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報告書&レポート

2014年10月2日 バンクーバー事務所 副所長 山路法宏、ワシントン事務所 副所長 佐藤陽介、 金属企画部国際業務課 課長代理 片山弘行
2014年42号

カナダにおける先住権原に関する歴史的判決とその影響

 2014年6月26日、カナダ連邦最高裁判所はカナダの先住民の一つであるTsilhqot’in Nationが主張する土地所有権を含む先住権原(Aboriginal Title)1を認め、ブリティシュコロンビア州(BC州)が同権利を制限するにあたりTsilhqot’inに対して事前協議を行う義務に違反したとの判決を下した2

 同判決の中では、土地の専有が認められるのは特定の領域のみに限られるというBC州の主張は退けられ、特定の占有地以外でも狩猟や漁獲、その他資源の採取のために規則的に用いられ、排他的な利用がなされている領域においても先住権原が認められた。更に、このような先住民の土地に対する権利が確立された場合には、政府がその権利を制限するにあたり、影響を受ける先住民の同意または正当な理由が必要になることも判じた。BC州では、過去の歴史において先住民との間で土地の権利関係に関する条約が締結されていない場合が多い中で、今回の判決は初めて先住民の先住権原を認めた歴史的判決であり、大きな話題となった。

 一方で、その2週間後の7月11日には、オンタリオ州(ON州)西部に居住する先住民Grassy Narrowsが起こしていたON州による森林伐採の許認可権限の無効を求めた裁判に関して、同じく連邦最高裁判所はGrassy Narrowの主張を退け、州の許認可権限を認める判決を下した3。これはTsilhqot’inとは異なり、条約が締結されている地域で訴訟であった。

 本稿では、それぞれの判決について、その背景と判決の概要について概説すると共に、これらの判決が及ぼすカナダ国内での鉱業活動に対する影響について考察する。


 1 先住民族による慣習的土地利用に対する権利の根拠となるもの。土地所有権は先住権原から派生する実質的権利。

 2 Supreme Court, “Tsilhqot’in Nation v. British Columbia, 2014 SCC 44”, June 26, 2014
http://scc-csc.lexum.com/scc-csc/scc-csc/en/item/14246/index.do

 3 Supreme Court, “Grassy Narrows First Nation v. Ontario, 2014 SCC 48”, July 11, 2014
http://scc-csc.lexum.com/scc-csc/scc-csc/en/item/14274/index.do

1. カナダの先住民の人々4

(1) カナダの先住民の人々
 2011年の統計によれば、カナダ全人口の4%の140万人が自らを先住民として識別している。先住民とは、ヨーロッパ人が北米大陸に到着する前から当地に定住していた人々であり、ファーストネーション(First Nations)、イヌイット(Inuit)、メティス(Metis)に分類される。ファーストネーションは、かつては「インディアン」と呼ばれた人々であり、イヌイットは北米沿岸(ヌナブト準州、ノール・ドュ・ケベック地域など)に居住していた人々、メティスはこれらの人々とヨーロッパ人の混血の人々である(「インディアン」という言葉が法律に残っているため行政や法的文脈で用いられるが、「ファーストネーション」という呼称の方が望ましいとされる)。これらの人々は主に居住地の環境に基づく異なる文化、言語、習慣を有している。

 カナダ先住民関係・北方開発省(AANDC: Aboriginal Affairs and Northern Development Canada)によれば、カナダには635のファーストネーションの共同体が存在しており、うち今回判決のあったBC州には198、オンタリオ州には139のファーストネーション共同体が存在している。その他、イヌイットは53の共同体が存在している。

(出典:AANDC5

図1. カナダのファーストネーション共同体の分布

(2) 概略史
 先住民の人々とヨーロッパ人との接触が盛んになるのは15世紀のことである。その関係は毛皮の交易に始まり、ヨーロッパ人が入植を開始するとカナダの先住民の人々は英国や仏国の入植者達と同盟を組むようになった。ヨーロッパでの七年戦争(1756-1763年)と北米を舞台にした「フレンチ・インディアン戦争」によって仏国の入植者が北米からほぼ駆逐された結果、英国人が支配的な地位を得るようになった。

