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報告書&レポート

2014年6月5日 サンティアゴ事務所 縫部保徳
2014年20号

チリにおける先住民族との協議に関する規則

 2014 年3 月4 日、チリにおいて先住民族との協議手続きを規定する規則(政令第66 号)が公布・施行された。

 2008 年にILO第169 号条約(1989 年の原住民及び種族民条約)を批准したチリでは、先住民族に直接影響する恐れのあるプロジェクトにこれら人民との協議が求められることとなり、2013 年12 月に改正された環境影響評価システムに関する規則令では、環境影響調査(EIA : Estudio de Impacto Ambiental)の一部に先住民族との協議が盛り込まれた。しかしながら、同条約で求められる協議の方法を定めた規則はこれまでなく、近年、様々なプロジェクトで先住民族との協議が行われたかどうかを争点とした訴訟問題が発生、果たすべき手順を定めた規則の整備が求められていた。

 本稿では、上述の背景から先頃施行となった先住民族との協議規則の内容を概観する。

1. 先住民との協議規則の概要

1-1. 協議の目的と原則

 先住民族との協議に関する規則は、2008 年の外務省大統領令第236 号によって発効となったILO第169 号条約の第6 条第1 項a)「関係人民に直接影響するおそれのある法的又は行政的措置が検討されている場合には、常に、適切な手続、特に、その代表団体を通じて、これらの人民と協議する*1」及び同条第2 項「この条約の適用に当たって行われる協議は、誠実にかつ状況に適する形式で、提案された措置についての合意又は同意を達成する目的のために行われる*1」に基づき、本規則に定められた手順を介して先住民族に協議の行使権を与えるものである(第1 条)。

 規則の第2 条では、「協議は国家行政機関の義務であり、適切な手順ならびに善意のもとに行われ、先住民族に対して直接影響を与える可能性のある措置に関して合意に至るあるいは同意を得るため、そして本規則第II編で定めた原則に従って実施される司法上あるいは行政上の措置を適用することで直接影響を受ける可能性のある先住民族の権利」であると定めている。

 一方、第3 条では、協議を先住民族社会と合意に達する、または同意を得るために必要な努力をしなければならないとしながらも、その目的が達成されなくても、協議の義務は履行されたと見なされるとしている。この条項により、決められた通りに手続きを行えば協議の義務は果たされたことになり、協議の結果にはなんら拘束力がなく、規則の目的がほとんど実効性を持たなくなってしまっている。この法的拘束力の欠如によって、本規則が期待されたような効果を発揮しないのではとの懸念も指摘されている。

 また、協議の原則として、(1)善意(Buena fe)(第9 条)、(2)柔軟性(第10 条)、(3)事前協議(第11 条)が掲げられている。

1-2. 適用範囲

 本協議規則は、各省庁、州政府、地方政府、県庁及び行政管理のために設立された公共機関に適用される。協議義務の履行に関し、自治機関は本規則に従うことになるが、他の現行法規に準じていた場合でも、先住民族に対する協議の義務は免除されない。(第4 条)

 この規則において、先住民族とは、ILO第169 号条約で定義され、先住民族法(法律第19,253 号)第1 条で認められているものとされる(第5 条)。これに該当するのは、Mapuche、Aymara、Rapa Nui、Atacameños、Quechuas、Collas、Diaguita、AlacalufeまたはKawashkar、YamanaまたはYaganの9 民族である。

 以下の先住民族法第2条の要求事項を満たす個人は、先住民族のメンバーと見なされる(第5 条)。

a) 養子縁組を含む、あらゆる法律上の親子関係において、父親あるいは母親のいずれかが先住民であるもの。ここで、「父親あるいは母親が先住民」とは、先住民族法第12 条第1 項及び第2 項で定められている先住民領土(Tierras Indígenas)の住民を意味する。

b) 先住民族の姓を少なくとも1 つ保有し、チリに居住する先住民族の末裔であるもの。先住民族の姓を保有しないもので、先住民として認められた場合には3 世代にわたり先住民と見なされる。

c) 先住民部族の生活様式、その通常の習慣や宗教あるいは配偶者が先住民である場合等を含む、先住民の文化的な特質を維持しているもの。これらの場合には、本人に先住民としての自覚が必要。

