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報告書&レポート

2014年7月10日 前ジャカルタ事務所次長(現総務部人事課長) 高橋健一
2014年28号

インドネシアにおける鉱石輸出禁止政策の動向(その2)- 鉱物資源高付加価値義務化の概要 -

 インドネシアでの新たな鉱業法となる「鉱物・石炭鉱業に関する法律」(2009 年法律第4 号。以下本稿では「新鉱業法」という。)が公布・施行された2009 年1 月から5 年が経過し、新鉱業法で新たに盛り込まれ、同国にとって重要な施策の一つである鉱物の高付加価値義務に関し、その施行期限となっていた2014 年1 月、様々な議論を経て、政府は最終的な方針を打ち出し、関連する政令、大臣令を相次いで発効した。結果、銅、鉄、鉛・亜鉛などの一部の金属鉱物については、中間鉱産物となる精鉱などの輸出は限定的に認められることになったものの、大部分の金属鉱物には製精錬処理が義務付けられることとなり、これまで輸出が認められていた未処理鉱石の輸出は禁止となった。

 本シリーズでは、その鉱物資源高付加価値義務化の概要や、2012 年以降、ここに至るまでの経緯、今後の見通しなどを取り上げる。「その1」では、鉱物資源高付加価値義務化の概要をまとめた。本稿「その2」は現行制度の決定と実施に至るまでの経緯を記すものである。

1. 現行制度決定・実施に至るまでの経緯

 本項では、2009 年1 月の新鉱業法の施行から現在の法制度決定・高付加価値化政策実施までの主だった経緯をまとめた。

(1) エネルギー・鉱物資源大臣令2012 年第7 号の制定(2012 年2 月)
 2009 年1 月12 日に新鉱業法(2009 年法律第4 号)が制定され、同法第170条(及び2010 年政令第23 号第112 条)に、鉱物資源高付加価値義務化の5 年以内の実施が規定されていたところであるが、輸出可能となる鉱産物の最低処理基準について、政府が具体的な内容を初めて正式に示したのが、エネルギー・鉱物資源大臣令2012 年第7 号(2012 年2 月)である。同大臣令2012 年第7 号では、ニッケル等の一部については中間製品的なニッケル銑鉄(NPI:Nickel Pig Iron)などは輸出可能とされたものの、現行規定にあるような、例えば銅などの中間製品となる精鉱の輸出も一切認められておらず、国内での99.9%以上の地金への製精錬処理義務が課されるなど、業界にとっては厳しい内容となり、加えて、既に新鉱業法施行から3 年が経過し、施行期限まで残すところ2 年弱での対応が求められる格好となり、以後、議論を重ねていくこととなる。

 一方、それまで石炭も対象にする方向で検討されていたが、精製、あるいは改質技術が未確立等の理由により見送りとなった。

(2) 2012 年5 月からの鉱石輸出規制・輸出税課税
 同大臣令2012年第7号では、2014 年1 月からの本格実施前に先行する形で、同令第21 条の規定等に、2012 年5 月から鉱物資源の輸出規制も盛り込まれ、実施された。この規制実施の背景としては、主要鉱石輸出量が2008 年と比較し、2011 年の輸出量水準が異常な拡大を示したため、政府は資源枯渇や環境破壊問題を懸念し、その抑制を行うべく、急遽実施したものである。政府からの説明では、鉱石輸出量の増加(2008 年→2011 年)は、ニッケル8 倍、ボーキサイト5 倍、銅11 倍と示されているが、皮肉にも、新鉱業法の規定により2014 年1 月からの鉱石輸出禁止を見込んだ駆込み需要がその要因とも捉えることができる。

 規制内容は、対象となるニッケル、ボーキサイト、銅、鉄鉱石などを含む主要鉱物65 品目を輸出する場合、商業省からの輸出許可が必要となり、輸出には輸出税20%が課され、さらに各社に輸出量が割り当てられることになった。また、商業省から輸出許可を得るには、事前にエネルギー・鉱物資源省から鉱物輸出推薦状を受ける必要があり、この推薦状発行の条件として、IUPのClear & Clean認証(CnC, IUPの適法性に関する認証)、国内における製精錬設備建設又は同建設協力計画、エンドユーザーとの鉱業品売買契約、新鉱業法各規定の遵守に関する同意書などの書類が必要となった。この規制により、企業からは300 件弱に上る製精錬設備建設又は同建設協力計画が提出されることとなったが、大部分は輸出許可を得ることだけを目的とした計画であったとされている。