 1763年の英国王室による国王宣言(Royal Proclamation of 1763、以下、「1763年宣言」)は、カナダの先住民の人々と入植者達との土地権利関係の確定のための最初の枠組みとなる。英国王室令は入植地の管理方法を定めたものだが、特に入植地の境界を定めるものであった。すなわち、入植地の境界から西方は全て「インディアンの領域」となり、インディアン省の許可無くしては入植することも取引することもできなくなった。そして英国王室のみが先住民の人々から土地を購入することができ、英国王室によるもの以外は全て違法とされた。

 アメリカ独立戦争などを経て平和が訪れると新たな移民や入植者達が増えた。この頃には入植者の人口が先住民人口を上回るようになり、カナダにおける英国王室と先住民の人々との土地明け渡し条約の締結が進められる。1850年代に締結されたRobinson-Huron条約及びRobinson-Superior条約は、その後、西部において締結される条約の雛形となった。この2つの条約の下では、先住民の人々は一定の居留地(Reserve)や年金、専有されていない王領地における狩猟・採集の権利と引き換えに土地や土地に関する権利を英国王室に割譲するという内容であった。

 1860年にインディアン土地・財産管理法(インディアン土地法)が成立すると、先住民関係の事柄に関する権限が王室から植民地へと移転され、英国王室の先住民の人々に対する責任が免除された。その後、1867年に英領北アメリカ法(のちの1867年憲法)によりカナダが成立すると、この権限はカナダ政府へと移転された。カナダは1871年から1921年にかけて新たな領域についての土地明け渡し条約の締結を進め、11の条約が締結されたがRobinson条約に沿う内容であった。カナダ西部においても、当初土地明け渡し条約の締結が進められたが、1859年にブリティッシュコロンビア入植地が成立すると方針を転換し、先住民の人々の土地に関する権利を認めない方針を採用した。この方針はブリティッシュコロンビアがカナダ連邦制度に加入した後も継続し、他の地域とは異なる経過を辿るようになる。

 先住民の人々は2度の世界大戦や朝鮮戦争に参加し、戦後先住民の人々の新しい時代とも言うべき社会的・政治的変化が生じ始めた。先住民の共同体からは指導者が現れ、戦争に多くの先住民の人々が参加したことに注意を向けさせた。カナダはそれまで先住民の人々の同化政策や彼らの権利を制限する数々の法制を成立させ、これらの人々は苦しい時代を過ごしてきたが、戦後先住民の人々の地域的な組織が作られるようになり、その他のカナダ人との平等や固有の文化や遺産の維持、あるいは固有の権利としての土地の権利を求めて活動するようになる。


 4 カナダの先住民の人々の歴史や文化についてはAANDCのHPに詳しい。
http://www.aadnc-aandc.gc.ca/eng/1307460755710/1307460872523

 5 http://fnpim-cippn.aandc-aadnc.gc.ca/index-eng.asp

2. 最高裁判決Tsilhqot’in Nation v. British Columbia

(1) 事実背景
 Tsilhqot’inは、BC州中央の河川及び山地に囲まれた地域に居住し、共通の文化と歴史を有する6つの集団からなる先住民である。Tsilhqot’inは、同州内に存在する土地所有権利関係が確定していない数百の集団の一つでもある。1983年、同州はTsilhqot’inが伝統的領有権を主張する領域における材木の商業伐採のライセンスを発効した。Tsilhqot’inはこのライセンスの発効に反対し、当該土地における商業伐採ライセンスの発効を禁止する宣言を求めた。BC州との協議は行き詰り、この間Tsilhqot’inの主張は当初の請求から変更され、部族としての先住権原の主張へと変わったが、連邦及び州はこの主張に反対した。

(2) 法的背景
 カナダのほとんどの領域においては、先住民が土地に関する権利を英国王室(カナダ政府)に割譲する代わりに部族の居留地の認定その他補償を受け取ることを内容とする条約を英国王室との間で締結してきた。明け渡された土地は王領地(カナダ国有地)となり、カナダ連邦法が適用される。しかしBC州では僅かな事例を除いて、このような慣行は行われてこなかった。

