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報告書&レポート

2013年10月24日 金属資源技術部生産技術課 小口 朋恵
2013年60号

Corocoro銅鉱山開発から垣間見た韓国とボリビアそれぞれの事情

 ボリビア国内において、外国企業が参入して実施している鉱山開発事業の筆頭はSan Cristobal亜鉛鉱山であるが、それ以外にも外国企業が行っている事業がいくつかある。そのひとつが、Corocoro銅鉱山である。この鉱山の名称は時々報道で目にするものの、どのような活動を行っているのか詳細を確認するため、同鉱山を対象としてボリビア政府関係者への聴取を行った。そのような中、Corocoro銅鉱山開発事業に参入する韓国が2年間探査期間を延長した、というニュースと、韓国はCorocoro銅鉱山から撤退を決めた、という相反する内容の報道が飛び込んできた。本報道から垣間見られる背景や事情について、現在の韓国における資源政策の状況とボリビアが抱える問題について考察した。

1.鉱山概要

(1) 概要

図.1 Corocoro銅鉱山位置図

図.1 Corocoro銅鉱山位置図

 Corocoro銅鉱山は、La Paz県Pacajes郡にあり、首都La Pazからは南西82 kmに位置する。鉱山の標高のデータはないものの、鉱山に接する同名のCorocoro市の標高は4,020 mである。鉱石の推定埋蔵量は約1,116万t、銅の推定埋蔵量は約11.3万tで、銅品位は1.016%である。Corocoroという名の由来は諸説あり、16世紀後半の資料で「金の山」を意味する“Kori Kori Pata”とも、「品位の低い金」、つまり銅を意味する“ocororo”ともいわれている。


(2) 歴史
 Corocoro銅鉱山は、古くは1600年代から鉱石の採掘が行われ、ボリビア国内で銅を産出する主要鉱山であったとされている。1970年代には、ボリビア鉱山公社(COMIBOL)がボーリング調査や地表調査を行い推定埋蔵量が算出されたが、1985年8月には国内の他鉱山同様、金属価格の低迷と鉱区再編により一旦閉山となった。しかし、モラレス大統領就任後の2007年4月、22年の閉山期間を経てCorocoro銅鉱山の再開が宣言され、同年10月、韓国鉱物資源公社(KORES)が鉱山開発の第2フェーズにおいてCOMIBOLとのJVで200百万US$を投資する意向を明らかにした。この第2フェーズでは、Umacoya鉱床及びViscachani鉱床を露天採掘する計画が打ち出された。その後、2008年6月にCOMIBOLとKORESのJVが合意に達し、探査の第1フェーズ(18か月)で10百万US$、その後開発段階の第2フェーズ(15~20年)で200百万US$を投資し、年間3~5万tの電気銅を生産することを決めた。2009年10月、韓国とのJVとは別にCOMIBOLが100%出資する子会社EMC(Empresa Minera Corocoro)が同鉱山の運営を再開し、過去に採掘された鉱石の廃さいやズリから、リーチングによる銅の回収を開始した。翌2010年10月には銅カソードの最初の製品300 tを出荷した。

(3) 現在の活動
 現在のCorocoro銅鉱山は、COMIBOLの子会社EMCが運営するエリアと、KORESとのJVにより探査を行っているエリアに分けられる。

 EMCは、2009年10月に完成した伝統的な湿式製錬法のプラントで、毎年70~80 t、の銅カソードを生産している。この製品は、毎度売買の入札が行われているとのことだが、これに関する過去の公開情報は見当たらなかった。現地で聞き取った情報によると、過去にはベネズエラ等ボリビアの周辺国が落札していたようだが、毎年の生産は上記のとおり数十t程度と少量であり、最終的な販売先はCOMIBOLでも把握していないとのことであった。また政府高官によると、今年に入って新たな設備を導入したとのことで、これらが順調に稼働すれば、生産量の拡大が可能と見込まれている。なお、EMC社のウェブサイトによると、早速本年5月に1,350 tの銅カソード(最低純度99.99%)の販売入札を行った模様である。

