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報告書&レポート

2014年3月13日 メキシコ事務所 縄田俊之
2014年08号

グアテマラ共和国の鉱業に関する最近の動き

 グアテマラ共和国では、2011年9月に総選挙が行われ、同年11月の決選投票を経て2012年1月に新たにPérez Molina大統領が就任し既に2年が経過した。次の総選挙が2015年9月に予定されているため、現政権にとってそれまでに山積している課題を如何に解決できるか否かで、次の総選挙での勝敗が左右されると見られている。

 当国の鉱業に関しては、周辺環境や周辺住民の生活等に深く影響を与えるとの理由から反対運動の標的となり易く、時として行き過ぎた抗議行動が暴力行為等違法活動へと発展する等現政権としては憂慮すべき問題であり、早々に解決すべき課題の一つである。

 こうした中、2012年10月に国会へ提出された鉱業法改正法案が現在もなお審議中である一方、本改正法案が可決成立するまでの間、鉱業ライセンスの付与を凍結する「鉱業モラトリアム」に関する法案が2013年に国会へ提出されたり、現行鉱業法で定められたロイヤルティに上乗せする形でボランタリーなロイヤルティが政府と民間との間で合意される等目立った動きが起きている。また、同国で主要な鉱山となるEscobal多金属鉱山が2013年秋から操業を開始した一方、同じく主要な鉱山との期待が高いCerro Blanco多金属プロジェクトに関しては反対派や公的機関による中止要請が相次いで提出される等様々な動きがある。

 今般これら一連の動きについて、関係者から関連情報を得ることができたため、これらの情報を基に最新の状況と今後の見通しを報告する。

1.鉱業法の改正

(1) 鉱業法改正の経緯
 グアテマラの鉱業法は、1960年から36年間続いた内戦が終結した翌年の1997年に国会で可決成立し施行されたもので、当時内戦の影響により国内に財政的余力が無かったことから、外国資本を呼び込むため積極的に鉱業開発を推し進めることを目的に制定されたものである。法律自体は、個人、法人問わず探鉱権、採掘権等鉱業権の許可申請を自由に行うことができる等鉱業権に関する規定を中心としつつ、簡単ではあるが環境保護等の規定も包含した至って単純な法体系となっている。言い換えると、現行法は、投資家や企業に対する鉱業権申請のためのマニュアルに近いものである。一方、昨今の鉱業に関する技術の進歩により鉱業活動の現状にそぐわなくなってきており、また、鉱山周辺環境及び周辺住民の保護の観点からも規定内容が十分とは言い難い状況となっている。

 こうした状況を踏まえ、近年では、2005年にエネルギー鉱山省が審議会を組織し、鉱物資源の技術的及び合理的な採掘の達成、環境保護及び監督の強化、鉱区税及びロイヤルティの見直し等を盛り込んだ改正法案を策定し2006年に国会へ提出され、その後エネルギー・鉱山委員会の審議を経て2009年1月に国会本会議へ提出された。しかしながら、本改正法案は成立には至っていない。

 その後2011年11月にエネルギー鉱山省が法案改正担当省庁となり、経済的観点、技術的観点及び社会的観点に着目し、現行鉱業法全95条中35条分を改正するための見直しに入り、2012年10月に現政権としてあらためて改正法案を国会に提出した。本改正法案の審議に際して、現政権も関係業界、学術経験者、環境保護関係者、人権保護関係者、周辺住民代表等様々な分野の専門家から構成された検討チームを設置し、改正法案の検討に当たっている。

(2) 改正法案の主な概要
 前述のとおり、現在国会には幾つかの改正法案が提出された形になっているが、現時点では現政権が2012年10月に提出した改正法案を軸に審議されている模様であるため、本改正法案について概説する。

① 改正法案の主眼

 今回の改正は抜本的なものではあるが、あくまでも現行法の強化であり、現行法そのものを廃止して新たな法律を制定するものではない。

 この点を踏まえた上で、2012年に政府と鉱業界との間で合意されたボランタリーなロイヤルティ(3.で後述)の規定化、鉱山が所在する自治体及び当該自治体の周辺地域に対し鉱業企業から徴収したロイヤルティを分配するための鉱業基金の創設、閉山に伴う企業の法的義務の規定化、40%までの権益を保有できる鉱業公社の創設等を柱とした改正法案として策定されている。

