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報告書&レポート

2014年2月6日 ハノイ事務所 五十嵐吉昭
2014年03号

ロイヤルティ引上げ論に見るベトナムの鉱業政策

 ベトナムの鉱業投資環境は外国企業にとって魅力的なものではなく、外資系鉱山も極僅かしか操業していない。その大きな理由の一つが、操業鉱山が支払わなければならない各種税金、使用料、手数料等の大きな負担で、中でも金属鉱物資源の採掘量に応じて支払うロイヤルティは世界で最も負担が大きい国の一つとも言われている。そのような投資環境の下、ベトナム国会常任委員会は、ロイヤルティの更なる引上げについて、新たに定めた決議No.712/2013/UBTVQH13を2013年12月16日付けで採択した。この決議は政府が税収強化を狙ったもので、当初財務省は7つの鉱種について大幅な引上げを提案していた。その後、半年ほどの議論を経て、最終的に当初提案通りに引上げられた鉱種は、チタン、タングステン及びアンチモンの3鉱種に留まり、鉄と銅は当初案より率が抑えられた。この半年の間、地方政府、操業鉱山、或いは業界団体によるロビー活動が行われ、ベトナム式に様々な妥協が図られた結果と解釈することもできる。本稿では、今般のロイヤルティ引上げの経緯と背景を明らかにし、その過程から垣間見えるベトナムの鉱業政策について考察を試みる。

1. 2013年のロイヤルティ引上げ

 前回ロイヤルティを定めた2010年決議から2013年の引き上げに至る推移を下表にまとめた。最初にロイヤルティ引上げの提案が公になったのは、2013年5月末に財務省が引上げ案を作成し、各省に回付したことが報道されたことによる(Vietnam Economic Times 2013/5/29)。財務省は国家財源の確保のため、再生不可能な鉱物資源の採掘を抑制して国内産業の利用のために資源を保護し、国・企業・地元住民間における利益の調和を図るため、2010年の前回決議から3年ぶりに引上げを提案するとした。この引上げ率は表中の5月提案に示す通り、7鉱種について大幅な引上げとなり、他の天然資源採取のロイヤルティを引上げずに5,086億ドン(約2,400万US$)の税収増になるとした。その後、業界からの反発や各種ロビー活動があり、2013年8月の国会常任委員会では結論が出ず、この時点で率は若干引き下げられた(表中8月提案)。その代り、砂利、石材等の工業原料や石炭に掛るロイヤルティも引上げ対象に加えられた。その後、2013年10月の国会常任委員会でも結論は持ち越され、Hung国会議長から操業鉱山に対する影響緩和や対外関係への配慮が示唆され、ズン首相の意見も参考とするように求められた。最終的には2013年12月16日付け国会常任委員会決議No.712/2013/UBTVQH13が公表され、金とニッケルの引き上げは見送られ、鉄と銅については引上げが緩和され、当初の財務省提案通りに引上げられたのはチタン、タングステン及びアンチモンのみとなった。

鉱種 2010年決議 5月提案 8月提案 2013年決議
10% 15% 13% 12%
チタン 11% 16% 16% 16%
15% 25% 22% 15%
タングステン・アンチモン 10% 18% 18% 18%
10% 15% 15% 13%
ニッケル 10% 15% 12% 10%

2. ベトナムにおけるロイヤルティの歴史

 元々ベトナムの鉱物資源に対するロイヤルティは、1998年4月の法令(ordinance) No.5/1998/PL-UBTVQH10の第6条において、金が2~6%、レアアースが3~8%、及びそれ以外の金属鉱物は1~5%と定められたのが最初である。引き続き同年9月に、政令No.68/1998/ND-CPにより鉱種毎の具体的な率が定められたが、その率はどの鉱種についても2~5%の範囲内であった。この数値が大幅に引上げられたのは10年後の2008年9月の法令No.26/2008/CT-TTgによる上記第6条の改正で、金が6~30%、レアアースが8~30%、及びそれ以外の金属鉱物は5~30%に跳ね上がった。この引上げには同年9月の首相指示No.26/2008/CT-TTgによる鉱物資源の国家管理強化が密接に関係していると推察される。当時2005年の鉱物法改正により、特に地方政府が多くの鉱業権を乱発し、国の政策に反して鉱物資源の乱開発や未加工輸出、及びそれに伴う環境破壊や密輸等が進行していた。そのため首相令では、計画的な鉱物資源開発が実践されないのは、行政の監督が不十分なためとして、地方政府(人民委員会)及び天然資源環境省に対して発給した鉱業権のチェックや鉱業活動状況を厳しく監督するよう求め、商工省、防衛省等の関係官庁にも協力を求めている。既に同年6月には鉱物輸出に関する通達により、規格に達しない鉱物輸出の監視を強化し、輸出に当たっては商工省の指示に従うように求めていた。その後、法令(ordinance) は一定期間施行された後に、法律として国会に提出されることになっているため、2009年秋の国会において正式なロイヤルティ法(No.45/2009/QH12)として審議され、2009年11月25日に発布された。このロイヤルティ法では、改正された第6条と同様に鉱種毎に5~25%と幅を持った率が設定されており、最終的には2010年4月19日の国会常任委員会決議No.928/2010/UBTVQH12により鉱種毎に具体的な率が決定されたものである(表中の2010年決議)。この結果、2010年決議におけるロイヤルティは、既に10~15%にも達しており、世界的にも相当高率となっていた。更に、ロイヤルティ法によれば、ロイヤルティは採掘した天然資源の価格から付加価値税を除いた額に掛るため、鉱業企業の利益とは関係なく徴収される。