 同輸出規制は、急遽実施されたため、具体的な実施細則が制定されていないなど政府側の準備が十分ではなく、規制実施が開始された5 月12 日以降、実質1 か月程度の輸出停止状態が発生し、この間、約1億US$の損失が発生したと報道されている。具体的な実施細則は5 月12 日前後に制定されることになったが、この時点で、同大臣令2012 年第7 号は、同大臣令第11 号により早くも改正され、併せて、輸出手続きを規定した商業大臣令及び輸出税20%課税を定めた財務大臣令等が急遽制定された。その後も輸出許可手続きに時間を要していたが、事務手続き簡素化もあり、2012 年後半から、徐々に許可取得数も増加し、輸出量も回復していった。

 この規制を事後的に見れば、2013 年上期時点でのエネルギー鉱物資源省発表資料(表1参照)では、ニッケル鉱石:2011 年32百万t→2013 年52百万t、ボーキサイト鉱石:2011 年41百万t→2013 年52百万tとの見込となっており、共に、2013 年の輸出量は本輸出規制実施前の2011 年よりも上回ることとなり、結論的に、本輸出規制は、当初の目的達成のための施策としては機能しない結果となったと言える。

表1  鉱石輸出量の推移 (エネルギー・鉱物資源省資料より)

  2011 2012 2013(見込み) 前年比
ニッケル鉱石(百万t) 32 41 52 +27%
ボーキサイト(百万t) 41 30 52 +73%

 関連して、2013 年に入ってからのインドネシアのマクロ経済環境は、それまでの好調だった状況から、米国金融緩和縮小観測等に端を発したルピア安や株価下落、貿易収支の赤字傾向へと状況が変化し、陰りの兆しが表面化してきていた。政府はこれらに対処するため、同年8 月、緊急経済対策パッケージを発表し、その中の輸出促進策の一つとして、本規制下にあった鉱石輸出割当量について、その緩和を実施し、さらに鉱石輸出量拡大を後押しすることとなった。

 他方、この突然の輸出規制などを規定している同大臣令に対し、ニッケル中小鉱山団体のインドネシア・ニッケル協会(Indonesia Nickel Association :ANI)らは、最高裁に違法の訴えを起こし、2012 年9 月、最高裁はこれを認める判決を下した。政府はこの結果を受け、2 回目の改正となる同大臣令2013 年第20 号(2013 年7 月)で規定の変更を行うこととなった。

 2012 年5 月からの鉱物資源の輸出規制は、以上のような経過を辿ってきたが、現在の鉱物資源高付加価値義務化の今後の実施動向を見る上でも、貿易収支等のマクロ経済状況が政策に与える影響や、訴訟の動きなどは共通した重要なポイントと捉えることができるものと考えられる。

(3) 2012 年2 月以降の業界の動向
 2012 年2 月のエネルギー・鉱物資源大臣令2012 年第7 号の制定までは、主に国営企業のPT ANTAMや中国との合弁企業によるニッケル、アルミナ、鉄鋼関係の製精錬所建設計画が20 件弱出されていた程度であり、国内外の業界関係者の大部分は、高付加価値化義務の内容について、さほど厳しい内容にならないものとの見方も浸透するなど、比較的楽観視していた傾向があった。実際に、国内業界関係者からも鉱物資源の高付加価値化はインドネシアにとって必要な施策であり、総論的に反対を表明する者はほぼ皆無であった。しかしながら、同令により大幅な製精錬義務が課されることとなり、2 年弱といった短期間での対応が求められることに実際直面することとなった以降は、その実現性を疑問視する見方が拡大し始め、インドネシア鉱業協会(Indonesia Mining Association:IMA)を中心とした業界関係者は、度重なる会合を通じ、製精錬所建設計画の実現性について独自に検討を進めるようになる。他方、IMAは外資系も含む大手鉱山事業者を中心とした業界団体組織であるが、利害分野が多少異なる国内の中小鉱山事業者を中心としたインドネシア鉱物経営者協会(APEMINDO)や、インドネシア・ニッケル協会(Indonesia Nickel Association :ANI)などの業界団体も幾つか設立され、それぞれ独自にロビー活動を始めるに至った。このような中、IMAは、2012 年8 月から11 月にかけて、鉱物毎に、政府が進める鉱物資源高付加価値化義務政策のインパクトやその実現性を関係者全体で集中的に議論し、国内経済に最大の利益をもたらす施策を探り、加えて鉱山業界に対し鉱物資源高付加価値化政策への対応策などを示すため、一連の会合Focused Group Discussion(FGD)を開催した。この会合では、前述の新設業界団体からも含め、政・官・民の主だった全てのステークホルダーの参加により議論されることとなった。

