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報告書&レポート

2013年11月14日 メキシコ事務所 縄田俊之
2013年65号

ドミニカ共和国の鉱業に関する最近の動き

 ドミニカ共和国では、2012年8月に新たにDanilo Medina大統領が就任し既に1年以上が経過したが、その間、教育改革や貧困対策に着手する等様々な政策が進められ、国民からもある程度の支持を得る等、現時点において政治的には安定を保っていると言われている。

 一方、鉱業分野においては、最近1~2年間で見ると、政府(関係行政機関)、民間ともに幾つかの目立った動きがある。

 こうした中、特に本年夏から秋にかけて新たな政府機関の創設の動きや、個別民間企業が抱えている大きな問題に一定程度の進展が見られたことから、これらに関する最新の状況と今後の見通しについて報告する。

1. エネルギー鉱山省(Ministerio de Energía y Minas)の創設

(1) 現状と問題

 これまでドミニカ共和国における鉱業は、探鉱・採掘許可等に関しては商工省(Ministerio de Industria y Comercio)の鉱山総局(Dirección General de Minería)が所掌し、地質図の作成等に関しては経済・企画・開発省(Ministerio de Economía, Planificación y Desarrollo)の国家地質センター(SGM:Servicio Geológico Nacional)が所掌してきた。

 一方、同国の鉱業においては、行政機関による許認可等に相当程度の時間を要していたことが大きな問題とされ、予てより鉱業界からは許認可等の迅速な処理を行えるよう専門機関の創設が要望されていた1

(2) エネルギー鉱山省の概要
 2012年8月に新たに大統領に就任したDanilo Medina大統領は、2013年2月にエネルギー鉱山省を創設する法案をドミニカ共和国議会に提出、7月に同議会での法案承認、その後、同大統領による同法律の公布が行われた。

 新たに創設されるエネルギー鉱山省は、後述のとおり2014年1月以降に発足予定であり、金属・非金属鉱物資源及びエネルギーに関する政策の企画立案、鉱区登録、探鉱・採掘許可、鉱業活動の監督等を所掌する。

 同省の創設に伴い、従来の商工省の鉱山総局と経済・企画・開発省の国家地質センターは、同省に移管される。なお、同センターに関しては、今のところ従来の人員規模及び予算総額はほぼ変わらず、これまでの業務をそのまま実施する予定である。

 ただし、予てより同省設立の必要性を熱心に訴えてきたPene Grin Castillo下院議員が同省大臣又は副大臣に就任する可能性が取り沙汰されており、仮に同議員が就任することとなれば人員規模及び予算総額の拡大も十分に考えられるとの見方もされている。なお、同下院議員への取材では、ドミニカ共和国は今後石油の海洋開発と、太陽光発電及び風力発電による再生可能エネルギーの導入が必要であり、また、鉱物資源の開発も積極的に行う必要があることから、これらを所管する同省の役割は重要であるとの認識を示した。

(3) 業務開始に関する動きと今後の見通し
 当初の予定では、2013年7~8月中に同省に関する予算案を策定し、10月1日には同予算案を承認した上で、同省の正式な発足となる予定であったが、同予算案の策定が大幅に遅れるとともに、大臣、副大臣等の閣僚人事が決まらないため、同省での正式な業務開始が遅れている。

 今後の予定としては、12月末までに予算案の策定によりこれを承認するとともに、10月末を目処に大臣、副大臣等の閣僚人事を行い、2014年1月から正式に発足する見通しである。


1 鉱業・石油会議所によると、特に2012年8月にDanilo Medina大統領が就任以降、探鉱・採掘許認可に係る契約が1件も成立していない状況

2. 鉱業法の改正

(1) 最近の経緯と問題
 現行の鉱業法(法律146-71)は、1971年に制定、公布されたものである。近年においては、2002~4年に同法の一部が見直されたものの抜本的な改正には至らず、その後2008年に抜本的な見直しを行うべく検討が行われたが、議会への提出とはならず、今日まで同法の見直しが行われていない状況となっている。

