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報告書&レポート

2013年6月20日 バンクーバー事務所 大北博紀
2013年36号

カナダ・BC州の政権交代と鉱業政策への影響-2013年5月州議会選挙後の見通しについて-

 2013年5月14日に行われたカナダ・ブリティッシュ・コロンビア州(以下、BC州)議会選挙において、クリスティ・クラークBC州首相が率いたBC Liberal Party(以下、自由党)は、前回選挙が実施された2009年時と同数の定数85議席中49議席と過半数を獲得した。事前の予想を覆し、自由党が2001年に与党の座についてから4期目の政権運営に突入する。自由党を勝利に導いたクラークBC州首相は、同党内において救世主として扱われており、絶対的な権力を手に入れた。クラーク自由党の継続に産業界も歓迎の意向を示しているが、クラークBC州首相自身は落選している。州首相が議会に参加できないという異例の事態となっているため、今後は当選した自由党議員の辞職による補欠選挙を戦うことが予想されている。

 かたや、事前の世論調査において、政権交代を予想されていたエイドリアン・ディックス氏率いる最大野党BC New Democratic Party(以下、新民主党)は34議席と2009年時の35議席から1つ議席を落とした。残り2議席のうち1議席は、厳しい環境政策を公約に掲げるGreen Party(以下、グリーン党)が初めて議席を獲得した。グリーン党は2011年のカナダ連邦下院選挙においても初めて1議席を獲得している。残る1議席は無所属が獲得し、BC Conservatives(以下、保守党)は議席獲得がならなかった。

 選挙翌日の新聞報道は、一様に今回の選挙結果を奇跡と報じていたが、その後、今回の番狂わせは、事前の調査方法の誤りや新民主党が選挙直前にキンダーモーガンのパイプラインに反対したことが、過去に新民主党政権で苦しんだ産業界の反感を買ったと分析している。

 カレント・トピックス13-13号「カナダ・BC州の政権交代と鉱業政策への影響-2001年の政権交代が鉱業に与えた影響-」において、1990年代の新民主党政権の経済政策と2001年から自由党政権が行った経済・鉱業政策改革を報告したが、本稿では、BC州の鉱業政策を左右する2013年5月州議会選挙の各党の公約を紹介し、選挙結果を踏まえて今後のBC州の鉱業政策の趨勢を展望する。

1. BC州の鉱業の概況

 BC州の2012年鉱物生産額は、カナダ国内ではオンタリオ州(以下、ON州)の91.6億C$に次ぐ第2位の83.1億C$である。特に石炭については、カナダ国内生産額63.9億C$のうち50.6億C$と8割を占め第1位となっている。また、銅についてもカナダ国内生産額44.8億C$のうち18.0億C$と4割を占め第1位となっており、石炭と銅がBC州を代表する鉱種となっている。

 石炭と銅以外の主な鉱種は金、銀、砂岩等である。また、探鉱活動も非常に活発であり、BC州の2012年探鉱支出額は7.5億C$とON州の9.0億C$に次ぐ第2位である。

 なお、BC州は2013年度予算案において歳入を444億C$と見込んでいる。所得税や法人税等からの税収が49%と州歳入の大半を占めるが、鉱業を含む天然資源部門からのロイヤルティ等も6%が見込まれており、天然資源部門からの歳入がBC州財政における重要な要素となっている。

2. 選挙にあたっての各党の公約

 2013年5月14日のBC州議会選挙の際に各党が掲げていた選挙公約について、鉱業に関連する内容を中心に以下にまとめた。

 先住民との関係改善と環境保護に関しては各党が肯定している。鉱業のうち金属・非鉄金属・石炭鉱業、天然ガス(LNG)の促進に関してはグリーン党が反対し、オイルサンド(パイプライン等)に関しては、新民主党とグリーン党が反対の姿勢を示している。

 これから分かるように、環境に大小の影響を及ぼす資源産業に対して、そもそも反対の立場をとるグリーン党以外、自由党に比べて厳しい環境政策を訴える新民主党もオイルサンドを除いた鉱業(金属・非鉄金属・石炭鉱業、天然ガス(LNG))には反対しておらず、BC州民の理解が得られていると考えられるが、オイルサンドに関連するパイプラインや西海岸沖合開発等については意見が分かれている。

