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報告書&レポート

2014年6月26日 金属資源技術部 特命調査役 阿部幸紀/金属資源技術部 大久保聡/バンクーバー事務所 副所長 山路法宏
2014年25号

6th Lithium Supply & Market Conference 2014参加報告

 Lithium Supply & Market ConferenceはMetal Bulletinが主催するリチウムの需給、市場動向、生産技術、新規プロジェクト、主要用途であるリチウムイオン電池材料に関する動向を主題にした会議である。これまでラスベガスやリチウムの生産国であるチリのサンティアゴ、アルゼンチンのブエノスアイレスなどで開催され、今回で6 回目となる。今回、2014 年5 月20 日-22 日にかけて、複数のリチウム鉱石プロジェクトを擁するカナダ連邦ケベック州のモントリオールで開催された会議に出席したので、ここにその概要を報告する。

1. 会議の概要

 発表テーマは、電気自動車向けなどを含むリチウム需要見通し、リチウム探鉱ジュニアの現況と今後、炭酸リチウム生産コスト構造、リチウム開発プロジェクトの進捗状況、水酸化リチウムの電解製造法など、リチウム需給、開発事例から下流の技術動向に至るまで多岐に亘った。

 2013 年1 月にラスベガスで開催された前回の参加者は119 名であったが、今回はリチウム市場が一服した感もあり91 名(事前登録者数)と減少した。参加国で見るとカナダ、米国からの参加が半数以上で、豪州、欧州、日本からも参加があったほか、中国、韓国からもわずかながら参加が見られた。参加者の業種はリチウム生産者、リチウム探鉱ジュニア、リチウム案件に出資する商社、リチウム生産に関連するエンジニアリング会社、金属素材系の調査会社など多岐に亘っている。

写真 会議の様子
写真 会議の様子

2. 発表内容

 1日半で全15 件の講演があった。発表内容は、初日に探鉱・生産にかかる技術動向やコスト構造、市場見通し、ユーザーサイドから見たリチウム需要見通し、ケベック州のリチウム動向などの講演が行われ、2 日目に探鉱・開発・操業プロジェクトについてその近況が発表された。新たな傾向としては、炭酸リチウム(Li2CO3)だけでなく水酸化リチウム(LiOH)に着目した開発プロジェクトが増えていることが挙げられる。

 本稿では、特に興味深い幾つかのプレゼンテーションにつき、その要旨を記す。

2-1 <電気自動車向けリチウム需要の見通し> Roskill Information Service社
 2013年におけるリチウム需要全体の29%はリチウムイオン電池向けである。そのうち79%はスマートフォンやタブレットPCなど、いわゆる3C(Computer-コンピューター、Consumer Electronics-家電製品、Communication-通信機器)向けであり、電気自動車(EV: Electric Vehicle)、ハイブリッド車(HEV: Hybrid Electric Vehicle)、電動バイクなどの電動車向けは10%にとどまる。つまり、こうした電動車向けのリチウム需要はリチウム全体需要のわずか3%の5千t/年(LCE: Lithium Carbonate Equivalent-炭酸リチウム換算量)に過ぎない。HEV、プラグインハイブリッド車(PHEV: Plug-in HEV)およびEVの販売台数は、2009 年の約80万台から2013 年には約170万台と倍増しているものの、その75%(128万台)のHEVにはリチウム需要とは直接関係のないNiMH電池(ニッケル・水素電池)が使用されている。

 プラグイン市場にプラスの影響を与える要素としては、2014 年に販売が開始されるBMW i3やメルセデスベンツ B-class Electric Drive(いずれもEV)、およびBMW i8(PHEV)といった新型車の投入や、EV購入に係る中国や他国での優遇策などが挙げられる。

 そのような状況下で、Tesla Motors社(以下、「Tesla社」)が2014 年2 月にGigafactory構想を発表し、注目を浴びている。この構想は、Tesla社が自社のEV年間生産量を2014 年の35,000 台(計画)から2020 年に50万台とすることを目指して、自ら大規模リチウム電池工場を建設するというものであり、以下の内容が明らかとなっている。

・ 50億US$を費やし、アリゾナ、ネバダ、ニューメキシコ、カリフォルニアのいずれかの州に建造する。

・ Gigafactoryで生産された電池はTesla社の電気自動車Model C(販売価格35,000US$)に使用される。

・ GigafactoryはTesla社CEOのMusk氏が所有する他の会社やSolarCity社といった太陽光発電開発企業にオフグリッド自家発電向けの蓄電池を供給する。