 一方、現行の鉱業法は、近年各国で問題となっている鉱山周辺の環境対策や、新規の探鉱開発の実施等に関し、現在の社会情勢や鉱業活動に即した規定となっていない。

 このため、政府(関係行政機関)は、各鉱業事業者から新規の探鉱開発等に係る許認可等の申請がなされた場合、当該申請案件が及ぼす周辺環境や経済・社会への影響を踏まえ、個々の申請に応じて規則(基準)を設け、その規則(基準)に基づき個々に契約を締結することとしている。

 これらは、許認可等に関し一定の規則(基準)が存在しないことを意味するものであり、申請者(民間企業等)が許認可等の申請に必要な資料作成等に際し過度な負担を強いるものとなっている。また、各々の申請に対する許認可等において公平かつ透明性のある審査が行われにくく、その上、最終的に許認可等を取得するまでに多くの時間を要する結果となっている。

(2) 改正に関する動きと今後の見通し
 こうした状況を踏まえ、民間企業の集まりである鉱業・石油会議所が中心となり、国際的に見ても透明性があり、現在の社会情勢等に即した法律となるよう、政府に対し現行鉱業法の改正を求めているところである。

 これに対し、政府(関係行政機関)としても、現行鉱業法を周辺環境への対応や新規の探鉱開発等を十分に考慮し今の時代に即したものとすべく、2008年当時に検討された改正案は一旦棚上げし、全く新しい内容の法律を策定することを考えている。

 なお、現行鉱業法の見直しは、新たに創設されるエネルギー鉱山省にて検討することとしているため、実際の見直し作業は、同省の正式な業務開始となる2014年1月以降となる見通しである。

3. Falcondoニッケル鉱山の環境問題

(1) Falcondoニッケル鉱山の概要
 Falcondoニッケル鉱山は、ドミニカ共和国のほぼ中央に位置し、1956年に鉱業権を取得以降今日まで操業を続けている。なお、同鉱山は、Glencore Xstrataが90%、ドミニカ共和国政府が10%の権益を保有し、同社の現地法人としてFalcondo Xstrata Nickel社が操業を行っている。

 近年では、ニッケル価格の下落により2008年8月から2011年1月にかけて一時操業を停止したが、その後操業を再開し、2011年は13.5千t、2012年は15.2千tが生産された。

(2) 問題の経緯
 2012年7月にFalcondo Xstrata Nickel社は、同鉱山において、現在主に採掘を行っているBonao地域の北西部にあるLoma Miranda地域で、新たに資源量19.25百万t、ニッケル品位1.62%、鉱山寿命20年となる鉱床を発見、開発することを発表した2

 これに対し、周辺地域の環境保護団体(NGO)がドミニカ共和国の主要な水源(河川)に深刻な影響を与えるとの理由から、同鉱山の活動停止を求める抗議活動を開始、同年9月にLa Bega県地方裁判所が同環境NGO等の訴えを認め、Loma Miranda地域における鉱業活動の一切を禁止する裁定を下した。

 一方、同社は、高等裁判所に上告するとともに政府に対して仲介を求めたところ、同年10月にDanilo Medina大統領は、国連開発計画(UNDP)に調査を依頼、2013年1月からUNDPが調査を実施した。その結果、UNDPは、同鉱山の環境影響評価報告書は鉱業活動により広域に及ぶ環境への評価、生物の多様性及び社会への影響の評価等が不足していることから不完全であると評価し、それを受けた政府は、Loma Miranda地域における開発計画に関する申請に対し、採掘許可を不承認とした。

 その後、本年10月に同社は、環境問題に関連したものではないと説明を加えた上で同鉱山を一時閉鎖した。なお、同社によると、同鉱山の閉鎖期間は3年間に及び、その結果、職員約1,000人と契約社員約700人が解雇される見通しである。

