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報告書&レポート

2014年5月22日 バンクーバー事務所 山路法宏
2014年18号

ケベック州における鉱業法改正及び州政権交代に伴う鉱業投資環境の変化

 ケベック州は、民間調査機関であるFraser Institute社が毎年発表している調査「Survey of Mining Companies」における鉱業政策指数が2007 ~2009 年の3 年間で首位となるなど、政策面でも鉱業投資環境が優れている国/州と評価されていたが、その後当該評価は下降線をたどっており、2012 年にはトップ10 から陥落し、最新の2013 年調査では21 位と大幅に順位を下げている。この主な要因は、鉱業法や鉱業税法の改正の動きに加え、州政権交代に伴う政策変更、少数与党による不安定な政治情勢などから引き起こされる鉱業政策の不確実性にあると分析されており、企業投資意欲の減衰要因となっていた。

 こうした中で、昨年12 月に鉱業法改正法案が成立し、本年4 月に行われた州議会総選挙では経済開発推進派のケベック自由党が再び政権に返り咲いたことで、今後の鉱業政策の安定化、経済開発の促進を期待する声が高まっている。

 本稿では、Fraser Institute社による調査の結果により、カナダにおけるケベック州の投資環境の位置付けと、州議会総選挙の概要及び政権交代に伴うケベック州鉱業への影響について考察すると共に、鉱業法改正に至る経緯と改正内容について概説する。

1. 鉱業政策指数ランキング

 Fraser Institute社の調査は、毎年世界の大手鉱山会社やジュニア企業を対象に、世界の主要な資源国・州における鉱業投資環境についてアンケート調査を行った結果を基に、世界の鉱業投資環境のランキング付けを行っている。2013 年調査は、2013 年9 月17 日から12 月1 日の期間に、4,100 名以上の鉱業関係者に対してアンケート調査を依頼し、690 名より回答を得て、112 の資源国・州に対するデータが集計された。なお、アンケートに参加した企業の2013 年の総探鉱予算額は34億US$(前年46億US$)であった。

 この調査では、アンケート結果を基に、前述の鉱業政策指数を含めて以下のような指数が公表されている。

✓ 鉱業政策指数(Policy Perception Index)

✓ ベストプラクティス環境下での地質ポテンシャル指数(Best Practices Mineral Potential Index)

✓ 現鉱業政策環境下での地質ポテンシャル指数(Current Practices Mineral Potential Index)

✓ 投資改善余地指数(Room for Improvement)

✓ 投資魅力度指数(Investment Attractiveness Index)

 地質ポテンシャルを示す指数が2 通り存在するが、当該国・州による鉱業政策が最善の状態であると仮定して評価を行うベストプラクティス環境下での指数の方が純粋な地質ポテンシャルを表している。投資改善余地指数は、現在とベストプラクティスとの差が反映されるため、開発途上国の数値が大きくなる傾向がある。また、鉱業政策指数とベストプラクティス地質ポテンシャル指数をかけ合わせた投資魅力度指数が、鉱業政策及び地質ポテンシャルの両面を踏まえた投資環境を示す指数となるが、この数値はアンケートに基づいて鉱業政策指数とベストプラクティス環境下での地質ポテンシャル指数の重点比率を40 :60 の比率でかけ合わせて算出されている。

1-1. カナダの主要な州・準州の鉱業投資環境ランキング

 本稿の冒頭で触れた鉱業政策指数について、カナダの主要な州・準州の過去10 年間の推移を図1に示す。

図1.カナダの主な州・準州の鉱業政策指数ランキング

 この図で明らかなように、ケベック州は近年大きく評価を落としている。2013 年調査では、そのネガティブ要因として、先住民問題、法令の変更、新鉱業法改正に伴う不確定要素(アンケートは鉱業法改正案成立前)、鉱業税率の増加など、産業界にとって環境規制がより厳しくなっているとの回答者のコメントを紹介している。

 この鉱業政策指数に地質ポテンシャル指数を組み合わせた投資魅力度指数の推移を図2に示す。ほとんどの州・準州は鉱業政策指数の動向と連動しており、ケベック州はやはりここでも2012 年以降評価を落としていることが分かる。