2-1. 先住民

政党名 公約
自由党 ・ 新たな収入分配契約を締結する
・ 非条約鉱業利益契約を締結する
新民主党 ・ 条約プロセスを見直す
・ 新4ヶ年経済・教育計画を策定する
グリーン党 ・ 鉱業界に先住民の権利とサポートを認識させる
・ 先住民に州立公園の共同管理を認める
保守党 ・ 先住民は連邦の問題である
・ 裁判所や連邦政府に協議を指示された場合は先住民と協議する


2-2. 環境

政党名 公約
自由党 ・ 帯水層と飲料水を保護するために法改正を行う
・ 環境保護に漁業権収入を充てる
・ Klappan Valleyを保護する
新民主党 ・ 環境保護普及のためBC州公園基金を復活させる
・ 公共交通機関の改善等に炭素税歳入の一部を投資する
・ グリーンエネルギープログラムを強化する
・ 沖合でのオイル探鉱等やタンカー航行の一時停止期間を継続する
グリーン党 ・ 新環境保護法を制定する
・ 全州立公園で鉱業、伐木、放牧を禁止する
・ 公園を非商業化する
・ 海洋保護地域を見直す
・ 沖合での石油・ガス開発を半永久的に停止する
保守党 ・ 環境・財政の持続性を政府の掲げる公約として強く推し進めていく


2-3. 鉱業のうち金属・非鉄金属・石炭鉱業

政党名 公約
自由党 ・ 環境評価承認を得たプロジェクトをサポートする
・ 北西部送電線とIskut送電線の拡張を完了させる
新民主党 ・ 探鉱許可の待ち時間を減少させる
・ 環境評価を簡素化する
・ 鉱業技術教育に投資する
グリーン党 ・ 鉱業と鉱物開発の補助金を廃止する
・ 利益に対して新規課税を行う
・ 全ての新規提案に対して公聴会と環境審査を行う
保守党 ・ 鉱山拡張と新規開発をサポートする
・ 規制を緩和する
・ 州間の鉱業生産物の輸送計画を策定する


2-4. オイルサンド(パイプライン等)・LNG

政党名 公約
自由党 ・ ノーザンゲートウェイとキンダーモーガンのパイプラインをサポートするために調整する
・ LNGの利益をProsperity基金の設立に充てる
・ (エネルギー新税の導入)
・ Kitimat製油所をサポートする
・ 新フラッキング規則を策定する
新民主党 ・ ノーザンゲートウェイとキンダーモーガンのパイプラインに反対する
・ 沖合開発の一時停止期間を継続する
・ フラッキングを独自に審査する
グリーン党 ・ ノーザンゲートウェイとキンダーモーガンのパイプラインの考察を中止する
・ 西海岸における原油タンカーの航行を永久に禁止する
・ LNGに反対する
保守党 ・ ノーザンゲートウェイとKinder Morganパイプライン、フラッキングとLNGの拡張をサポートする
・ 港湾へのアクセスに対して補償料を請求する


3. 選挙にあたっての2大政党の公約

3-1. 自由党(Liberal)
 自由党は「強固な経済基盤」を柱に“BC Jobs Planの推進、教育と職業技能訓練の近代化”を掲げるとともに、「不安のない将来」を柱に“安全・清潔で健康的な州、財政収支のコントロール、政府債務ゼロ”を選挙公約に掲げている。以下に鉱業に関連する項目の詳細を掲げる。

