閉じる

報告書&レポート

2014年5月29日 ロンドン事務所 竹下聡美
2014年19号

ニッケル需給、2014年にタイト化、長期的に供給不足へ-2014年春季国際ニッケル研究会(INSG)参加報告-

 国際ニッケル研究会(INSG)は、国際非鉄3 研究会の中では国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)に次いで2 番目に古い歴史を持つ研究会で、世界のニッケル市場の透明性の強化を目的に1991 年に国連の招請・勧告によって発足した国際機関である。現在、ニッケル生産国、消費国及び貿易国からなる14 か国及びEUが加盟している。事務局は、設立当初はオランダ・ハーグに、2006 年からポルトガル・リスボンに置かれている。同研究会は、ニッケル市場の需給予測分析を始め、国際的なニッケルの貿易取引に係る課題について研究するとともに、それらの課題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季の年2 回開催されている。

 今回、2014 年4 月3 日~4 月4 日、リスボンにてINSGの春季定期会合が開催され、本会合には、INSG加盟国や産業団体、企業、専門家等の総勢約60 名が参加した。以下、本稿では本会合の概要について報告する。

 なお、講演資料の一部はINSGのホームページに掲載されている。

 http://www.insg.org/presentations.aspx

写真:会合風景
写真:会合風景

1. 第48回統計委員会

 世界のニッケル鉱石生産、一次ニッケル生産及び一次ニッケル消費に係る2012年実績値、2013 年見込み及び2014 年の予測値に関して、統計委員会において、各国から提出された数値をベースに加盟国出席者及び専門家により検証が行われた。表1及び図1にINSGによる世界のニッケル鉱石生産、一次ニッケル生産及び消費を、表2に需給バランスを示す。

1-1. ニッケル鉱石生産量―2014 年はインドネシア減産により前年比1割減へ―
 世界のニッケル鉱石生産量について、2012 年実績は218.2万t、2013 年は前年比10.5%増の241.1万tとなった。2013 年の増産要因として、マダガスカル、インドネシア、フィリピン及びニューカレドニアでの新規鉱山生産開始が寄与している。2014 年については、これまで世界最大の鉱石生産国であったインドネシアが2014 年1 月に発動された鉱石輸出禁止により2013 年の60万tから2014 年には12万tまで減産するとの見通しが出された。フィリピン、マダガスカル、ニューカレドニア等での増産が期待されるものの、インドネシア減産分を補うに至らず、2013 年比16.4%減の201.6万tと予測した。これにより生産国順位は入れ替わり、2014 年はフィリピンが39万t(2013年37.8万t)で最大生産国となり、次にロシア26.5万t(24万t)、カナダ23万t(22.3万t)、豪州20万t(23.4万t)、ニューカレドニア19万t(15万t)、インドネシアは12万t(60万t)で生産国6 位となった。

1-2. 一次ニッケル生産量―中国減産により、ほぼ横ばいで推移―
 世界の一次ニッケル生産量については、2012 年は175.4万t、2013 年は対前年比10.9%増の194.4万t、2014 年は同0.4%減の193.6万tとほぼ横ばいとなると予測した。2014 年は、マダガスカル、ブラジル、インドネシア等で増産がなされる一方で、世界生産の3 割を占める中国が62万tと対前年比で10.6%減少することから、世界全体では前年比で微減となった。2014 年の生産国内訳は、上位から中国62万t(2013年69.3万t)、ロシア23.9万t(24万t)、日本17.8万t(17.8万t)、カナダ13.7万t(13.7万t)、豪州13.4万t(14.2万t)となる。

 ただし、中国の数値の不確実性が引き続き懸念事項であること、また同国の経済減速やインドネシア鉱石禁輸による調達問題により、同国のニッケル銑鉄(NPI)生産量はさらに減少する見通しである。また、数値に関しては、スクラップ投入量及び生産者側で保有する在庫量の把握が未だ不十分であるとして、他のリサイクル調査結果の利用や生産者側への報告を促すことにより改善していく旨報告がなされた。

