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報告書&レポート

2014年10月2日 シドニー事務所 伊藤浩
2014年41号

豪州における炭素価格制度,鉱物資源利用税及び環境認可簡素化施策の動向

 トニー・アボット自由党党首が率いる保守連合が政権を獲得してから2014年9月で1年が経過した。保守連合政権は樹立当初から炭素価格制度の廃止、鉱物資源利用税(Minerals Resource Rent Tax: MRRT)の廃止及び鉱山開発等に係る環境認可の簡素化等の施策を打ち出し、この1年でこれら施策は着々と実施されている。

 本稿ではこれら制度・税制の廃止に係る状況及び環境認可簡素化に係る連邦政府と州及び準州政府との協議・合意状況等を報告する

はじめに

 2013年9月7日に行われた総選挙(下院全数改選、上院半数改選)の結果、保守連合(自由党・国民党)は下院150議席に対し過半数の76議席を大幅に上回る90議席を獲得したが、上院では76議席に対し33議席の獲得に留まり、過半数議席の獲得には至らなかった。前述した炭素価格制度の廃止、鉱物資源利用税(MRRT)の廃止及び環境認可の簡素化を実現するためには既存の制度・税制を規定する法律を廃止・修正するための国会承認プロセスが必須であったことから、保守連合政権は上院において必要不可欠となる少数党・無所属議員との協調等を経て、各種法案を成立させてきた。

 以下、主に廃止法案及び修正法案の国会審議の動向とこれら制度の現状を説明する。

1. 炭素価格制度の廃止について

(1) 炭素価格制度について

炭素価格制度は前の労働党政権が2012年7月に導入した制度であり、その概要は以下のとおりである。

■ 対象の温室効果ガスは二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、パーフルオロカーボン(PFC)の4種。

■ 二酸化炭素換算で年間25,000t以上の温室効果ガスを排出する企業が対象。

■ 制度開始から最初の3年間は固定価格。1年目の負担額(炭素価格)は23.00A$/t、2年目は24.15A$/t、3年目は25.40A$/t。

■ 2015年7月以降は変動価格に移行。炭素価格は排出権取引制度(Emissions Trading Scheme:ETS)により決定される。

(2) 炭素価格制度の廃止に関する動向(国会審議動向)

 2013年10月、保守連合政権は炭素価格制度を廃止する法案を発表。同廃止法案は公開協議(Public Consultation)の後、同年11月に国会に上程された。

 国会審議の経過等は以下のとおりである。炭素価格制度廃止に関する8つの法案は2014年7月に下院及び上院で可決され、同制度の廃止が決定した。

◆ 炭素価格制度が廃止に至るまでの主な動向
2013年10月 保守連合政権、炭素価格制度廃止法案発表
2013年11月 同制度廃止法案、下院で可決(○)
2014年03月 同制度廃止法案、上院で否決(×)
2014年04月 連邦政府、2014/15年度予算案を発表
→予算案には炭素価格制度の税収は計上されていない。
2014年06月23日 同制度廃止法案、下院に再上程
→審議は新上院(2013年9月の選挙で選出された議員で構成される上院)が召集される7月7日以降に行われる事となった。
2014年07月10日 同制度廃止法案、上院で否決(×)
2014年07月14日 修正廃止法案、下院で可決(○)
→同制度を廃止するための8つのパッケージ法案(*1)を可決。
2014年07月17日 修正廃止法案、上院で可決(○)
→下院で可決した8つの法案を可決。

☞ これにより炭素価格制度の廃止が決定した。

u0007*1: 炭素価格制度を廃止するための8つのパッケージ法案

1. Clean Energy Legislation (Carbon Tax Repeal) Act 2014
2. Customs Tariff Amendment (Carbon Tax Repeal) Bill 2014
3. Excise Tariff Amendment (Carbon Tax Repeal) Bill 2014
4. Ozone Protection and Synthetic Greenhouse Gas (Import Levy) Amendment (Carbon Tax Repeal) Bill 2014
5. Ozone Protection and Synthetic Greenhouse Gas (Manufacture Levy) Amendment (Carbon Tax Repeal) Bill 2014
6. Ozone Protection and Synthetic Greenhouse Gas (Import Levy) (Transitional Provisions) Bill 2014
7. True-up Shortfall Levy (Excise) (Carbon Tax Repeal) Bill 2014
8. True-up Shortfall Levy (General) (Carbon Tax Repeal) Bill 2014