 一般的に、州は憲法の下で王領地、部族の土地、私人の土地を含む全ての土地を規制し、法を執行する権限を有する。問題となったTsilhqot’inの土地は、BC州の商業伐採ライセンスの発効前に条約が締結されておらず、権利関係が確定していない土地であった。また、同州がライセンスを発効した法権原である森林法は連邦法であり、国有地に対して適用されるものであった。この点、Tsilhqot’inの先住権原の有無、森林法の適用の可否が問題となった(判決では訴えを解決するには前者の問題にのみ対処すれば足りるが、主席判事は今後の道標として後者の問題にも取り組んだ)。

(3) カナダ先住民の土地の権利に関する判決で確立された法理
 カナダ最高裁は、今回の判決に臨んで以下のとおり過去の判例を確認した。

 1. 1973年:Calder v. Attorney General of British Columbia, S.C.R.313

・ 条約その他の方法によって失効させられない限り、先住民の土地に関する権利は有効である(本判決を受けカナダ政府は特にBC州において先住民との条約交渉を開始する)。

 2. 1982年:憲法(Constitution Act)6§35の施行

・ 先住民の既存の権利を認識、確認した(本判決が具体化されるのは後になってから)。
※ 1982年憲法§357

-1- カナダの先住民の人々の現存する先住民の権利と条約上の権利はここに承認され確定される。

-2- この法律における「カナダの先住民の人々」には、カナダのインディアン、イヌイット、メティスの人々が含まれる。

-3- より明確には、サブセクション(1)に言う「条約上の権利」には、土地請求協定によって今現に存在する権利又はそのようにして獲得される権利が含まれる。

-4- この法律の他の条項に関わらず、サブセクション(1)に言うこの先住民の権利及び条約上の権利は、男性と女性に対して平等に保証される。

 3. 1984年:Guerin v. The Queen, 2 S.C.R. 335

・ 先祖代々の土地に対する先住民の潜在的先住権原を確認した。同意意見においてDickson判事は、先住民の土地権利に取り組んだ。同意意見では、英国王はカナダの主権を得た時にBC州の全ての土地に対する基礎的先住権原をも獲得したが、当該権利は主権確立に先立つ先住民の人々の土地の使用及び専有に基づく、先に存在していた法的権利によって制限を受ける。この先住民の利益は独立した法的利益であり、英国王に対して特有の信任義務を課す。

 4. 1990年:R. v. Sparrow, 1 S.C.R. 1075

・ 1982年憲法§35が1982年4月17日以前に失効させられていない全ての先住民の権利を合法的に保護し、これらの権利に関して英国王に信任義務を課すと判じた。同法廷はまた、同憲法§35の下では、同セクションが保護の対象とする権利は、2つのテストをパスすることによってのみ制限することができる。1)“説得力のある、または実質的な”目的を実現する法律によらなければならない。 2)英国王に対して課される信任義務の下で、当該法制が侵害される先住民の利益に優先することを説明しなければならない。

 5. 1997年:Delgamuukw v. British Columbia, 3 S.C.R. 10108

・ Calder判決、Guerin判決、Sparrow判決で打ち立てられた原則を統合し、先住民の先住権原という文脈において適用した判例。同法廷は英国王と先住民との関係における権利と義務の独特な性質を確認し、また、先住民の先住権原を独特なものとしている要因が英国の主権宣言に先立つ専有から生じており、主権宣言以降の無条件財産相続権とは区別されると述べた。そして先住民の先住権原の主張を評価するにあたり、慣習法と先住民が同等に重視されると述べた。

・ 同判決はまた、先住民の先住権原の内容について正と負の面から要約した。1)先住民の先住権原は、その態様によらず様々な目的のために排他的に使用・専有する権利を含む。2)集団としての先住権原であり、将来世代の土地をコントロールし利益を得る権利を奪ってはならない。

・ 同判決はまた、先住民の先住権原に対する制限は、1982年憲法§35の下でSparrow判決に従って正当化されることを確認し、同正当化行為を“先住民の社会を、それが所属するより広範な政治的コミュニティに和解させる必要な部分”として説明した。

