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報告書&レポート

2013年10月24日 サンティアゴ事務所 縫部保徳
2013年61号

アルゼンチンの大規模カリウムプロジェクトからのValeの撤退とその背景-アルゼンチンの経済問題及び2011年大統領選後の鉱業関連施策-

 2013年3月11日、ValeはアルゼンチンMendoza州で建設を行っていたRío Coloradoカリウムプロジェクトの中止を発表した。同プロジェクトはアルゼンチン最大の鉱業プロジェクトの1つで、鉄道敷設や港湾建設を含んだ投資額は62.8億US$とされていた。しかし、中止発表当時に見積もられた投資額は110億US$に達していたと言われ、メディアの中にはこの2倍近い大幅なコスト増が中止決断の大きな理由であると予測するものがあった。この大幅なコスト増には、高い水準で継続するインフレや政府発表の低く抑えられた物価上昇率にリンクした公定為替レートの問題など、アルゼンチン固有の背景がある。

 また、アルゼンチンでは鉱業促進を標榜するCristina Fernández de Kirchiner大統領が2011年11月に再選されたものの、外貨準備の減少を抑えることを目的とした施策が次々と打ち出され、鉱業分野にもその影響が及んでいる。

 本稿では、ValeのRío Coloradoカリウムプロジェクトからの撤退とそれに対するアルゼンチン鉱業関係者の評価を紹介した後、その決断の一因となったアルゼンチンの経済問題(インフレ及び為替レート)について述べ、さらに外貨準備減少対策としてFernández大統領再選決定後に措置され鉱業活動に影響を与えている施策について報告する。

1. ValeのRío Coloradoカリウムプロジェクトからの撤退

1-1. Río Coloradoカリウムプロジェクトの概要
 Río Coloradoカリウムプロジェクトは、アルゼンチンMendoza州Malargüe郡に位置する(図1-1)。高圧の蒸気を地下1,000~1,200 mの深さまで注入し、発生する沸騰かん水を地表で回収、塩化ナトリウムと塩化カリウムに分離する計画であった。生産開始当初の予定生産能力は塩化カリウム240万t/年であったが、拡張により435万t/年まで増強させることも検討されていた。本プロジェクトには、生産した塩化カリウムを輸送するための鉄道敷設、Bahía Blancaでの積出港建設、発電施設の建設もその一部として含まれていた。

 Valeは同プロジェクトが生産に移行した場合、総売上高の3%をロイヤルティとして納付する他、1%を環境関連基金へ積み立てることとしてMendoza州政府と合意していた。

 プロジェクトへの投資額は当初32億US$とされていたが、時間が経過するにつれ、41億US$→59億US$→62.8億US$と増加していった。2013年3月のプロジェクト中止発表の時点では、22億US$が同プロジェクトへ投下されていた。

図1-1 Río Coloradoカリウムプロジェクト位置図

図1-1 Río Coloradoカリウムプロジェクト位置図

1-2. Río Coloradoカリウムプロジェクトの変遷
 Río Coloradoカリウムプロジェクトは、当初Rio Tintoが開発を手がけていたが、2009年にValeに売却された。ここではRío Coloradoカリウムプロジェクトに関するValeの発表やメディア報道を年表としてまとめる。