1-3. 一次ニッケル消費量―年6%増と安定して推移―
 世界の一次ニッケル消費量については、2012 年は166.6万t、2013 年は対前年比6.4%増の177.3万t、2014 年は同6.5%増の188.9万tと、米国、西欧及び日本では2014 年前半から経済回復によりニッケル需要が改善すると予測した。世界需要の5 割を占める中国については、2014 年は前年比10%増の99.2万t(2013年90万t)となる見通し。次いで米国14.7万t(13.8万t)、日本14.4万t(13.1万t)、韓国7.2万t(7.5万t)、ドイツ6万t(7.8万t)と続く。

表1:世界のニッケル鉱石生産・一次ニッケル生産及び消費(2012~2014年)

(単位:千t)

区分 2012年実績 2013年見込 2014年予測
鉱石生産 一次Ni生産 一次Ni消費 鉱石生産 一次Ni生産 一次Ni消費 鉱石生産 一次Ni生産 一次Ni消費
アジア
(中国除く)
782.4 208.9 344.3 982.7 227.4 333.6 532.0 239.7 349.4
中国 92.8 519.2 770.0 95.1 693.5 900.0 97.0 620.0 992.0
米州 491.4 295.2 166.4 500.9 277.6 169.8 492.7 276.2 180.2
オセアニア 380.6 174.2 2.7 396.0 189.9 2.7 412.5 234.2 2.8
欧州 343.3 515.0 358.2 316.6 497.0 344.3 342.4 484.0 337.7
アフリカ 91.5 41.0 24.6 119.8 58.8 22.9 139.0 82.0 26.7
世界計 2,182.0 1,753.5 1,666.2 2,411.1 1,944.2 1,773.3 2,015.6 1,936.1 1,888.8

(出典:INSG会議資料より作成)

図1:世界のニッケル鉱石生産・一次ニッケル生産及び消費(2012~2014年)
図1:世界のニッケル鉱石生産・一次ニッケル生産及び消費(2012~2014年)

(出典:INSG会議資料より作成)

1-4. 需給バランス―2014 年は過剰幅が大幅減、需給がタイト化―
 一次ニッケル生産量と一次ニッケル消費量との差分を需給バランスとした場合、図1及び表2のとおり、2013 年に引き続き2014 年も供給過剰となるものの、過剰幅は2013 年が17.1万tであったのに対して、2014 年は4.7万tと大幅に縮小する見通しである。また、鉱石生産と一次ニッケル生産のギャップについて、2014 年予測ではその差は縮小したものの、従来から鉱石分が大きく積み上がっており、中国内在庫や鉱山元在庫の可能性を挙げながらも実態の把握が難しいことが懸念されるとのコメントがあった。

表2:世界のニッケル需給バランス

(単位:千t)

区分 2012年実績 2013年見込み 2014年予測 増減
2014/2013
ニッケル鉱石生産 2,182.0 2,411.1 2,015.6 -16.4%
一次ニッケル生産(供給) 1,753.5 1,944.2 1,936.1 -0.4%
一次ニッケル消費(需要) 1,666.2 1,773.3 1,888.8 6.5%
需給バランス 87.3 170.9 47.3  

(出典:INSG会議資料より作成)

2. 主な講演内容

2-1.講演『Ni-volution:コスト上昇と鉱石禁輸、長期ニッケル価格について』(Wood Mackenzie,Mr.Sean Mulshaw)

・ インドネシア鉱石禁輸により、中国の鉱石在庫積み上げ分は2014 年で消化してしまうため、2015 年及び2016 年は世界的にニッケル供給不足に転じる。

・ 長期的にはニッケル需要は年2%上昇する見通しで、既存鉱山及び既存開発案件(Highly probable projects)の供給分では、2018 年には11万t、2030 年には62万tが不足する。これらは新規案件により補われる必要があるものの、2007 年をピークに新規投資は減退している。