 6. 2004年:Haida Nation v. British Columbia, 2004 SCC 73, 3 S.C.R. 511

・ 影響を受ける先住民の共同体をその土地に関する決定に関与させるというDelgamuukwの論理を、先住民が所有権を有すると主張する土地で、未だその権利が確立されていない土地に対する開発計画に適用した。同判決では広範囲にわたる協議が必要であることを確認した。

・ 王の義務(協議義務、補償義務)の程度は、主張されている権利や先住権原が存在する確実性の度合いと、予定されている行為が当該権利や先住権原に対して及ぼす侵害の程度に応じて比例する。最高裁は、Delgamuukw判決に内在していたこの比例均衡原則が、このHaida判決において再度出現したと述べる。

・ 同法廷はまた、先住権原を巡る問題を解決するために、英国王は道徳的義務のみならず誠意をもって交渉する法的義務を有すると宣言した。

 7. Tsilhqot’in判決の基礎

   カナダ最高裁は、上記の判例を受け今回のケースにも関係する判決の基礎として以下を確認する。

・ 基礎となるあるいは根本となる英国王(政府)の権利は、確立されている先住民の土地に対する利益に服する。

・ 先住民の土地に対する権利は、当該先住民のグループにその土地を利用しコントロールする権利を付与し、そしてその利益を享受する権利を付与する。

・ 政府は先住民の土地に対する権利に由来する先住民の権利を制限することができるが、その制限が説得力のある実質的な目的を有し、先住民に対する政府の信任義務に一致しているということに基づいてのみ正当化できる。

・ 先住民の土地に対する権利が確立されていない場合、それが主張されている土地において資源の開発を行う場合には、政府は当該主張を行っている先住民の人々と協議することが求められる。

・ 政府は、先祖代々の土地に対する主張を解決するために誠意をもって交渉する法的義務を負う。

(4) Tsilhqot’in判決の論旨

✓ Tsilhqot’inの先住権原を基礎付けるために十分性、継続性、排他性の3つのテストを設けた上で、当該土地権利がこれら全てをパスしたとしてTsilhqot’inの先住権原を認めた。特に十分性テストに関しては、本訴訟の核心となるものとして、先住民の文化や慣行を考慮に入れ、占有地のみならず狩猟や漁獲、その他資源の採取のために規則的に用いられ排他的な支配がなされている領域における先住権原をも認める。

✓ 先住民の先住権原は、集団の利益の性質と将来世代の享受という制約の下で、それを保持する集団に排他的土地使用権及びそれから利益を得る権利を付与するという性質を有する。先住民の先住権原の確立に先立ち、英国王は土地に対する権限を主張する集団と土地使用の計画に関して協議することや、適切であればその集団の利益に対応することを求められる。協議や対応の程度は比例原則に応じる。

✓ 先住民の先住権原が確立された場合には、英国王は手続的義務に従うだけではなく、当該権利を侵害する際に当該行為が1982年の憲法法§35の要求事項に一致することを確保し、正当化しなければならない。このことは政府に1)当該政府の目的が説得力を有し実質的なものであること、2)当該政府の行為は英国王が先住民に負っている信任義務に一致するものであることを証明することを求める。このことは先住民の先住権原が現在及び将来世代に内在する集団利益であるという事実を尊重する仕方で政府は行為をなさなければならないこと、正当化プロセスに比例原則を持ち込むことを意味する9

この比例原則は、次の1:~3:を求める。

1: 当該権利の侵害は政府の目標を達成するのに必要であること(合理的関係)
2: 政府はそれを達成するのに必要以上の事をしてはならないこと(最小限の損害)
3: その目標から得られる利益は先住民の利益が被る悪影響以上のものであること(影響の比例)

✓ 違反の申立は、先住権原の宣言の前になされたBC州による1983年及びそれ以降に係るライセンスの発効により生じた。同州は土地使用に関してTsilhqot’inと協議し、彼らの利益に対応することを求められる。同州はいずれも行っておらず、従ってTsilhqot’inに負っている義務に違反している。