① LNG支援

● Prosperity基金により負債を無くすことが最優先事項

● 提案者と迅速なやり取りができるようLNG事務局にさらなる情報提供を行う

● 連邦政府と共同でのLNG開発地域に係る包括的環境評価プロセスを保証する

● 消費者のための安全な将来のエネルギー源を含むLNG製造用の新電力源を開発する

● プリンスルパートとその周辺地域にLNG施設を提供するため、BC州北部を横断するLNGパイプライン回廊の確保に先住民や地域社会、私営企業と協働する

● 世界最先端の水圧破砕法の革新とサポートを継続する

● BC州石油・ガス委員会を通じて、水圧破砕法に起因する水質問題の年次報告書を要求する

● 石油・ガス産業の水利用の環境基準を強化する

● LNGプロジェクト地域に及ぶ伝統的な地域の権利について、提案者や先住民と協働し、Haisla先住民のようにLNGプロジェクトに参加する先住民をサポートする

● 先住民クリーンエネルギービジネス基金を通じて、先住民地域社会のクリーンエネルギーへの参加を助けるため、2014年~2015年に100万C$以上を確保する

● 先住民が鉱業収入を得られるよう経済・地域開発契約の作成を継続する

● BC州北西部のLNGプラント計画が実行され次第、LNGプラントに電力を供給できるよう先住民とクリーン再生エネルギープロジェクトを継続する

● 将来的にLNGの仕事の第一線を担ってもらうべき地元の人材、特に北部と先住民に対する適切な人材開発プログラムの提供を約束する

● BC州に本社の設置を望む会社がアルバータ州(以下、AB州)との契約から差別待遇を受けないよう、AB州政府に対して、貿易や投資、及び労働者の円滑な移動を保証するように働きかける

② 環境と経済の両立

● 重油パイプラインの敷設計画が以下に挙げる5つの条件を満たすことを要求する
 ≫ 環境評価が問題なく完了すること
 ≫ 世界最先端の「海洋」への重油流出予防・回復システムでリスクを低減すること
 ≫ 世界最先端の「陸上」への重油流出予防・回復システムでリスクを低減すること
 ≫ 先住民が利益を得られるよう法的要件を整備すること
 ≫ BC州がオイルサンドから公平な経済的利益を得られること

● カナダ西海岸における海上輸送に関する環境保護調査を完了する

● 報告書を基に全ての海上輸送事故から海岸を守るための必要条件への同意を連邦政府に強く求める

③ 精油所による雇用の創出

● 政治的影響のない環境プロセスにより精油所開発メリットを判断する

● 精油所のサポートを保証するためAB州と協働する

● BC州市場におけるガソリン生産の可能性とガソリン生産がもたらすBC州のコスト削減の可能性を調査する

④ 鉱業の復活

● 環境評価承認を得た全ての鉱業プロジェクトを全面的にサポートする

● BC州先住民と既に締結している契約に加え、他の条約を締結していない先住民と利益分配契約を次の2年間で締結する

● 鉱業プロジェクトの環境評価プロセスが一回で済むよう連邦政府と協働する(BC州とカナダ連邦政府は、一つのプロジェクトに対し一つの環境審査とするため、2013年3月にMOUを締結)

● 新鉱山のための控除と主要鉱山の拡張に伴う減価償却控除を2016年から2020年までに最大133%に増加させる

● 北西部送電線とIskut送電線の拡張を完了する

● 長期予測可能な基金を確立し、現在Geoscience BC が行っている37百万C$のBC州石油・ガス・鉱物探鉱開発促進プロジェクトを継続する

● オンラインによる投資家の申請プロセスに掛かる手続き期間の迅速化を保証する

● 鉱山と学校のパートナーシップによる高校生以上の職業訓練を促進する

⑤ 資源業界への利益配当

● 地方資源業界と利益配当の議論を開始し、特にBC州北西部の将来成長に備えた準備を行う

● 先住民と収入分配契約の交渉を継続する

● Fort Nelson地域との収入分配契約を順守し、また、Peace River地域との同契約延長の議論を開始する

⑥ 技術訓練実習生システムの確立

● 技術訓練に対する現在の投資総額5億C$/年に上乗せして75百万C$を投資し、訓練施設と機器を改良する

● Teck CoalとCollege of the Rockiesが提携し、重機と産業技術の実習生を石炭鉱山に派遣する

⑦ クリーン

● 産業への供給と飲料水の割り当ての枠組みを同時に制定し、BC州の帯水層と飲料水資源を保護する水資源持続法を2013年に協議、2014年に立法可決する

● 先住民地域社会と共にKlappan地域の開発実行可能性を調査する

● 地域社会、産業界、労働者、先住民や環境保護団体の代表からなる会議を設立し、雇用・富の創出と環境保護のバランスの取れたガイドラインを作成する

⑧ 低税率

● 個人所得税率の引き上げを次の5年間見送る

● 炭素税率の引き上げを次の5年間見送る

● 法人税率を2018年までに11%から10%に戻す

⑨ BC州Prosperity基金
  BC州Prosperity基金にLNG開発とKitimat製油所からの収益を充てる(エネルギー新税の導入)

