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報告書&レポート

2013年4月18日 ハノイ駐在員事務所 五十嵐吉昭  資源探査部  探査第2課 宮武 修一  報告
2013年20号

カンボジアにおける最近の鉱業政策の動向について

 2013年3月15日にJOGMECは「カンボジア鉱業投資セミナー」を開催し、カンボジア鉱工業エネルギー省(MIME)の鉱物資源総局(GDMR)及び環境省環境影響評価局の講演があった。カンボジアでは長らく続いた内戦や政治的な混乱もあり、鉱業活動は未だ国内で使用する工業原料の生産に留まっている。他方、周辺国と比べて外資に比較的自由な鉱業活動を認めていることもあり、金属関係では未だ統計に現れる程の生産活動は無いが、外資を含む多くの会社が探査権を得て活発な探鉱活動が行われている。カンボジア政府は、鉱業の活性化により「資源を新たな財源として国の持続可能な社会経済開発に寄与するため鉱物資源を責任ある手法で開発する」ことを目指している。本稿では鉱物輸出政策に焦点を当て、周辺国との比較も交え、最近のカンボジアの鉱業政策の動向についてとりまとめた。

1. 活発化する鉱業活動

 カンボジアにおける鉱業生産は工業原料や建築用材料が生産される程度で、小規模な金採掘を除けば金属鉱物の生産は無いに等しい。その一方、探鉱活動は外資を中心に活発に行われており、今般の「カンボジア鉱業投資セミナー」においてGDMRが明らかにしたところによれば、91社に対して139の案件に探査権が付与されている(石炭や工業原料を含む)。また、探査権を保有する91社中、中国、タイ及び国内企業の13社に対して、金、鉄鉱石、石炭等の採掘権を既に付与しており、更に3件の採掘権が審査中であるとした。カンボジア全土の鉱区図を図1に、主な外資による探鉱案件を表1に示す。表1から窺える傾向として、カンボジアにおける金属鉱物の探鉱は、豪州を主体とするジュニア探鉱会社による金、または銅・金鉱床探査、鉄鉱山を製鉄所からインフラまで含めて大規模に開発を目指す中国企業、及び自国でボーキサイト鉱山開発を進めつつ隣国でも資源確保を狙うベトナム企業が主なプレーヤーとなっている。表中にはないが、本邦企業も日鉄鉱業が銅の探査権を取得しており、JOGMECもGDMRと共同で銅の調査を行っている。

 なお、カンボジアにはカンボジア鉱業探鉱会社協会(CAMEC)が設立されており、豪州やカナダの探鉱会社7社と鉱業関連サービス会社20社程で構成され、会長は豪州のLiberty Mining International社長が務めている(http://www.camec-cambodia.com/)。

表1カンボジアにおける主な外国資本案件

プロジェクト 鉱種 会社(国) 備考
Okvau他 Renaissance Minerals(豪) Oz Minerals社から継承
Kratie南部 Southern Gold Cambodia (豪) Mekong Minerals が親会社に参入中
Ratankiri他 金、銅 Indochine Mining(豪) 現在PNGの案件に注力
Oyadao他 Angkor Gold(加) Liberty Miningから継承
Antrong他 Brighton Mining(豪) 初期探鉱中心
Kou Sa 銅、金 Geopacific Resources(豪) オプション購入検討中。カンボジア社とのJV
Battambang州 銅、金 Fission Energy(豪) カンボジア社とのJV
Preah Vihear州 Guanxi Nonferrous Metals Gropu(中国) 鉄鉱山から直接還元鉄プラントまで開発に着手*
Mondulkiri州 ボーキサイト Vinacomin(ベトナム) BHPBillitonが撤退した案件

出典:Mining Journal(2012.11.9)他
* 凍結との情報もある(Equitable Cambodia Briefing Paper p.22, 2013/03)

図1カンボジア全土鉱区図
出典:The Current Situation of Mining Industry in Cambodia, GDMR, 2013/03/15
図1カンボジア全土鉱区図

2. カンボジアの鉱業政策概要

 カンボジアでは2001年7月に施行された「鉱物資源の管理及び利用に関する法律」(鉱業法)に探査権及び採掘権を含む6種類の鉱業権が規定されている。2005年には鉱業法を補足する2つの短い政令第8 ANKr.BK及び第113ANKr.BKが出され、鉱業権に関してはカンボジア鉱工業エネルギー省(MIME)の鉱物資源総局(GDMR)が窓口となり、その中で採掘権取得にはカンボジア開発評議会(CDC)の承認が必要とした。鉱業権者の権利・義務内容はMIMEとの間に締結される鉱物探査・採掘契約書(Agreement on Mineral Exploration and Exploitation)において具体的に規定される。鉱業権の取得は基本的に先願主義で、外資に対する規制や政府の資本参加の規定は無い。