図2.カナダの主な州・準州の投資魅力度指数ランキング

 ケベック州では多くの企業が探鉱活動を行っており、関心も高いことから、Fraser Institute社は、2013 年12 月に本調査とは別に、ケベックの鉱業政策に関する調査「Quebec’s Mining Policy Performance」を発表しており、投資に対するハードルとして以下の4 つを挙げている。

 自然保護区域、州立公園及び先住民地域としての保護区域の不確実性

 新鉱業税制

 環境規制の不確実性

 規制の重複や矛盾

 保護区域に関しては、鉱業法改正が長引く中で内容が何度も変更され、最終的にどの区域が保護区域となるのかが不確定な状況にあったことから、この要因によって投資を中止または抑制した企業が半数以上に上ったとしている。特に、都市区域とリゾート区域の鉱業対象地域からの除外や、公共の利益を目的とした大臣への採掘権リースの申請拒否権や中止の権限の付与などに対する懸念が大きかったが、2013 年12 月に鉱業法改正案が成立し、これらの改正内容も削除や緩和がなされたことで、今後はこの点に関する懸念はある程度払拭されるものと思われる。これは、環境規制の不確実性においても、同様のことが言えるであろう。

 また、規制の重複や矛盾については、これまでも連邦政府と州政府による環境影響評価に係る手続きの重複が指摘されており、鉱業法改正案の中で、鉱区取得後の土地所有者への通知や鉱区へのアクセス前の書面による承諾、公聴会の開催、モニタリング委員会の設置など、地方政府や土地所有者、地域コミュニティに対する手続きの増加が見込まれるほか、州内での選鉱に関する事業化調査の実施も求められるなど、一層のコストや時間がかかるとの懸念を指摘したものである。しかし、こうした改正案の一部が緩和された新鉱業法が成立したことで、新たな対応を受け入れる企業を中心に、抑制していた投資も再開されるのではないかと思われる。

 一方で、鉱業税法改正については、2014 年1 月からの適用を目指して州議会で審議されていたが、現時点においても成立しておらず、税法改正に伴う負担増を懸念する鉱業界にとって引き続きネガティブな要素となっている。

2. ケベック州議会総選挙

 現在のケベック州議会は、左派独立派で社会民主主義のケベック党(Parti Québécois)、1955 年に連邦レベルの自由党から独立したケベック自由党(Parti Libéral du Québec)、2011 年に旗揚げして2012 年にケベック民主行動党(Action démocratique du Québec)が合流した中道右派・連邦維持派のケベック未来連合(Coalition Avenir Québec)、そして左派独立派のケベック連帯(Québec solidaire)の4 政党が議席を有している。本年4 月7 日に実施された総選挙では、ケベック自由党が過半数の議席を獲得して政権与党に返り咲くこととなった。

図3.ケベック州議会選挙 各政党の獲得議席数推移(総議席数125)

2-1. 2014 年州議会総選挙概要

 図3で示されるとおり、過去ケベック党とケベック自由党が2 大政党として政権を担ってきており、2012 年に行われた前回選挙では、ケベック党が9 年ぶりに政権復帰を果たしている。しかしながら、ケベック党の獲得議席数は125 議席中54 議席で過半数に届かない少数与党となったために、当初より予想されたとおり、マロワ首相は難しい政権・議会運営の中で綱渡りの政局を強いられることとなった。

 こうした状況を打破するため、議会の解散総選挙を決意したマロワ首相は、2014 年3月5 日に州議会を解散し、約1 ヶ月後の4 月7 日に総選挙が行われることとなった。しかし、結果はケベック党が30 議席と大幅に議席数を減らし、ケベック自由党が70 議席と単独過半数を獲得して再び政権に返り咲くこととなった。

表1. 2014年州議会総選挙結果

政党 獲得議席数(前回) 得票率(前回)
ケベック自由党
(Parti Libéral du Québec)
70 (50) 41.52% (31.20%)
ケベック党
(Parti Québécois)
30 (54) 25.38% (31.95%)
ケベック未来連合
(Coalition Avenir Québec)
22 (18) 23.05% (27.05%)
ケベック連帯
(Québec solidaire)
  3 ( 2)   7.63% ( 6.03%)
その他   0 ( 0)   2.42% ( 3.77%)
総議席数  125 (125) 100.00% (100.0%)