表1-1  Río Coloradoカリウムプロジェクト関連の発表及び報道

年 月 出 来 事
2000年 Potasio Río Coloradoカリウム地帯の発見
2007年1月 Rio Tinto、環境影響調査書をMendoza州当局に提出。生産量は塩化カリウム240万t/年、投資総額9億US$を見込んだ
4月 2009年末から2010年初旬に建設作業開始予定との報道がなされる
9月 Mendoza州上院、Colorado川の水使用認可法案を可決
2008年1月 開発認可の遅れにより生産開始が2011年に延期との報道がなされる
3月 Río Colorado管轄委員会はRio Tintoが示した廃滓処理計画の変更を提案
12月 Rio Tinto、プロジェクト権益のValeへの売却を発表
2009年2月 Rio Tinto、プロジェクトを8億5,000万US$で売却した旨を発表
10月 2010年Q1の建設開始、2013年の生産開始及び2016年の立ち上げ完了が見込まれるとの報道がなされる
2010年4月 Valeはプロジェクト開発についての評価を継続との報道。2013年H2の生産開始、全投資コストは41.2億US$と見積もられた
7月 Mendoza州下院、プロジェクトの社会環境整備基金創設に関するVale-州政府間の合意を承認。合意の中で、Valeはプロジェクト建設期間中に4,800万Peso(1,220万US$[当時])を、また、操業開始後は売上げの1%を拠出することが定められた
8月 Mendoza州上院、社会環境整備基金創設に関するVale-州政府間の合意を承認
9月 Vale、Neuquén州~Buenos Aires州間756kmの鉄道権益譲渡を鉄道会社と合意
2011年6月 Mendoza州当局、プロジェクトの一時中断を命令。労働者、原材料、各種サービスの75%を州内から調達するとのVale-州政府間の合意が守られていないとして措置された
7月 Mendoza州政府、プロジェクトの開発再開を承認
11月 Vale、2012年のプロジェクトへの投資額として、10.8億US$を見込むとの報道。生産開始は2014年H2、総投資額は59.2億US$と予想された
2012年1月 Vale、プロジェクトの主要プラント装置(蒸発及びカリウム結晶装置)及び鉄道建設を発注
4月 Valeがアルゼンチンのインフレ、政情不安、石油会社YPF社接収などを理由にプロジェクト実施の可否につき見直しを行っているとの報道がなされる
10月 地元住民への雇用提供の約束遵守を求める抗議団体により、プロジェクトサイトが占拠される。Valeは、2012年末までに150名を段階的に雇用することに合意した
2013年1月 クリスマス・年末休暇後に工事再開がなされず、再開予定が次々と延期されているとの報道がなされる
2月 Valeが2013年2月28日までに修正開発スケジュールを発表するとの報道
修正開発スケジュールの発表が、3月7日の伯亜大統領会談後まで延期される
3月 伯亜大統領会談は、ベネズエラのHugo Chavez前大統領の死去によりキャンセルとなる
3月11日、Valeがプロジェクトの中止を発表
4月 4月19日、アルゼンチン労働省はプロジェクトに参加していた請負企業及び孫請け企業労働者の雇用維持のため、Valeに対し30日間は労働者を解雇できない危機予防措置を発出
4月25日、伯Rousseff大統領と亜Fernández大統領の会談と並行して行われた会合で、Valeがプロジェクトには復帰せず、伯が引き継ぎ先の発掘に協力する姿勢が明らかにされた
4月末、Valeはプロジェクトからの撤退について、アルゼンチン政府当局と合意。アルゼンチン政府との合意の中で、Valeは同プロジェクトに雇用していた労働者の報酬、休日手当て及びその他金銭報酬の半分を支払うことが義務付けられた。Valeが保有するプロジェクト関連鉱業権益は4年間有効で、その間に鉱業権の売却や共同事業契約の締結が可能である

(出典:MEGデータ及びJOGMEC内部資料を基にJOGMEC作成)

1-3. Valeの撤退とその判断に対するアルゼンチン鉱業関係者の評価
 Valeは2013年3月11日のプレスリリースにおいて、現在のマクロ経済下ではプロジェクトの経済性が資本配分と価値創出の規律を維持する同社の方針に合致しないため、Río Coloradoカリウムプロジェクトの中止を決定したと発表した。この発表時点で、プロジェクトの建設進捗率は45%に達しており、22億US$もの資金が既に投下されていた。この大規模プロジェクトからの事実上の撤退を決めた背景について、メディアは非公式為替市場の為替レートに連動して変動するアルゼンチン国内コストの上昇に対し、アルゼンチン国外から持ち込む資金がそれよりも大幅に条件の悪い公式為替市場の為替レートで買い取られることにより、Valeが大幅なコスト増に悩んでいたとした。同社は前倒しでの付加価値税の払い戻しや輸出税減免などを求めていたとされるが、アルゼンチン政府はこれを認めなかったという。冒頭でも述べたとおり、62.8億US$とされていた投資見込み額は110億US$に膨れあがっていたとされ、コストの問題がValeの決断に一定の影響を与えたことは間違いないであろう。このようなコスト増を招く原因となったアルゼンチンのインフレと為替レートの問題については、次章で詳しく見ていきたい。

 ValeによるRío Coloradoカリウムプロジェクトからの撤退決定後、JOGMECサンティアゴ事務所ではアルゼンチン鉱業協会や鉱業雑誌出版社など、複数のアルゼンチン鉱業関係者にValeの決定に対する意見を聴取した。その結果、各人の認識に大きな差異はなく、皆が似たような意見を持っていることが分かった。以下が、本件に対するアルゼンチン鉱業関係者の共通認識と思われる意見である。