 先住民族に対する協議は、対象措置が直接影響を与える範囲に応じ、全国、州、地域の代表組織を通じて行われる(第6 条)。

 環境基本法(法律第19,300 号)及び関連規則によって先住民族に対する協議が必要とされる環境影響評価システムに準じるプロジェクトあるいは活動は、環境関連規則が定める期限内に協議されねばならないが、協議の手順は本規則第16 条の規定に従う(第8 条)。

1-3. 先住民族へ影響を及ぼす可能性のある政府の措置
(1) 立法措置

 先住民族に直接影響を与える可能性のある立法措置とは、共和国大統領が発議した法案及び憲法改正法案、もしくはその一部が先住民族に対して重要かつ特定の影響(impacto significativo y específico)を与える直接の原因となり、先祖代々の伝統や習慣、宗教、文化、あるいは精神活動を行うこと、あるいは先住民族の土地と関係ある儀式の実践に影響を与えるものをいう(第7条第2段落)。

 ここでは、“重要かつ特定の影響”の概念の厳密な定義がなされておらず、どんな影響でも協議義務が生じるとの解釈が成り立つ可能性が指摘される。

(2) 行政措置

 先住民族に直接影響を与える可能性のある行政措置とは、意思表示を含む特定の規則に基づかない措置で、政府当局がその採用において先住民族と合意に至るまたは同意を得るために自由裁量の範囲内で行動し、それが先住民族に対して重要かつ特定の影響を与える直接の原因となり、先祖代々の伝統や習慣、宗教、文化あるいは精神活動を行うこと、あるいは先住民族の土地と関係ある儀式の実践に影響を与えるものをいう(第7 条第3 段落)。

 ここでも、立法措置の場合と同様に“重要かつ特定の影響”の概念の厳密な定義がなされていない。

 以下の場合には、先住民族に対する協議は必要とされない。
  a) 地震、津波、洪水、その他の天災を含む非常事態もしくは緊急事態の場合(第7 条第4 段落)
  b) 法的重要性を有しない手続き及び物質的または司法的実施措置(第7 条第5段落)
  c) 第三者に物的または司法的影響を及ぼさない行為に関するもの(第7 条第6段落)
  d) 行政機関の内部行為に関するもの(第7 条第6 段落)

1-4. 協議プロセス

 協議の対象となる措置を取る国家行政機関は、協議プロセスの調整及び実施に対する責任を負う(第12 条)。

 協議プロセスは、本規則に定められる先住民族が直接影響を受ける可能性のある措置を管轄機関が取ると見越した場合に常に実施される。協議手続き実施のため、当該機関は社会開発省(Ministerio de Desarrollo Social)社会奉仕次官官房(Subsecretaría de Servicios Sociales)に妥当性報告書(informe de procedencia)の作成を要請し、同次官官房は10 営業日以内に協議プロセス適用可否についての決定を行う(第13 条第1 段落)。

 当該案件に関心のあるあらゆる自然人、法人、代表団体は、措置を講じる担当機関に対して協議手続きの実施を正当な理由に基づいて要請することができる。少なくとも根拠となる事実及び理由を示した要請であれば正当と見なされる(第13 条第2 段落)。

 この段落の“正当な要請(solicitudes fundades)”という概念は広義で、“関心のあるあらゆる自然人、法人、代表団代”については定義がなされていない。これにより、政府決定に対する障害や遅れに直結する多数の申請がなされてしまう可能性も否定できない。

 先住民族開発公社(CONADI : Corporación Nacional de Desarrollo Indígena)の全国審議会(Consejo Nacional)も管轄機関に対し協議実施のための理由の評価を要請することができる(第13 条第3 段落)。

 管轄機関は、10 営業日以内に正当な理由をもって第13 条第2 段落及び第3 段落で述べられた要請に対する裁定を下さなければならない。しかし、管轄機関が妥当性報告書を社会奉仕次官官房に要請した場合、10 営業日を最大としてこの期間が延長される。要請に対する社会奉仕次官官房からの返答がなくこの期間が経過した場合は、当該機関は報告書なしで裁定を下さねばならない。(第13 条第4 段落)

 協議手続きは、全国、州、地域など措置が影響を与える範囲に応じ、管轄機関が直接影響を受ける可能性のある先住民族に対して、第1 回目の協議手続きの企画会合を招集することで開始される(第15 条)。

