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報告書&レポート

2013年6月27日 ロンドン事務所 小嶋吉広
2013年37号

国際非鉄研究会参加報告(4)2013年春季国際ニッケル研究会(INSG)参加報告-2013年も供給過剰が継続する見込み-

 国際ニッケル研究会(INSG)は、国際非鉄3研究会の中では国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)に次いで2番目に古い歴史を持つ研究会であり、1990年に国連の招請・勧告によって発足した国際機関である。現在、16の国・地域が加盟しており、事務局はポルトガル・リスボンに置かれている。同研究会は、ニッケル市場の需給予測分析を始め、国際的なニッケルの貿易取引に係る課題について研究するとともに、それらの課題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季の年2回開催されている。

 2013年4月22~23日、リスボンにてINSGの春季定期会合が開催された。本会合には、INSG加盟国や産業団体、企業関係者の総勢約60名が参加した。以下、本稿では本会合の概要について報告する。

 なお、講演資料はINSGのホームページに掲載されている。

 http://www.insg.org/presentations.aspx

1. 2012年見込みと2013年予測

1-1. ニッケル鉱石生産量
 2012年のニッケル鉱石生産は、Ravensthorpe鉱山(豪)やBarro Alto鉱山(ブラジル)等の新規大型プロジェクトが生産開始を迎えたことで順調に生産は拡大し、対前年比13.9%増の2,180.3千tが見込まれている。2013年は、インドや中国等新興国での景気減速により需要の軟化が見込まれることから、同7.9%増の2,353.4千tと生産拡大のペースがやや鈍化すると予想されている。

 2013年の予測生産量を国別に見ると、2010年まではロシアが鉱石生産量の1位であったが、近年、中国のニッケル銑鉄(NPI)生産拡大に伴いインドネシアとフィリピンの生産拡大が顕著となっている。インドネシアの2013年生産量は600.0千tであり、対前年比20.0%増の大幅な増加になっている。第2位のフィリピンは325千t(対前年比6.6%増)と予測され、これら2か国で世界全体の鉱石生産の4割近くを担っている。第3位のロシアは265.0千t(同7.0%減)であり、2012年をピークに生産が減少局面に入りつつある。以下、4位豪州の222.6千t(同5.0%減)、5位カナダの205.0千t(同0.2%減)となっている。

 また、2012年に生産開始を迎えたAmbatovyプロジェクトを擁するマダガスカルは、35千t(対前年比514%増)を見込んでいる。

1-2. ニッケル地金生産量

 2012年の一次ニッケル生産量は対前年比8.8%増の1,755.4千tとなる見込みである。また2013年は、新規プロジェクトの生産拡大が順調に推移する予想から同6.0%増の1,859.9千tとなる見込みであるが、中国でのNPIの生産状況や生産障害の発生状況によって生産量が変動することも想定される。

 2013年の予測生産量を国別に見ると、中国が2010年以来世界第1位の座を維持しており、565.0千t(対前年比8.7%増)となっている。中国の生産量に関しては、NPIによる生産量の実態を把握することが非常に難しく、前回会合(2012年10月)での予測値が2012年は425.0千t、2013年は430.0千tであり、前回予測値からの大幅な修正となった。また会合では、ロシアの代表から、中国のNPI生産量の実態を考慮に入れたより精度の高い予測値とするよう事務局に対し要望がなされた。一部参加者からは、生産障害等の予測不可能な事象があるため中国でのNPI生産量の予測精度を上げることは困難との意見も出されたが、まずは次回会合までに事務局が対応を検討することとなった。

 2位のロシアは2009年以降生産量はやや減少傾向を辿っており、2013年の予測生産量は245.0千t(同2.8%減)となっている。以下、日本174.2千t(同2.7%増)、カナダ135.0千t(同3.4%減)が続いている。

1-3. ニッケル地金消費量
 2012年の地金需要は、H2での需要減速の影響から対前年比4.1%増の1,646.6千tとなる見込みである。2013年はH1において需要回復の動きが見られることから同7.6%増の1,772.5千tが予想されている。

 2013年の予測消費量を国別に見ると、第1位の中国は世界全体の48%を占める855.0千t(対前年比14.6%増)となっている。第2位の米国は144.0千t(同5.9%増)、第3位の日本は137.0千t(同0.4%増)となっている。なお上記予測は、今後の世界経済の動向如何によっては修正もありうるとINSG事務局はコメントしている。

表1.ニッケルの鉱石・地金生産及び地金消費量

(単位:千t)