・ また既存開発案件(ニューカレドニアVNC及びKoniambo、ブラジルOnca Puma 、PNG・Ramu、マダガスカルAmbatovy、ブラジルBarro Alto、豪州Ravensthorpe)についても、開発コストの上昇や技術的課題による遅延で全案件のフル生産が開始されるのは2018 年以降になるだろう。

・ 中国は引き続き世界のニッケル需要を牽引し2018 年まで年3.3%で成長するが、その後、年1.5%に減速する見通し。中国のNPI生産に関しては、インドネシア分をフィリピンで代替するのは不可能であり、特に2014 年から2018 年にかけてはNPI生産に要するニッケル約30万t/年が不足する。中国のステンレスメーカーは輸入原料の増加やスクラップ比率の引き上げを余儀なくされる。もし中国がインドネシア製錬所及び自国内で調達が可能であれば、他国への負荷は軽減されることから上記の需給ギャップは縮小し、供給不足が発生するのは2020 年の1.5万t、2030 年の不足分は32万tと予測する。

・ インドネシアの製錬プロジェクトは、許認可に最低18 か月、建設に最低2 年を有し、現在確実性の高い製錬プロジェクトを積み上げると、2015 年に4万t、2016 年に8万t、2017 年に12万tの予定。ただし電力コストや、地方政府との関係や現在の禁輸政策が継続されるか否かにより、製錬プロジェクトの遅延や中止が起こる可能性がある。

・ 結論として、長期的な供給不足により今後もニッケル価格は上昇する。中国がいかにニッケル鉱石を調達できるかにより、21,384 US$/tから25,131 US$/tのレンジでの値動きを予測している。

2-2.『Volatility and Speculation:今後のニッケル見通しと不確実性』(Roskill, Mr.Thomas Hohne-Sparborth)

・ 後進国での中流階級の拡大と都市化の進展による消費パターンの変更により、今後ステンレス粗鋼需要が拡大することは明らかである。世界のステンレス粗鋼生産量は2013 年の3,770万tから年4.4%増加し、2018 年には4,680万tまで増加すると見ている。

・ ニッケル供給サイドでは、インドネシアの鉱石禁輸によりフィリピンがラテライト鉱石供給国としての代替先となり、また世界最大のニッケル鉱石生産国となるが、低品位鉱石であること、また環境問題や土地所有者問題、政治汚職等のネックがある。さらにインドネシアと同等の政策をとる可能性も否定できない。他の供給国として、ブラジル、キューバ、欧州、アフリカが挙げられるものの、低品位鉱石でかつ生産コストが高いという問題がある。

・ ニッケル在庫について、中国をはじめとして、山元、製錬所、ユーザーサイドでニッケル原料及びニッケル鉱石の在庫が相当量あり、これによりインドネシア禁輸の影響はある程度緩和されるだろう。量としては2014 年1 月時点で世界消費量の6 か月から9 か月分があると推測する。

・ 中国のステンレス産業は、スクラップ比率を上げる、またオーステナイト系からフェライト系に切り替える必要があり、その動向はニッケル産業全体に大きく影響を及ぼす。

・ Incentive Priceとしてのニッケル価格は次のとおり。
 A) 副産物あり:28,400 US$/t
 B) 副産物なし:25,700 US$/t
 C) フェロニッケル:25,100 US$/t
 D) NPI BF(Blast Furnace)方式:17,950 US$/t
 E) NPI RKEF(Rotary Kiln Electric Furnace)方式:16,350 US$/t

2-3.『インドネシア禁輸により何が起こるか』(σ2 Commodities, Karim Awad氏)

・ インドネシア鉱石禁輸により、35万tのニッケルがマーケットから短期的に失われたと推測される。インドネシア鉱石禁輸については大きく政策が転換されることはなく、微修正程度にとどまるだろう。