✓ 当該請求の処分には不必要であるが、森林法の先住民が先住権原を有する土地に対する適用可能性の問題は緊急の重要性を有する。1982年の憲法§35、憲法における権力の分割に従って、州法の一般適用法規は、先住民が先住権原を有する土地にも適用される。ライセンスが発行された時点で森林法は当該土地に適用される。BC州議会は、少なくとも先住民の先住権原が認識されるまで、権利が主張されていた土地が森林法を適用するための王領地のままであるということを基礎に明確に意図し進めていた。今や当該土地権利は確立され、当該土地上に存在する材木は“王の材木”としては定義されず、森林法ももはや適用されない。

✓ このことは、先住民の土地権利が確立された土地に適用されると主張される森林法といった森林関係法が、1982年憲法§35の枠組みまたは憲法の下での州の権限への制限に取って代わられるのかという疑問を提起する。同憲法§35の下では、権利は、合理的で、過度の苦難を課さず、あるいは権利保持者の権利を彼らが望む権利の行使という形によって拒否する場合には法制によって制限を課すことができる。害虫の侵入への対応や山火事を防ぐことを目的とした一般的な法制はしばしばこのテストをパスし、如何なる権利の侵害も生じさせない。しかし、先住民が土地の権利を有する土地上の材木の伐採を許可するライセンスの発効は、先住民の財産権を第三者に直接移転するものであり、これら先住民の人々の財産権の減少を意味し、先住民の同意なくしてなされた事案において正当化しなければならない権利の侵害に至る。

最高裁の判決の論旨は上記のとおりであるが、同法廷は結論の基礎として以下のとおり整理している。

◆ 先住民の土地に対する権利は当該土地の規則的で排他的な土地の利用という意味における専有に根拠を有する。

◆ 本件の場合、先住民の土地に対する権利は事実審によって特定された地域(※占有地のみならず規則的排他的な利用がなされていた土地)に対しても確立される。

◆ 先住民の土地に対する権利は、当該土地を利用しコントロールする権利を付与し、当該土地から得られる利益を収める権利を付与する。

◆ 土地に対する権利が確立されてはいないが、そのような権利が主張されている場合には、1982年憲法§35は政府に対して土地に対する権利を主張しているグループと協議し、必要であれば侵害を受ける利益の補償をすることを求めている。

◆ 先住民の土地に対する権利が確立された場合、1982年憲法§35は当該先住民グループの同意を得た場合、又は、説得力のある実質的な公共の目的のために正当化され先住民グループに対する国王(政府)の信任義務に一致する場合のみ、権利の侵害を許可する。


 6 カナダ憲法は日本国憲法のように1つの法典で成立しておらず、英領北アメリカ法(後の1867年憲法)、1982年の憲法、1867年憲法法を修正する複数の憲法、マニトバ法をはじめとする植民地の連邦加盟時に制定された諸法令、自治権を付与したウェストミンスター法等の複数の制定法から構成される。その他判例や慣習など成文法以外のものも憲法を構成する。

 7 Government of Canada, “Justice Laws Website”
http://laws-lois.justice.gc.ca/eng/CONST/page-16.html#h-52

 8 Delgamuukwの判決では、先住民の伝統的土地利用に限定されない広範な権利が認められため、明らかに先住民の伝統的土地利用に含まれない地下鉱物を採取する権利も先住権原から派生する権利として認められる可能性が生じた。

 9 判決では、Delgamuukw判決から以下のとおり引用し、正当化事由として農業、森林、鉱業、水力発電、BC州内陸の一般的な経済開発、環境・絶滅危惧種の保護、インフラの建設、外国人との調停を挙げている。
“the development of agriculture, forestry, mining, and hydroelectric power, the general economic development of the interior British Columbia, protection of the environment or endangered species, the building of infrastructure and the settlement of foreign populations to support those aims, are the kinds of objectives that are consistent with this purpose and, in principle, can justify the infringement of Aboriginal title.”