 一方、KORESとのJVによる探査は、EMCの採掘地とは別のエリア(Umacoya鉱床、Viscachani鉱床等)で行われている。第1フェーズは探査、SX-EW法(リーチング)を用いたパイロットプラントのJV調査であり、第2フェーズは開発、生産を行う計画である。この第1フェーズにかかる投資額は10百万US$、第2フェーズのそれは200百万US$とされた。このJV契約による利益配分はCOMIBOL:KORES=55:45である。

 2013年4月、KORESは、探査期間を更に2年延長する署名を行った。これまでKORESは地下350 mまで探査を行った。この350 mまでは酸化鉱が中心だが、更に深部には硫化鉱が賦存するとされている。契約更新後には、この硫化鉱が賦存する地下700 mまで探査する予定で、2年後の2015年6月頃には本事業の継続可否について結論を出すことになっている。

2.KORESが抱える問題

 以上のように、KORESは今後もCorocoro銅鉱山での活動を少なくとも2年間は継続することを公表しているものの、韓国国内では、「韓国がCorocoro銅鉱山からの撤退を決定した」との報道が流れた。ボリビアでの対応と韓国国内報道の乖離には、どのような事情があるのか。まずは韓国側の事情を探ってみた。

(1) 政権交代
 2008年2月から5年間大統領を務めた李明博氏は、自身の現代建設での海外ビジネス経験を活かして幅広い外交政策を展開し、11か国の資源供給国と20以上の覚書を締結した。ボリビアにも自身の兄である李相得氏を大統領特使として幾度も派遣するなど、積極的にアプローチを行った。その狙いは、Uyuni塩湖のリチウム産業化事業への参入であったが、Corocoro銅鉱山開発もリチウム産業化事業のサポート案件として力を入れていたと思われる。

 2013年2月には、任期満了による李明博氏の退任に伴い大統領選が行われた結果、第5代~第9代大統領であった朴正煕氏の長女である朴槿恵氏が当選し、韓国初の女性大統領が誕生した。朴槿恵大統領は、李明博政権が重点を置いていた外交の優先度を下げ、安全、保健、福祉、教育、一般公共事業、行政等を重点分野として政策を大きく変換した。これによりKORESの組織も大幅改編した。重点鉱種は前政権から引き継いだ鉄鉱石、石炭、ウラン、銅、亜鉛、ニッケルであるものの、李明博氏が手を広げた世界各地の金属鉱山開発事業から次々に撤退する方針を打ち出し始めた。その中には、オーストラリアのBoulia(銅、亜鉛)、White Cilff(ニッケル)、ペルーのCelendin(銅、亜鉛)等のプロジェクトが挙げられた他、ボリビアのCorocoro銅鉱山も含まれたと思われる。この結果、プロジェクトに関しては、他案件と比較して投資額が大きく既に生産段階に入っており、他案件に比べると早期に結果が出ると見込まれるメキシコのBoleo(銅)及びマダガスカルのAmbatovy(ニッケル)プロジェクトのみに注力、早期に生産段階に移行させるべく経営資源を集中させることとし、残りの開発案件からは全て手を引くことを決めた模様である。その理由は、韓国国内の財政状況、つまり「資金不足」にあるといわれている。

(2) 経済状況の悪化
 韓国も世界各国の例外に漏れず、2009年のリーマンショックに始まり、2010年頃から表面化したギリシャの破綻危機等の影響を受けた。2012年はウォン高により輸出高は前年比約100億US$の減少となり、一方円安による日本製品の流入により、韓国の製造業が停滞し、韓国経済は悪化した。そして最も直接的な要因としては、KORESが世界各国での資源開発案件に手を出したことで開発及び探査案件への投資資金が大幅に膨らみ、資本金及び借入金が大幅増加してしまったことが挙げられる。