(3) 関係機関による見解
 ① 関係行政機関

 今回環境保護団体(NGO)から影響が及ぼされるとされる河川に関し、同地域における開発箇所は当該河川とは全く別の場所であるため、当該河川への影響は一切無いと確信しており、探鉱開発を全く知らない者による、まさに言いがかりであるとの認識をもっている3

 このようなことから、関係行政機関の一部においては、今回の反対勢力の動きは、完全に政治的なものであるとの見解が示されている。

 また、同機関は本年10月に同社が発表した一時閉鎖に関しては、問題となっている地域の周辺において同社以外の企業も開発を計画していることや、これまでの同社の投資実態、同鉱山での活動状況や計画等を踏まえ、まさに一時的な閉鎖ですむとの見解を示している。

 ② 鉱業・石油会議所

 本件はドミニカ共和国鉱業界において非常に重大な問題と認識し、同会議所としても本件の解決に向けて何ができるかを議論しているところである。

 なお、同会議所は、本件の解決に向けて、今後も同社が政府と対話を続けていくことが必要不可欠であるとの基本的な考え方を示している。


2 同社は、Loma Miranda地域の探鉱開発に際し、10年をかけて調査を実施してきたとともに、周辺地域の住民に裨益する住宅建設や道路建設等周辺地域の開発も積極的に行ってきた実績を有する

3 鉱業・石油会議所によると、同国では主に2つの環境保護団体が鉱業活動に対し様々な反対運動を展開。一方の環境保護団体は、科学的根拠等を基に正当な抗議活動を行っているが、もう一方の環境保護団体は、明らかに利権目当てと見受けられ、根拠に乏しい(又は根拠が全く無い)抗議活動を推進

4. Pueblo Viejo金・銀鉱山の契約問題

(1) Pueblo Viejo金・銀鉱山の概要
 Pueblo Viejo金・銀鉱山は、ドミニカ共和国のほぼ中央に位置し、探鉱開発、採鉱の歴史は古く1500年代にまで遡る。

 1975年にRosario Dominicana S.A.が操業を開始、1979年にドミニカ共和国中央銀行が全ての外国保有株を買収、国営企業となる。

 1975年から1999年までの間、同鉱山の表層部分から採掘した酸化鉱から金・銀を生産していたが、本酸化鉱の鉱量枯渇により、本酸化鉱層の下にある硫化鉱層に達したところ、硫化鉱を処理する設備・施設を有していなかったため、1999年に閉山。

 2000年に政府が同鉱山を国際入札にかけたところ、カナダのPlacer Dome社が落札、2006年にカナダのBarric Gold社がPlacer Dome社を買収、その後カナダのGoldcorp社に権益の40%を売却し今日に至る。したがって、現時点での同鉱山の権益は、Barric Gold社が60%、Goldcorp社が40%となる。

 2006年にBarric Gold社がPlacer Dome社を買収した際、あらためてドミニカ共和国政府と同鉱山に関する契約を締結したが、本契約において、法人税を25%、売上からコストを引いた額の3.2%をロイヤルティとし、その上、利益が投資額の10%を超えた場合に利益の25%(2009年の契約改正にて25%を28.75%へと変更。)を納税することとされた。

 2008年にFSを終了、既存の設備・施設を全て解体し、新たな設備・施設が建設され、2012年から操業を開始した。本年1月からは本格的に生産を開始し、本年10月現在における設備稼働率は85~90%であり、2014年に稼働率100%となる見通しである。なお、本年上半期の生産量は、金4.5t、銀10.1tである。

(2) 問題の経緯
 2012年12月に同鉱山が位置するCotui市のRafael Molina 市長が、Barric Gold社が政府と締結した契約は憲法違反にあたるとして裁判を起こし、その後、本訴訟は憲法裁判所にて審議されることとなったが、本年2月に同裁判所にて本訴訟に関する審議の結果を出すことを一時中止とする旨が公表された。

