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報告書&レポート

2013年8月22日 シドニー事務所 栗原政臣
2013年54号

ニューカレドニアのニッケル事情-ニッケル投資セミナー「New Caledonia Nickel」参加報告-

 2013年7月1日から7月3日にかけて、仏領ニューカレドニアのヌメアにおいてニッケル投資セミナー「New Caledonia Nickel」が主要ニッケル企業、ニューカレドニア当局関係者、本邦商社・ニッケル関係企業等が参加して開催された。また、会議中及び会議後にはDoniamboニッケル製錬所及び開発中のKoniamboプロジェクト関連施設の見学ツアーも行われた。

 本稿では「New Caledonia Nickel」及びニューカレドニアのニッケル事情について紹介する。

はじめに

写真1.セミナー会場

写真1.セミナー会場

 2013年の「New Caledonia Nickel」は、ニッケル価格が2009年以来4年振りに14,000 US$/tを割り込んだ2013年6月の翌月に開催された。「New Caledonia Nickel」は3年毎にニューカレドニア・ヌメアで開催されているニッケル投資セミナーで、今回で5回目となる(前回は2010年11月に開催。当時のニッケル価格は20,000 US$/tを超えていた)。セミナーには、ニューカレドニアのニッケル産業で130年以上の歴史を誇るLe Nickel SLN社(Eramet社他)、VNC(Vale New Caledonia Goroプロジェクト)のフル操業へ向けたランプアップ操業中のVale、Koniamboプロジェクトをコミッショニング中のGlencore Xstrata、Norilskをはじめとするニッケル大手企業、ニューカレドニア政府及び州政府機関、市場調査会社、コンサルタント会社等から約300名が参加した。

 ニューカレドニアの2012年ニッケル鉱石生産量(ニッケル量)は13.2万t(全て酸化鉱:サプロライト鉱10.2万t、リモナイト鉱2.9万t)1で、フィリピン、インドネシア、ロシア、豪州、カナダに次いで世界第6 位埋蔵量は豪州に次いで2位(1,200万t)とされている2。 日本にとってもニッケル鉱石(2012年111.7万t、インドネシア、フィリピンに次いで3位)、フェロニッケル(同3.5万t、1位)の重要な輸入先となっている3


1 DIMENC, http://www.dimenc.gouv.nc/portal/page/portal/dimenc/librairie/fichiers/23172169.PDF

2 USGS, http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/mcs/2013/mcsapp2013.pdf

3 Global Trade Atlas

1.価格・需給動向分析

 ニッケル市場展望-ラテライト革命は続くのか?
 Jim Lennon, Macquarie Capital Securities

 この10年でニッケル需要は急激に増加したが、その大部分は中国とインドの需要拡大による。この需要拡大に伴うニッケル価格上昇に対処するため、中国は2007年頃からニッケル銑鉄(Nickel Pig Iron: NPI)の生産を拡大し200系ステンレス向けに使用、それに伴いインドネシア及びフィリピンにおいて低品位サプロライトの生産、及び中国への輸出が増加した。

 世界のニッケル鉱石供給を鉱石タイプ別に見ると、1990年には約70%を占めていた硫化鉱の生産割合が年々減少し、2011年には酸化鉱が生産割合で硫化鉱を逆転、2012年には56%を占めるに至っている。酸化鉱の生産を引き上げる要因となったNPIの生産量は、2000年の「ゼロ」から2012年には35.1万t(全ニッケル生産量の20%)へと急増している。一方、同様に酸化鉱を原料とするフェロニッケルの生産は2000年の20.9万t(同19%)から2012年には33.3万t(同19%)へ、PAL方式(Pressure Acid Leaching)の生産は2010年の5.3万t(同5%)から2012年には14.2万t(同8%)へと生産量は増加しているものの、その割合に大きな増加は認められていない。特にPAL方式ではフル操業までに時間を要する事例が多く、そのため想定されたOPEXよりも高コストになる傾向にあり、CAPEXも当初計画の2~4倍に膨れ上がる例も認められる。

