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報告書&レポート

2013年9月12日 ボツワナ・地質リモートセンシングセンターほか*1
2013年56号

ボツワナ共和国政府系鉱山会社BCL Limited社-南部アフリカ諸国の国営鉱山会社に係る分析報告③-

 2000年代に入り、中国・インドなどの新興国における資源需要の急激な増加、鉱物資源価格の上昇に伴い、資源国、特に新興国や発展途上国を中心に資源ナショナリズム的傾向が強くなってきた。その代表的なものとして、政府が鉱山開発・操業に関わる政府系鉱山会社がある。南部アフリカ地域においても、その傾向は顕著となっている。

 本稿では、ボツワナ共和国の政府系鉱山会社BCL Limited社について、現地報道及び同社関係者との面談等を基にその設立の経緯・企業戦略・活動等について報告する。


*1 久保田博志、Lebogang Leepile、武田哲一、大岡 隆

1.はじめに -南部アフリカ地域における「鉱山公社」の動向-

 資源ナショナリズム政策の代表的なものとして、政府が直接、鉱山開発・操業に関わる政府系鉱山会社がある。南部アフリカ地域においても、ザンビア共和国のZCCM Investment Holdings Plc(銅、コバルト等)、ナミビア共和国のEpangelo Mining Company Ltd(戦略的鉱物:ウラン、銅、金、亜鉛、石炭等)、南アフリカ共和国のAEMFC; African Exploration Mining Finance Corp(石炭等)、モザンビーク共和国のEnpresa Mozambique Exploration Mineral SA(石炭等)、タンザニア共和国のSTAMICO;State Mining Corporation(金・白金・レアメタル等)、コンゴ民主共和国GECAMINES(銅、コバルト、亜鉛、錫等)など、その活動は活発化している。これら各国の政府系鉱山会社が目指すものは、鉱業から得られる利益を自国経済発展に最大限に利用しようというものだが、その方法は各国それぞれ異なっている。

 ボツワナ共和国の政府系鉱山会社BCL Limited社(以下、BCL社)は、1950年代から同国内においてニッケル-銅鉱山及び製錬所を操業している、南部アフリカ地域では数少ない政府系企業のひとつである。

図1.南部アフリカ地域の主な政府系鉱山会社

図1.南部アフリカ地域の主な政府系鉱山会社

南部アフリカの政府系鉱山会社

 (1) GECAMINES (銅、コバルト、錫、亜鉛)

 (2) STAMICO;State Mining Corporation (金・白金・レアメタル等)

 (3) Ferrangol E.P.(鉄鉱石等)

 (4) ZCCM Investment Holdings Plc (銅、コバルト)

 (5) Enpresa Mozambique Exploration Mineral SA(石炭等)

 (6) ZMDC; Zimbabwe Mning Development Corporation (ダイヤモンド等)

 (7) MMCZ; Minerals Marketing Corporation of Zimbabwe (販売等)

 (8) OMNIS; Office des Mines Nationales et des Industries Stratégiques (鉱物、石油等)

 (9) BCL Limited (ニッケル、銅、PGM等)

(10) DEBSWANA (ダイヤモンド、石炭)

(11) Epangelo Mining Company Ltd (銅、REE、ダイヤモンド等)

(12) AEMFC; African Exploration Mining Finance Corp(石炭、PGM)


2.BCL社設立の背景と経緯

 BCL社は、権益比率がボツワナ政府約94%、Norilsk Nickel (ロシア系企業)6%の政府系鉱山会社であり、ボツワナの一都市にある企業としては同国内最大の企業であり、従業員数は約4,200名である。

(1) 設立目的
 BCL社のミッションは、「世界市場とその関連産業に適した鉱物資源の回収とそのための鉱床探査であり、このミッションを達成するために世界的に信頼される多様な鉱物資源および関連製品の開発とサービスを供給できる企業となること」である。