3. 最高裁判決Grassy Narrows First Nation v. Ontario

(1) 事実・法的背景
 1873年、カナダ自治領政府代表と先住民族Ojibwayは、現在のON州西部とMT州東部に当たる土地において、条約「Treaty 3」を締結した。これにより、Ojibwayは、彼らに所有権が与えられた一部の保留地を除く土地の所有権を放棄する代わりに、カナダ自治領政府による開拓や鉱業、材木伐採その他の目的によってその土地が取り込まれるまでは、所有権を手放した土地においても彼らによって伐採を行うことが認められていた。このTreaty 3には、Keewatin地域が含まれており、条約締結時にはカナダ政府の排他的管理下にあると判断されたが、1912年に同地域がON州に併合された後は、同州がKeewatin地域の土地の開発に対してライセンスを発行してきた。

 2005年、Ojibwayの子孫に当たる先住民族のGrassy Narrowsは、Keewatin地域内で伐採を行う林業ライセンスに対して異議を申し立てる訴訟を起こした。彼らの懸念は、自分たちの伝統的な土地で行われている森林伐採が狩猟や飲料水の水質などに悪影響を及ぼすことにあり、当初は条約で保障されている自分たちの作物の収穫や動物の捕獲を行う権利(Harvesting Rights、以下、「収穫権」)を侵害すると主張していたが、その後の法的な論点は、Treaty 3はカナダ連邦が締結したものであり、ON州にKeewatin地域の土地を取り込む権限があるのかどうかという点となった10

(2) Grassy Narrows判決の論旨

✓ 本訴訟の争点の中心は、Treaty 3で認められている収穫権を制限することになるKeewatin地域の土地を取り込む権限(Taking-Up)がON州にあるのかどうか、カナダ連邦の承認を受ける必要があるのかどうか、という点にある。

✓ Treaty 3の下で土地を取り込む権限を有しているのはON州だけであり、そのことは憲法の条項や条約の解釈、Treaty 3の土地に関する法律によって確認できる。

✓ 第一に、Treaty 3は連邦によって交渉が行われたが、これはOjibwayと王室との間で結ばれた協定であり、憲法の下での権限分割の範囲内において、連邦及び州のいずれもその約束事項を全うする責任を負う。1867年憲法§109、§92(5)および§92Aは、ON州がKeewatinの土地における利益を享受する権利を有しており、かつその土地の上または下にある資源に関して、法律を制定するのと同様に管理、売却する独占的な権限を持っていることをはっきりと定めている。総じて、林業のように州によって規制される目的において、これらの条項は、ON州にTreaty 3の下でKeewatin地域の土地を取り込む権限を与えている。加えて、同憲法§91(24)は、もっぱら州が規制する目的に対して州の土地を取り込む権限をカナダ連邦に与えていない。11

✓ 第二に、Treaty 3の本文及び交渉過程には、連邦の監督や承認を必要とする二段階プロセスが意図されたことを示唆するものは何もない。Taking-Up条項は、憲法の下で司法権を有するレベルの政府に責任があることを裏付ける。条約の中でカナダに言及しているのは、単に当該土地が当時はON州ではなくカナダに属していたという事実を反映しているに過ぎない。

✓ 最後に、条約の署名に後で制定されたTreaty 3の土地に関する法律は、その土地の管理と受益所有権に基づいて、ON州の取り込む権利を裏付けた。

✓ ON州の土地の取り込み権限は無条件に与えられたものではない。連邦であっても州であっても、政府が王室の権限を行使する際、その権限行使によって、問題になっている先住民族に対する王室の義務も背負うことになる。ON州は王室の道徳規範に基づいて、その権限を行使しなければならず、それらの権限の行使は先住民の利益に関して王室にのしかかる信認義務にさらされる。取り込まれるTreaty 3の土地に対して、その土地でのOjibwayの収穫権は尊重されなければならない。林業その他の目的のためのKeewatin地域で実行されるいかなる土地の取り込みも、最高裁判決”Mikisew Cree First Nation v. Canada”で述べられた条件に満たさなければならない。その土地の取り込みによって、Ojibwayの伝統的な地域において狩猟、釣り、捕獲を行うという彼らにとって有意義な権利が残されないようであれば、条約違反として訴訟を起こされる可能性が生じる。


 10 Treaty 3は、伐採権について以下のように定めている。(taking-up条項)
. . . they, the said Indians, shall have [the] right to pursue their avocations of hunting and fishing throughout the [said] tract surrendered as hereinbefore described . . . and saving and excepting such tracts as may, from time to time, be required or taken up for settlement, mining, lumbering or other purposes by Her said Government of the Dominion of Canada, or by any of the subjects thereof duly authorized therefor by the said Government.