 このケベック党の敗北については、マロワ党首の選挙戦略、特に独立問題に関する戦略の思惑が外れたためと見られている。ケベック党は、ケベック分離独立を目指して設立され、過去には1980年及び1995年の2度にわたり分離独立の是非を問う住民投票も実施している。しかし、いずれも結果は否決されたことで独立運動が下火となり、その後は州民の独立への支持が年々減少し、党員も減り続けた結果、2007年の選挙で同党は野党第二党へ転落する事態となった。そうした中で同党初の女性党首となったマロワ首相は、独立についての発言を避けて否定も肯定もしない戦略をとり続けることで、ケベック党支持者を失望させずに他党、特にケベック未来連合の支持者を取り込み、2008年の選挙で野党第一党に復帰し、前回の2012年選挙では少数政党ながら政権の奪取に成功していた。一方、マロワ首相は、民族主義的政策をアピールするために2013年9月にケベック価値憲章草案(Charte des valeurs québécoises)1を発表しており、今回の選挙では独立ではなく、この価値憲章を争点とする戦略であった。

 しかし、議会の解散が決まった直後は同党が過半数を獲得するとの報道も見られたものの、その後、同党が擁立した候補者によるケベック独立への言及や、ケベック党が勝利すれば再び独立に関する住民投票が行われるというケベック自由党によるネガティブキャンペーンなどから、改めてケベック独立が争点となってしまうなど、マロワ首相の思惑が外れたことで、同党の支持者が他党に流れてしまったと見られている。マロワ首相自身も落選し、選挙直後に党首辞任を表明(6 月7 日の党会議で辞任予定)。4 月16 日には政界からの引退も表明した。

2-2. 政権交代に伴う鉱業への影響

 鉱業界をはじめ産業界からは、今回の政権交代による産業への好影響を期待する声が多く、その理由として以下のような点が考えられる。

 ケベック党の惨敗によるケベック独立への懸念の払拭

 単独過半数与党の誕生による政治の安定化

 ケベック自由党の勝利による経済成長促進への期待

 ケベック自由党の北部開発計画「Plan Nord」の復活への期待

 特に、鉱業界ではジュニア探鉱企業を中心に、ケベック州北部で探鉱・開発が多く行われており、北部のインフラ開発はそうしたプロジェクトの実現可能性に大きく寄与することから、大きな関心事項の1つとなっている。ケベック党も、2012 年に与党となった後の2013 年5 月に、北部開発計画「Le Nord pour tous」を発表したものの、道路建設、住宅、州立公園及び職業訓練センターの建設など社会対策に軸足が置かれたものとなっていた。また、ケベック党が政権与党となって以降、多くの鉱業投資が保留されたことから、当該計画の財源確保に対する懸念も指摘されていた。

 ケベック自由党は、今回の選挙公約の中で、停滞しているケベック州経済を復活させるために、住宅向けの改修税額控除や、ケベック党が10 年間で約150億C$の予算削減を行っていたインフラ計画(Quebec Infrastructure Plan)を復活させることにより、短期的に経済と雇用創出を活性化させて、企業投資を後押しする環境を整備すると宣言している。また、こうした短期的な取り組みに加えて、2年前に発表した北部開発計画の拡張版「Plan Nord +」2を実施し、海洋戦略(Maritime Strategy)3を展開させるほか、中小企業ビジネス開発、技術革新並びに輸出を促進する方策を採ることで、中長期的なGDPの拡大を計画している。財政再建化を目指す均衡予算の中で、こうした経済活性化政策がどの程度実現されるのかが、鉱業界のみならずケベック州の産業全体の発展の鍵となるものと思われる。

3. 鉱業法改正

 2013 年12 月9 日、州議会で鉱業法改正案が採択され、翌10 日に施行された。採択までに長い期間を要し、かつ内容が何度も変更されたこの鉱業法改正は、投資における不安材料として前述のFraser Institute社による投資環境指数の下落を招く主要因の1つとなっていた。紆余曲折を経て新鉱業法が成立したことで、近年抑制されてきた投資が再び活発化することが期待されている。

