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報告書&レポート

2014年1月30日 金属環境事業部 三浦貴生
2014年02号

ラオスPhu Kham鉱山におけるPhu Bia Mining社のCSR活動

 2013年11月、JOGMEC金属環境事業部は、ラオスにおいて鉱害状況把握調査や、エネルギー鉱山省鉱山局職員等に対する水量水質調査の研修(OJT)および首都ビエンチャンで鉱害原因の特定方法等に関するワークショップを実施した。また、それと並行してSepon鉱山と並び同国2大鉱業投資案件の一つであり、Phu Bia Mining Limited(以下PBM社)が操業するPhu Kham鉱山の操業現場及びCSR活動の実態を調査し、安全対策等に関して情報収集を行うため、PBM社の協力の下ラオス鉱山局職員、JOGMEC、同国鉱業分野に直接投資する日本企業で現地調査を行った。

 本稿では、訪問中にPBM職員から聴取した内容等に基づき、Phu Kham鉱山にて実施されているCSR活動を紹介する。

1. はじめに

 JOGMEC金属環境事業部は「金属資源保有国において環境に調和した鉱山開発が促進されるよう、金属資源開発支援での資源国等との関係強化に配慮しつつ、当該国政府等に対して鉱害防止に関する技術情報等を提供する」事業を行っており、休廃止鉱山の環境問題に対する制度や対策が不十分であることから探査・開発の進展が阻害されている資源保有国や、資源外交による日本企業支援が望まれる資源保有国を対象に、鉱害防止セミナーの開催や、アドバイザー派遣等の技術支援を実施している。

 ラオスにおいては、同国の鉱業の持続可能な発展を促進するため、鉱山環境に関する情報、知識及び経験を両国間で交換する場として、これまで2回(2011年10月、2012年9月)にわたりセミナーを開催したほか、2012年3月にはエネルギー鉱山省鉱山局及び天然資源・環境省地質局関係者を招聘し、我が国の鉱害防止事業の現場状況の視察を行ってきた。今般の一連の協力は、同国政府より更なる情報提供等の依頼を受け、協力内容を深化させるために行ったものである。

2. Phu Kham鉱山の概要

 Phu Kham鉱山はPanAust Limited(以下PanAust社)が90%、ラオス政府が10%出資するPBM社により操業されている。2008年5月に試験操業を開始し、同年7月に商業生産を開始した。2012年の銅生産量は63,285 t、金生産量は59,516 ozである。本鉱床はビエンチャンから約120 ㎞北に位置し、金・銅斑岩型鉱床と一部のスカルン鉱床よりなり、貫入花崗岩、珪長質凝灰岩、炭酸塩に富む頁岩、砂岩、シルト岩及び石灰岩層に胚胎される。

 2012年末時点での埋蔵量は1.76億t(Proved+Probable)、品位は銅0.50%、金0.23 g/t、銀1.9 g/tである。

図1.Phu Kham鉱山及び関係プロジェクトの位置図

図1.Phu Kham鉱山及び関係プロジェクトの位置図

(http://www.panaust.com.au/)

 Phu Kham鉱山は露天掘鉱山であり、銅はFLSmidth社製の浮遊選鉱設備により採取されている。粗鉱処理量は、Phu Kham鉱山の北北東に位置するPhonsavanプロジェクト(銅・金)の開始を見込み、2012年にはXstrata社製のIsaMillを導入して選鉱処理能力を増強した。

写真1.露天掘現場における説明の様子

写真1.露天掘現場における説明の様子

3. CSR方針

 PanAust社では発展途上国における持続可能な鉱山開発を行うにあたり、現在及び将来世代の生活水準向上を鉱山企業の役割として挙げている。そこでSustainability Frameworkと呼ばれる持続可能性に関する枠組みを構築し、鉱山開発環境の継続的な改善を目指している。