② ボランタリーなロイヤルティの規定化

 2012年1月に政府と鉱業界との間で合意したボランタリーなロイヤルティを、鉱業法の中で規定するものである。具体的には、現行鉱業法上、金属に関するロイヤルティは売上高の1%と規定されているが、新たに金、銀、プラチナ等貴金属に関しては4%、ニッケル、銅、亜鉛等ベースメタルに関しては3%を追加し、それぞれ合計で5%ないし4%のロイヤルティを国へ納入することが鉱業法改正法案に盛り込まれた。

 これにより、鉱山会社における利益1$当たりの国への納税額(鉱業税、ロイヤルティ等を含む。)は30~35¢となるが、他の南米諸国では利益1$当たりの納税額が35%から40%前後であることを踏まえると国際競争力の観点から何ら問題が無いと考えられている。

 また、今回規定化するロイヤルティは、前述のとおり既に政府と民間との間で合意されたものであることから、本件に関しては特段議論にはならないとの見方がされている。

③ 鉱業基金の創設

 鉱業基金の創設に関しては、鉱山が所在する自治体のみならず当該自治体の周辺地域に対しても、鉱山会社から徴収したロイヤルティを分配することを目的として考えられたものである。これは、既に同国において機能している石油基金をモデルに検討が進められている。

 ただし、同国において採掘した原油をそのまま国外に輸出する石油に関しては、採掘した鉱石を国内で何らか加工処理を行う鉱業とは違い、ロイヤルティを高く設定してもやむを得ないとの判断から、現在石油に関しては30~40%程度のロイヤルティが課せられている。このため、必然的に基金も大きく、周辺地域等に対し相応の分配がなされている。

 一方、鉱業に関しては、現在稼働中の鉱山や開発中のプロジェクトの絶対的な件数が少なく、また、鉱業全体の収入も小さいことから、仮に鉱業基金を創設しても、想定している周辺地域まで十分な資金を分配することが可能かどうかとの疑問の声が上がっている。

 このため、鉱業界としては、鉱業基金の創設に対しては明確に同意を示していない状況である。

④ 閉山に伴う企業の法的義務

 現行法では、鉱山会社に対し閉山に関する義務は特段課していなかったが、今回の改正により環境面での強化を図ることを目的として、新たに閉山に関する規定を盛り込むこととされている。新たに盛り込まれる閉山に関する規定により、鉱山会社及びエネルギー鉱山省は、閉山後の敷地(跡地)が環境に対しマイナスの影響を与えないよう、短期的、中期的、長期的にしっかりと監視していくこととなる。

 なお、現在採掘中の加Goldcorp社保有のMarlin金鉱山は、露天掘及び坑内掘であるが、地表に近い部分は既に鉱石を取り尽くしており、2年前から閉山に向けての作業が始まっている。エネルギー鉱山省としては、本鉱山の閉山が閉山監視を行う初めての案件となるため、閉山監視に係る実務の内容(手続き、手順、方法等を含む。)を検討し始めている。

⑤ 鉱業公社の創設

 鉱業公社の創設に関しては、国が鉱業開発プロジェクトに参加し、技術面や財政面で支援、貢献することを目的としており、鉱業開発プロジェクトの権益を40%まで鉱業公社で保有することが可能とするものである。これによって、国としては、鉱業公社を通じ新規プロジェクトの初期段階から参加し、その後保有している権益を適宜民間企業に売却することが可能となる一方、他国で行われているような国が鉱山会社を奪い取るシステムではないとしている。

 現行法では、国は探鉱は認められているが採掘は認められておらず、また、採掘企業を保有できないため、国として採掘権が伴わない探鉱等調査はコストがかかる割には国に権利売却による収入が見込まれないことから、実質的には国による探鉱等調査が行われていない。このため、国として国内の鉱物に関する正確な埋蔵量が把握できておらず、また、国全体の正確な地質図の作成にも至っていない。