区分 鉱石生産量 地金生産量
2011年実績値 2012年見込み 2013年予測 2011年実績値 2012年見込み 2013年予測
  世界におけるシェア   世界におけるシェア   世界におけるシェア   世界におけるシェア   世界におけるシェア   世界におけるシェア
欧州 360.7 18.9% 359.8 16.5% 348.2 14.8% 524.4 32.5% 510.3 29.1% 510.5 27.4%
アフリカ 80.6 4.2% 86.4 4.0% 116.0 4.9% 36.5 2.3% 41.1 2.3% 69.5 3.7%
米州 439.3 23.0% 464.6 21.3% 460.6 19.6% 272.7 16.9% 300.7 17.1% 284.2 15.3%
アジア 664.8 34.7% 898.0 41.2% 1028.0 43.7% 628.5 39.0% 730.0 41.6% 789.2 42.4%
※(内、中国) 89.8 4.7% 93.0 4.3% 95.0 4.0% 435.0 27.0% 520.0 29.6% 565.0 30.4%
オセアニア 368.1 19.2% 371.5 17.0% 400.6 17.0% 150.7 9.3% 173.3 9.9% 206.5 11.1%
世界計 1,913.5   2,180.3   2,353.4   1,612.8   1,755.4   1,859.9  

区分 鉱石生産量
2011年実績値 2012年見込み 2013年予測
  世界におけるシェア   世界におけるシェア   世界におけるシェア
欧州 364.5 23.0% 363.1 22.1% 358.0 20.2%
アフリカ 23.9 1.5% 24.6 1.5% 27.5 1.6%
米州 163.9 10.4% 169.9 10.3% 179.4 10.1%
アジア 1,026.4 64.9% 1,086.2 66.0% 1,204.8 68.0%
※(内、中国) 672.0 42.5% 746.0 45.3% 855.0 48.2%
オセアニア 2.8 0.2% 2.8 0.2% 2.8 0.2%
世界計 1,581.5   1,646.6   1,772.5  

(出典:INSG会議資料より作成)

1-4. ニッケル需給バランス
 2010年は世界経済の回復を受け、中国等でのステンレス鋼の生産増加により需要超過となった。2011年はほぼ需給が均衡したが、2012年は複数の新規鉱山が生産開始を迎えたことから、需要の伸び以上に供給が増加し、供給超過となった(表2参照)。2013年もこの傾向は続き、87.4千tの供給超過が見込まれている。

表2.世界のニッケル需給バランス

(単位:千t)

区分 2011年実績 (参考)2012年予測値 2012年実績
(今回発表)
(参考)2013年予測値 2013年予測
(今回発表)
増減
2013/12
2012年10月時点 2012年10月時点
ニッケル供給合計(①) 1,612.8 1,687.3 1,755.4 1,779.5 1,859.9 6.0%
ニッケル需要合計(②) 1,581.5 1,644.5 1,646.6 1,707.4 1,772.5 7.6%
需給バランス 31.3 42.8 108.8 72.1 87.4  

(出典:INSG会議資料より作成)

1-5. LMEニッケル価格と在庫
 2013年は17,425 US$/tで開始し、その後17,000 US$台を推移していたが、1月30日、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和策継続の発表を受けた景気回復の期待感から価格は急伸し、18,205 US$となり、昨年10月以来の18,000 US$台を回復した。その後、2月4日には18,600 US$にまで価格は上がり、春節(2月9~15日)明けの需要回復期待があったが、2012年のEU圏GDP成長率は-0.5%のマイナス成長になったことから、ニッケル含むベースメタル全般で値を下げ、18,000 US$台を下回る17,935 US$となった。その後、米国での量的緩和策縮小への懸念から続落し、2月21日には17,000 US$も割り込み、16,775 US$にまで下げた。3月中は16,000 US$台で小幅な動きが続いたが、4月15日、3月の米小売売上高と生産者物価指数が当初予想を下回る値となり、世界経済の減速懸念が広まった結果、金属全般で大幅に値を下げ、昨年11月以来の16,000 US$割れとなる15,455 US$まで下げた。その後もIMFによる世界経済見通しで世界経済の成長率が下方修正され、また中国の4月のPMI(製造業購買担当者指数)が予想を下回る結果となったことから、金属全般で価格下落傾向を辿り、5月3日には14,910 US$にまで下げ、底を伺う気配となっている。

 この期間の在庫量は若干の振幅はあるが総じて見れば上昇傾向にあり、1月に140千t台で推移した後は、着々と在庫が積み上がり、5月には170千t台となっている。


(出典LMEホームページ)

