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報告書&レポート

2014年7月17日 ロンドン事務所 北野由佳
2014年31号

国際非鉄研究会参加報告2014 年春季国際非鉄3 研究会合同セミナー~欧州における採掘・金属産業~

 2014 年3 月31 日~4 月4 日、ポルトガル・リスボンにて国際非鉄研究会の春季会合である国際ニッケル研究会(INSG)、国際鉛・亜鉛研究会(ILZSG)、国際銅研究会(ICSG)及び3 研究会合同セミナーが開催された。今回の合同セミナーは、欧州における鉱業をテーマにして4 月2 日午後に開催された。前半部分では、EU政府、鉱業団体の代表者等が講演し、後半部分では、民間企業が鉱種別に講演を行い、続いてパネルディスカッションが行われた。本稿では合同セミナーの概要を報告する。

1. 講演:『欧州鉱業の発展を支援するEU政策及びプログラム』

(欧州委員会、Mattia Pellegrini氏)

 EUでは欧州鉱業を支援する以下の様な政策及びプログラムを実施している:

<欧州原材料戦略>

 2008 年に策定された戦略で、(1)資源へのアクセスに関する公平な競争条件の確立、(2)欧州域内での持続可能な供給の促進、(3)資源効率とリサイクルの向上、の3 本柱から成り立っている。(2)に関する具体的な活動としては、各国における鉱業政策に関する調査、優れた実践例についての情報交換、EUの知識基盤を拡大するための調査、原材料に関するハイレベル会議の開催などがある。また、2010 年には、EUにとって不可欠な鉱物資源(CRM:Critical Raw Material)が選定され、CRMリストは3 年毎に更新される。2012 ~13 年に見直し作業が行われた新しいCRMリストが2014 年前半に発表される予定である。

<原材料に関する欧州革新パートナーシップ(EIP)>

 2020 年までにEUのGDPにおける鉱業の割合を20%にまで拡大するというEUの目標達成を支援することを目的としており、また欧州委員会の主要イニシアティブである「イノベーション・ユニオン」や「資源効率的な欧州(Resource efficient Europe)」の目標達成においても重要な役割を果たしている。戦略的実行計画は(1)技術、(2)非技術政策、(3)国際協力の3 本の柱から成り立っている。EIPに参加するパートナーの第一回目の募集が2013 年10 月31 日~2014 年1 月31 日にかけて行われた。次回の募集は2015 年、2017 年、2019 年を予定している。

<原材料外交>

 原材料外交は、EUと相手国とがより高い相互利益を産み出せるような協力が可能な場合の対話と基本合意書(Letter of Intent)の締結によって実施される対話の2 種類がある。EUは現在、アルゼンチン、ウルグアイ、コロンビア、メキシコ、チリ、ペルー、グリーンランド、モロッコ、チュニジア、ミャンマーと基本合意書を締結している。またEU、米国、日本の3 か国間では、「不可欠な原材料に関するワークショップ」を開催して情報交換等を行い、これをCRMリストの見直し作業にも役立てている。またアルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー、ウルグアイの政府代表者が出席した「原材料に関するEUと南米諸国との対話セッション」が2014 年3 月に開催された。今後の予定としては、鉱業政策におけるベストプラクティスに関するワークショップが2014 年6 月、そしてEUとグリーンランド間での鉱業における協力に関するワークショップが2014 年9 月に開催される予定である。

2. 講演:『欧州の採掘・金属業:機会と課題』

(Eurometaux、Guy Thiran氏)