 こうした中、鉱業法改正による鉱業公社の創設をにらみ、先取りした形で2013年から国も探鉱等調査に乗り出すことができるようになった。このため、国として当該調査を基にしたインベントリの作成を通じ、国内全ての鉱物資源の埋蔵量を正確に把握し、国全体の地質図を作成する計画を立てており、これにより国内における鉱業ポテンシャルを明らかにすることとしている。

 一方、鉱業界としては、鉱業公社の創設に関し国が鉱山会社を買収又は奪い取ることを容認する恐れがあるとの見方をしており、現状反対はしないまでも賛成の意は示していない。

(3) 改正法案に対する鉱業界の見解
 鉱業界は、これまで鉱業法改正法案に関し、政府や国会に対して意見を申し入れてきており、現時点での法案内容であれば鉱業界として反対するものではない。特に環境に関する事項として閉山に関する規定が盛り込まれているが、鉱業の健全な発展を考える上でもプラスに働くと考えられることから、鉱業界としても歓迎している。

 一方、鉱業公社の創設に関しては、過去、グアテマラ政府がニッケルの採掘事業を行ったが不採算で失敗した経緯があることから、鉱業界のみならず国会議員の全員が必ずしも賛成しているわけではない。

 何れにしても、今後の国会での審議過程において、例えばロイヤルティの利率が極端に引き上げられたり、過度な環境評価が要求される等鉱業活動に著しく支障を来す内容へと修正されることになれば、当然のことながら然るべき対抗措置を取ることとなろう。

(4) 今後の見通し
 エネルギー鉱山省としては、政権与党である愛国党(PP)が国会の議席数において過半数を占めるに至っていないため(158議席中57議席)、政権運営が不安定であることから、現時点において改正法案の可決成立は不透明である。このため、現行法の運用が今後2~3年は続くとの見通しを示している。

 一方、鉱業界としては、グアテマラでは一般的に法案審議に長時間を有することが普通である上、政府は今回の鉱業法改正に際し多くのセクター(先住民、環境専門家等)を議論に参加させようと考えているため、議論が長引くことが十分に想定されることから、2~5年はかかるとの見通しを示している。ただし、2015年9月に総選挙を控え、既に総選挙に向けた選挙キャンペーンが始まっている中、鉱業法改正は環境保護、住民保護、産業育成等の観点から政治的に利用されやすいテーマであり、鉱業という重要な案件を迅速に処理解決する様を誇示する意味から、今後6~7か月間という早期に可決成立することも考えられる。

 以上を勘案すると、改正法案の可決成立には2~3年の期間を要すると推察される。

2.鉱業モラトリアムの提案

(1) 鉱業モラトリアムの経緯
 前述のとおり、現在グアテマラでは鉱業法改正法案が国会で審議中であるが、既に現政権が国会に本法案を提出してから1年以上が経過したにもかかわらず、可決成立には更に数年を要するとの見通しがなされている。このような状況により、鉱業に対する社会的な不満が徐々に高まり、政府に対しても鉱業政策の不備を指摘し、ひいては政権運営に対する批判にまで発展する結果を招く等政府としても憂慮すべき事態となった。

 このため、政府としては、鉱業に対する不満や政権運営に対する批判をかわすため、2013年7月にPérez Molina大統領が鉱業モラトリアムを発表し、その後国会に関連法案が提出されるに至った。

(2) 鉱業モラトリアムの概要と問題
 鉱業モラトリアムは、現在国会で審議中の鉱業法改正法案が可決成立するまでの期間、又は、本鉱業モラトリアム関連法案の施行後2年間のどちらか短い期間において、民間事業者に対し現行鉱業法で探鉱権、採掘権等鉱業権を付与することを一切禁止するものである。特に本鉱業モラトリアム関連法案では、鉱業法改正法案が国会で可決成立するまでの期間、政府、コミュニティ及び鉱業関係者間において国民的対話を実施するための時間を用意する旨も盛り込まれている。

 一方、本鉱業モラトリアム関連法案の提出は、鉱業法改正法案が可決成立するまでの間における政府に対する批判を逸らす思惑のものである上、鉱業モラトリアムの期間が2年間ということは、2015年9月に予定している総選挙まで問題を先送りする意図が窺え、前政権のとった手法と何ら変わらないとの印象から、かえって政府に対する不信感が募るとの考えも生まれている。