3-1. 背景

 鉱業法改正に代表される最近の鉱業関連政策の変遷はケベック州会計検査院が2009 年4 月1 日に提出したある監査報告書に端を発している。当該報告書において、同州天然資源・野生生物省(Ministry of Natural Resources and Wildlife)の鉱業業界に対する介入・管理の現状を批判されたのである。

 本監査の目的は、ケベック州社会が長期にわたって最大の利益を得るために、経済、社会、環境に関する各基準を同省がどのように融合させているのか、また、同省の管理メカニズムは鉱業が環境に与える影響を最小限に抑えられているのか、等を検証・評価することにあった。その結果、州政府の関与が不十分であるとして、鉱物資源戦略の策定やロイヤルティ率の再評価、民間企業の投資決定を促すための情報収集・提供ツールの開発等、いくつかの提案がなされた。

 これを受け、同年6 月29 日、州政府は以下の3 つを柱とした初めての鉱物資源戦略「Preparing the Future of Quebec’s Mineral Sector」を発表している。

1)富の創出と鉱業セクターの将来像の提示

2)環境調和型鉱物資源開発の実現

3)コミュニティと調和した鉱物資源開発の促進

 この戦略では、鉱業ロイヤルティ制度の再評価や、鉱山会社が支払う鉱山跡地修復のための保証金の拡大、環境影響評価の対象とするプロジェクト規模の引き下げ(対象の拡大)、公聴会の開催、開発における地方自治体の役割の拡大、鉱区保有者による土地所有者や占有者への鉱区取得通知の義務化、鉱業活動の禁止区域の指定、天然資源大臣への採掘権リースの認可への拒否や打ち切りを可能とする権限の付与などが提案され、州政府はこれらを実現するために鉱業法の改正を発表した。その後の鉱業法改正案の内容は、この鉱物資源戦略が基本となっている。

3-2. 鉱業法改正の変遷

 しかし、鉱物資源戦略を発表した後、州政府は最終的に鉱業法の改正を成し遂げるまでに4 年半の歳月を費やすこととなる。

 最初の鉱業法改正案(Bill 79)が議会に提出されたのは2009 年12 月である。当該法改正の主目的は、鉱山跡地修復コストの財務保証範囲の拡大、探鉱活動の活性化、私有地における鉱物資源の所有権の明確化にあり、Bill 79は、鉱物資源戦略の3 本柱に沿って構築された。また、Bill 79では、鉱業ロイヤルティ率の変更についても、2010 年春の間に提示することが示されていた。鉱業界はいくつかの懸念はあるとしながらも総論としては賛成する意向を示していたが、結果として審議未了により廃案となったため、ケベック州鉱業協会(Quebec Mining Association)は次の議会で改めて提案されないことに失意を表明している。

表2. 鉱業法改正法案成立までの変遷

  2009/4/1

  2009/6/29

  2009/12/2

  2011/5/12

ケベ

ク自由党

  ケベック州会計検査院が監査報告書を提出

  鉱物資源戦略を発表

  鉱業法改正案(Bill 79)を議会へ提出(審議未了で廃案)

  鉱業法改正案(Bill 14)を議会へ提出(審議未了で廃案)

  2012/9/4

  2013/5/29

  2013/10/30

  2013/12/5

  2013/12/9

ケベ

ク党

  州議会総選挙でケベック党が勝利し、少数与党の政権が誕生

  新鉱業法案(Bill 43)を議会へ提出

  賛成51、反対57でBill 43が否決

  鉱業法改正案(Bill 70)を議会へ提出

  賛成99、反対2でBill 70が可決(翌12/10付けで施行)

 2 度目の挑戦はその1 年5 ヵ月後の2011 年5 月である。新たな鉱業法改正案(Bill 14)は、その名称を「Mining Act(鉱業法)」から「Act Respecting The Development Of Mineral Resources In Keeping With The Principles Of Sustainable Development(持続可能な開発を原則とする鉱物資源開発に関する法律)」に変更するなど、持続可能な資源開発を前面に出しながら、Bill 79で導入された変更点は残しつつ、前回のBill 79の審議中に開かれた公聴会で寄せられたコメントを反映する形で修正が加えられた。修正案をいくつか挙げると、毎年の作業計画の提出、Bill 79では認めなかった鉱区更新時に最低義務探鉱費4を満たせなかった場合の現金支払いを認める代わりに最低義務探鉱費の2 倍の支払いを要求、修復作業の開始時期を閉山から3 年以内と明示、などの変更が加えられたが、このBill 14も、ケベック党が2012 年9 月に新政権を発足した後に廃案となっている。