3. ベトナムの鉱業界の反論及びロビー活動

 2013年のロイヤルティ引上げについて、結果的には、数少ない外資系鉱山が生産している鉱種に対する率だけが据え置かれている。ベトナムには鉱業界を代表する鉱業協会は存在しないが、ベトナムに投資する各国がベトナム政府との話合いの場を設けるVietnam Business Forum (VBF)が活動しており(ベトナム日本商工会(JBAV)はアソーシエイト会員)、その中の鉱業部会(Mining Working Group)がロイヤルティ引上げに反対した。2013年6月初旬のVBFの会合の場において、鉱業部会長のBill Howell氏(ベトナムに探鉱案件を持つTipple Plate Junction社代表)は、ベトナムの鉱業には12もの税金、使用料、手数料及びロイヤルティが課せられ、鉱業生産で利益をあげることはほとんど不可能であると訴え、ロイヤルティ引上げの見直しを求めた。また、カナダのFraser Instituteによると、「世界で魅力的な鉱業政策ランキング」で、ベトナムが96ヶ国(州)中95位(2012/2013)にランクを落としたことを取上げ、このままでは外資による鉱業投資は望めないと主張した。これに対して、財務省税政策局副局長は、非再生資源の生産を抑制し将来の鉱物資源の枯渇を防ぐためにロイヤルティ引上げが必要と反論した。その後、VBF鉱業部会は6月末に財務省税政策局宛に書簡を発出し、その中で10%を超すロイヤルティでは鉱業企業は正当な対価を得られず、採算性の悪化はCut-off品位の引上げ等長期的な採掘計画を歪め、採掘の縮小は雇用に悪影響を与え、正当な鉱業企業の撤退はかえって違法採掘を増やし、高品位部のみの採掘による資源の浪費や環境破壊を招くと訴えている。反対の声を挙げたのはVBFに限らず、例えばベトナム鉄鋼協会も鉄とニッケルのロイヤルティを据え置くように財務省に申し入れをした。また、鉱山の地元、例えば外資系金鉱山のあるQuang Nam省人民委員会からは、金のロイヤルティを据え置くように陳情があった。更に、自国企業を支援するため、豪州やカナダ大使館からも国会常任委員会あてに書簡が送られたとされる。その結果、外資系鉱山が生産する金とニッケルは据え置かれ、鉄鋼協会から申入れのあった鉄は引上げが緩和された。なお、同様に引上げが緩和された銅を主に生産しているのは、ベトナム国営石炭鉱物産業会社Vinacomin傘下のベトナム国営鉱物会社Vimicoであり、Vinacominだけが生産を許されているボーキサイトは、当初から引上げの対象となっていない。他にも生産量は少ないとはいえ、違法採掘の存在が指摘されている錫、鉛・亜鉛、マンガン等については引上げの対象とはなっていない。

4. ロイヤルティ引上げの背景

 既に国際的には十分高いはずのロイヤルティ引上げを実施した背景には、政府が進める2020年までの税制改革及び鉱業活動に対する国の厳しい見方が関係していると考えられる。前者について、ベトナムは国家歳入の2割以上を通関関税に頼っていると言われるが、2015年に発足が予定されているASEAN経済共同体に加盟すれば、年々税収は減少することが見込まれる。また、2012年の個人所得税法の改正により、最低課税対象所得と控除額を引上げたため、課税対象者は人口の5%程度に減少したとされる。更に、近年国家間で引き下げ競争の激しい法人税についても、2013年まで25%だったところ、2014年より22%、2016年から20%に引き下げられる。このため政府は、2014年より国の財政赤字の上限を、これまでの国内総生産(GDP)の4.8%から5.3%に引き上げたところであるが、新たな財源探しが必要なのは明らかである。