 実際に鉱業モラトリアムが発動されるとなると、その期間中は新たな探鉱、採掘が不可能となるため、特に外国企業による鉱業への投資が激減することとなり、政府が主導している積極的な外資導入による経済成長政策と矛盾するとの懸念が生じると予想される。特に前政権時代では、法的位置付けも無いまま鉱業モラトリアムが発動され、結果、当時探鉱中であった企業は採掘権が取れず撤退した事例もあったことから、今回のケースも同様な結果を招く恐れを懸念する向きもある。

 また、鉱業界は、鉱業法改正、ボランタリーなロイヤルティの創設及び鉱業モラトリアムの発動とこれまでの政府の一連の動きに対し、鉱業政策の一貫性が見えず、大変憂慮している旨を示している。特にグアテマラの憲法上、国は鉱業開発(天然資源開発)を有効に活用していくことが示されているにもかかわらず、鉱業モラトリアムを発動することは憲法で示されている精神に反するため、鉱業モラトリアムは違憲であるとの見解を示すとともに、仮に鉱業モラトリアムが発動されることとなれば、政府を相手に違憲訴訟を起ことも十分に考えられる旨を示している。

 なお、2014年1月末時点において鉱業モラトリアム関連法案は国会で可決成立されておらず、また、鉱業モラトリアム自体も発動はされていない。

(3) 今後の見通し
 現行鉱業法では、探鉱権、採掘権等鉱業権の付与について、エネルギー鉱山省が鉱業事業者から申請があった案件に関し法令で定められた基準に則っているか否かについて審査を実施し、特段問題が無ければ鉱業権の付与を行うこととなっている。しかしながら、エネルギー鉱山省の事務方が審査を行い特段問題が無いとし処理しても、最終的にはエネルギー鉱山大臣が決定を下すこととなっているため、政治的な判断により大臣が承認しないケースも十分に考えられる。これは結果的に鉱業モラトリアムと同じ効力を発揮するものと考えられることから、政府関係者の中には、本鉱業モラトリアム関連法案を敢えて国会で承認する必要が無いとして、承認されないとの見通しを示す者もいる。

 一方、鉱業界としては、鉱業に対する反対運動を沈静化させる目的から、本鉱業モラトリアム関連法案は国会で可決成立するとの見方を示している。

 以上の点を踏まえると、本法案の国会での可決成立の見通しに関しては、全くの不透明と言わざるを得ない状況である。

3.ボランタリーなロイヤルティの合意

(1) 経緯と目的
 グアテマラでは、個人、法人を問わず鉱業を行う者が鉱業活動を行うために土地を使用する場合、鉱業法に基づき売上高の1%をロイヤルティとして国に納めることが義務付けられている。

 これに対し国民(特に鉱山周辺住民、環境保護団体、人権保護団体等)から、鉱業企業は採掘により多大な利益を上げているにもかかわらず、それに見合った適切な対価を国に納めておらず、社会的に見てロイヤルティの利率が低すぎるとの意見が多数政府に寄せられるとともに、鉱業企業に対する反対運動や暴力を伴った抗議活動が行われる等社会的に大きな問題が発生していた。

 前政権時代には、国民による反対運動や暴力を伴った抗議活動が頻繁に行われるとともに、政府に対しても怒りの矛先が向けられたことから、政府は国民の怒りを静める方策として鉱山会社に対するライセンスの付与を停止する等の措置を施し、問題を先送りすることによりその場を治める方策を講じた。

 しかしながら、現政権はこのような事態を憂慮し、政府は鉱業法改正の検討を鉱業界と進める中で、ロイヤルティに関する検討も合わせて行った結果、2012年1月に、鉱業法で規定するロイヤルティに上乗せする形で、新たにボランタリーなロイヤルティを創設することで両者が合意した。

(2) ロイヤルティの概要
 金属に関するロイヤルティは、現行鉱業法上、売上高の1%と規定されているが、新たにボランタリーなロイヤルティとして、金、銀、プラチナ等貴金属に関しては4%、ニッケル、銅、亜鉛等ベースメタルに関しては3%を追加し、それぞれ合計で5%ないし4%のロイヤルティを国へ納入することとなった。