 一方、本年1月のドミニカ共和国議会下院において、野党議員等から、同鉱山に係る2009年の政府と同社とによる契約は同社にとって有利すぎるとして、同鉱山周辺環境への配慮と国に対し同鉱山の利益が還元されるよう本契約の内容を修正すべきとの意見が相次いで提出された。このため、Abel Martinez下院議長が下院にて本契約の内容を見直す旨を発表し、下院の委員会では、同鉱山を50%国有化することを目指すこととして、本契約を見直す報告書を作成することとなった。

 その後、本年5月に同社と政府との間で契約見直しで基本合意がなされ、9月に正式な契約改正の署名に至っている。

(3) 契約改正の概要
 本年9月に政府とBarric Gold社で締結された契約の改正概要は、以下のとおりである。

◆ プロジェクトの総投資額682百万US$、又は、投資額プラス損出累計額の14.2%に対しては課税対象としない。

◆ 2012年11月から同年12月末における輸出に対する税金36.4百万US$及び2006年にBarrick Gold社が同鉱山の旧保有者であるPlacer Dome社を買収した際のキャピタルゲインに対する税金73.1百万US$の支払いを行うこと。

◆ Barrick Gold社は、同社の利益の51.3%を納税すること。

◆ 従前の契約では、3~4年で初期投資を回収した後にキャッシュフローに対する課税分を政府に納めることとされていたが、今回の改正により、初期投資を回収する前に、当該課税分を納めることとし、初期投資の回収は2017年からとする。これにより、本年分として本年12月までに320百万US$を10月から3回に分けて納めること。

(4) 関係機関による見解
 ① Barrick Gold社

 今回の問題の背景としては、Danilo Medina現大統領がLeonel Fernández前大統領の政策(前大統領時代に締結された同社と政府との契約)を否定することで、如何に前大統領の政策が無益・無策なものであったかを示し、それをもって自らの政策の正当性をアピールするために本件を利用すること及び同国が抱える財政赤字解消のため、同鉱山からの納税額を上げることが目的とされたことから、政治に利用された所謂政治問題である。

 本件に関しては、国際仲裁裁判所への提訴も検討されたが、裁判が長引いた際、その間にドミニカ共和国政府による操業停止措置が発動されることを危惧したため、同裁判所への提訴を断念した。

 同鉱山の採掘権は2008年から25年間となっているが、当該採掘権が終了する頃にあらためて経済性を評価し、その評価結果次第では採掘権の延長を申請するか否かを検討する。

 なお、現在のところ、同社としてはドミニカ共和国において同鉱山以外の鉱業活動は一切考えていない(他の鉱区のコンセッションを取得する興味が無い。)。

 ② 関係行政機関

 本年10月初旬にDanilo Medina大統領がBarrick Gold社を訪問し会談を行った際、両者は友好的な関係を構築した。

 Barrick Gold社に対しては、同鉱山の活動に使用する燃料に掛かる税金を一部減税しており、また、鉱山周辺住民との関係構築に助力する等支援を行っている。

 ③ 鉱業・石油会議所

 今回の件でBarrick Gold社がドミニカ共和国から撤退せずに済んだと言うことから考えて、政府と同社との間で上手く解決したと評価している。

 同社は本会議所の会員メンバーでもあるため、本会議所としては今後とも協力をしていく所存。

おわりに

 ドミニカ共和国の鉱業に関しては、新たな政府機関としてエネルギー鉱山省の創設が決定されて2014年には正式に業務開始の見通しが立ち、また、Pueblo Viejo金・銀鉱山問題についても契約改正に至るなど進展が見られた。

 しかしながら、鉱業法の改正については、新たに創設されるエネルギー鉱山省で検討を進めるとの見通しがたったものの、具体的な改正内容については明確になっておらず、また、Falcondoニッケル鉱山の環境問題については、鉱山の一時閉鎖という結果となり、抜本的な解決には至っていないのが実情である。

 このような状況を踏まえると、同国の鉱業には未だ不透明な部分が存在していると考えられることから、これらの問題の推移を十分に注視していく必要があると思われる。

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