 この会合により、結論付けられた主な点は、製精錬所建設には巨額の投資が必要である一方、鉱物毎に経済性が大きく異なっており、さらに個別の検討が必要なこと、また、製精錬所建設には少なくとも4 年~5 年の期間は必要であり、2014 年1 月の実施期限までには必要な時間がないこと、さらに電力供給等のインフラ未整備の問題などが改めて指摘されることとなった。具体的には、ニッケル、ボーキサイト、砂鉄等は複数の建設プロジェクトが進行していることもあり、2014 年中にある程度の実現可能性は有るものとも考えられるが、銅、亜鉛等に関しては、そもそも経済性に大きな問題があり、少なくとも2014 年1 月までの実現は不可能なことは明らかとされた。このような結果を踏まえ、IMAを始めとする業界関係者は、政府に対し鉱物毎の政策の検討や、2017 年までの実施期限の延長、製精錬所建設に対する税軽減策、インフラ整備支援の実施などを要求していく動きとなった。

IMA主催FDGの総括会合Downstreaming Miningセミナーの様子(2012年11月開催)
IMA主催FDGの総括会合Downstreaming Miningセミナーの様子(2012年11月開催)

(4) 政府・業界内での緩和策模索の動き(2013 年)
 以上のような業界からの指摘・要求を踏まえつつ、300 件弱と多数に上った企業から提出された製精錬所建設計画について、エネルギー・鉱物資源省を始めとする政府はワーキング・チームを設置し、個々の計画についての実現性の評価作業に着手した。この評価作業は最終的に2013 年11 月に完了し、各計画は事業の進捗段階別に区分され、進捗度が高い28 件に関し詳細評価がなされ、結果15 件(表2)が最も実現性が高いものとされた。しかしながら、これら15件についても2014 年1 月までの完成は殆ど見込めないものであった。

表2  実現可能性の高い建設計画 (エネルギー・鉱物資源省資料より)

No. 企業 場所 鉱物 生産物 生産規模/
投資額・
US$
1 PT Antam 北マルク
Halmahera
ニッケル FeNi 6.8万t 10億
2 PT Indonesia Chemical Alumina 西カリマンタン
Sanggau
ボーキサイト CGA 80万t 4.5億
3 PT Bintang Delapan Enrgy 中部スラウェシ
Morowali
ニッケル FeNi 35万t 2.82億
4 PT Stargate Pasific Resources 南東スラウェシ
Konawe Utara
ニッケル NPI 5万t 18億
5 PT Meratus Jaya Iron Steel 南カリマンタン
Batu Licin
銑鉄 31.5万t 1.1億
6 PT Sebuku Iron Lateritic Ore (PT Siro) 南カリマンタン
Kotabaru
スポンジ銑鉄 270万t:
Phase1
11.6億
7 PT Indoferro バンテン
Cilegon
銑鉄 50万t 1.335億
8 PT Harita Prima Abadi Mineral 南カリマンタン
Tahan Laut
ボーキサイト CGA 200万t 22.8億
9 PT Putra Mekongga Sejahtera 南東スラウェシ
Kolaka
ニッケル スポンジFeNi 6t/日・炉
10炉:
Phase10
1.4億
10 PT Indosmelt 南スラウェシ
Maros
銅カソード 12万t 7億
11 PT Sumber Suyadaya Prima 西ジャワ
Sukabumi
砂鉄 鉄ペレット 50万t 2億
12 Shandon Nanshan Aluminium リアウ諸島
Bintan
ボーキサイト アルミニウム
・インゴット
53万t 50億
13 PT Vale Indonesia 南スラウェシ
Sorowako
ニッケル ニッケル・マット 4.5万t 15億
14 PT Vale Indonesia 南東スラウェシ
Bahudopi
ニッケル 酸化ニッケル 3.6万t 5億
15 PT Weda Bay Nickel 北マルク
Weda
ニッケル 水酸化ニッケル 6万t N/A

 このような現状が表面化してくる中で、政府内では、2014 年1 月から実施予定の鉱石輸出禁止措置に関し、緩和する方策を探る動きが徐々に出てくるようになる。

 2014 年1 月の鉱石輸出禁止施行まで残り2 か月を切った2013 年11 月、エネルギー・鉱物資源省の示した案では、以下のような条件をクリアする企業に対し、その後も鉱石輸出を認める方針を固めていた。

【鉱石輸出条件案】
(1) 製精錬プラント建設のコミットメント
(2) 製精錬所建設資金の一定金額について、コミットメントボンドとして指定国内金融機関への担保差入れ
(3) 環境マネジメントの遵守 ⇒詳細不明
(その他、輸出税を賦課する案など)