 政権与党となったケベック党も鉱業法改正への取り組みを継承し、2013 年5 月には、前回のBill 14の改正内容を若干修正した内容を盛り込む形で、鉱業法改正案ではなく鉱業法を全面改訂する新鉱業法案(Bill 43)を議会に提出した。この改正案は、生産規模や対象鉱物にかかわらず全ての採掘場や選鉱場を環境アセスメントの対象5とし、採掘権リースの付与条件においても、環境質法(Environment Quality Act)に基づく修復計画の承認や、ケベック州内で鉱石の加工を行う場合の事業化調査(Feasibility Study)6の実施を求めたもので、同年10月末に採決までこぎつけたものの、結果は賛成51、反対57で否決された。

 しかし、州政府はその約1 ヶ月後の12 月5 日に、今度は鉱業法の改正案として法案(Bill 70)を提出した。Bill 70では、Bill 43の審議において野党や鉱業界、先住民団体から受けた批評を受け入れ、環境アセスメントの実施を2,000 t/日以上の処理能力があるプロジェクトに限定し7、州内での鉱石加工に関する事業化調査についても、企業負担を軽減するために、市場調査(Scoping and Market Study)の実施に緩和するなど、鉱業界に対してより融和的な修正が行われたほか、原住民とのコンサルテーションに対する政策の策定及び公表を大臣に要求した。このBill 70は、週明けの12 月9 日に賛成99、反対2 でスピード可決され、翌12 月10 日付けで施行された。

3-3. 改正内容

 新鉱業法の主な変更点を、その途中の改正案での変遷を含めて表3に示すが、特に影響が大きいと思われる改正点としては以下のものが挙げられる。

<探鉱段階>

 鉱区取得後60 日以内に地上権保有者に対して通知、地方自治体の管轄区域に所在する場合は探鉱活動の30 日前までに作業内容を通知

 毎年当該鉱区における作業計画を提出

 鉱業税法「Quebec Mining Tax Act」に基づき、探鉱費(Exploration Allowance)もしくは開発費用(Pre-production development Allowance)を当該年度の課税所得から控除する場合には、当該鉱区における探鉱活動の報告に当該費用に関する作業も明示

 現金支払いにより鉱区を更新する場合には、最低義務探鉱費もしくはその不足分の2 倍を支払う

 最低義務探鉱費を超過して支出した探鉱費用を次回更新用に繰越できる8期間を無期限から最大12 年に限定し、採掘権リースでの更新用として繰り越すことも不可とする

 0.1%以上のウラン酸化物を含む鉱物を発見した場合は、90 日以内に持続的開発・環境・公園省大臣へ申告

<開発・操業段階>

 採掘権リースの発行には、鉱床の存在及びリース料の支払いに加えて以下の条件が追加

・以下の環境質法(Environment Quality Act)による修復計画の承認

・モニタリング委員会の設置

・2,000 t/日未満の生産能力のある鉱山開発プロジェクトにおける公聴会の開催

・州内での選鉱に関する市場調査(scoping and market study)の実施

 採掘権リースで最低義務作業量9を満たさない場合の現金支払いによる更新は不可とする

 修復費用の保証金としての積立を70%から全額に変更し、修復は閉山から3 年以内に着手

 環境影響評価の対象を、処理能力7,000 t/日以上から2,000 t/日以上に拡大

4. まとめ

 カナダのジュニア探鉱企業は、これまでカナダ国内はもとより世界中で活発な探鉱活動を行ってきたが、昨今の金属価格低迷によって資本市場での資金調達が困難な状況に置かれており、探鉱活動の抑制、プロジェクトの休止、権益の一部または全部の売却等を余儀なくされている。大手鉱山会社にも影響は及んでおり、ノンコア資産を売却し、主力事業に注力する傾向が見られる。こうした厳しい経営環境に直面する中で、鉱業政策という企業がコントロールできない部分において、企業の経済的負担が将来増加する恐れのあるケベック州に対する鉱業投資は近年敬遠されてきた。しかし、新鉱業法の成立による不確実性の払拭と、ケベック自由党の単独政権誕生による政治の安定、経済開発促進への期待などから、ケベック州での鉱業投資は再び活発化するものと期待されている。