 欧州の鉱業は、経済危機によって鉱山の閉山や人員削減といった影響を受けた。しかし、EU政府は2020 年までに欧州の鉱業がGDPに占める割合を20%にまで引き上げることを目標としており、鉱業の重要性が認識されている。しかしながら、鉱業は規制機関や市場関係者から規制強化に向けた強い圧力を受けている。つまり、欧州において鉱業が成長するためには「グリーンな成長(Green Growth)」がカギとなる。規制に関しては、鉱業にとって脅威となりうるものもあるが、鉱業の発展の機会となりうる場合も多い。例えば資源効率の向上に関する規制は鉱業にとって好機であると言える。「グリーン(環境に優しい)」という側面に関しては、金属間だけではなく、プラスチック、木材、紙といったように素材間の競争が激しくなってきている。しかし、非鉄金属は、リサイクル性、耐久性、機能性といった金属の特性を十分に宣伝できれば、将来的なポテンシャルは多大であり、金属の長期的な需要が期待できる。これはEU域内に限られたことではなく世界的に言えることである。一方、「成長」に関しては、欧州鉱業は、欧州における非鉄金属産業の競争性とプレゼンスを擁護する努力を続けていかなければならない。欧州における鉱業の発展のためには、鉱業が競争性を維持できるような法的枠組みが必要である。非鉄金属は、リサイクル性や機能性といった特有の機能を有する素材であり、持続可能な社会にとって不可欠である。鉱業界は、規制機関、その他の利害関係者、バリューチェーン全体の市場関係者とのコミュニケーションを積極的に行い、非鉄金属なしには近代的な生活は成り立たないということを説明し実証していく必要がある。

3. 鉱種別講演(銅、ニッケル、鉛・亜鉛)

3-1.講演:『欧州の銅産業とKGHMの役割』

(KGHM、Maciej Konski氏)

 欧州は世界の銅消費量の18%を占めるが、銅の鉱山生産量においては6%程度であり、消費量の75%を輸入に頼っている。欧州における今後の銅消費量の見通しとしては、2010年から2035年で東ヨーロッパでは2.2%増となるが、西ヨーロッパでは0.2%減となり、東及び中央ヨーロッパが銅消費量を牽引すると予想される。今後数年間の欧州が抱える主な課題としては、EU域内排出量取引制度、欧州の鉱業政策、価格面での競争性、の3 つが挙げられる。特に価格面での競争性に関しては、鉱山会社は競争性を維持するため、生産コストが低い地政学的に不安定な地域にあるプロジェクトへの投資を増やしている。欧州には開発段階にある大規模な銅プロジェクトが存在していない。欧州においては、欧州での探鉱活動を促進するような奨励政策が必要である。

 KGHMは、銀の生産量で世界第1 位、銅の生産量で世界第8 位、銅の資源量においては世界第4 位である。現在、坑内掘り鉱山5 つと露天掘り鉱山3 つが操業中であり、うち3 鉱山がポーランドに位置している。KGHMは常に新しいプロジェクトや鉱床を探しており、資源ベースの開発はKGHMの戦略の一つである。欧州はKGHMにとって優先度の高い地域であり、欧州における鉱業活性化のための支援が強化されることを期待している。

3-2. 講演:『欧州のニッケル産業とErametの役割』

(Eramet、Olivier Sutterlin氏)

 鉱業及び金属業に従事しているErametはフランスに本社を置いており、世界20か国で計1.4 万人を雇用している。Eramet社の事業はニッケル事業(Eramet Nickel)をはじめとしてマンガン事業(Eramet Manganese)、そして合金事業(Eramet Alloys)の3 部門から構成され、活動は探鉱、採掘、冶金、リサイクルと金属のバリューチェーン全体にわたる。

 資源の採掘は以前より複雑化し、鉱物資源の低品位化といった数々の課題がある。このような状況を受けてErametでは、既存の冶金プロセス(選鉱及び乾式製錬法)の改善と新しい冶金プロセス(湿式製錬法)の開発を目指す革新的なアプローチを取り入れている。持続可能で経済的な製錬方法のイノベーションが進むことで、欧州で操業する鉱山の数が増え、原材料の安全供給や雇用創出につながる。