 これらの条件に関しては、産業界からの提案も踏まえ今後調整していくとしたが、一方で、2014 年1 月12 日以降の鉱石輸出許可を実現するためには、法改正が必須との認識がある中、実際の法改正は時間的に困難なことから、インドネシア法制特有の緊急時等に発動する「法律に代わる特別政令」(Perpu)を発し、暫定的に対処する案も浮上した。

 同時期の産業界の動向として、インドネシア商工会議所(KADIN)は、政府が進める鉱物資源高付加価値義務化は今後のインドネシアの経済成長にとって極めて重要な政策であり、総論的に賛成のポジションとするものの、十分な製精錬プラント建設が実現していない現状や、また、懸念されている同国の貿易収支に悪影響を及ぼす可能性なども踏まえつつ、政府及び国会に、2014 年1 月以降も、例外的に鉱石輸出を認めるための具体的な提案を行うため、2013 年10 月、この問題を検討するタスク・フォース・チームを結成した。このタスク・フォース・チームからは、製錬所建設が実現していない現状を指摘し、建設に着手している企業に対しては建設完了までの期間、インセンティブとして条件付きにより引き続き鉱石輸出許可を与えるといった案も出された。その他、IMAからは、法律改正によらず、関連政令及び大臣令を改正することにより、鉱物毎の最低輸出処理基準等の内容を現実的な基準にすることは可能であるとの指摘や、資源国インドネシアの鉱業政策として高付加価値化政策は経済的に重要な手段の一つのであるが、準備不足状況下での短期間での実行は、同国の当面のマクロ経済に少なからず悪影響を及ぼすことに加え、現在進行中の製錬所建設プロジェクトのファイナンスにも影響を与える可能性があるとの経済・金融アナリストからの指摘など、様々な議論が巻き起こった。

(5) 国会による緩和策の拒否(2013 年12 月)
 鉱石輸出禁止の緩和策の検討が進められる中、2013 年12 月5 日、エネルギー・鉱物資源大臣は、インドネシア国会第7委員会(エネルギー鉱物資源、技術、環境等担当)会合において、前項で示したような内容により、鉱石輸出禁止緩和措置に関する提案を行ったが、同委員会で完全に拒否されるのみならず、新鉱業法(2009 年法第4 号)の規定どおり、例外なく完全実施するよう求められることとなった。

 結局、両者間で鉱石輸出禁止緩和措置のための同法改正や法律に代わる特別政令(Perpu)の発行も行わない方針で合意させられ、同委員会に押し切られる格好となった。同会合では、「直前になってからの提案では遅すぎる」といった意見や、「元々、国会は法律施行から7 年間の猶予期間を提案していたが、政府側の方針で5 年間となった経緯があり、緩和策は受け入れられない」などの指摘がなされた。

 また、鉱石輸出禁止により予想される国家収入減や鉱山労働者の失業に関し、それらの結果は受け入れざるを得ないものとの認識を示し、それ故、鉱山企業は製錬所建設を早めるべきであるとの指摘もなされた。

 エネルギー・鉱物資源大臣は、この結果を受け、鉱石輸出禁止施行は間近に迫っており、混乱は避けられないものの、2014 年中に10 件が、さらに2 年~3 年の後には28 件の製錬所が稼働する予定であり、混乱は長期化する問題ではないとの考えを示し、また、鉱山企業からは国内裁判所や国際仲裁機関への提訴が予想されることから、それに備える方針であることも示した。

 以前から、政府から鉱石輸出禁止を緩和する方向が示された場面では、その度に同委員会委員からは、法律改正無しに2014 年1 月以降の鉱石輸出はできない等の牽制がなされてきたが、結局、政府はこの壁を崩すまでには至らなかった。

(6) 政府による最終決定(2014 年1 月)
 鉱物資源の高付加価値義務化の施行期限まで1 か月を切る中、その後も政府内では、幾度となくエネルギー・鉱物資源大臣のほか工業大臣、経済調整大臣、財務大臣、商業大臣などの関係閣僚による検討が行われ、法改正を実施せずに法に違反すること無く、製錬所建設を進める企業に対し2014 年1 月以降も鉱石輸出を継続可能とするための方策を引き続き模索したが、最終的には、ユドヨノ大統領の政治的決断によるものとなった。そして、ついに冒頭第1 項で述べたように、施行期限の前日となる2014 年1 月11 日、関係閣僚を招集し、ユドヨノ大統領はその方針を決定するに至った。途中、第2項(4)で示したような緩和策により、大統領が国会に巻き返しを図るのではといった期待もあったが、結果的に、中間生産品となる一部鉱物の精鉱の輸出は、課税を条件に可能となったものの、未処理鉱石の輸出は例外なく禁止されることとなった。

 次稿「その3」では、当該政策施行後の動向と今後の見通しについてまとめる。

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