3.投資先としてのボリビアの難点

 韓国がCorocoro銅鉱山からの撤退を決めた背景については、韓国国内の事情のみでは語れない。将来的に同鉱山への投資を決めるには、投資先としての「魅力」がないと開発には踏み切れず、現状はボリビアの「魅力」よりも「難点」の方が多いということになろう。ボリビアの「難点」は、単に港を持たないという地理的条件や、現政権の社会主義と称されるイデオロギーの問題のみにとどまらない。この「難点」のうち、投資する側にとって最も重い問題のひとつと思われる地域住民対策と「信頼度」について考えてみた。

(1) 地域住民対策
 地域住民対策は、他国でも同様であるが、今やボリビアの鉱山開発において無視することができず、最も力を入れて取り組まなければならない問題のひとつである。Corocoro銅鉱山における地域住民との関係では、特に報道で取り上げられることはないので一見何もなさそうに見えるが、政府関係者に聴取すると、他の鉱山同様の問題が存在するとのことである。聴取した内容によると、Corocoro地域の住民からは、インフラ改善や公共設備の建設といった要求が多く、KORESはそれらを受け入れていないことから、地域住民との関係は良くないとのことであった。地域住民にとっては、探査ばかり続けてもお金を費やすばかりで裨益するものが何もないので、KORESが探査を行う意味が理解できないという。Corocoro地域における鉱山開発は400年前の植民地時代から行われ、鉱山に家族を送れば劣悪な労働環境がゆえに家に帰ってくることはなく、家族が命を費やして採掘した資源の恩恵を地域住民が受けることもなく、「搾取」の象徴として捉えられていた。このことから、現在同地域住民が主に従事しているのは小規模農業であり、自給自足が行える程度の小規模なものであるという。しかし、鉱山開発が進むにつれて鉱山労働は収入源となるとの認識が拡がり始め、、同地域住民の鉱山開発への意識も変化しているという。そのため、地域住民はCorocoro銅鉱山の開発自体には反対ではない様子で、雇用の源となる鉱山開発を一刻も早く始めること、地域の資源を採掘する代わりに地域住民にインフラや公共事業といった形で恩恵を返還することを求めているようである。

 これまでボリビア全土における地域住民による鉱山開発事業への暴力的な介入はしばしば報道され、社会問題化していたところ、2013年5月1日に鉱山への暴力行為や資源の不法採掘・開発、不法売買を禁止する法律第367条が制定された。本法律の制定により、違反者に8年以下の禁固刑が科されるようになり、地域住民も容易に鉱山事業に介入できなくなった。このため、ボリビア国内で近年年間200件以上起きていた鉱山の不法占拠件数は、次第に減っていくものと思われる。しかしやはり鉱山開発を行うには、まず法的な権利や権益の獲得が必要であるものの、次に地元住民による「社会的な許可」も不可欠で、これがなければ「外部者(よそもの)」がその土地に入っていくことはできない。本観点からすると、KORESの場合はこれまで地域住民の声を聴いていなかったことから、同地域住民はKORESの存在に反対している状況にある。鉱山開発を進めるためには、実際にその土地に住んでみて、その土地に入って地域住民との関係を醸成することが重要で、例えば英語しか話せない技術者ばかりを現場に配置しても運営はうまくはいかないだろう。

(2) 「信頼度」
 投資を決める際に感じる「信頼度」に対して影響を与えるモラレス政権の政策は、民間企業の国有化に象徴される。これまで行われてきた国有化は、

2006年 天然ガス事業をボリビア石油公社(YPFB)の傘下に再編(5月)
2007年 Vinto錫製錬所(2月)
2008年 イタリア系通信会社Entelとエネルギー関連会社4社(5月)
2009年 BP系Pan American Energyが保有する天然ガス開発企業 Empresa Petrolera Chaco SA(1月)
      国内のジェット燃料供給を行なう英PB傘下の石油会社「AirBP」(5月)
2010年 英国系企業、フランス系企業が出資する電力会社など4社(5月)
2012年 TDE(スペインの電力会社Red Electricaのボリビア子会社)(5月)
      Sinchi Wayra社所有のColquiri鉱山(6月)
2013年 国内の3大空港を運営するスペイン系企業Abertisの子会社SABSA(2月)