 第16 条に、全ての協議プロセスで考慮すべきステージが次のとおり定められている。

a) 協議プロセスの企画(Planificación del Proceso de Consulta)

 このステージの目的は、i) 先住民族と協議する措置に関する予備情報の提供、ii) 先住民族及び管轄機関からの参加者、その役割及び任務の決定、iii) 先住民族及び管轄機関共同による協議手続きの実施法及びその様式の決定、である。

 実施法に関しては、協議プロセスに如何に参加するか、合意事項の公式文書化、場所、期限、対等な立場を保証する手段の提供、広報のメカニズム、従わねばならない特定の手続きを考慮しなければならない。

 このステージでは、少なくとも3 回の会合を行う。1回は協議する措置に関する情報の予備的な提供のため、2 回目は参加者及び方法を決定するため、最後の1 回は先住民族と管轄機関とが合意に至るために開催される。

b) 情報の提供と協議プロセスの周知(Entrega de información y difusión del proceso de consulta)

 このステージの目的は、協議の動機、措置の性質、その範囲や関連事項を考慮して協議の対象となる措置の全ての資料を先住民族に提供することである。

 情報は適宜、社会文化的に適切かつ有効な手段により、スペイン語及び必要に応じ先住民族の言語で、影響を受ける先住民族の独自性に準じて提供しなければならない。

c) 先住民族内部での審議(Delibaración interna de los pueblos)

 このステージの目的は、先住民族内部での審議及び合意を通じて彼らの立場を分析、検討、決定し、次の対話のステージにどのような姿勢で参加するかを準備することである。

d) 対話(Diálogo)

 このステージの目的は、意見交換及び論拠の対比を通じて、協議される措置に関する合意達成を目指すことである。

 このステージでは、先住民族の文化及び意思決定方法を尊重せねばならない。

e) 協議プロセスの体系化、結果の通告及び終了(Sistematización, comunicación de resultados y término del proceso de consulta)

 このステージ目的は、最終報告書に記載されるプロセスの詳細な記録を作成することにある。

 先住民族に直接影響を及ぼす行政措置または立法措置に関する協議は、上述のステージに応じて次の期限が定められている(第17条)。

a) 共和国大統領のメッセージから始まる立法措置の場合には、それぞれのステージを25 営業日を超えない範囲で実施しなければならない。

b) 行政措置の場合には、それぞれのステージは20 営業日を超えない範囲で実施しなければならない。

 協議プロセス中に関係者以外の要因による行為または事案が生じ、いずれかの協議プロセスの実施を妨げる、または、甚大な影響を及ぼす場合には、管轄機関はその継続に必要な条件が整うまで正当な理由に基づいてプロセスを中断することができる。同様に、先住民族も正当な理由に基づき協議プロセスの中断を要請することができる。どちらの場合でも、中断期間は最大15 営業日である(第18 条)。

1-5. 施行期日

 本規則は公布日(2014 年3 月4 日)に即日施行となっている。施行前に開始されている協議プロセスは、施行後には本規則の規定に従い、本規則の協議ステージに対応させなければならない。(暫定条項)

おわりに

 先住民族に直接影響を及ぼす可能性のあるプロジェクトの法廷闘争化回避のために求められていたチリの先住民族との協議規則の内容を概観した。

 第Ⅲ州のEl Morro金-銅プロジェクトやPascua Lama金-銀プロジェクトは先住民族の反対に直面しており、特に前者は同プロジェクトの環境影響評価プロセスにおいて、先住民族との協議が実施されなかったことを争点として、法廷闘争が発生、開発作業の中断を余儀なくされた。

 本規則の施行により、El Morroプロジェクトのような協議実施の有無が争点となることは減ることが予想される。しかし、本規則は協議の手順を定めているものの、合意は義務付けておらず、今後の法廷闘争は合意の有無が争点になってくる可能性がある。

 先住民と鉱業開発プロジェクトの関係が今後どのように変化していくのか、引き続き注目していきたい。

 なお、本規則の仮訳原文から閲覧可能にしてあるので必要に応じご参照頂きたい。


 ※ 1 ILO第169号条約の和文訳については、国際労働機関駐日事務所のHP(http://www.ilo.org/tokyo/lang–ja/index.htm)から抜粋した。

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