図1.供給鉱石及び生産プロセスによるニッケル生産量の推移<sup>4</sup> (1988年から2017年(予測))”><br />
  <br />図1.供給鉱石及び生産プロセスによるニッケル生産量の推移<sup>4</sup> (1988年から2017年(予測))
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 ニッケル価格はステンレス製造における中国でのNPI代替使用のため供給過剰となり、2007年以降下落している。さらに、NPIに関して従来は生産コストが高い(平均17,000 US$/t)と言われていたが、新設のRotaly kiln/Electric arc furnace(RKEF)方式では電力効率が良くなるためにコストは平均13,500 US$/tと減少し価格競争力は増している。またニッケルを高品位に含むNPI(Ni品位:9~15%)の生産も拡大してきており、2013年のNPI生産量はRKEF方式の生産も増加し約40万tと予測され、今後もNPIはニッケル価格の動向に大きな影響を与えると思われる。このような状況のもと、インドネシア政府が2013年末に予定している鉱石の禁輸措置が実施されなければ、ニッケル業界は供給過剰のためチャレンジングな状況が今後2年間は続くと予想される。なお、インドネシア政府が鉱石を禁輸しなくても輸出税等でインドネシアからの鉱石価格は上昇し、電力価格、労働コスト等の上昇も考慮するとNPIの生産コストは今後増加すると思われる。またインドネシア国内にNPI生産工場が建設されても、電力価格、労働コスト、輸送費等からNPI価格は上昇すると思われる。


4 Jim Lennon, 2013, 講演資料

2.主要ニッケル企業の動向

(1) Glencore Xstrata:
 Peter Johnson, Head of Nickel Assets

 2013年5月にGlencore InternationalとXstrataが合併してGlencore Xstrataが誕生した。Glencore Xstrataは、金属鉱物、エネルギー製品、農産品の三部門からなり、世界50ヵ国に90以上の事務所を持ち、190,000人以上の従業員を雇用している。ニッケル部門は世界第4位の生産量を持ち、9ヵ国で約5,000人がニッケル生産に関与している。主な生産国における状況は以下のとおりである。

◆ カナダ:Raglan(QC州Nunavik)で4鉱山・選鉱所・発電所を操業し、現在の年間ニッケル生産量27,000 tから、2014年には40,000 tへの拡張を計画している。また、Sudbury(ON州)で2鉱山・選鉱所・製錬所を操業し、2014年から2015年にかけて規制が強化されるSO2排出削減に向けて改修を行っている。

◆ 豪州:Murrin Murrin(WA州)ではHPALプラントを操業しており、36,000 tの年間ニッケル生産能力に対して、ここ12ヵ月は40,000 tを生産し、さらに直近の3ヶ月は45,000 tの年間生産量に相当する生産実績をあげている。

◆ ノルウェー:Nikkelverk(Kristiansand)で精錬所を操業しており、年間ニッケル生産能力は92,000 tで、2010年に100周年を迎えた。

◆ ドミニカ共和国:Falcondoで3鉱山、フェロニッケルプラント、及び発電所を操業している。

◆ ニューカレドニア:Koniamboプロジェクトは、製錬所、発電所、港湾等の施設を有するプロジェクトで、2013年4月に最初のフェロニッケルを生産し、2014年末にはフル操業レベルに達する計画である(年間ニッケル生産量60,000 t)。

◆ タンザニア:Kabangaプロジェクトは資源量37百万t(ニッケル品位2.63%)が計上されているタンザニア北西部遠隔地のプロジェクトでフル操業時には年間ニッケル生産量40,000 tが見込まれる。

 現在ニッケル市場は、明らかに供給過剰によりストックは過去最大レベルに達している。中国のNPIはいまやニッケルの主要製品となっており、NPIとインドネシアの鉱石供給との二つの強力な結び付きは周知のところである。さらにコミッショニングに時間がかかっている大規模プロジェクトが計画通りに立ち上がり、フル操業になれば、更に供給過剰の要素となる。ステンレス鋼に関して、今後も中国は唯一の成長市場となると思われる。Glencore Xstrataは投資家への利益の還元のために常に成長機会を求めていく。

(2) Vale:

 Richard Rodriguez de Carvalho, Director Base Metals for Asia, Pacific and Africa

 Valeは1942年にブラジルの鉄鉱石専門国有会社として設立された。1997年以降民営化、多角化を図り、2013年現在30ヵ国以上に約200,000人の従業員を雇用している。現在、鉄鉱石生産量で世界第1位、ニッケル生産量で世界第2位の会社となっており、2012年におけるニッケルの収益に占める割合は、鉄鉱石及びペレット(約322億US$、69.5%)に次いで2位(約41億US$、8.9%)となっている。ニッケル事業は以下の地域で行っている。

◆ カナダ:ON州Sudbury、及びMB州Thompsonにおける採鉱(Mining)~製錬(Smelting)~精錬(Refining)までの一貫生産。また、NF州Voisey’s Bayでの採鉱と銅・ニッケル精鉱の生産。及び、NF州Long Harbourにて、Voisey’s Bayの銅・ニッケル精鉱を処理するための湿式製錬所を建設中。