 一方、環境規制については1996年末に公布された「環境保護と天然資源の管理に関する法律」により、全ての案件は環境影響評価(EIA)を作成し環境省の承認を得ることが義務付けられている。対象となる案件が曖昧であったこの法律は、1999年4月の「環境影響評価プロセスに関する政令」により補足されており、鉱業分野については採掘から製錬まで対象とされた。また、2009年には環境影響評価(EIA)報告書を作成するための一般的なガイドラインが発表されている。鉱業権取得手続きの流れの中では、鉱物探査・採掘契約書を締結した事業者が、探鉱の結果により採掘権申請をする際、環境省にEIAを提出する。

 なお、具体的な鉱業権取得手続きについては、2004年の省令No.340 URT/ATR/BrKに定められており、「カンボジアの投資環境調査2008年」(JOGMEC)に詳述されているため本稿では省略する。

3. 鉱物輸出政策の見直し

 カンボジアの鉱業政策において、探鉱段階から実際の鉱山開発に移行する場合最も問題視されているのが以下の2005年1月31日付け政令第8 ANKr.BKの第2条である。

 「天然鉱物資源の全てのタイプは輸出を許可されず、最終産物を作る国内の会社の需要を満たすために供給される。最終産物のみが海外への輸出を許可される」

 この条文によれば、例えば銅鉱山の場合、銅精鉱は輸出できず、必ず製錬所で銅地金にしない限り輸出できないとも読め、海外の投資家にとっては製錬所建設の様な過大な初期投資を求められることになりかねない。この点について上述のCAMECは、2012年8月に開催された法律、税金、良い統治の官民作業部会においてこの問題を取り上げ、本条の見直しと改正を政府に対して求めた。これに対して政府(MIME)は、鉱種によっては技術的経済的に製錬事業が現実的ではないことを認識し、政令にある「最終産物」の定義を明確にするとした。MIMEはUNDPやCAMECの支援を受けて現在も本件について協議会を重ねて検討中であるが、鉱物の精製・加工過程を以下の4つに区分しステージ2以降の輸出に問題は無いとした。但し、石炭、石灰石、リン酸等国内需要の見込まれる鉱物は輸出できないとみられる。

 ステージ1:鉱物生産及び精鉱生産

 ステージ2:製錬・精製を含む金属生産

 ステージ3:鉱物や金属の半加工品

 ステージ4:金属加工品

 ステージ1に属する精鉱の輸出について、「カンボジア鉱業投資セミナー」においてペンナブースGDMR副局長が銅の場合を念頭に語ったところによれば、先ず開発事業者はカンボジア国内で製錬するケースと精鉱を輸出する双方のケースを比較して、開発事業者の選択の妥当性を示すべきとした。即ち、仮に精鉱輸出を選択する場合、費用対効果分析により如何に輸出が開発案件に合理性をもたらすのかを明らかにすべきであるとした。また、セミナー会場からの質問に答えるかたちで、個人の感触と断りながらも、銅精鉱の輸出を承認する可能性は90%程度あるのではないかとした。この理由として、カンボジアの銅の内需は限定的であること、また新たな製錬所稼働に必要な余剰電力はないことを掲げ、この他にも製錬所がもたらす環境リスク等にも懸念があるとした。前述のとおり同国のこうした鉱物輸出政策の議論は現在進行中であるが、JOGMEC主催の「カンボジア鉱業投資セミナー」の場で、初めて海外投資家に対してその検討状況を知らせたとのことであった。