(2) BCL社の政策上の位置づけ
 BCL社は、ボツワナ政府が筆頭株主であるであることから株式市場には上場しておらず、政府は同社を資金面で支援している。

(3) 経緯
 BCL社の設立から今日までの経緯を、表1に示す。

表1.BCL 社の設立から今日までの経緯

時期 主な出来事
1885年 ボツワナがイギリス保護領となる
1891年 ボツワナが駐南アフリカ英高等弁務官の管轄となる
1956年8月 Mr. John Buchunan (Minerals Separation Limited会長)、Mr. Tshekedi Khama (Bechuana保護領内のBangwato部族長)、Sir. Ronald Prain (Roan Selection Trust; RST会長)の三名の合意によりBCL社設立。
1959年6月 合意書に署名、英国政府(British House of Lords)によって鉱山操業が認められる。
1959年 探査活動開始(鉱区面積42,000sq mile)
1963年3月 Selebi地区にて、銅・ニッケル鉱床発見
1966年 独立(初代大統領カーマ大統領)
1966年 Phikwe地区にて、高品位ニッケル鉱床発見。
1966年まで Phikwe地区のBCL 社による操業開始。
1967年 鉱山開発開始(Phikwe No.1, No.2)、坑内採掘/冶金試験開始(Selebi shaft)
1972年 基本合意(BCL:政府15%-BRST 85% = AMAX 30%、Anglo American 30%、その他40%)
1972年 Selebi 坑内採掘中断、露天採掘へ
1973年11月 地上施設完成
1973年12月 マット生産開始
1980年 製錬所生産量:50,000 t/年達成
1990年 Selebi North坑内採掘開始
1998年 酸素製造プラント完成
2002年 Lion Ore Mining International社(加)が、Anglo American分の権益23%を取得。
2007年7月 Norilsk Nickel(露)が、63億US$にてLion Ore Mining International社を買収
権益比率:政府93.6%- Norilsk Nickel 6.4%
2010年 新たな企業戦略(Strategy, Vision, Mission)の検討開始
2011年 多角化戦略の策定
現在 2種類の製品(高硫化ニッケル-銅マット、低硫化ニッケル-銅マット)を生産
国内電力消費量の約20%(ボツワナ電力会社;BPCの発電量の40%以上を消費)

出典: BCL Limited Webサイト http://www.bcl.bw/
Wolfgang Peter (1995), Arbitration and Renegotiation of International Investment Agreements, Journal of International Arbitration, P59
United Nations Conference on Trade and Development (2003), Investment Policy Review: Botswana, P5

(4) 企業戦略
 BCL社は、資源量/埋蔵量の増加、鉱石中の金属量の増加、生産(マット)の増加、事業の多角化といった経営課題を克服するためには、他者との連携機会の創出、労働者の生産性向上への高い意識と企業活動への貢献、最適な方法の選択とその実行による時間と資源の節約、問題予測とそれへの対応能力、鉱山を改善するためのすべてのことを実施するといった企業文化の創出を企業戦略としてあげている。

(5) 経営体制
 BCL社の役員会(Board)は、会長のほか各産業において経営経験のある役員7名で組織されている。役員会は年間3回開催され、経営、執行役員の監督、資産処分、投資、設備投資などに関する事項が決定され、実際の経営にあたるのは、執行役員(Executive Management)であり、社長(General Manager)は役員会(Board)によって指名され、この社長のもと経営スタッフが組織されている(表2)。

 会長のDr.A.R.Tombale氏は、1970年から1990年代にかけて国内外の大学で地質学を学んだ後、ボツワナ地質調査所で地質技術者として従事、地質調査所長を務めた後、1998年には水資源局長(Director of Department of Water Affairs)、2001年には鉱物エネルギー水資源省次官(Permanent Secretary in the Ministry of Minerals, Energy and Water Resources)を歴任し、2008年に公職を退いた後も2009年末までダイヤモンド・ハブの調整役(Coordinator of the Botswana Diamond Hub)を務め、その後は、牧畜業・水資源・環境・ダイヤモンド・生産性向上等のコンサルタント事業を行っていたほか、ボツワナ電力会社(Botswana Power Corporation)、ダイヤモンド合弁会社(Debswana)等の複数の企業の役員を経験している。

表2.BCL 社の執行役員(2013年7月末現在)