・ ラテライト鉱石の供給不足と低品位鉱石の使用により、NPI生産コストは3,000 US$/tから4,000 US$/t上昇するとみている。中国企業はインドネシアでのNPIプラント建設を検討しているものの、資金面というよりは許認可手続きの不確実性により、実現可能性は不透明な状況にある。インドネシアのNPI生産能力は、少なくとも2017 年まで輸出分を相殺するには達しない。また同国の電力事情により、NPI生産方式についてはBF、RKEF、EAFとどの方式が適しているのかまだはっきりとしない。

・ 他国でも同様な政策がとられるリスクがあり、ニッケル業界に更なる影響を与えうる可能性がある。

・ ニッケル需要は中国に依存しており、持続可能性については中国がニッケル消費及び投資をどこまで財政的に支えられるかどうかによる。

・ インドネシアがニッケル下流産業を立ち上げることができるかどうかについては、近い将来は難しいと思われる。投資家は、同国のインフラ不足を始め、政治的リスクと資金調達面で不確実性が高いと見ている。

2-4.『NPIは一次ニッケルの代替となりうるか』(Heinz H. Pariser Alloy Metals & Steel Market Recearch, Mr. Heinz H. Pariser)

・ ステンレス粗鋼生産は2003 年2,330万tから2014 年4,140万tに増加する見通しで、うち中国の占める割合は2003 年8.6%から2014 年には50.5%まで拡大する。

・ 消費についても中国が最大消費国となり、世界の43%にあたる1,400万tを消費している。続く米国、インド、日本、ドイツ、韓国、台湾及びイタリアで世界の36%を消費し、これらで世界の約8 割を占める。

・ ステンレス粗鋼原料としてのNPIは、ステンレススクラップ及び一次ニッケルに比較してコスト面では有利であるものの、インドネシア鉱石禁輸により、NPIの今後の動向は不透明で、もし生産が継続されたとしても、高品位のNPI生産を維持することは不可能であろう。短期的には、低品位NPI、CrMn系、400 系へのシフトが進み、またステンレススクラップ使用が急増するだろう。

2-5.『ニッケルマーケットにおけるトレーダーの役割とは』(ELG Haniel Trading, Mr. Benno Katz)

・ ステンレススクラップの使用はコスト面でも環境面(再生可能原料として)でも非常に有効であり、現にステンレス粗鋼生産に占めるスクラップ使用比率は50%以上。またスクラップ需要は常に供給量を上回って推移している。

・ 表3のとおり、NPIを含む一次ニッケルは約39万t分が近年供給される見通しで、LME在庫は過去最高水準を記録していることからも、インドネシア鉱石禁輸による影響は限定的とみている。

表3:新規ニッケル生産拡張プロジェクト(2012~2017年)

プロジェクト(国) 企業名 年産能力
Onca Puma (Brazil) Vale 50千t
Totten (Canada) Vale 8千t
Goro-VNC (New Caledonia) Vale 52千t
Ambatovy (Madagascar) Sherrit/Sumitomo 50千t
Koniambo (New Caledonia) Xstrata 56千t
Barro Alto (Brazil) Anglo American 16千t
Ramu Nico (New Guinia) CMCC 26千t
NPI projects (China) Diverse 100千t
Other   30千t
Total   390千t

(出典:講演資料より作成)

おわりに

 インドネシアの鉱石禁輸を受けて、ニッケル需給は大きく変容し、LME価格も上昇を続けている。本会合では、同国の政策は現状維持されるだけではなく、フィリピン等に波及する可能性も示され、また既存開発案件の遅延からも短期的には不透明な状況が続き、それに伴って価格も引き続き上昇するという見方が多勢であった。

 需給予測という統計の観点からは、中国の数値の不確実性に加えて、スクラップ使用量や生産者側、ユーザー側での在庫保有量の把握が不十分であることが懸念事項として挙げられた。需給の実態をどこまで数値で押さえられるか、これまで以上に専門家の意見を取り入れて今後さらに改善が図られる見通しである。

ページトップへ