◆ 英国:Clydach(ウェールズ)での精錬所。

◆ インドネシア:PT Vale Indonesiaにおける世界最大のラテライトニッケル製錬所。

◆ ニューカレドニア:Vale New Caledoniaにおけるリモナイト鉱の湿式精錬所。

◆ ザンビア:Lubambeでの坑内採掘鉱山(2012年10月生産開始)。

◆ ブラジル:Onça Pumaプロジェクト。同国における、Vale初のニッケルプロジェクトで、2011年4月に生産開始。現在休止中で2013年Q4再開予定。

◆ アジア地域:松坂(日)、大連(中)、高雄(台)、温山(韓)での精練所。

 アジア太平洋地域は世界の鉱石供給の57%、精製ニッケル供給の52%、需要の60%を占めており、Valeとしてはニッケルの需給両面で重要な地域と捉えている。その中でニューカレドニアは、世界の鉱石供給の6%、精製ニッケル供給の3%を占めており、Koniambo及びVNCのランプアップが進めば、この値はそれぞれ11%、8%に上昇し、その役割は大きくなる。またアジア太平洋地域のニッケルは、酸化鉱の占める割合が全体の74%と、その他の地域の35%と比較して著しく大きいという特徴がある。

 需要面では中国の増加が大きく、2012年はアジア全体で世界需要の60%以上を占めていた。

3. ニューカレドニアの主要ニッケルプロジェクト

(1) Doniambo製錬所

 (SLN社:Eramet 56%、STCPI 34%、日新製鋼 10%)

写真2.Doniambo製錬所

写真2.Doniambo製錬所

 Société Le Nickel(SLN)社が操業する100年以上の歴史を持つ乾式製錬所で、フェロニッケル(Ni品位27%、生産の約70%)、及びニッケルマット(Ni品位75%、生産の約30%)を生産している。2012年ニッケル生産量は56,447 tで、フェロニッケルでは世界第3位の生産者となっている。ニッケルマットはEramet社が操業するSandouville精錬所(フランス)で加工されている。

 Doniambo製錬所はニューカレドニアの中心都市ヌメアの郊外、幹線道路沿いに位置している。現在、石油火力発電(40 MW×4基)にて電力を供給しているが、コスト削減のため石炭火力発電所を建設する予定になっている(180 MW、2018年から)。また、2015年までにニッケルの年間生産量を2012年の56,000 tから62,000 tに増加させる計画を持っている。Eramet社は、リモナイト鉱の湿式精錬プロセスを独自に開発しており、この技術はWeda bayプロジェクト(インドネシア)に導入される予定である。将来的には、ニューカレドニアのProny及びCreek Pernod鉱床に対しても導入される可能性がある5

(2) Vale Nouvelle Calédonie(VNC-Goro Project):

 (Vale 80.5%、住友金属鉱山 7.6%、三井物産 6.9%、SPMSC 5%)
 Stuart Macnaughton, General Manager, VNC

 VNCは露天採掘鉱山及びHPALプラントを含む総合的な湿式精錬事業であり、1992年の鉱業権取得以降、1998年からのパイロットプラントによる研究、2008年の「Grand Sud の持続可能な発展のための協定(Pacte pour le développement durable du Grand Sud)」への署名などを経て、2011年最初の水酸化ニッケルの出荷、2012年最初の酸化ニッケルの出荷へと至った。

 現在、埋蔵量1億2,250万t(ニッケル品位1.4%、コバルト品位0.11%)が計上されており、さらに十分な量の資源量も確認されている。採掘時に一番の問題となるのは年間降雨量3~5 mに及ぶ水の管理で、採掘には通常100 tトラックを使用するが、降雨時には40 tトラックを使用している。

 プラントの年間生産能力は、ニッケル57,000 t、コバルト4,500 tで、2010年のスタートアップ中に発生した溶媒抽出カラムの事故後、2012年末から再コミッショニングを開始し、現在はランプアップできる状態となっている。2013年は25,000 tのニッケル生産を予定、2016年までにフル操業を計画している。

 なお、会議後に予定されていたVNCプロジェクトサイトへの見学ツアーは降雨のため中止された。

(3) Koniambo Nickel:

 (Glencore Xstrata 49%、SMSP 51%)
 Peter Hancock, President, Koniambo Nickel

写真3.Koniambo massif から製錬所サイトへ続くコンベア

写真3.Koniambo massif から製錬所サイトへ続くコンベア

 1998年のSMSPとFalconbridgeの覚書以降、2007年のプロジェクト承認を経て、50億US$のフェロニッケルプラントのコミッショニングが開始された。年間生産能力はニッケル60,000 tで、2013年4月に最初のフェロニッケルが生産された。今後2年かけて生産量を増加し2015年にはフル操業を計画。現在第1生産ラインをコミッショニング中で、第2ラインは2014年Q1から生産を開始する予定。プロジェクトサイトには、ニッケル製錬所、石炭及びディーゼル発電所、港湾、貯炭場、脱塩及び冷却プラント、廃水処理施設、居住施設等がある。Koniambo massifに賦存するニッケル鉱床から採掘された鉱石は、約12 kmのコンベアでプラントまで運ばれる。資源量6,250万t(品位:Ni 2.45%サプロライト)が計上され、25年間の生産が可能なサプロライト鉱の他、追加25年分のサプロライト資源、さらに50年分のリモナイト資源の可能性がある。現在3ピットで採掘しており、2014年は7ピットに増やす計画。年間鉱石供給能力は500万t。現在4,500人がキャンプに滞在、建設ピーク時には6,000人が居住していた。レストランは4つあり、中華、インド、韓国、洋食が食べられる。2014年2月には1,500人になる予定。

写真4.Koniambo製錬所

写真4.Koniambo製錬所

 写真の煙突右側に製錬プラントが位置している。この製錬プラントはGlencore Xstrata独自のNST(Nickel Smelting Technology)を導入しており、①エネルギー効率が良く、②環境負荷が少ない、という特徴を持つ。二つ並ぶ製錬プラントの左側が第1産ラインで2013年4月に最初のフェロニッケルを生産した。右側に全く同じ形をした第2生産ラインが配置され、現在のところ86%が完成しており、2014年Q1から生産を開始する予定。各ラインは全く同じ性能で、生産能力は各3万t/年。また、写真の煙突左側には発電所が位置する。石炭火力(135 MW×2基)及びディーゼル(40 MW×2基)からなる。石炭火力は2013年Q3から稼働予定。



5 Eramet, http://www.eramet.com/sites/default/files/publications/pdf/eramet_reference_document_2012.pdf

おわりに

 中国のNPI生産量の増加により、その原料である酸化鉱の生産量は増大し、2011年には硫化鉱の生産量を逆転した。ニューカレドニアで生産されるニッケルは全て酸化鉱からなるが、現在のところ生産量は増加していない。しかし、SMSP(Société Minière du Sud Pacifique)はNMC(SMSP 51%、POSCO 49%)からSNNC(SMSP 51%、POSCO 49%)所有の光陽製錬所(韓国)へ供給しているサプロライト鉱の輸出量を同製錬所の拡張計画(2015年までに年間生産能力を現在の30,000 tから54,000 t)に合わせ増加し、NMCの鉱石生産量を約1.6 Mtから3.9 Mtに増産する計画を持っている(NMC鉱石生産量の値は、産業鉱山エネルギー局の講演より)。また、SMSPは、2012年8月に中国Jinchuan Group(金川集団)とMOUを締結し、リモナイト鉱を処理する湿式精錬所の建設を協議しており、ニューカレドニアから韓国、中国向けの輸出が増加する可能性がある。今後インドネシアの鉱業政策次第では、ニューカレドニアは世界の酸化鉱供給の大きな位置を占めることになるかもしれない。

 また、VNC(Goro)及びKoniamboの大規模プロジェクトが順調に推移すれば、精製ニッケル生産でも世界に占める割合は大きくなる。さらに、Goroはもちろんのこと、将来的にはKoniamboに賦存するリモナイト鉱の活用も期待される。

 2012年、ニューカレドニア東海岸に位置する歴史的なニッケルの町Thioでは、日本人移民の120周年慰霊祭が執り行われた。現在でも日本は精製ニッケルの輸出先で第2位、ニッケル鉱石の輸出先で第3位(何れも2011年予測)6と、ニューカレドニアにとって重要な貿易相手国となっている。本セミナーのニューカレドニア政府による講演の中で、VNCやKoniamboの大規模プロジェクトと並んで、日本は技術開発により低品位鉱石の受け入れ量を増やし、ニューカレドニアのポテンシャル増加に大きく寄与しているとの発言もあった。

 今後ニッケル酸化鉱の供給源としてますます重要な役割を担うであろうニューカレドニアに引き続き注目していきたい。


6 ISEE, http://www.isee.nc/anglais/teca/productivesystem/telechargements/19-nickel.pdf

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