図1 ニッケル価格推移

2. 各委員会における主な講演

2-1. 第46回統計委員会(2013年4月23日)
 講演『ニッケルの供給サイドの課題』(Royal Nickel Corporation社、Mark Selby氏)

 Royal Nickel Corporation 社はカナダ・ケベック州でDumontニッケルプロジェクト(F/S中)を有するジュニア企業。ニッケル市場はここ数年供給超過の状態であったが、2015年頃から供給不足に陥る可能性があると当社は見ている。

 理由として第1に挙げられるのが、インドネシアでの増産の不確実性である。インドネシアは世界のニッケル供給の15%を担い(筆者注:INSGの2013年予測では25%)、2005年以降の供給増加分の3分の2をインドネシアの増産で補っている。しかしながら今後は、2014年からの鉱石輸出制限と鉱山への外資制限(49%以下)によって生産への影響が見込まれる。また、中国はインドネシア国内でNPIプラント建設に取り組んでいるが、操業に必要な電力等のインフラ不足が顕在化し、操業コストを引き上げる原因となっている。

 第2の理由としては、大型の新規プロジェクトの生産拡大に時間を要している点が挙げられる。Voisey’s Bay (カナダ)やMirabela(ブラジル)等の硫化鉱プロジェクトの生産拡大は既になされているが、Ramu(PNG)やBarro Alto(ブラジル)等のラテライト鉱プロジェクトの生産拡大は当初の予定通りには進んでおらず、計画通りの生産量を達成できるか不確実である。

 第3の理由は中国のニッケル消費拡大の潜在性が挙げられる。中国のニッケル消費量は急速に拡大しているものの、一人当たりニッケル消費量で見ると中国は0.4 kgであり、日本やドイツの1.3 kgと比べると未だ低い。需要拡大の余地は十分にある。

 第4の理由は、開発/建設段階のプロジェクトが少ない点である。2020年までにニッケルの需要はさらに1,000千t増加する見込みであるが、現在開発/建設中のプロジェクトが供給出来る能力は490千tと、需要増加分の半分にも満たない。490千tの約半分は供給の不確実性が比較的高いラテライト鉱プロジェクトであり、供給不足が強く懸念される。1965年~1975年にかけて、ニッケル需要の急激な拡大に伴い探鉱も活発化したが、その後1975年頃からニッケル需要拡大の勢いが減速し、探鉱活動も小康化した。このことが、現在の開発/建設段階のプロジェクトが少ない状況の背景となっている。

 当社は2013年3月、中国のステンレスメーカーであるTsingshan社とMOUを結び、オフテイク契約締結に向けた協力を確認している。

2-2. 第38回産業諮問委員会(2013年4月22日)
 講演『2013年のニッケル市場動向』(Norilsk社、Dmitry Kuznetsov氏)

 2007~2009年の間、ニッケル市場は供給過剰であり、余剰分はLME倉庫や中国での備蓄分として積み上がった。その後2010年は供給不足に転じ、中国での備蓄分の一部は取り崩されたものの、2011年は再度、供給過剰に戻ったため、LMEの在庫が増えることとなった(一部は中国の備蓄分へ)。当社の予測では、2013年の一次ニッケル生産量は2,013千t、需要は1,844千tであり、72千tの供給超過を見込んでいる。2013年の生産量は対前年比で9%増加しているが、その内訳を見ると、高品位ニッケル製品(Ni純分95%以上の製品)の対前年比伸び率は2%であるのに対し、低品位ニッケル製品(Ni純分95%以下のフェロニッケルやNPI等)は同20%と生産量の増加が著しい。

 供給サイドでは、HPAL方式によるGoro及びRamuプロジェクトの生産拡大は技術的問題により遅延が見込まれる他、2011年に生産を開始したOnca Pumaプロジェクトでは炉の損傷により数か月間の生産停止を余儀なくされた。2013年における対前年比の生産量増加を精練所別にみると、高品位ニッケルではAmbatovy:24千t、金川集団(Jilin、Jiangxi):15千t、Vale(Copper Cliff、Clydach):12千tとなっている。低品位ニッケルについては、NPIよる生産増として50千tを見込んでいるが、価格が予想よりも低くに推移すれば高品位ニッケルに生産者は転換せざるをえないことが予測される。

2-3. 第31回環境経済委員会(2013年4月23日)
 講演『ニッケル市況見通し』(BNP Paribas社、Stephen Briggs氏)

 当社の予測ではニッケル価格は今後徐々に上昇し、2014年Q4では20,000 US$/t近辺まで到達すると見込んでいる(図2参照)。

(出典:講演資料を基にJOGMEC作成)