 11 1867年憲法。§91では、連邦議会の立法権限が及ぶ事柄が列挙されており、(24)にはインディアンおよびインディアン保有地(Indians, and Lands reserved for the Indians)と規定されている。一方、§92Aには天然資源の探査、開発、保護、管理は州政府に権限があるとされている。
http://laws-lois.justice.gc.ca/eng/Const/index.html

4. 鉱業界における反応と今後の影響

(1) Taseko Mines社のNew Prosperity金・銅鉱山開発に対するTsilhqot’in判決の影響
 Tsilhqot’inが先住権原を請求していた土地には、Taseko Mines社のNew Prosperity金・銅開発プロジェクトも含まれていたが、図2に示すとおり、今回の判決において連邦最高裁判所が先住権原を認めた土地からは外れることとなった。この結果を受けて、同社は、連邦最高裁判所によってNew Prosperityプロジェクトが位置する土地には先住権原が存在しないことが確定したと捉え、現在BC州において先住権原が存在しない土地であることが明確である唯一の開発プロジェクトだとの主張を展開している。しかし、今回の判決はTsilhqot’inに対して先住権原を認めなかったのであり、他の先住民が先住権原を主張する可能性は否定できない。

(出典:Supreme Court, “Tsilhqot’in Nation v. British Columbia, 2014 SCC 44”, Jun 26, 2014)

図2. Tsilhqot’inの権原主張地域と最高裁の認定地域とNew Prosperityプロジェクト位置図

(2) BC州における条約交渉に対するTsilhqot’in判決の影響
 前述のとおり、BC州は過去、先住民の人々の土地に関する権利を認めない方針を採用したことから、大部分の地域で条約が締結されておらず先住権原が消滅していない。そうした中で、連邦政府、BC州政府およびBCファーストネーション共同体は、1992年にBC条約委員会(BC Treaty Commission:BCTC)と条約交渉プロセスを創設した。このプロセスにより、現在BC州では61件の条約交渉が行われており、うち4件では既に条約が締結され実行に移されている12

 これらの交渉には、インディアン法(Indian Act)に基づき認定されているBC州内の203の部族(Band)のうち、半数を超える104の部族を代表する61のファーストネーションが参加している。

 Tsilhqot’inの向かいで生活するEsk’etemc First Nationは、1994年に条約交渉プロセスを開始し、現在6段階あるプロセスの4段階目にあるが、今回のTsilhqot’in判決を受けて、選択肢を検討した上で必要とあれば裁判の準備をすることも考え始めている。既に条約交渉プロセスに入っている場合には、交渉継続と訴訟という選択肢があるが、過去の交渉では政府側による権限を認めないとのスタンスが膠着状態を招いたとして、政府側の対応に不満を持つファーストネーションも多く、今回の判決によっても政府側の対応や態度に変化が生じないようであれば、自分たちの権限を証明するために訴訟に傾倒する可能性もある。ただし、裁判には多大なコストと時間を要することもあり、利用価値の少ない土地の権利にこだわるよりも、現実的に開発による経済的利益を志向しているところも多いとの見方もある。

 一方、条約交渉を行っていないファーストネーションは、先住権原を主張する手段として、より訴訟を選択するところが多くなると思われる。実際、BC州北西部に居住するTahltan First Nationは、Tsilhqot’in 判決当日に、BC州政府や彼らの居住区域内で韓国のPOSCOと共にArctos無煙炭プロジェクトを実施しているFortune Minerals社に対して、先住権原を請求する意向を表明している。