No 氏名 役職
1 Mr.Daniel Mahupela General Manager
2 Mr.William.K.Osae Assistant General Manager
3 Mr.Motsile.S.Sibanda Division Manager, Organizational Capability
4 Ms.Lynette Armstrong Finance and Administration
5 Mr.Gus D.A Christie Division Manager, Ore Production
6 Mr.Ray.Cardoza Division Manager, Metals Production
7 Mr.Morse M.Mosienyane Division Manager, Asset Management
8 Mr.David C.Keitshokile Division Manager, Metals Support & Business Development
9 Mr.Harold van Zyl Division Manager , Resource Planning
10 Mr.Mack William DM, Corporate Strategy

3.BCL社の活動

(1) 操業
 BCL社の生産拠点は、ボツワナ北東部のSelebi – Phikwe市にある銅・ニッケルの鉱山と製錬所のみである。同鉱山施設は、南北14 kmわたって5ヵ所に点在する鉱山・鉱体(Phikwe Central、Phikwe North、 South East Extension (SEE)、Selebi North 及びSelebi Centralと製錬所から成る(表3)。

 採掘された鉱石からは、高硫化ニッケル-銅マット(20%S)と低硫化ニッケル-銅マット(5%S)が生産されている*2。年間鉱石処理能力は約300万t、ニッケル-銅マット中の金属純分量はNi 30,000 t、Cu 25,000 t、Co 400 tである*3(表4)。2011年は、製錬所メンテナンスのための一時操業停止やニッケル価格の下落の影響を受け、年間生産量は当初計画46,103 tに対して31,926 tであった。2012年の生産量もほぼ同水準であった*4

表3.Selebi-Phikwe鉱山の鉱量*5

鉱体/鉱量 資源量 埋蔵量
鉱量(Mt) 品位 鉱量(Mt) 品位
% Ni % Cu % Ni % Cu
Phikwe Central 37.2 0.46 0.42 21.5 0.45 0.43
South East Extension 4.4 1.47 1.19 3.1 1.02 0.83
Selebi North 26.8 0.79 1.15 12.1 0.70 1.02
Selebi Central 19.5 0.68 0.75 15.0 0.64 0.73
Phikwe North 5.9 1.09 0.95 2.7 0.88 0.70
BCL社全体 93.9 0.69 0.77 54.4 0.61 0.68

出典: BCL Limited Web-siteをもとに作成
http://www.bcl.bw/assets/files/BCL%20Summary%20Resources%20&%20Reserves%20as%20at%20June%2031%202011.pdf

表4.Selebi-Phikwe製錬所の生産量

(単位:t)

生産量/西暦 2007 2008 2009 2010 2011
ニッケル-銅マット量 53,947 54,000 54,000 53,000 53,000
ニッケル量*6 22,844 24,000 29,616 29,000 29,000
銅量*6 19,996 23,146 13,600 7,170 7,200

出典: USGS, “2011 Minerals Yearbook, Botswana [Advance Release]”

図2.Selebi-Phikwe 地区鉱山施設配置図

出典: BCL Limited Web-site; http://www.bcl.bw/index.php?id=16

図2.Selebi-Phikwe 地区鉱山施設配置図

写真1.Selebi-Phikwe製錬所

写真1.Selebi-Phikwe製錬所

(2) 探査開発案件
 BCL社は、2012年12月にBotswana Metals Ltd.(豪ASX上場)と、ニッケル-銅-白金族等の探鉱に関するJV探査に合意した。対象地区は、Maibele North地域(Ni、Cu、PGM)、Airstrip地域(Cu、Ag)、Dibete地域の3地域を含む、BML社の保有鉱区2,800 ㎢のうちの143㎢である。BCL社は4百万US$の拠出により40%の探鉱権益を取得し、さらにF/S終了までに最大70%を取得できるとなっている*7,*8

 また、同社は、2013年にボツワナ国内で広範囲に探査鉱区を保有しているインド系企業とのJV探査に合意している。


*2 BCL Limited Web-site; http://www.bcl.bw/index.php?id=15
*3 USGS, “2011 Minerals Yearbook, Botswana [Advance Release]”
*4 Capital Resources (Pty) Limited (2013), “Botswana Resource Sector Overview 2013/14”, p3
*5 2011年6月末時点
*6 マット中金属純分量
*7 JOGMEC(2012), 「ボツワナ:国営鉱山公社BCLが豪ジュニアとJV契約締結」, ニュースフラッシュ 2012.11.19
*8 Capital Resources (Pty) Limited (2013), “Botswana Resource Sector Overview 2013/14”, p6