・ 2020 年までにGigafactoryだけで2013 年に世界で生産されたリチウムイオン電池に匹敵する電池を生産する。

・ リチウムイオン電池生産コストの30%削減を目指す。

・ 現在Tesla社に電池を供給しているPanasonic社との間で、本プロジェクトのパートナーとなる基本同意書(LOI)を締結している。

 今回の講演ではこの構想の波及効果を金属需要量に換算しており(図1)、2018年の世界の電池向けリチウムの推定需要11万t(LCE)に対して、Gigafactoryが計画どおりに進行すれば、その約40%(44,000 t/Y LCE)を同構想が占める事となる。

 これは2013 年の電池向けリチウムの世界消費量に相当する量をGigafactoryだけで消費する事を意味している。また、同社はニッケル系のリチウムイオン電池(正極材)を採用すると推測されているため、ニッケル需要が伸び、反対にコバルト需要が減少すると予想している。

図1. リチウムイオン電池向け金属等需要量予測とTesla社のGigafactoryの影響
図1. リチウムイオン電池向け金属等需要量予測とTesla社のGigafactoryの影響
(Roskill社発表資料より、金属需要量の単位はLiがt(LCE)、他は純分t)

 その他、アイドリングストップ車やマイクロHEV、マイルドHEV1向けの48 V電源のリチウムイオン電池システムや、リチウムイオン電池搭載のe-バイクも販売台数が今後伸びていくと推定されるものの、例えば48Vリチウムイオンシステム1個でのリチウム使用量は0.2-0.4kg LCEと少なく、リチウム需要に及ぼす影響は少ない。

 リチウムイオン電池を搭載したEV等が成長(=大衆市場化)を見せるには、電気自動車に関連する充電設備などのインフラの整備、EV自体の技術的な改善、そしてなによりEVの製造コストを押し上げているリチウムイオン電池等の価格の低下が求められる。その実現は最も早くても、Tesla社が計画している「Gigafactory」の波及効果が期待される2017年まで待たなければならないというのが、Roskill社の見解である。

図2. 電池容量で見たEV等の販売予測(Roskill社発表資料より)
図2. 電池容量で見たEV等の販売予測(Roskill社発表資料より)

2-2 <炭酸リチウム生産のコスト構造> HATCH社
 HATCH社は鉱業や冶金分野において特に優れた実績を有するエンジニアリングおよびコンサルティング会社で、世界の主要なリチウム操業・開発プロジェクトの多くをサポートした実績を持つ。その経験を基に、年間の炭酸リチウム生産量を20,000 t、原料はLi2O品位1.6%の鉱石もしくはLi品位550 ppmのかん水を使用する前提で、それぞれの炭酸リチウム生産のコスト構造分析を行った。その結果、鉱石からの生産におけるCAPEXのウェイトパーセントは、炭酸リチウム工場が45%、採掘・選鉱が27%を占め、付帯設備、インフラと続く。一方、かん水からの場合は、蒸発池が51%、炭酸リチウム工場が22%で、インフラ、炭酸リチウム工場の付帯設備がそれに続く。

図2. 鉱石とかん水プロジェクトのCAPEX内訳の比較(HATCH社発表資料より)
図2. 鉱石とかん水プロジェクトのCAPEX内訳の比較(HATCH社発表資料より)

 また操業費(OPEX)で比較すると、鉱石からの生産では薬剤費43%、人件費が14%、選鉱コストが11%、採掘コストが10%となっており、エネルギー、輸送がそれに続くのに対して、かん水からの生産では薬剤費が54%、塩の回収が16%、人件費が10%で、天然ガス、メンテナンスがそれに続く。OPEXは、かん水からの生産が2,000 US$/t(LCE)前後、鉱石からの生産は3,000 US$/t(LCE)前後となっている。

図3. 鉱石とかん水プロジェクトのOPEX内訳の比較(HATCH社発表資料より)
図3. 鉱石とかん水プロジェクトのOPEX内訳の比較(HATCH社発表資料より)

 かん水からの生産では、蒸発池の最適化がCAPEX低減にとって重要であり、そのための1つの手段として、建材を既存のステンレス建材からプラスチックやFRP樹脂に代替する方法が挙げられる。これによるCAPEX削減効果は以下のとおりである。

・ 建材コスト削減

・ (建材の軽量化により、モジュール方式の建設が採用できる事で、)工事関連の人件費削減および工期短縮による工事費削減

2-3 <リチウム開発プロジェクト例>
 本会議では、開発または開発に近いものとして、以下のプロジェクトの紹介があった。

▶ カナダ・ケベック州Whabouchi鉱石プロジェクト(Nemaska Lithium社)

▶ カナダ・ケベック州Roseタンタル-リチウムプロジェクト(Critical Element社)

▶ 米国・ネバダ州Kings Valleyリチウム粘土プロジェクト(Western Lithium社)