 なお、ボランタリーと称しているが、政府として正式に公布したものであることから、各鉱業企業は一律に国へ納入することが求められている。

(3) 政府の企図と結果
 政府としては、ボランタリーなロイヤルティを追加しロイヤルティの利率を上げることにより、反対派の理屈が無くなり、反対運動や暴力を伴った抗議活動が消滅するものと目論んだ。

 結果として、実力行使による抗議活動は沈静化したが、周辺環境の破壊や先住民に対する人権問題等といった新たな問題を持ち出すことにより、別の次元による反対運動や抗議活動が展開されることとなった。

(4) 鉱業界の見解
 今後鉱業が健全に発展していくためには、企業として相応の対価を国に支払うことは必要であり、そのためのボランタリーなロイヤルティの創設は必然である。更に、ボランタリーとはいえ、政府が正式に公表しているものであるため、決して曖昧であるとの認識はもっていない。

 ボランタリーなロイヤルティを検討するに当たり、実際に鉱業企業として鉱区税やロイヤルティ等を合計してどの程度国に支払うこととなるのか、世界各国の状況と比較するベンチマークを実施した。結果として、鉱区税、ロイヤルティその他を加えた合計は収益の35~40%程度であり、世界的に見ても妥当であると認識している。ただし、今後これ以上の利率になるようであれば鉱業界としても看過できず、それなりの対応が予想される。

4.鉱業活動に対する反対運動の状況

(1) 反対運動発生のメカニズム
 近年グアテマラで発生している鉱業活動に対する反対運動は、実際に鉱業活動により周辺環境や住民への被害や悪影響をもたらしている又はもたらす可能性があるが故に行われているものは少なく、反対運動を通じて自らの活動(例えば環境保護活動や人権保護等)を誇示したり、純粋に金銭等利益を獲得するために行われるケースが大半を占めている。

 その根拠としては、大きく2つが挙げられる。

 1つ目としては、一部先住民族による反対運動を除き、大半の反対運動は鉱山周辺の住民が自ら問題を認識し活動を始めると言うよりも、世界的に活動を行っている環境活動家等当該鉱山周辺以外の者が入り込み、周辺住民に対し様々な情報(時には誤った情報等)をもたらすことによりこれら周辺住民をけしかけ、反対運動を組織し、大規模な抗議活動へと導くといったことが行われている。これに関しては、鉱業企業や政府・自治体が周辺住民に対しきちんと情報を公開し当該鉱業活動の現状を説明することにより、当該周辺住民は事実を理解し反対運動から徐々に離脱する等最後は沈静化に向かっている実態がある。

 2つ目としては、反対運動の根拠となる問題が解消しても新たな問題を見つけ出すことを繰り返し、反対運動自体を継続化するケースであり、時間が経過するにつれて当初の反対運動の根拠となる問題とは全く違った問題で抗議するパターンである。これに関しては、3.で触れたとおり、ロイヤルティの低さを問題視していた反対運動が、ロイヤルティの低さが解消された途端、周辺環境の破壊や先住民に対する人権問題等といった新たな問題を持ち出すことにより反対運動を継続している実態がある。

 その他としてグアテマラにおける反対運動における特徴には、反対派の活動資金が欧州の環境活動グループ等から提供されていること、また、環境活動家以外に中核として存在する組織にカトリック教会が関与していること等が挙げられている。

(2) これまでの対応と今後の課題
 このような反対運動に対して鉱山会社もこれまでに様々な対応を図ってきているが、一企業だけで問題を解決することは非常に困難な状況である。

 一方、政府としては、雇用創出や税収による国家財政の健全化等鉱業がもたらす経済効果が大きいとの認識の下、これら反対運動による社会的問題を解決するために、反対運動の対象にされた鉱山や鉱業プロジェクトに関するあらゆる情報を積極的に公開したり、一部反対派が示す情報の真偽を明らかにし、事実と異なる場合にはその旨を周辺住民に伝える等の対策を近年実施している。

 具体的には、エネルギー鉱山省と環境天然保護省がお互いの持ちうる情報を交換しながら、鉱業による環境破壊等が行われていないことを確認、証明し、最終的にこれらを公表したり、環境破壊等が行われていないことを科学的に証明するための費用として5百万ケツァル(6,500万円)を投入する等政府としても対策を進めている。