 PanAust社では地域開発計画を定め、地域社会が鉱山開発後も持続的に発展できるよう支援している。地域開発計画は地域住民及び地方政府機関との協力の下で実施される。また、Phu Kham鉱山の他、近隣のBan Houayxai(2013年生産開始、金・銀)、Phonsavan(pre-FS実施、銅・金)といったプロジェクトにおいてCommunity Development Fund(CDF)を設立し、教育、農業、健康管理、インフラ開発、小規模融資、零細企業の発展に貢献しており、2012年にはこれらの事業に対し515,018 US$の支出を行っている。

 PanAust社が実施する「持続可能な鉱山開発」の評価は、国際金融公社(IFC)による環境と社会の持続可能性に関するパフォーマンス基準や、オーストラリア証券取引所が示す原則、オーストラリア鉱業協会(MCA)、国際金属・鉱業評議会(ICMM)等の外部評価基準に基づいて行われる。

 2012年に見出された検討課題は鉱滓及びズリの管理、選鉱廃水及び堆積物の管理、Ban Houayxai金銀鉱床におけるシアン化合物の管理、エネルギー及び炭素マネジメント、土地の回復及び閉鎖、Phu Kham鉱山周辺における道路沿いの騒音・粉塵対策である。

 地域住民によると発破時の騒音・振動、村の近くにおける大型トラックの通行、鉱山周辺の水田、畑等への影響を心配しているとのことであった。

写真2.Nam Gnone村コミュニティセンターにおける地域住民との意見交換

写真2.Nam Gnone村コミュニティセンターにおける地域住民との意見交換

4. 雇用

 全フルタイム労働者の人数は3,239人であり、このうち2,756人はラオス人である。336人はタイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、パプアニューギニア等といった周辺国から、147人はオーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、ヨーロッパ等から雇用している。ラオス人の雇用に際しては少数民族の採用も積極的に行っている。

 男女の別でみると、2012年末時点では529名(16%)が女性職員、うち29人は管理職であった(全管理職員数の12%にあたる)。

5. 選鉱廃水処理

 スラリー状の選鉱廃水は選鉱プラントから約2 ㎞離れた尾鉱堆積場までポンプで送られる。尾鉱堆積場の大きさは直径約2 ㎞、容量約2億4,500万㎥であり、ダム内へは石灰石を投入して水のpHが下がらないように管理している。尾鉱堆積場の水を再利用することで、鉱山内で利用される水の95%は選鉱用水として循環しており、残りの廃水は尾鉱堆積場から明渠を通りバイオアッセイポンドと呼ばれる生物学的安全試験池を通過させて自然河川であるNam Mo川へ放流される。

写真3.選鉱プラントから尾鉱堆積場へは4本のパイプで選鉱廃水を送る。

写真3.選鉱プラントから尾鉱堆積場へは4本のパイプで選鉱廃水を送る。

 また、尾鉱堆積場の水の一部は暗渠によりパッシブトリートメント設備へ導水される。本設備は噴水式曝気部と花崗岩通路部より構成され、その大きさは幅約30 m長さ約60 m、深さ2.5 mである。廃水中の2価鉄は曝気により酸化され、花崗岩通路を通過し放流されるまでにマンガンと共に沈澱する。処理水の水質は導入部と放流部の2ヵ所で測定している。

 選鉱廃水の水質は午前と午後の1日2回、①尾鉱堆積場排水前、②尾鉱堆積場からバイオアッセイポンドまでの明渠、③バイオアッセイポンドからの排水、放流河川との④合流前および⑤合流後の計5ヵ所測定している。

写真4.パッシブトリートメント設備。中央に見えているのが噴水式曝気。写真手前が花崗岩通路。

写真4.パッシブトリートメント設備。中央に見えているのが噴水式曝気。
写真手前が花崗岩通路。
写真5.生物学的試験池では魚を用いて水質を監視している。

写真5.生物学的試験池では魚を用いて水質を監視している。

6. ラオス政府に対する貢献

 PBM社はPhu Kham鉱山操業や探鉱プロジェクトを通じ、ラオス政府に対して以下に記した貢献を行っている。
  ・ 銅、金、銀販売における収入及びそれらに係るロイヤルティ
  ・ 税金や借地料
  ・ 雇用者に対する給与に係る税
  ・ 地域開発プログラムに対する支援
  ・ PBM社への10%出資に対するラオス政府への配当
  ・ 道路等の地域インフラ整備支援