図2 BNP Paribas社のニッケル価格予測

 このような価格上昇予測の根拠として中国経済の堅調な成長が挙げられる。2013年の世界経済の成長率は当社予測値では3.1%であり、IMFの世界経済見通し(3.3%)とほぼ同水準の成長を見込んでいる。2014年は当社予測では3.6%であるが、IMFは4.0%見込んでいる。3月の中国のPMI速報値は当初予想より高い51.7であり、2月と比べ0.3の改善が見られることから(筆者注:その後5月に発表された4月の中国PMIは50.6となり景況感は悪化した。)、中国経済は今後も堅実な水準で成長すると期待できる。2013年Q1のGDP成長率は当初の予想(7.9%又は8.0%)を下回る7.7%であったが、固定資産投資伸び率は20.9%と依然として高い水準にあり、インフラ投資が加速されている。GDP成長率は2013年Q2から再び回復するであろう。

 また、米国政府の量的緩和継続によってユーロ及び豪ドルに対しドル安の状況は少なくとも2015年まで続くと予想されるため、資源価格の上昇要因に働くであろう。

 当社の見込みでは2012年のニッケル需要量の伸びは4.6%であり、2013年は5.9%を予測している(表3参照)。供給面を見ると、現在の価格水準では中国の多くのNPI生産者は採算割れになる可能性があり、またインドネシアでの鉱石輸出制限によって供給リスクが高まっている。さらに、新規鉱山の生産拡大も技術的問題から順調に進むとは考えにくい(表4参照)。

表3 BNP Paribas社の需給見通し

〔単位:千t〕

2009 2010 2011 2012 2013(予測) 2014(予測)
鉱石生産量 1,420 1,630 1,945 2,085 2,175 2,200
地金生産量 1,320 1,445 1,620 1,755 1,830 1,945
地金消費量 1,280 1,500 1,620 1,695 1,795 1,920
バランス 40 -55 0 60 35 25

(出典:講演資料を基にJOGMEC作成)

表4 新規鉱山の生産見込み

〔単位:千t〕

プロジェクト名 国名 タイプ 会社名 2010年 2011年 2012年 2013年
(予測)
2014年
(予測)
2015年
(予測)
生産能力
Goro ニューカレドニア ラテライト Vale 8 6 15 25 35 60
Onca Puma ブラジル 7 6 2 15 20 58
Ravensthorpe First Quantum 6 33 32 33 33 40
Barro Alto ブラジル Anglo Ameircan 6 22 28 35 37 41
Ambatovy マダガスカル シェリット/住友商事他 6 25 40 45 60
Ramu PNG 中国冶金科工集団他 5 10 20 25 31
Koniambo ニューカレドニア Xstrata 15 30 50 60
Tagaung Taung ミャンマー 中国有色金属他 2 10 15 18 22
Taganito フィリピン 住友金属鉱山他 4 15 25 30
Sotkamo フィンランド 硫化鉱 Talvivaara 10 16 13 15 20 25 50
Santa Rita ブラジル Mirabela 10 16 19 20 22 23 24
Kevista フィンランド First Quantum 4 9 10 11 11
Nunavik カナダ Jien Canada 5 15 18 17
Eagle Rio Tinto 0 10 16
        20 59 116 190 295 375 520

(出典:講演資料を基にJOGMEC作成)

3. INSG各委員会のプロジェクト進捗報告

 産業アナリストからの講演発表の後、各委員会に関する活動内容報告、作業プログラムの動向と進行状況についての報告がなされた。特記事項のみ以下に報告する。

3-1. 統計委員会
① 現在進行中のプロジェクト
  ・ 2013年に「World Directory of Nickel Producing Facilities」を発行予定
  ・ ステンレスの情報をシェアするためISSF(国際ステンレスフォーラム)とのパートナーシップ強化

② 新規プロジェクト
  ・ 中国でのニッケル需要動向に係る情報収集(Chief Statisticianが中国を訪問予定)
  ・ 米国でのニッケル市場の動向調査

3-2. 産業諮問委員会
  特になし。

3-3. 環境経済委員会
① 現在進行中のプロジェクト
  ・ 東南アジアでのラテライトニッケルに係る調査
  ・ 持続可能な鉱山開発に係る調査

② 新規プロジェクト
  ・ ニッケルの環境及び人体への影響に係る調査
  ・ リサイクルに関する調査

4. 2013年秋季会合の日程

 次回の国際ニッケル研究会は、2013年9月30日から10月2日までポルトガル・リスボンにて開催予定である。

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