3-2. 新民主党(NDP)

 新民主党は「進歩」を柱に“雇用の創出・繁栄、持続可能な経済の確立、技術労働者数の増加、子供の学習環境の改善、子供の貧困と格差社会の解消、老人・身体障がい者・慢性的な病気を持つ人々のケアの改善、健康的な森林と地力の強い土壌への投資、先住民との条約プロセスの再活性化、先住民の経済開発のサポート、ノーザンゲートウェイパイプラインへの反対、気候変動への積極的な取り組み、政治プロセスに対する信頼の回復”を掲げている。以下に鉱業に関連する項目の詳細を掲げる。

① 持続可能な経済の確立、雇用の創出

● 技術労働者の雇用を増やす
 ≫ 1億C$の給付型奨学金プログラムを設立し、高卒者が技術訓練教育を受ける機会を促進する
 ≫ 近代的な訓練設備や卒業率の向上等により、BC州における技術訓練と研修制度の設計を改善する
 ≫ 北部地域居住者や先住民、女性の職業訓練参加者を増やすため、新しい訓練プログラムを開発する

② 移住者の技術の承認
    ≫ 海外で修得した資格の認可プロセスを改善する

③ 政府投資による地域利益の最大化
    ≫ 民間が投資しているプロジェクトに対して政府がインフラ投資を行い、地域に恩恵をもたらす

④ 資源経済と地域経済発展の支援

● 持続的な鉱業と探鉱の促進
 ≫ 労働就労許可証の通知に掛かる所要時間を平均55日とする
 ≫ 税額控除を延長する
 ≫ Geoscience BCへのサポートを継続する
 ≫ 環境評価プロセスの向上により鉱山開発機会を改善する
 ≫ 鉱業に関連する技術訓練への投資により操業中の鉱山を強化する

● 持続的なLNG開発の促進
 ≫ LNGの持続的な開発と輸出をサポートする
 ≫ LNGとフラッキングの最優良事例を保証する
 ≫ グリーンエネルギー開発を促進し、LNG開発が環境に与える影響を減少させる

● 地方の経済発展をサポート
 ≫ 先住民と地域社会が相互開発した計画により地方経済を発展させて、地域とコミュニティーの信用を回復する

⑤ 労働者の尊重

● 雇用基準を強化する

● 臨時外国人労働者を支援する

● 安全な職場環境の促進
 ≫ 労災委員会の決断に雇用主と組合が関与できるシステムを設立する

● 職場の労働組合化
 ≫ 労働者が自由に組合に加入する権利を行使できるようにする
 ≫ 雇用主と組合が紛争を解決するための有効的な対策に投資する

⑥ 先住民の尊重

● 先住民との関係を改善する
 ≫ 連邦政府の意思決定に先住民の意見が反映されるよう取り組む
 ≫ 政府設立後100日以内に全ての先住民リーダーを招待し、新4ヶ年経済・教育計画を策定する

● 先住民との和解に向けての取り組み
 ≫ 条約を先住民のニーズに応じた多様なものとする
 ≫ 条約のない先住民との和解の道を探す

⑦ 環境保護

● ノーザンゲートウェイパイプラインに反対する
 ≫ 北岸沖合でのオイル探鉱等やタンカー航行の一時停止期間を継続する

● 気候変動に取り組む
 ≫ BC州気候行動計画を更新し、法制化された温室効果ガス排出量削減目標に近付ける。また、国家エネルギー・気候戦略を先導する
 ≫ 公共交通機関の改善等に炭素税歳入の一部を投資する
 ≫ 石油・ガスの操業からのベンティングを含む排出物に対して、炭素税を徐々に拡大する