(3) ダイレクト・アクション・プランについて

 与党保守連合は炭素価格制度に代わる二酸化炭素排出削減施策として「ダイレクト・アクション・プラン」の導入を検討している。

 ダイレクト・アクション・プランはセーフガード措置(Safeguarding Mechanism)と排出削減基金(Emission Reduction Fund: ERF)制度を含む施策である。セーフガード措置はある一定の排出量を超える事業者に対し、ペナルティを課すシステムと報道されているが詳細は発表されていない。排出削減基金制度は、最も安価なCO2削減方策を提案した企業にERFの資金を補助するというリバース・オークション・システムであり、連邦政府は2014/15年度予算においてERF に0.76億A$の予算を計上している。同政府は2014/15年度から2017/18年度までの4年間でERFに11.4億A$の予算措置を行い、2023/24年度までの10年間で計25.5億A$の予算措置を行うと表明している。

 ERFを設立するための修正法案「Carbon Farming Initiative Amendment Bill」は2014年6月25日に下院で可決された。同修正法案は今後上院で審議される。

2. 鉱物資源利用税(MRRT)の廃止について

(1) 鉱物資源利用税について

鉱物資源利用税は前の労働党政権が2012年7月に導入した制度であり、その概要は以下のとおりである。

■ 対象は石炭及び鉄鉱石プロジェクト権益を持つ企業。

■ 課税対象となる鉱物資源利益が7,500万A$未満の企業は課税免除。

■ 1億2,500万A$までの鉱物資源利益には段階的課税が実施される。

■ 実行税率は22.5%

■ MRRT税額=(鉱物資源利益-MRRT控除対象額)× MRRT税率

■ MRRT控除は、対象の鉱物資源利益がゼロ以下、または対象控除額を消費するまでは特定の順序で鉱物資源利益から控除する。控除対象は以下のとおり。

✓ ロイヤルティ
✓ 探鉱費
✓ プロジェクト損失等

(2) 鉱物資源利用税の廃止に関する動向(国会審議動向)

2013年10月、保守連合政権は鉱物資源利用税(MRRT)を廃止する法案を発表。同廃止法案は同年11月に国会に上程され下院で可決されたが、上院では2014年3月に否決された。国会審議の経過等は以下のとおりである。MRRT廃止法案は数度の修正を経て2014年9月2日に上院及び下院で可決され、同税制の廃止が決定した。

◆ MRRTが廃止に至るまでの主な動向廃止に至るまでの主な動向
2013年10月 保守連合政権、MRRT廃止法案発表
2013年11月 MRRT廃止法案、下院で可決(○)
2014年3月 MRRT廃止法案、上院で否決(×)
2014年4月 連邦政府、2014/15年度予算案を発表
→予算案にMRRT税収の収益は計上されていない
2014年7月17日 修正MRRT廃止法案、上院で可決(○)
→当該廃止法案は野党による修正が行われ、MRRT税収財源を福祉制度維持に用いる内容等が追加されたもの。
2014年7月18日 修正MRRT廃止法案、下院で否決(×)
→与党は上記の修正廃止法案を受け入れず、過半数を有する下院で反対。
2014年9月1日 再修正MRRT廃止法案、下院で可決(○)
2014年9月2日 再々修正MRRT廃止法案、上院で可決(○)
→当該廃止法案は野党パーマー党等による13の修正が加わったもの(*2)。
2014年9月2日 再々修正MRRT廃止法案、下院で可決(○)
→与党保守連合がパーマー党等による修正案に合意し、過半数を有する下院で可決。

☞ これによりMRRTの廃止が決定した。

* 2: 9月2日の再々修正MRRT廃止法案は、Palmer United 党及びミュアー上院議員が代表するAustralian Motoring Enthusiast 党と与党保守連合間で合意された以下4つの妥協案を含む13の修正が加わったもの。

1. 低所得層補充手当(Low income bonus)の廃止を2016年12月31日以降まで延期

2. 学童助成金(School Kids Bonus)の廃止を2016年12月31日以降まで延期し、受給資格を年間所得がA$100,000以下の家庭に限定

3. 低所得労働者向け退職年金の拠出を2017年6月30日まで継続

4. 退職年金拠出率の10%増加を2021年7月1日まで延期

(3) 鉱物資源利用税廃止法の施行日

 2014年9月22日、豪州連邦政府はMRRT廃止法の施行日を発表。

 MRRT廃止法は2014年9月30日に施行され、MRRTは同年10月1日以降、廃止する事が定められた(MRRTの納税申告義務の期日は2014年9月30日までとなる)。