4. 周辺国との比較

 カンボジア、ラオス、ベトナム、即ちインドシナ3ヶ国の中で、カンボジアは鉱業分野の発展において最も後発である。ベトナムでは外資の参入はほとんど見られないが、銅、金、ボーキサイト、タングステン等数多くの金属鉱山が開発され自国の産業政策(マスタープラン)に沿って国内産業の発展に寄与している。ラオスにおいては、外資により比較的規模の大きな2つの銅鉱山が開発され、国家経済に対して大きな貢献をしている。しかしながら先行する両国の鉱業政策は、近年鉱業振興よりは、環境、社会経済に対する影響を見極める方向に動いている。例えばベトナムでは高額なロイヤルティを定めた法や政令(2009~2010年)、環境保護費の通達(2011年)、鉱物の輸出を規制する首相決定や通達(2012年)により、2011年7月に施行された新しい鉱物法下での鉱物資源開発は停滞している。一方、ラオスでは2012年6月に鉱業に関する新規投資の審査一時停止の首相令が出され、2015年末までに新たな鉱業戦略を策定するため、2012年4月に施行された改正鉱物法下での新規案件は一部の例外を除き凍結されている。首相令には未加工の鉱物輸出禁止についても含まれている。この両国は同じ共産党一党支配であるが、鉱業を規制する側の天然資源環境省が探査権や採掘権等の鉱業権を所管している点も似通っている(ラオスでは探査権のみ天然資源環境省で採掘権はエネルギー鉱山省の所管)。更に、ベトナムでは国内で石炭事業をほぼ独占する国営のVINACOMINとその傘下の国営鉱物鉱山公社が存在し、ラオスでは政府が鉱山開発時に10%まで権益を取得できる権利がある点も特筆される。

 これに対してカンボジアでは、投資許可をカンボジア開発評議会(CDC)で、環境影響評価(EIA)を環境省でそれぞれ承認を受けなければならないが、鉱業を促進する立場の鉱工業エネルギー省(MIME)、及びその一部局である鉱物資源総局(GDMR)が探査権も採掘権も所管している。ロイヤルティは金属鉱物で2.5~3.5%に抑えられ、政府が権益取得する権利の規定もなく、国内で鉱業を寡占するような鉱業公社も存在せず、鉱物輸出政策の議論はあるが国の産業政策に縛られることもない。鉱業に限らず他産業でも不透明な商習慣を指摘する声はあるが、概ね鉱業投資環境は良好と言える。

5. 終わりに

 2015年の域内関税の撤廃に向けて自由貿易地域(AFTA)創設を進めるASEAN諸国は、近年ミャンマーに熱い視線が注がれていることもあり加盟国間で外国投資の誘致を競い合っている。しかしながら、ASEANと言っても共産党の一党支配から立憲君主制まで政治体制は様々であり、鉱業政策については環境問題の制約や国の産業政策との関係により各国が一様に外資を活用して積極的に自国の鉱物資源の開発を目指しているとは限らない。一般的に鉱山開発は資本集約的で長期にわたるビジネスである故、投資側は各種ファイナンスによる資金調達を利用しつつプロジェクトの収益性から投資判断を行う。これに対して投資受け入れ国としては、鉱山開発の経済性のみならず環境影響、周辺住民対策、雇用、生産物から生み出される付加価値から、場合によっては国の安全保障まで勘案して国としての総合判断をする。鉱物資源が非再生資源である以上掘り出した資源は二度と元には戻らず、そこに何らかの環境破壊を伴うのは避けられないため、採掘活動によって得られる経済的利益やロイヤルティ等の税金収入と、環境破壊や周辺住民の移転等鉱山開発がもたらす負のコストを天秤にかけることになる。未加工の鉱物資源輸出禁止についても、国内産業の発展度合、産業政策、市場、技術者の育成や環境影響まで勘案し、鉱物資源をどこまで加工することが国にとって最大の利益になるのか国によって事情は異なるであろう。ベトナムのように自国で鉱物資源を製錬、加工する産業を育成しようとする国とは異なり、ラオスやカンボジアでは鉱物資源輸出を禁止することで外国投資が阻害される負の影響の方が大きいと思われる。「カンボジア鉱業投資セミナー」においてGDMR副局長が精鉱の輸出の可能性について楽観的な見方を示したことは投資する側としては心強いことである。

 カンボジアでは外資に対する差別もなく政府が鉱業投資の促進に前向きであるが、未だ鉱業活動は緒に就いたばかりである。特に金属資源に関しては現状では探鉱段階が主体で、動きの早いジュニア探鉱企業が先駆者の利点(first mover advantage)を享受して有望と思われる地域の大半を押えている。今後、本格的な鉱山開発が進むにつれ、不透明な行政手続き、活発な環境NGOの活動、技術者の不足等、克服すべき様々な課題も明らかになってこよう。カンボジアの鉱業を切り開くパイオニアの早期の出現が待ち望まれる。

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