● 厳しい基準と最優良事例を保証する
 ≫ 先住民と協議しながら環境評価プロセスを改善する
 ≫ 除草剤の使用を禁止する新規則を導入し、絶滅危惧種や生息地を保護する
 ≫ Water Actの近代化プロセスを完了し、地下水規則を導入する
 ≫ 漁業・海洋部門と協力して天然の鮭を保護する
 ≫ フラッキングや石油・ガス開発の影響について、独立した専門家を中心とした公開審査を行う

● BC州立公園システムと保護地域を強化する
 ≫ 湿地や河口、貴重な原生林等の重要な生態学的地域を保護する
 ≫ BC州の野生生物と漁業資源の管理を強化する

● 持続可能なエネルギー戦略を実行する
費用対効果、環境保護、社会責任や再生可能エネルギー開発を重視するよう電力会社の権限を見直す

4. まとめ -今後の鉱業の趨勢-

 今回の選挙における自由党と新民主党の選挙公約は、鉱業のうち天然ガス(LNG)、金属・非鉄金属・石炭鉱業の推進(州資源の輸出による経済発展)、雇用の促進(技術労働者の育成、若年層の雇用機会改善等)、先住民との関係改善、環境保護と非常に似通っており、選挙の争点は、

● 経済発展を優先して、条件付きながらもオイルサンド(パイプライン、製油所の建設とカナダ西海岸でのタンカーの航行)を容認した自由党と保守党

● 環境を優先して、オイルサンド(パイプライン等)に反対した新民主党とグリーン党
という様相となった。

 選挙の結果は、環境保護を強く打ち出した新民主党を産業界が敬遠したことや、積極的にネガティブキャンペーンを行った自由党に対して新民主党がネガティブキャンペーンを行わなかったことなどから、自由党が定数85議席中の49議席と約6割を獲得した。しかし、得票率で見た場合は自由党44.14%、新民主党39.71%とほぼ同率であり、BC州民が自由党を支持しているとは必ずしも言えない状況にある。さらに、最も厳しい環境政策を提唱するグリーン党が初めて1議席、得票率8.13%を獲得しており、新民主党と合わせた自由党より厳しい環境政策への支持率は47.84%と自由党へのそれを上回る。強い環境保護を敬遠し自由党を支持した産業界ではあるが、これまで以上に環境対応が求められるであろう。

 また、今回の選挙結果を選挙区別にみると、BC州民の選挙結果には極端な傾向が表れている。バンクーバー都市圏では自由党と民主党の支持地域に極端な傾向はないものの、BC州全体で見た場合には内陸部は自由党を支持、バンクーバー島の2選挙区で自由党、1選挙区でグリーン党に敗れた以外は、バンクーバー都市圏を除く太平洋沿岸部(BC州西海岸)の全地域が新民主党を支持している。

4-1. 金属・非鉄金属・石炭鉱業の趨勢

 選挙区別選挙結果にBC州の操業中・開発中の鉱山の位置を当てはめると、一部バンクーバー島での例外を除き、操業中の鉱山のある地域は自由党を支持している。また、BC州探鉱協会も自由党政権の継続という選挙結果に対して歓迎の意を表している。

 新民主党は公約で「職場の労働組合化」を掲げていたが、操業中の鉱山のある地域は新民主党を支持しない結果となった。このことは、自由党がBC州鉱業の復興を目指して世界的に競争力のある税制改革等を行い、新民主党時代に低迷した鉱業の復興に尽力した結果であろう。待遇改善を求める鉱山労働者が職場の労働組合化を求めず、自由党を支持したことは興味深い結果であった。多数の開発中鉱山を有するBC州北西部は、今回の選挙において新民主党を支持したが、今後は自由党支持に回る可能性がある。

 自由党政権の公約は、減税、先住民との関係改善、規制緩和や事務の合理化といった従前の路線を継続しており、今後も「探鉱許可と環境審査の迅速化、先住民との契約の締結、探鉱投資税額控除の継続」等のさらなる支援が期待される。

 北西部送電線の完成により、2014年4月から電力が供給されるBC州北西部は、松くい虫の被害により深刻な状況にある林業に代わり、経済を促進し雇用を確保するため、鉱業の活性化が求められている地域である。単独の鉱山では難しかった道路等のインフラ整備も、周辺で開発が進むLNGプロジェクトにより環境が整うため、鉱山開発の絶好の機会となっている。