7. 地元への還元

 PBM社では地元住民の生活水準を向上させるため、次の通り様々な活動を実施している。

・ 精鉱輸送路、鉱山周辺道路の整備…精鉱を積んだトラックが通行する道路は本来ラオス政府が整備していたが、現在Phu Kham鉱山から国道13号線へ向かう道路はPBM社が拡張・維持管理している。また輸送路の沿線においてはトラックが巻き上げる粉塵が植物の生育に対して悪影響を与えるため、PBM社では道路沿いの区域を植生回復域として管理している。

・ 有機農場の支援、生産物の購入…PBM社は地元のNam Gnone村において農場の拡張、農業訓練、農場に対する技術や物資の提供を実施している。技術開発により生産量が増加することで、作物をPBM社以外に対しても販売できるようになり、農業関係者の自立を促している。

・ 教育支援…新しい教室の建設、教科書や童話、美術用品、運動用具などの提供を行っている他、学校教員や校長に対するスキルアップ研修をビエンチャンにある教育省と協力して実施しており、2012年には127名が研修に参加した。他にも近隣の村に住む子供を対象とした夏季講習や、大人を対象とした国語・数学の基礎教室を開催している。

・ 診療所の建設…PBM社が出資して建設、地元民は安価で利用可能。現在は看護師が1名しかいないため、2014年に1名増員される予定。診療所で対応できない事態の場合はPBM社内の医療機関を利用させる。

・ 小規模融資…地元のNam Gnone村では農業・陸上養殖センターに対して小規模融資を行っている。ここで収穫された生産物は主にPBM社が買い上げている。

・ 地元企業製品の購入…鉱山内で使用する布袋、飲料水を地元企業に発注することで支援を行っている。

写真6.PBM社の小規模融資を受けて魚や蛙の陸上養殖を行っている施設。

写真6.PBM社の小規模融資を受けて魚や蛙の陸上養殖を行っている施設。
写真7.地元企業の製品である布袋をPBM社が購入することで生産支援を行っている。

写真7.地元企業の製品である布袋をPBM社が購入することで生産支援を行っている。
写真8.植生回復地区として指定された精鉱輸送路沿いの区域には植樹が行われ、柵を設けて立入が制限されている。

写真8.植生回復地区として指定された精鉱輸送路沿いの区域には植樹が行われ、
柵を設けて立入が制限されている。

8. おわりに

 鉱山開発を行う中で鉱山企業と地域住民が友好関係を構築することは重要であるが、開発前には土地の利用に関する問題、鉱山稼働時から閉山後においては排水・騒音・振動・粉塵鉱滓といった鉱害の防止対策が地域住民との間で問題となることがあるため、企業はこれらに対し十分な対策を行わなければならない。

 今回訪問したPhu Kham鉱山はオーストラリア企業のPanAust社が開発している鉱山であることもあり、環境対策やCSR活動には積極的に力を入れているようである。また、Phu Kham鉱山への訪問者は少なくないようであり、鉱山内を案内する受け入れ態勢が構築されている上、情報の公開を厭わないPBM社の姿勢が印象に残っている。

 ラオスの資源及び水力発電事業がもたらす経済発展に各国が注目する中、現在稼働している大規模鉱山の1つであるPhu Kham鉱山を操業するPBM社のCSR活動が日系企業や関係者の参考になれば幸いである。

 最後に、訪問を快く受け入れ案内して頂いたPBM社の方々、今回のPhu Kham鉱山調査団に参加された日本企業の方々、及び鉱山調査実施にあたり協力して頂いた関係者の方々に感謝を申し上げる。

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