と、概ね毎年5月1日のメーデーには、イベントの一つであるかのように国有化が発表されてきた。これらは、ボリビアの資源開発やインフラ事業は国が担うべきだとするモラレス大統領の政策に基づくもので、前述のような地域住民を含む国民もまた、民間企業との間に問題が発生するたびに国有化を主張し、実際に政府が国有化に動くという構図もある。国有化されたエネルギー関連会社の中には、事前の協議なく突然国有化を発表されたものもあり、訴訟に発展するばかりか、全世界のボリビアに対する投資の保証、信頼が揺らぐ問題となった。これまでのところ、国有化された鉱山の例は、Colquiri鉱山のように現場で地域住民との問題が発端となり、その解決策として国有化を決めたものに限られているが、このように地域住民との衝突や圧力により、結果として鉱山が国有化されてしまう可能性は否定できない。モラレス大統領は、国の発展には海外からの投資が必要であるとの認識の下、日系企業が参入するSan Cristobal鉱山に対しても、度々報道される国有化を否定しているものの、実際には安定的な投資を確保する、あるいは促進するための具体的な政策を打ち出すに至っていない。モラレス大統領が2009年に再選し、その後「速やかに」制定するとされた改正鉱業法は、2012年11月、法案作成のキーマンであった鉱業冶金省次官が急逝、その後鉱業法改正の話題はぱたりとなくなってしまった。それに加え、「国が求めるCOMIBOL改革の役割を果たしていない」として、1年以内に次々とCOMIBOL総裁を交替させている状況である。今のところ、2期目も全うしそうなモラレス政権は安定的であるものの、ボリビアにおける開発に対する法的安定性、信頼度は不透明で、それは政府や政府関係機関の人材不足、幹部の度重なる交替にも象徴されている。去年破たんしたEl Mutun鉄鉱山の開発案件も、ボリビア政府が悪い、参入した印企業が悪いと互いに罵り合っていたが、詰まるところ印企業側がボリビアの法的な不安定性から生じる「不信感」を払しょくできなかったことが原因ともいわれている。こうした状況を抱えるボリビアに投資を決めるには、候補地に相当な魅力が必要であり、ボリビア政府と対峙するにあたっては並大抵の覚悟と根気と努力では実現できないであろう。

4.おわりに

 ボリビア側の意向としては、利益に直結せず資金を費やすばかりの探査活動を一刻も早く終え、投資、開発段階に移行したいところである。一方の韓国は、ボリビア側にはそのような様子を見せないものの、国内事情の変化によって探査期間を延ばし、ボリビアでの開発を足踏みしている状況である。投資先としてのボリビアの魅力を勘案すると、今後開発に移行する可能性は低く、2年後の2015年には更に探査を引き延ばすか、もしくは思い切って撤退という判断を示すのではないかとみられる。むしろ、撤退の判断でないと韓国には経済的にいかなる利点もなく、赤字を増やす一方である。引き延ばすにしろ、撤退の判断を下すにしろ、開発段階に進まない場合に考えられる韓国側の懸念は、ひとえに、李前大統領が実兄である李相得氏を筆頭として築いてきたボリビアとの友好関係の崩壊、リチウム産業化案件への参入への悪影響、韓国に対するボリビア側の信頼感の喪失、つまりボリビアとの外交的な二国間関係への影響のみである。これによるボリビア側の影響は、単に開発案件を失うのみならず、国としての発展がまた遠ざかり、投資先としての不安定さを改めて露呈した形となるであろう。

(了)

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