◆ 加Barrick GoldのPascua Lama金-銀プロジェクトと並ぶアルゼンチンの2大鉱業開発プロジェクトの1つであったRío Coloradoカリウムプロジェクト中止の決定は非常に残念ではあるが、この決定が他の鉱業プロジェクトの進展に影響を及ぼすことはない。

◆ インフレや為替レートなどアルゼンチン特有の問題がValeの決定に影響を与えたことは否定できないものの、鉄鉱石価格の下落や国際拡張路線からブラジル国内回帰へと舵を切ったValeの事業戦略見直しが撤退決定の主因であろう。

 このように、アルゼンチン鉱業関係者の間ではValeの決定を残念とし、アルゼンチン特有の高インフレや為替リスクがその決定に一定の影響を及ぼしたことを認めながらも、Valeの内部事情が主な要因であったとし、同社の決定が他の鉱業プロジェクトに対して影響を与えることはないと見ている。

2. インフレと為替レートの問題

 アルゼンチンのインフレと為替レートの問題は、外国企業がアルゼンチン国外から持ち込む投資資金を実質以上に膨らませることに繋がっており、Río Coloradoカリウムプロジェクトの投資見込み額が雪だるま式に増えていった一因とされる。高インフレ及び実質から乖離した政府統計が公定為替レートと非公定為替レートの乖離を招いており、本章ではこれらの問題を近年のデータとともに見ていく。

2-1. インフレ
 図2-1に、2011年1月から2013年7月までのアルゼンチン国家統計局(INDEC)発表及び民間コンサルタント会社8社発表の対前年消費者物価上昇率を示すとともに、同期間における隣国チリのそれを併せて示す。チリの物価上昇率が前年同月比1%から高くて4%で推移しているのに対し、アルゼンチンはINDEC発表の物価上昇率でも同10%程度、民間コンサルタント会社8社の推定にいたっては、その2倍以上の同23%~26%が続いている。INDEC発表の数字が民間コンサルタントの推定と大きく異なっているが、世界的にアルゼンチン政府発表の数字は明らかに低いと認識されており、2013年2月に国際通貨基金(IMF)はアルゼンチン政府の統計データは信憑性に欠けるとして厳しく非難、その改善を要求した。2013年の平均賃上げ率は24%であったことから、今後も年率20%を超えるインフレの状況は大きく変わらないものと予想される。

 アルゼンチンの高インフレの原因は、2002年の経済危機後、IMF主導の緊縮財政による不況のため、国民の不満が増加、この不満に応えることで政権を獲得したNéstor Kirchiner前大統領及びその後を継いだFernández政権が拡張的な財政金融政策を続けているためとされる(森川、2013)。政府が実態と乖離した低い物価上昇率を発表しているのは、アルゼンチン政府債務のうち20%を占めるインフレ連動債の元利払いを押さえるためであるという(森川、2013)。

図2-1 対前年消費者物価上昇率の推移

(出典:在アルゼンチン日本国大使館HP、在チリ日本大使館HP)

図2-1 対前年消費者物価上昇率の推移

2-2. 為替レートの問題
 図2-2に、2011年1月以降におけるアルゼンチン中央銀行発表による米ドルに対するアルゼンチン・ペソの公式為替レート、市場の実勢を示していると考えられる非公式為替レート(Blue市場レート)及び両者の乖離率を示す。公式為替レートは対米ドルで1年間に約10%程度の割合で切り下げられているが、図2-3で明らかなように、高インフレの状況から考えるとこの切り下げ率は過小であることが分かる。

 一方、非公式為替レートは前回大統領選挙が行われた2011年10月頃までは公定為替レートよりも若干ペソ安(乖離率は最大で6%程度)であったものの、公定為替レートと同様の下落率で推移していた。しかし、2011年11月以降、公式為替レートとの乖離を加速的に強め、2013年に入ってからの乖離率は50%を上回り、最高100%にも達した。2013年6月からは両者の乖離の大きさを懸念した連邦政府による非公式為替市場への監視が強まったことから、非公式為替レートは上昇したものの、公式為替レートとの乖離率は47~54%で推移している。