3. 環境認可の簡素化について

(1) 環境認可プロセスの簡素化に関する連邦政府と州・準州等政府の動き

 連邦政府と州・準州等政府は、従来、双方の政府が実施していた環境認可プロセスを簡素化する「One-Stop-Shop」の実現に向け、以下の3つの段階からなる手続きを実施している。

▶ 第1段階「環境認可プロセスの簡素化に関する覚書(MOU)」の締結
▶ 第2段階「環境影響評価プロセスの簡素化に関する協定」の締結
▶ 第3段階「認可プロセスの簡素化に関する協定」の締結

 第1段階の「環境認可プロセスの簡素化に関する覚書(MOU)」は、2013年10月にQLD州政府が先行して連邦政府と締結し、同年12月までに全ての州・準州等政府が連邦政府とMOUを締結した。締結時期は以下のとおり。

▶ 2013年10月  QLD州
▶ 2013年11月  NSW州

▶ 2013年12月  NT準州、SA州、WA州、VIC州、TAS州、ACT1

 第2段階の「環境影響評価プロセスの簡素化に関する協定」は、これまでにQLD州政府、NSW州政府及びACT政府が連邦政府と締結済み。締結時期は以下のとおり。

▶ 2013年12月  QLD州
▶ 2013年12月  NSW州
▶ 2014年 6月   ACT

 残る州及び準州も当該協定の原案を策定、公表しており、協定締結に向け連邦政府と協議を行っているところである。2014年9月末までにVIC州以外の州、準州政府は連邦政府と協定を締結する予定。VIC州と連邦政府の協定の締結は2014年12月頃となる見込み。協定締結予定時期及び協定原案発表時期は以下のとおり。

▶ 2014年 9月 締結予定  SA州 (協定原案発表:2014年2月)
▶ 2014年 9月 締結予定  NT準州 (協定原案発表:2014年4月)
▶ 2014年 9月 締結予定  WA州 (協定原案発表:2014年5月)
▶ 2014年 9月 締結予定  TAS州 (協定原案発表:2014年8月)
▶ 2014年 12月 締結予定  VIC州 (協定原案発表:2014年9月)

 第3段階の「環境認可プロセスの簡素化に関する協定」は、QLD州政府が先行して連邦政府と協議中である。QLD州政府は2014年5月に当該協定の締結に向け連邦政府と協議を開始した。

(2) 環境認可簡素化に係る法案の審議状況

 連邦政府は州及び準州政府との協定締結に向け、既存の法律「Environmental Protection and Biodiversity Conservation Act 1999」を修正する複数の修正法案を2014年5月に国会に提出した。

 修正法案「Environmental Protection and Biodiversity Conservation Amendment (Cost Recovery)Bill 2014」は2014年5月28日に下院で可決され、同年6月24日に上院で可決された。

 他の修正法案「Environmental Protection and Biodiversity Conservation Amendment Bill 2014」は上院にて審議中である。


   1 ACT… The Australian Capital Territory(オーストラリア首都特別地域)

おわりに

 2013年9月の総選挙時に保守連合が選挙公約として掲げた主要な施策のうち、炭素価格制度の廃止、鉱物資源利用税の廃止及び環境認可簡素化(One-Stop-Shopの実現)は保守連合政権の誕生後1年で概ね現実のものとなってきている。

 炭素価格制度に代わる二酸化炭素排出削減施策である「ダイレクト・アクション・プラン」に関しては施策の重要な柱の1つである排出削減基金(ERF)への予算措置がなされ着々と進展している印象である。しかしながら、もう一つの重要な柱であり企業にペナルティを課すシステムであるセーフガード措置の詳細は発表されておらず、今後、当該措置の内容を注視していく必要がある。

 一方、環境認可簡素化に関しても、連邦政府と州・準州等政府はOne-Stop-Shopの実現に向けて着実に協議を進めてきている印象であるが、まだ実現していないのは事実である。今後、双方の政府の動きを注視していく必要がある。

<参考資料>

シドニー日本商工会議所 「オーストラリア概要2012/2013」
シドニー日本商工会議所 「オーストラリア概要2013/2014」
Deloitte 「オーストラリアの炭素価格制度」
Deloitte 「Tax and Investment Profile Australia 2013」
KPMG 「オーストラリア連邦予算案概要」… Jun 10, 2014
KPMG 「保守連合政権の気候変動政策アップデート」… Jul 25, 2014
E&Y 「MRRT廃止法案可決と今後のコンプライアンスに関するアップデート」… Sep 4, 2014
Australian Taxation Office 「ATO provides advice on MRRT repeal」… Sep 9, 2014
E&Y 「MRRT廃止日の正式公布」… Sep 24 and 25, 2014

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