(3) 鉱業界のTsilhqot’in判決に対する反応
 Tsilhqot’inの判決によるカナダ国内の鉱業界の反応は、先住民との交渉における負担の増加や他の先住民族による訴訟の追随を懸念する声がある一方で、従来から先住民との対話を重視してきたとして何ら影響はないとする企業や、重要な判決であることには相違ないものの、資源開発プロジェクトにおける先住民協議については特段規制が緩和されることも強化されることもなく、実質的には大きな変化はないだろうとする見方もある。

 また、4割の土地で依然として条約がなく先住権原が消滅していないと言われるケベック州(QC州)では、Tsilhqot’inの判決は比較的冷静に受け止められているようである。同州では、CreeとInuitが居住する大半の北部地域でComprehensive Agreementを締結していることや、現在4月に誕生した自由党政権によって推し進められている北部開発計画「Plan Nord」をはじめ、天然資源やインフラの開発においては地元の承諾が求められており、同意形成、即ち、開発による利益の共有の重要性を強調していることから、総じて今回の判決を受け入れ易い素地があったものと思われる。

(4) 鉱業界のGrassy Narrows判決に対する反応
 Grassy NarrowsがON州政府による伐採権の許認可無効を主張した土地には、Goldcorp社が操業する同国最大の金鉱山をはじめ、多くの鉱山が操業を行っていることから、州政府より採掘権の許認可を得ている鉱山会社にとっても他人事ではなく、その判決が注目されていた。そのため、鉱業界では州政府による許認可権限が認められた今回の判決を歓迎する声がほとんどであり、ON州をはじめカナダ国内の条約が締結されている地域においては、探鉱開発プロジェクトに対する本判決による負の影響はほとんどないと思われる。


 12 交渉プロセスは6段階に分かれており、Stage1はファーストネーションによる交渉意思の表明で、Stage6は条約の実行段階となる。個別交渉の詳細は、以下のBCTCのホームページを参照。
http://www.bctreaty.net/files/updates.php

まとめ

 今回のTsilhqot’in判決では、先住民の土地権利が確立されていない地域において、先住民の占有地のみならず狩猟や採集など規則的排他的に利用されてきた土地に対しても、その権利が認められ得ることを示した。さらに先住民の土地に対する権利が認められている場合には、政府はその先住民の同意を得るか、公共の目的や合理性などによって正当化されない限り、当該土地権利を制限することができないと判じた。

 当該判決が下された直後は、大部分で条約のないBC州や、やはり4割の土地で条約が締結されていないQC州をはじめとするカナダ東部地域おいて、同様の訴訟の増加や先住民との交渉に伴う負担の増加、州政府及び連邦政府による環境許認可手続きに更なる遅延を懸念する声が多く聞かれ、特にBC州での開発のハードルが高くなるとの見方もあった。

 しかし、歴史的に画期的な判決となったことは間違いないものの、もともと近年は先住民との対話が重視されてきたこともあり、思ったよりも大きな影響や変動は少ないのではないかとの冷静な見方も増えており、これまでのところ探鉱開発プロジェクトに具体的な影響を与えたとの情報はほとんど耳にしない。

 Grassy Narrows判決も事業者にとっては安心できる結果となったこともあり、この2つの判決による鉱業分野での影響は今のところ顕在化していない。しかしながら、今後他の先住民も追随して訴訟を起こす可能性が以前に増して高まったことに変わりはなく、BC州をはじめとして、条約のない土地においては先住民との対話、協議が一層重要となることは間違いない。

 また、これらの判決が下された後の8月4日には、BC州のMount Polley銅・金鉱山の堆積場(Tailing Dam)が決壊し、湖や川に大量の廃さいが流出する事態が発生し、環境への影響はもとより一時的に近隣の地域に水の使用禁止令が発令されるなど、鉱山開発が先住民の生活を脅かす負の存在としてクローズアップされることとなった。今回のTsilhqot’in判決により条約のない伝統的な土地において先住権原が認められたという事実と、今回の堆積場決壊に伴う鉱山開発に対する負のイメージによって、経済利益の観点から鉱業活動に対して理解のあった先住民を一転して先住権原を主張する方向に変えてしまう可能性も否定できず、先住民の動向については引き続き注視する必要があるだろう。

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