 鉱業プロジェクトの投資資金を公式為替市場で換金する外国企業にとっては、物品価格は市場の実勢を示す非公式為替レートと連動していることから、両レートの乖離が広がれば広がるほど投資条件の悪化に繋がる。

図2-2 アルゼンチン・ペソの対米ドル為替レートの推移及び公式・非公式為替レート間の乖離率

(出典:JOGMEC内部資料)

図2-2 アルゼンチン・ペソの対米ドル為替レートの推移及び

公式・非公式為替レート間の乖離率

図2-3 為替レート下落率と消費者物価指数上昇率の比較(2011年1月~2012年1月及び2012年1月~2013年1月)

(出典:在アルゼンチン日本国大使館HP、JOGMEC内部資料)

図2-3 為替レート下落率と消費者物価指数上昇率の比較

(2011年1月~2012年1月及び2012年1月~2013年1月)

3. 鉱業活動に影響を与えている2011年大統領選後の施策

 2011年10月のFernández大統領再選決定後に措置されたいくつかの施策が、鉱業活動に影響を与えている。これらの施策は第2章で述べた問題と無関係ではなく、公定為替レートの割高感が外貨交換需要を呼び、外貨準備が十分でない政府が外貨の流出阻止を目的として措置したものである。したがって、鉱業活動だけを標的とした措置ではなくても、鉱業活動に悪影響を与えるものとして鉱業関係者から非難の声が出ている施策もある。本章ではこれらの措置の概要とそれらが与えた影響についてまとめる。

3-1. 輸入規制(国産品・サービスの優先調達)
 鉱山会社に輸入代替(国産品・サービスの優先利用)を命じる鉱業庁庁令第12号及び第13号が、2012年5月28日付け官報に掲載された。本庁令により、鉱山企業は国産原材料の購入、国内業者による運送サービスの雇用を優先させるとともに、財貨・役務の購入計画を120日前に政府当局に対し提出するよう義務付けられた。また、会社内に輸入代替担当部署を設けることも命じられた。この措置に関し、政府によれば国内雇用創出とともに輸入代替プロセスの徹底化を図るものだとの説明の一方で、鉱山企業側からは既に輸入代替に取り組んでいるものの、すぐに目標を達成できるものではないとの声が上がった。

 2012年8月、Débora Giorgi工業大臣は鉱業事業者や資機材物資生産者との会合の中で、鉱業がFernández大統領の産業発展政策の目玉であることを鑑み、年間2億US$相当の鉱業向け資機材、物資の国産品使用を実現したいとして、従来の輸入材をアルゼンチン国産材に置き換えるよう業界に要請したと報じられた。会合には、Cerro Vanguardia鉱山(Santa Cruz州)、Barrick Gold(San Juan州でVeladero金鉱山を操業、チリ・アルゼンチン国境でPascua Lama金-銀プロジェクトを開発)、Xstrata(Catamarca州でBajo de la Alumbrera銅鉱山を操業)、Vale、Pan American Silver社(Santa Cruz州でManantial Espejo銀鉱山を操業)等の代表が参加、国内メーカー325社のリストが配布された。

 上記の輸入規制による鉱山操業への具体的な影響として、2012年11月、Manantial Espejo銀鉱山の生産が急減したと報道された。同鉱山を操業するPan American Silver社は、輸入制限によりスペアパーツの調達が滞っているため鉱山機械の維持管理に大きな影響が出たとした。

3-2. 輸出代金の国内市場換金義務
 2011年10月、アルゼンチン連邦政府は政令第1722/2011号で、石油・天然ガス及び鉱物資源の輸出外貨を同国内で換金するよう義務化した。従来、石油・天然ガス、鉱物資源企業はKirchner前政権時代の政令により輸出外貨を国内に戻す義務を免除されていた。この措置は、国際情勢の悪化により、アルゼンチンの重要な輸出商品である大豆の国際価格がトンあたり100 US$以上下落、国内では大統領選に伴い外貨需要増が見られ、中央銀行の外貨準備高が減少、更には2011年末に多額の債務支払い義務があることなどが原因とされた。Jorge Mayoral鉱業庁長官は、「今回の措置は折からの国際危機に対するアルゼンチン経済の健全性維持を狙ったものであり、鉱業の発展に何ら支障を来すものではない」と述べ、さらに、「我々は全ての産業を平等に扱いたいのだ」とコメントしていた。