▶ 豪州・WA州Mount Marion鉱石プロジェクト(Reed Resources社)

 各プロジェクトの概略を表1にまとめた。

表1 各プロジェクトの概略

プロジェクト名
オペレーター名
開発国 原料タイプ 鉱量
(百万t)
品位 生産量 鉱命 CAPEX
(百万U$)
OPEX 開発状況 生産開始
(計画)
Whabouchiプロジェクト
Nemaska Lithium Inc.
カナダ
QC州
鉱石
スポジュメン
27.3
(埋蔵量)
Li2O: 1.53% 28Kt/Y
LiOH
26年 411 U$3,105/t
LiOH
FS中
環境許認可中
2017年
Roseプロジェクト
Critical Element Corp.
カナダ
QC州
鉱石
スポジュメン
24.3
(資源量)
Li2O: 0.89%
Ta2O5: 132ppm
26.6Kt/Y
LCE
17年 269 U$2,900/t
LCE
プレFS中 2016年Q4
Kings Valleyプロジェクト
Western Lithium USA Corp.
米国
NV州
粘土
ヘクトライト
27.1
(埋蔵量)
Li: 0.395% 26Kt/Y 20年 409 U$968/t
LCE
プレFS中 2018/19年
Mount Marionプロジェクト
Reed Resources Ltd.
豪州
WA州
鉱石
スポジュメン
14.8
(資源量)
Li2O: 1.3% 10Kt/Y
LiOH
20年 83 U$3,878/t
LiOH
プレFS中 未定
Quebec Lithiumプロジェクト
RE Energy Inc.
カナダ
QC州
鉱石
スポジュメン
17.1
(埋蔵量)
Li2CO3: 0.94% 20Kt/Y
LCE
12年 207 U$3,200~
U$3,900/t
LCE
生産中 2013年

出典:各社発表資料及びウェブサイト
* なお、Quebec Lithiumプロジェクト以外の各案件の生産開始年は必要資金が計画どおりに調達できる事を前提としており、実際には各社とも資金調達のロードショウ中である。

 各プロジェクトの特徴について、以下に記載する。

・ カナダ/ケベック州Whabouchi鉱石プロジェクト(Nemaska Lithium社)

 ケベック州北西部のWhabouchiは鉱山周辺に十分なインフラ(電力)がないため、精鉱をモントリオール近郊で港にも近い同州南部のValleyfieldに建設する湿式製錬工場までトラック及び鉄道で輸送する。鉱石は雲母、Na、Kといった不純物が比較的少ない。露天採掘と坑内採掘を併用する。精鉱生産までのコストは170 US$/tを予定している。

 生産プロセスは、

(1) 精鉱を硫酸浸出させLi2SO4溶液を得る

(2) 2 段階で不純物を除去(1 段目はFe、Al、Si、Cu、2 段目はCa、Mgを除去)

(3) イオン交換でさらに不純物を少なくする(Na、Kともに5 ppb未満)

(4) 膜を含む電解によりLiOHを得る

 というもので、水酸化リチウムから炭酸リチウムを製造することも念頭に置いている。

 今後は第1 段階プラントとして500 t/y規模の水酸化リチウム及び炭酸リチウムの試験生産を開始し、商業規模の湿式製錬工場への足掛かりとする。既に、カナダの化学メーカー「Clariant Canada社」と水酸化リチウムのオフテイク契約を締結し、ケベック州政府による投資も準備が整っており、2017 年の生産・供給開始を予定している。

・ カナダ/ケベック州Roseタンタル-リチウムプロジェクト(Critical Element社)

 ケベック州Roseタンタル-リチウムプロジェクトは、道路や空港へのアクセスが良好で、送電網も整備されている。また、地元のファーストネーションであるCree族のコミュニティから開発についての同意を得ている。現在、AMBUCK社(採鉱)、BUMIGENE/SGS Lakefield社(精製プロセス)等のコンサルタントとF/Sを作成中である。予備的経済性評価(Preliminary Economic Assessment)の結果では、年間の純利益が81.4百万C$、CAPEXが約269百万C$ で、4.1 年で償還できるとの強気な試算である。また、炭酸リチウムの回収率は84.8%、五酸化タンタル(Ta2O5)の回収率は50%を見込んでおり、五酸化タンタルの回収率を上げることが課題であろう。2015 年第2 四半期から建設を開始し、2016 年の第4 四半期の生産開始を見込んでいる。

・ 米国/ネバダ州Kings Valleyリチウム粘土プロジェクト(Western Lithium社)