 今後の課題としては、官民が連携し情報公開をより積極的に、かつ、より円滑に進めるため、情報公開を組織的、体系的に進められるよう制度化することが求められている。

 特に、グアテマラは、1989年に国際労働機関(ILO)総会において採択されたILO169号条約「独立国における原住民及び種族民に関する条約」を1996年に批准していることから、鉱業に限らずあらゆる開発プロジェクトが開始される前には当該地域の先住民と協議を行うことが必要とされているため、このような場を上手に活用し、住民等に対し積極的に情報を公開していくことも求められる

 また、環境影響評価に関し、エネルギー鉱山省と環境天然保護省両省における解釈の相違があるとの報道が一部でされたが、鉱業法において採掘権の許可に際し環境影響評価は必要なく、現状エネルギー鉱山省もそれを要求していない。一方、環境保護改善法に基づき、鉱業に限らず全ての開発プロジェクトはその開始に先立ち、環境影響評価を国家環境委員会に提出し承認されることが義務づけられており、その運用を環境天然保護省が担っている。こうした状況において、実際には環境天然保護省が環境影響評価の承認に関する手続きを行う際、エネルギー鉱山省に対し情報共有として個々の承認案件に関する情報を提供しているとのことで、鉱業界も当該事情を認識している一方、政府部内及び鉱業界以外にはこのような状況が上手く伝達(理解)されず、冒頭のような報道が流れたと推察される。

 このように、正確な情報がしっかりと伝達されないが故に誤解を招く、又は、曲解され反対運動に利用されるケースが少なくないことからも、同国のおいて、いかにより多くの正確な情報を的確に国民に伝えるかが鉱業を推進していく上での鍵となろう。

※ グアテマラは、非先住民が人口の30%に対し先住民が46%である上、20を超える部族と、20を超える言語が存在しているため、先住民問題は社会的に見てデリケートな問題となっている。

5.加Tahoe Resources社(現地法人Minera San Rafael, S.A.社)の動静

(1) Escobal多金属鉱山の状況
 Escobal多金属鉱山は、グアテマラシティから南東約70 ㎞、エルサルバドルとの国境から20~30 ㎞程度内側に入った地点に位置する。2010年にTahoe Resources社が加Goldcorp社から買収、本鉱山の運営、管理を行う現地法人としてMinera San Rafael, S.A.社を設立し、これまでに3,200百万ケツァル(416億円)を投資し開発を進め、2013年4月に25年間の採掘権を取得、同年9月に試験生産を開始、同年10月に銀精鉱出荷を開始すると、2014年1月から銀及び亜鉛精鉱の本格的な商業生産を開始した。

 なお、本鉱山開発に際しては、犯罪組織による襲撃事件や暴力的な反対運動等が発生したが、政府による非常事態宣言に伴う集中的な取締り等により、商業生産の開始を当初計画より3か月程度の遅れに抑えることができた。また、これら暴力行為等に関しては、政府による取締り以降、現在まで発生していない。

 2012年5月に同社が発表した経済性評価結果は、表1.のとおりで、概測資源量は27.1百万t、年間銀生産量622 tで鉱山寿命は20年以上と見積もられている。

表1.Escobal多金属鉱山の経済性評価結果

  平均品位 含有量
422g/t 11,431t
0.43g/t 11.6t
0.71% 192千t
亜鉛 1.28% 347千t

出典:Tahoe Resources社HP

 本鉱山は、世界5大銀鉱山の一つにあげられており、同国においては加Goldcorp社が保有するMarlin金・銀鉱山に次ぐ規模を有する。現在粗鉱処理量は2,500 t/日に達しており、2014年末に3,000 t/日、2018年までに最終目標である3,500 t/日を目指している。

 本鉱山として法人税、鉱業税のほかにボランタリーなロイヤルティを含む国に対する2013年の納税額は625百万ケツァル(81.3億円)で、これはMinera San Rafael, S.A.社の収益1ドル当たり35セントの納税に相当する。

 Minera San Rafael, S.A.社として本鉱山に携わる労働者を830人直接雇用するほか、鉱山開発期間中には1,200~1,500人の協力者を雇用する等周辺コミュニティにおける雇用創出に寄与してきた。