 一方で、いまだ不確定要素として残されている鉱業税法改正の議論や、財政再建を目指す新政権によるPlan Nordを含めた経済再生計画の実現可能性など、投資環境の優れた州としての評価を得るためにはまだ時間を要すると思われることから、引き続き、ケベック州政府の政策動向を注視する必要がある。

 ケベック州では探鉱活動を始め金属鉱業が盛んであるが、現時点で日本企業による鉱業分野での投資はそれほど活発ではない。これは、日本への輸送を考慮した際の地理的な問題が大きく、ケベック州に限らずカナダ中東部においては、比較的投資に消極的な姿勢が見られる。しかしながら、ベースメタルと比較して規模が小さく、また地質学的に資源の賦存地域が限定されるようなレアメタルを中心に、近年ではこうした中東部地域でも一部の日本企業による投資や関心が散見されるようになっている。白金族やリチウム、レアアースなどの資源も豊富なケベック州では、カナダ企業をはじめ多くの企業が探鉱を行っており、北部のインフラ整備や将来の北西航路などへの期待もあることから、中長期的にみれば、日本勢としても注目すべき州の1 つである。

 今般の鉱業法改正及び州政権の交代を1 つの契機として、探鉱開発が再び活発になり、ケベック州の鉱業が発展していくことが期待される中で、日本企業による投資が積極的に行われることを期待したい。


1 ケベック社会が圧倒的多数を占めるフランス文化が圧倒的少数民族からの脅威にさらされているとの理由から、宗教に対する合理的配慮(Accommodation)による更なる社会的緊張を避けること、ケベックの価値を確認すること、宗教的中立性を確立することを目的として、公務員による職務中の目立つ宗教的シンボル着用の禁止や、公的サービスを提供し受ける際に(学校や公共施設内で)顔を覆わないことの義務化などを提案。イスラム教徒をはじめ、これにより解雇や学校へ通えなくなることを懸念する人々の反発を受けるなど大きな議論を巻き起こした。

2 当初の計画のままでは芸がないとして、鉱業界における州内でのビジネス拡大を支援することと、より多くの税収をコミュニティと分け合うことの2つの要素を加えた。

3 経済発展と海上輸送に伴う温室効果ガス排出削減を目的とした港湾設備投資、複合一貫輸送開発、造船所の競争力強化、海洋観光開発、漁業及び養殖業の耐久力強化、海洋技術のR&Dによるブルーエコノミー(Blue Economy)の実現、訓練プログラムの展開・促進による熟練労働者不足への対応などの方針を掲げている。

4 鉱業規則「Regulation respecting mineral substances other than petroleum, natural gas and brine」(以下、「鉱業規則」という)により、鉱区保有者は鉱区の広さに応じて毎年一定額以上の探鉱支出(minimum cost of work)の義務を負う。

5 当時の鉱業規則では7,000 t/日以上の選鉱処理能力のあるプロジェクトが対象。

6 選鉱のみならず、選鉱した鉱石の加工業(製錬や精錬)まで含めた事業を対象とするF/Sの実施。地元での付加価値化を望む州側の意向が透けて見える。

7 ただし、2,000 t/日未満のプロジェクトに対しては採掘権リース付与の条件に公聴会の開催を義務化。

8 探鉱権が設定された鉱区の更新のためには、最低義務探鉱を満たしていれば良いが、最低義務探鉱費を超過して支出した探鉱費用についても、次回以降の更新時に必要な最低義務探鉱費の一部として繰り越して計上できるほか、対象鉱区の隣接鉱区の最低義務探鉱費の一部として計上することも可能(隣接鉱区の条件である「当該鉱区を中心とした半径4.5 km以内」という範囲を小さくする改正案も出たが、最終的にはこの条件は改正されなかった)。

9 最低義務探鉱と同様に、採掘権リース保有者は毎年一定額以上の作業支出(minimum cost of work)の義務を負う。

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