 この措置が発表された際、Barrick GoldのAaron Regent CEO(当時)は、「我々のプロジェクトに与える影響と政府の意図を理解すべく、鉱業庁をはじめ政府要人との対話を開始した。予察的な検討を行ったところ、我々は今回のシステム内で事業継続可能との見通しを得ている。いずれにせよ、我々にはPascua Lama金-銀プロジェクト、Veladero金鉱山とも税の安定性に関する合意があり、それが適用されるものと考えている」と述べていた。また、Goldcorpもアルゼンチン事業に影響することはないだろうとコメントした。

 エコノミストの中には、政府のドル供給を増やすための措置が鉱業にネガティブな影響を与えるのはナンセンスであると批判するものがあった。カナダ及び豪州の探鉱ジュニア市場は本措置に反応、アルゼンチン国内でリチウムプロジェクトを進めているOrocobre社は12%、金プロジェクトを進めるTroy Resources社及びExtorre Gold社はそれぞれ6.7%及び21%株価が下落した。また、格付け会社のFitch Ratings社は、今回の規制は企業の資金送金リスクを高めるものであるとし、アルゼンチンの石油会社YPF社及びPan American Energy社の外貨建て社債起債者としての格付けを引き下げた。

3-3. 送金規制
 アルゼンチンからの海外送金は2011年半ば以降、アルゼンチン中央銀行の不文律の指示により許可が一斉に停止され、2013年2月末までに鉱業分野で滞っていた海外送金の額は10億US$に達していたとされる。2012年12月から2013年1月初旬までわずかに海外送金が許可され、その後再び停止していたが、中央銀行の指示により2013年2月末から鉱山企業への海外送金許可が再開していると報じられた。

 アルゼンチン鉱業協会への取材では、送金を制限されている企業がある一方で、問題なく送金できている企業もあるといい、中央銀行の態度が企業により異なっていることが伺える。

3-4. 輸出代金決済期間の短縮
 2012年4月、アルゼンチン連邦政府が省令第142/2012号により輸出代金決済期間を積出日から15日以内に短縮する措置を行い、鉱業品の輸出はほぼゼロになった。業界や鉱業庁の陳情を受け、2012年6月末、経済省は一部企業に対し120日まで決済期間を延長したものの、本措置は不十分として経済省、工業省、貿易庁の間で協議が行われた。経済省は省令第378/2012号により、29社に対し輸出代金決済期間延長を許可した。鉱山企業では、Mina Pirquitas社が140日、Mina Sierra Grande社、Minera Alumbrera社、Minera Santa Cruz社が180日まで決済期間延長が認められた。

おわりに

 本稿ではPascua Lama金-銀プロジェクトと並ぶアルゼンチンの2大鉱業プロジェクトの1つであったRío ColoradoカリウムプロジェクトからのValeの撤退の経緯を追うとともに、その背景となったアルゼンチン特有の経済問題及び鉱業関連施策を紹介した。

 2001年の国債デフォルト以降、好調な時期もあったアルゼンチン経済は陰りを見せている。アルゼンチンの鉱業関係者に話を聞くと、アルゼンチン国民もその状況を認めざるを得ないところまで来ているものの、同じような状況は過去にもあり、歪んだ経済政策であれば早晩正さざるを得なくなるとして、現状をあまり深刻に受け止めていないように感じられる。隣国チリと比べ、アルゼンチン鉱業分野への本邦企業の進出は活発とは言えない状況であるが、それは同国特有の政治・経済的信頼性の問題が大きく作用していることは間違いない。一方で、アルゼンチンには未開発で眠っている多くの鉱物資源があり、政治・経済的な状況が改善されれば魅力的な鉱業投資国に一変すると言われる。2013年10月の中間選挙結果次第で政治・経済状況が変化する可能性もあり、引き続きアルゼンチンの鉱業情勢に注目していきたい。

 本稿で用いたデータ、新聞情報、アルゼンチン鉱業関係者の評価などの情報収集に際し、アルゼンチン在住の木田威彦氏に多大なご協力を頂きました。ここに厚くお礼を申し上げます。

参考文献及び資料
 「在アルゼンチン日本国大使館HP」
 「在チリ日本国大使館HP」
 「森川央(2013)膨らむアルゼンチン経済の矛盾.国際金融トピックス,234,公益財団法人国際通貨研究所」

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