(2) その他トピックス
 2013年末にTahoe Resources社がEscobal多金属鉱山に続く第2の鉱山開発をグアテマラで検討するとの報道が一部流れたが、同社としては現時点において全くそのようなことは検討していない。

6.加Goldcorp社の動静

(1) Cerro Blanco金・銀プロジェクトの状況
 Cerro Blanco金・銀プロジェクトは、グアテマラシティの東80 ㎞、エルサルバドルとの国境付近に位置する。2012年に同社が発表した経済性評価結果は、表2.のとおりである。

表2.Cerro Blanco金・銀プロジェクトの経済性評価結果

 
資源量 平均品位 含有量 資源量 平均品位 含有量
概測・精測 2.52百万t 15.64g/t 39.5t 2.52百万t 72.00g/t 181.3百万t
予測 1.35百万t 15.31g/t 20.8t 1.35百万t 59.60g/t 80.6百万t

出典:Goldcorp社HP

 本プロジェクトに関しては、2013年1月に隣国エルサルバドルの検察庁が本プロジェクトの開発によりエルサルバドル国内の河川が汚染される恐れがあるとして、グアテマラ政府に本プロジェクトの中止を勧告するよう米州人権委員会に要請したり、同年8月にエルサルバドルのNGOが同社に対し環境保護の観点から本プロジェクトの中止を要請した経緯を有する。

 同社は、そもそも本プロジェクトはエルサルバドル国境に位置するとはいえ、グアテマラ国内のみに位置しているため、本プロジェクトはエルサルバドルに何ら影響を与えるものではないとの認識をもっているが、グアテマラがエルサルバドルと協力関係にある国であることから、グアテマラにおいて法律に基づき情報公開を行っているのと同様に、エルサルバドルに対しても情報公開を実施している。

 なお、同社によると、エルサルバドル政府はグアテマラの専門家による本プロジェクトに対する評価を元に特段問題なしとの見解を示していたが、エルサルバドルのファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)党が政府の見解と相違し、前述の米国人権委員会に中止勧告を求めたとのことであり、2014年に予定している大統領選挙をにらんだ政治的背景が影響しているとの見解を示している。

 同社としては、以上のような中止要請を含む反対運動の発生、昨今の金属市況価格の低迷、開発コストの上昇等が見受けられるため、今後これらがどのように変化するかによって開発スケジュールが決定されるとしつつ、一方で既に採掘権を取得していることは開発を進めていく上ではプラスポイントとして認識しており、今後新たなFSを行い改めて本プロジェクトの推進について検討する予定である。

(2) Marlin金鉱山の状況
 Marlin金鉱山は、グアテマラシティの北西約300 ㎞に位置する。2005年から生産を開始、2011年に生産量のピークを迎え現在生産量が低下しており(表3.)、2016~17年にかけて更に生産量が減少し、2018年に生産を終了する見通しである。当初から鉱山寿命を10~12年を見込んでいたため、概ね当初見込みどおりになると考えられる。

 通常永続的に鉱山から収益を確保するため、採鉱中の鉱脈・鉱区周辺に新たな鉱脈を探査するが、本鉱山においては生産の効率化により当初鉱山寿命内での確実な収益確保を主眼としている。

表3. Marlin金鉱山の金生産量の推移

  2010年 2011年 2012年 2013年
金生産量 9.2t 11.9t 6.4t 6.3t

出典:Goldcorp社HP

おわりに

 以上報告したとおり、現在グアテマラでは国会において鉱業法改正や鉱業モラトリアムに関する審議が継続されているが、2015年に予定されている総選挙を見据えた政治的な動きにこれらが繋がる様相を呈してきており、今後の国会での審議経過も予断を許さない状況である。

 一方、鉱業企業の活動に関しても、一時期のような暴力行為を伴った抗議活動は鳴りを潜めてはいるものの、環境活動家や先住民等による反対運動が完全に消滅したわけではなく、また暴力行為を伴った抗議活動が再開されないとも断言できないことから、こちらの方も依然として健全な状況であるとは言えない。

 このような状況を踏まえつつ、鉱業法改正や鉱業モラトリアム等の着地点がどのようなものになるのか注視していく必要があると思われる。

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