 Western Lithium社は、リチウム含有粘土鉱物(ヘクトライト)からの炭酸リチウム生産を目指している。Kings Valleyプロジェクトは高速道路や送電網に近接している。炭酸リチウムの年間生産量を第1段階で13,000 t/Y、第2段階で26,000 t/Yとすることを目指している。

 生産プロセスとしては、

(1) 粘土鉱にCaSO4とCaCO3を加えて直径2-5 mmに造粒する

(2) その粒を1,050 ℃で焙焼する

(3) その後に水を加えて(水で浸出させて)、かん水を作る

(4) かん水を中和して炭酸リチウム、カリウム(硫酸塩)、ナトリウム(硫酸塩)を分別沈澱する

 というもので、カリウムが副産物となる。現在、ドイツにて実証プラントでの試験を計画中で、ヘクトライトから低コストでのリチウム抽出を実証すると共に、商業生産に向けた設計パラメーターなどの確認やオフテイク交渉のためのバルクサンプルの生産を行う予定としている。またリチウム資源開発と併せてHectatoneという商標で石油掘削用の有機粘土も2014 年夏頃に生産を開始する予定である。

・ 豪州/WA州Mount Marion鉱石プロジェクト(Reed Resources社)

 Reed Resources社はWA州にMount Marionリチウムプロジェクトを保有している。本プロジェクトは鉱石(スポジュメン)から水酸化リチウムを生産することを目標としている。

 生産プロセスは、

(1) 精鉱(Li2O 6%程度)を塩酸で溶かし塩化リチウム溶液にする

(2) 2 段階で不純物を除去(1 段目はFe、Al、Si、Cu、2 段目はCa、Mgを除去)

(3) イオン交換でさらに不純物を少なくする(Na、Kともに5 ppb未満)

(4) Chlor-Alkali処理を行う(中間製品である塩化リチウムを電解し、最終製品である水酸化リチウムを得る)

 というNemaska Lithium社と類似するプロセスである。Nemaskaとはリチウムイオン(Li+)を一旦塩化物にするか、硫酸塩するかの違いだけである。特筆すべきは、CAPEXが他のプロジェクトと比較して1 / 4 程度になることであるが、同社のプレゼンテーション中で、その根拠は明確に示されなかった。

 上記の生産開始前のプロジェクトに加えて、生産開始直後のプロジェクトとしてRB Energy(旧Canada Lithium)のQuebec Lithium(Val d’Or鉱山)についての発表もあった。同鉱山は2013年より生産を開始しており、炭酸リチウムの生産能力は20,000 t/y、生産コストは3,200 ~3,900 $/tとの事である。埋蔵量は17百万t (炭酸リチウム換算で0.94%)、資源量は33百万t (同1.19%)と公表されている。今回のプレゼンテーションにおいて、本プロジェクトを「鉱業」というよりはむしろ「化学工場」であると強調していた。鉄道や送電網から1.5 kmの位置に近接しており、2014 年中にはプロジェクト専用の天然ガス供給設備を敷設する予定である。

 炭酸リチウム生産プロセスは、(精鉱焙焼)→(硫酸添加)→(アルカリ中和)→(ソーダ灰添加)→(浄液)→(イオン交換で不純物除去)→(ソーダ灰を添加し炭酸リチウムを沈澱)→(製品梱包)というものである。

おわりに

 参加人数はこれまでより減ってはいるものの、探鉱ジュニアはもちろん、正極材メーカーも今後の電気自動車の進展を期待して、リチウム需要の見通しに対して、楽観的な見方が大勢を占めていた。

 リチウム需要の大規模な拡大はスマートフォンやタブレット端末などの通信デバイス向けよりも、リチウムの使用原単位が格段に大きなEV車向け需要が鍵となるのは言うまでもなく、各プレゼンターも同分野の市場拡大をリチウム需要の増加理由に挙げていた。しかし、その一方で、EV車が牽引するリチウム需要の増加シナリオに蓋然性を担保するような具体的な計画はみられず、実態をともなったEV車業界の発展が望まれる。その意味で、Tesla社のGigafactory構想が今後どのように進展するか、また、それに伴うリチウム原料の変化(炭酸リチウムから水酸化リチウム)も予想され、興味深い。

 他方、同カンファレンスが回を重ねるごとにリチウム市場はクールダウンしている感もあり、開催の初期に比べて、市場に対する、特に正極材メーカー等のユーザーの見方も落ち着いたものになった印象を受けた。


注釈:

1 マイクロHVは、駆動用モータを搭載しない代わりに車両が消費する電力として、ブレーキング時のエネルギーを回収・蓄積した回生エネルギーを再利用する。マイルドHEVは、フルHEVと比較して小型、低出力のモータと小型電池を使用し、回生エネルギーを走行駆動力の一部として再利用する。

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