 しかし、現在はジュニア企業のみならず、メジャー企業も余剰資産の整理に乗り出すなど、世界的な不況の影響が探鉱企業を覆っている。当地のコンサルタントによると、バンクーバーのジュニア企業数は、過去のコモディティープライスの下落時と比較して例を見ないほどの件数で減少しているとのことである。とは言え、未だ先行きは不透明であるが、世界的な不況の影響が永続的に続くことはないことから、将来的な資産価値の増加が見込め、財政状況が良好な企業にとっては割引価格で良質な資産を取得できる絶好の機会である。今後のBC州の金属・非鉄金属・石炭鉱業の発展のため、資金難に喘いでいる探鉱企業等の資金調達環境の改善と財政状況が良好な探鉱企業等による資産取得を期待したい。

図1.選挙区別選挙結果と操業鉱山及び主な鉱山プロジェクト

図1.選挙区別選挙結果と操業鉱山及び主な鉱山プロジェクト

4-2. 天然ガス(LNG)・オイルサンドの趨勢
 地元紙等を見ていると、BC州民はパイプラインからのオイルサンド漏出による環境汚染を非常にセンシティブな問題であると考えているのに対し、同様にパイプラインを使用する天然ガス(LNG)の漏出については、環境への影響を比較的小さいと考えている傾向にある。また、オイルサンドパイプラインに対して厳しい姿勢を取る先住民もLNGプロジェクトには協力的であり、BC州北西部においてLNG関連施設の開発が積極的に推進されることはまず間違いない。

 しかし、同地域には金属・非鉄金属・石炭鉱業の趨勢で説明したように開発が期待される鉱山が多数存在しているため、今後はLNG関連施設間のみならず鉱山との間でも建設労働者等を如何に確保するかが深刻な問題となる。

 自由党は先住民や若者を技術労働者とすべく、公約において訓練の支援等を掲げているが、そもそも先住民や若者のニーズが技術労働者にあるとは思えず、技術労働者不足の解決策とはならないであろう。また、鉱山における技術労働者不足を解消するために雇用されていた臨時の外国人労働者について、連邦政府が制度の見直しを示唆したことも技術労働者の確保のさらなるマイナス要因となっている。

 オイルサンドパイプラインについては、条件付きで容認する姿勢を見せていた自由党であるが、2013年5月31日に環境への影響を懸念し、BC州政府としてノーザンゲートウェイパイプラインに対して正式に反対を表明した。これは今回の選挙において、クラークBC州首相がカナダ連邦政府とAB州に対する反旗を鮮明にすることでBC州民の心を掴んだことも影響しているのではないであろうか。

 カナダ連邦政府とAB州は、カナダ全体のエネルギー戦略を策定し、AB州のオイルサンドをアジアに輸出することを企てている。BC州がノーザンゲートウェイパイプラインに反対した現在、残るキンダーモーガンのパイプラインの今後は不透明な状況となっている。仮にパイプラインを使用せずにAB州から鉄道等を用いてオイルサンドを沿岸部に輸送し、精製を行うことができたとして、さらにオイルタンカーの航行に関する許認可権限を有するカナダ連邦政府のハーパー首相(AB州選出で、オイルサンド業界は支持基盤の一つ)がカナダ西海岸のオイルタンカー航行を禁止する政策を転換したとしても、BC州民の大半は環境保護を支持しており(特に沿岸部においてはその傾向が高い)、さらに先住民団体もBC州西海岸におけるオイルタンカー航行に反対の姿勢を示していることから、オイルタンカーの航行許可を得るためのカナダ連邦議会運営は厳しいと言わざるを得ない。

 また、選挙公約において製油所による雇用の創出を打ち出したBC州自由党ではあるが、カナダ連邦政府とAB州に反旗を翻し、天然ガス(LNG)で独自に成長する道を選んだことから、オイルサンドと完全に決別する可能性もある。どちらにしても、オイルサンドのアジア輸出を目指すカナダ連邦政府とAB州、関連企業には厳しい結果が予想される。

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