を所掌し、SGN及びエネルギー委員会を配下に置く。

 同国では鉱業部門での審査の遅さが問題となっており、鉱山総局長によると、現在、290の採掘許可申請が認可待ちとなっている。

(2) ドミニカ鉱業・石油会議所Cristina Thomen Ginebra専務理事からの情報(2013年1月下旬)

 ドミニカ共和国の鉱業における問題点は、許認可に時間がかかることにある。鉱山総局に許可を申請しても局長は鉱業に関して全く知識の無い商工省の副大臣に説明し、その副大臣が商工大臣に説明し、決裁をもらわなければならなかった。このため、会議所ではかねてよりエネルギー鉱山省の創設を要望している。

 2012年8月に就任したメディーナ大統領は、鉱業に知識と興味を持っており、エネルギー鉱山省を創設する法案を作成すると言ってくれている。

 また、Falcondoニッケル鉱山及びPueblo Viejo金・銀鉱山については、国との契約により進めているものであり、会議所としても注目している。外国企業の投資が増えている状況の中、政府の判断によって、今後の鉱業分野への投資は決まるであろう。

4.その他

(1) 国家地質センター(SGN:Servicio Geológico Nacional)Santiago Muñoe局長からの情報(2013年1月下旬)

 EUによるODAであるSYSMINプログラムによって、フランス、スペイン及びドイツの地質調査所にドミニカ共和国全土の地質構造調査を行ってもらい、一部地域の地化学探査が未だであるが、概ね全ての縮尺1/50,000の地質図が完成した(SYSMIN Ⅰが1996年~2004年で、SYSMIN Ⅱが2006年~2011年)。

 EUからは、SGNの今後の役割は投資を希望する企業に情報を提供し、投資を促進することにあると言われ、EUから政府へのアドバイスによって、商工省鉱業総局の下の部から経済・企画・開発省の下の局に格上げとなり、2013年からは独自の予算も付き、職員も20名から45名に増員されることとなった。

 (注)ドミニカ鉱業・石油会議所 Ginebra専務理事は、Santiago局長のことを外国の機関からの信頼が厚く、これまで予算が無い中、他国の援助で職員を教育する等、やり手だと絶賛していた。

 ドミニカ共和国の鉱業は、狭い国土の中に様々な金属資源がモザイク状に広がっており、ニッケル、金、銀、銅、亜鉛、マンガン、ボーキサイト等が賦存している。Pueblo Viejo鉱山は、金、銀の品位が高く、銅、亜鉛は高くないが、その直ぐ隣に位置している豪Perilya社(中国資本)のCerro de Maimon多金属鉱山は銅の品位が高い。

 現在操業している4鉱山(Falcondoニッケル鉱山、Pueblo Viejo金・銀鉱山、Cerro de Maimon多金属鉱山及び豪Pan Terra Gold社のLas Lagunas金・銀鉱山)は、国土の中央部付近に固まっている。今後、有望な地域としては、西部の加Uni Gold社がハイチ側に跨がる鉱区を持つNEITA鉱区から南東に位置する加GoldQuest社のEscandalosa鉱区までの火山性の鉱床帯がある。また、国の中央部より東側にも有望な鉱区が存在している。

図1.ドミニカ共和国の縮尺1/50,000の地質図のカタログ

(出典:SGN)

図1.ドミニカ共和国の縮尺1/50,000の地質図のカタログ

(2) メディーナ新大統領についての日本大使館等からの情報(2013年1月下旬)

 2012年5月に大統領選挙があり、2012年8月にメディーナ新大統領が誕生した。前大統領と同じドミニカ革命党(PRD)の大統領であるが、これまでの大統領と異なることは汚職問題に真剣に取り組む姿勢を見せていることにある。政権発足時には全閣僚に倫理規定を遵守するとの誓約書にサインさせた。ドミニカ共和国では長年に亘って政権の腐敗が問題になっており、これまで政権中枢の汚職事件、不正事件等が頻発していた。

おわりに

 ドミニカ共和国では、本文に記したとおりFalcondoニッケル鉱山、Pueblo Viejo金・銀鉱山と国を代表する2つの鉱山において、同国の投資環境への判断を左右するような問題が相次いで発生している。

 ドミニカ鉱業・石油会議所は、鉱業に知識と興味を持っているメディーナ新大統領にこれらの問題の解決を期待しているようであるが、メキシコ事務所としては、ドミニカ政府がこれらの問題を如何に解決させるか今後ともフォローし、適宜報告することとしたい。

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