 またErametでは金属のリサイクルが今後も増加していくと予想している。合金のリサイクルにより、金属の一次消費量が減少するが、リサイクルはあくまで補足的であり、世界需要を満たすためには、リサイクルが一次生産に取って代わることはできない。またリサイクルにより、エネルギー消費量が減少するという点も重要な点である。Erametでは、金属のリサイクルにおける様々なフローを考慮に入れながら、資源効率を高めるために生産活動の一体化を進めている。加えて、金属含有量の高い工業廃棄物のリサイクルに特化した事業もある。

 欧州鉱業の将来は、平等な競争条件、費用対効果、規制における整合性、予測可能性及び透明性といった条件が満たされるかどうかにかかっている。Erametでは、欧州における規制プロセスにおいて、データや専門知識の提供といった形で貢献しており、またニッケル協会やその他の鉱業関連協会とも密接に協力している。

3-3. 講演:『欧州の鉛・亜鉛産業とBolidenの役割』

(Boliden Smelters、Ing-Marie Andersson-Drügge氏)

 BolidenはスウェーデンにAitik、the Boliden Area、Garpenbergの3 鉱山、アイルランドにTara鉱山を所有しているほか、欧州に5 つの製錬所を有している。自社の鉱山で生産された精鉱を、主に自社の製錬所へ供給し、高品質の金属を生産している。一次生産に加え、Bergsöe製錬所では、外部のサプライヤーから調達した鉛蓄電池等から鉛の二次生産も行っている。

 Bolidenから見る欧州の亜鉛産業の今後の課題として、亜鉛製錬所におけるキャッシュ・マージンが思わしくないこと、また新規鉱山や製錬所のプロジェクトがほとんどなく欧州における亜鉛の鉱山生産量が2016 年以降減少していくことが予想されることなどがある。またREACH(欧州化学品規制)や欧州原材料政策等のEUにおける政策、そして国際海事機構(IMO)のばら積み貨物の輸送に関する規制といった国際的な環境規制が欧州鉱業やBolidenの操業に影響を与え得る。環境規制は本質的にはよいものであるが、商業においてはそれぞれのプレーヤーが公平な条件で競争できなければならない。公平な競争の場を確実にするため、EUや産業団体と今後も協力していきたい。

 またBolidenにおけるユニークなエネルギー最適化のプロジェクトとして、Bergsöe製錬所における養魚業を紹介したい。Bergsöe製錬所では鉛の二次生産過程で発生した廃熱を周辺の街の暖房供給ネットワークに活用しているだけでなく、2014 年1 月から廃熱を利用した養魚業の試験プロジェクトも開始しており、本格的な事業拡大が可能かどうかを今後検討する予定である。

4. 2014年秋季3研究会合同セミナーについて

 次回の3 研究会合同セミナーはポルトガルのリスボンにて、10 月15 日に開催される予定である。次回のテーマは、「国際金属リサイクル」である。

< 2014 年秋季の国際非鉄金属3 研究会の日程 >

10 月13 日:国際銅研究会(ICSG)、国際ニッケル研究会(INSG)
10 月14 日:国際銅研究会(ICSG)、国際ニッケル研究会(INSG)
10 月15 日:3 研究会合同セミナー、『国際金属リサイクルセミナー』
10 月16 ~17 日:国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)

おわりに

 パネルディスカッションでは、欧州において地域コミュニティ及び国民から鉱業が受け入れられていないこと、そしてEU政策における整合性の欠如が欧州における鉱業の活性化を阻む課題であるとのコメントがあったが、これは欧州に限らず熟成した経済を有する地域における鉱業が共通して直面しうる課題であると思う。鉱業の成長そして活性化のためには、鉱業に従事するビジネスが高い透明性を持って活動し、また鉱業が現代社会にもたらす利益を社会に公平に理解してもらうことが重要である。また環境保護や健康安全に関する規則が不可欠である一方、対象となっている金属のリスクは十分な裏付けを持って適切に評価される必要がある。欧州においては、産業界が団結し、欧州の政策立案者とこれらの課題に関して積極的に対話が行われており、また政府側も欧州鉱業の活性化のための取り組みを拡大しているので、今後、欧州鉱業が成長軌道に乗れるかどうかに注目したい。

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