 一方後者について、2012年1月には、鉱物資源の探査、採掘、加工、使用及び輸出活動に対する国家管理強化の首相指示の中で(02/CT-TTg)、「時代遅れの古い技術により採掘・加工がなされ、労働安全や環境保護に配慮していない点を問題視し、政府の管理が行き届かないことから、違法採掘、密輸等の不正なビジネスが横行し、社会秩序を乱して周辺住民に不安を与えている。」と鉱業活動の無秩序に対して厳しい指摘があった(2012/02/24カレント・トピックスNo.2012-11「ベトナムの鉱物資源戦略について」)。しかしながら、2013年8月末、天然資源環境省Quang大臣は国会常任委員会の席上、新鉱物法の下で付与された鉱業権の半数は不正なものであると証言し、特に法令を遵守しない14の省に対して、首相が直接批判することを提案した。これは2008年に鉱物資源の国家管理強化に舵を切り、新鉱物法や首相指示により粛々と鉱物資源の国家管理を進めていたはずであったが、所管する中央官庁が地方政府のルール違反に対して未だに有効な手立てを打てていないことを物語っている。従来チタン(ミネラルサンド中のイルメナイト)に対する風当たりは強く、中小採掘業者による無秩序な採掘と、加工度を上げずに精鉱のまま、大半を中国に輸出していると批判されていた。また、金についても中小規模の金採掘は低い技術で周辺環境に悪影響を与えていると非難された。このような批判にさらされている鉱業に対して、財務省から財源狙いの標的にされやすかった面は否定できない。

5. 終わりに

 ベトナムではVinacominやVimicoのような国営企業の活動が主体で、民間の鉱業企業の大半は小規模である。鉱山開発に際して個別に政府と交渉し、既に約束したロイヤルティがある場合、今回の引き上げが直ちに適用されるとは限らず、そもそも天然資源採取のロイヤルティ収入は、石油・天然ガスが大半を占めており、国庫への貢献も限定的になるだろう。また、2013年は金属価格が大きく下落した年でもあり、鉱業企業に負担増を求めるには適切な時期とは言い難い。それにも拘らず、財務省のロイヤルティ引上げの主張はある程度受けいれられたことになる。その主張の中には、鉱業企業の負担を増やせば採掘は効率的になり、新たな技術を導入してより付加価値を付ける方向に向かうであろうという、あまり鉱業活動を理解していないようなロジックも含まれる。非効率で環境にも配慮しない採掘法で、政府の方針に反して付加価値もつけずに違法に輸出する鉱業企業または個人が存在するとして、そのような企業又は個人がロイヤルティ負担を増やすことで更生し、政府の方針に従うようになるとはにわかに考え難い。VBF鉱業部会の指摘の通り、逆に違法な採掘や密輸を増やし、益々近代的な技術や資源開発ノウハウを持つ外資系企業を遠ざけるだけではないだろうか。鉱業活動による利益を国(地方)と企業でどのように分け合うか、各国の鉱業政策しだいであるが、ベトナムの場合、あまりにも国の取り分が多く、あたかも国営企業のように国家の経済・社会開発の一翼を担わされるようだ。共産党一党支配下のベトナムにおいては、鉱物資源は全国民の財産で、国家により統一的に管理され、国家の経済・社会開発のための重要な資源であるとされ(2011年4月25日共産党中央委員会02-NQ/TW)、鉱業活動に限ってみれば、営利目的の民間企業が求められる国への貢献度や企業活動の受ける各種制約は大きなものとなる。その一方、2015年にASEAN経済共同体発足をひかえているベトナムは、WTO加盟国でありTPP交渉にも参加している。2013年8月に国会常任委員会がロイヤルティ引上げを継続審議とした際、Ngan国会副議長は、審議前にビジネス界や大使館から今回の決議に関する数多くの反応を受領したことを明らかにし、このことが前例のないことだったと語った。鉱業分野における外国投資は限定的ではあるが、国の発展を外国投資に大きく依存しているベトナムにとっては、このような頻繁なルールの変更が外国投資に悪影響を与えることを理解してきているようにみえる。その意味ではVBF鉱業部会や大使館の活動はある程度実を結んだと言えるだろう。ある鉱業関係者は、このようなロビー活動について、メディアへの露出と地方政府及び大使館を通じてしかるべき相手に働き掛けることが重要であるとしている。決議、政令、通達等、法規規範文章による頻繁なルール変更は困りものだが、交渉の窓口は開いているとも言えるようだ。

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