4.BCL社の課題

(1) BCL社の課題
 BCL社の唯一最大の生産拠点であるSelebi-Phikwe鉱山・製錬所では、ニッケル-銅鉱石の枯渇が迫っており、近年では近接するTati ニッケル鉱山(露Norlisk Nickel社-BCL社)から鉱石の供給を受けていたが、同鉱山は世界でも最もニッケル品位の低い鉱山(Ni 0.2%)であることから、価格低迷による操業停止の可能性が同社から明らかにされるなど、新たな鉱石供給元の確保が急務となっている。また、ニッケル-銅に偏よらない企業体質の構築、活発化している同国西部の銅鉱山開発への対応(銅製錬の可能性等)なども含めた事業の多角化・効率化が求められている。

 そのほか、Selebi-Phikwe製錬所は老朽化しており、周辺地域への環境対策の必要性も指摘されている。

 このように50余年に及ぶ操業の歴史を持つ同社は、根本的な事業内容、企業体制など変革の時期を迎えている。

(2) 課題への対応 -Polaris II-
 BCL社は、「コア事業の最適化と事業多角による成長」を基本コンセプトとする新企業戦略「Polaris II」を明らかにした。

 その具体的な事業として、①ニッケルJV探査等事業、②銅資源探査開発、③石炭開発、④鉄鉱石開発/鉄鋼事業、⑤化学製品、⑥貴金属資源、⑦マンガン資源開発、⑧金資源開発を挙げている(表5)。

表5.「Polaris II」の概要

事業分野 背景/主な内容
①ニッケルJV探査等事業 現在の中核事業であるSelebi-Phikwe製錬所に供給する鉱石調達先の多角化を図る。同製錬所の鉱石は、隣接するニッケル-銅鉱山(Selebi-Phikwe鉱山、Tati鉱山等)から調達しているが、これら鉱山の資源量が枯渇しつつあるため、新たな供給源が必要となっている。
②銅資源探査開発 ボツワナ西部では、近年、堆積性銅鉱床の探査開発が活発化しており、新たな銅鉱床発見の可能性が高まっている。BCL社も探査権を取得するなど、当該地域における探査を進めている。
③石炭開発 ボツワナ東部は石炭層を胚胎するKaroo層群が広く分布していることや、電力需要が急増していることから、石炭の探鉱開発が進んでいる。
④鉄鉱石開発/鉄鋼事業 ボツワナ国内において鉄鉱山は操業されていないが、鉄鉱石資源の可能性が指摘されている。
⑤化学製品製造 現在、大気中に放出されているSelebi-Pihikwe製錬所の排気ガス中に含まれる硫黄分を硫酸として回収し、同国内で進められているウラン探鉱開発、銅酸化鉱石の処理、肥料製造等に利用する。
⑥貴金属資源開発 Selebi-Phikwe製錬所では、処理する鉱石中に白金族等の貴金属も含まれていることから、これらを効率的に回収できれば収益性を高めることができる。
⑦マンガン資源開発 ボツワナ南部には過去にマンガンが採掘されていたこと、隣接する南アフリカには世界的な生産量と埋蔵量を誇るカラハリ・マンガン地域があることから、ボツワナ国内にも高品位マンガン資源の可能性が期待されている。
⑧金資源開発 ボツワナの隣国であるジンバブエでは金鉱床の分布が知られており、また、新たな鉱床発見の期待も高い。

5.おわりに

 ボツワナ共和国の政府系鉱山会社BCL社は、1950年代から今日に至るまでの半世紀にわたり同国内においてニッケル・銅鉱山及び製錬所を操業し、安定した経営を継続している数少ない南部アフリカ地域の政府系企業であるが、主力鉱山の資源枯渇により、その経営方針や企業体質の変革を迫られている。

 同社がこの「苦境」を乗り越え、次の半世紀を迎えることができるかは、同社が打ち出した新企業戦略「Polaris II」の成否にかかっているようだ。

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