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報告書&レポート

2014年12月4日 ロンドン事務所 竹下聡美
2014年48号

世界経済とベースメタル市場の見通し-LMEセミナー2014から-

 毎年恒例のLMEウイークが2014年10月20日の週にロンドンで催され、初日にはLME主催の『LME Metals Seminar』が開催された。LMEの事業戦略に関しては、別途報告したが(http://mric.jogmec.go.jp/public/current/14_46.html)、この他、専門家による世界経済の動向やアルミニウム、銅、亜鉛の2015年の需給見通し、また今後アジア、特に中国が金属市場にどのようなインパクトを与えるかをテーマにしたセッションが行われたことから、以下のとおり講演内容について紹介することとしたい。

1. 世界経済の展望

(BBC経済編集委員Robert Peston氏)

・ 金融危機以降、世界経済は未だ調整期

 世界経済は2008年の金融危機から未だ回復途上にあり、回復にはかなりの時間を要するものと思われる。2008年から現在までを3区分すると、第1期は金融危機後の混乱期、第2期は2010年から2011年のユーロ圏債務危機、そして現在までの第3期は、経済回復へ向けての調整時期である。この第3期からいつ脱出できるか見通しははっきりしていない。今後の経済回復を展望する上で懸念される大きな要因の一つは、世界的に借入レベルが大きく増大しているなか借入減少は遅々として進まず、それが経済に及ぼしうる悪影響として大きく取りあげられていない事が挙げられる。

・ 英国経済は長期的な低金利時代へ

 英国経済についていえば、金融危機後に英国がとった政策は過去に例の無いレベルの量的金融緩和、銀行財務状況の監視強化、緊縮政策導入等があるが、金融機関の規制見直しに関しては枠組みや制度等を根本的に改革するというより現状のものに多少の規制色を加えたものという感がある。国際的なバーゼル(BIS)規制についても再発防止というレベルのものにはなっていない。次に懸念されるのは、英国の経常収支の対GDP比率が改善の兆しを見せていない点である。今後英国北部の北海油田が涸渇に向かい原油輸入が増加すれば経常収支赤字が一層悪化する事になり、多額の借入を抱えている現在の経済状態において金利を上げる事は極めて難しく低金利状態はかなり長期にわたり続くと見込まれる。

・ 中国の投資レベルは危険水準か

 中国の対GDP借入比は2008年以降75%上昇して200%に達し、金融機関貸出金も2008年以降15兆US$に上昇した。これは米国銀行貸出金に匹敵するものである。また中国の投資額はGDPの50%にも達しており、これは日本が80年代を通じてその後バブル崩壊に至った投資レベルを上回るものである。なお、中国は前述の第3期の経済回復に向けた調整時期には至っていない。

・ ユーロ圏の問題は山積したまま

 ユーロ圏は債務危機から4年以上も経つが、イタリア、フランス経済はほぼゼロ成長のままであり、銀行は自己資本比率改善の為バランスシートを縮小させ、その結果貸し渋り状況となっている。また失業率はスペインで24.5%、ギリシアで27.2%と極めて高く、ユーロ圏平均も11.5%と高いレベルにある。欧州中央銀行はマイナス金利を導入する事で金融機関資金を市中に流す方策をとり、また数千億€に上る買いオペを実施、民間銀行に対してほとんどただ同然の貸出しを行い中小企業への貸出を促している。ただし、欧州中央銀行もほとんど手を出し尽くしており、今後追加できる施策は政府債券の買戻しぐらいしか残っていない。

 しかし政府債券の買戻しにしてもドイツをはじめとする北ヨーロッパ諸国が問題を抱える南ヨーロッパ諸国との財政面での“団結”を拒否している。ドイツがリスクの高い国の債券引受けを拒んでいる事からみても、欧州中央銀行が考える政府債券買戻しは難航するものと見られる。ユーロ圏の崩壊リスクは、金融・財政問題というより政治的・人的問題に根本的に由来している事を露呈した形になっている。

・ 米国のシェール革命及ぼす好影響

 他の諸国に比べ、米国の回復は目覚ましい。これには米国でのシェールガス・オイルの生産が大きく寄与している。シェールオイル生産コストは中東の石油生産コストに追い付き、より安価な生産が可能となっている。また米国がシェールガス・オイルの増産に動いた事により石油生産国が集中する中東諸国が世界経済において及ぼす影響力が薄れた事から、西側諸国は中東諸国と外交面で向き合う事ができるであろう。

・ ロシアはエネルギー・ブームを掴み損ねた

 プーチン大統領は石油・天然ガスの収入を産業再建と経済発展に活かす機会を損ねてしまったが、ウクライナを崩壊させ大ロシアを再建させようとする試みは、ロシア国内の経済機能不全から注意を逸らす為のものであったと理解出来ない事もない。ロシアにおいても 中国と同様に第3期の経済回復に向けた調整時期への道のりは遠い。

2. アルミニウム、銅、亜鉛に係る2015年の需給見通し

(1) アルミニウム①-需給両サイドで年6%の成長を期待

(Citiグループ Director, Metals Research and Strategy, David Wilson氏)

 アルミニウムは、供給不足懸念が一部で報告されているが、実際には中国の輸出増により供給過剰になっている。2014年後半から輸出量は前年同期比20%を超す勢いで伸びており、2014年は前年比13%増となると予想される。これは特に同国西部の精錬業者が低い電力コストにより稼働再開や生産力増強に動いたことでアルミニウム生産量が増大したこと、加えて上海先物取引所(SHFE)とLMEとの利ざやと高いプレミアムにより、同国からの輸出量が増えたことによるものである。なお、供給不足が懸念された理由の一つとしては、アルミニウム消費量のダブル勘定がある。米国では消費量については詳細に積み上げ方式で算出されているが、例えば米国が中間製品を中国から輸入した場合、中国と米国の両国でこの中間製品がダブルで消費量として計上されることで、一部の需要予測が実体を上回って算出されてしまっている。

 アルミニウムはベースメタルの中では需要面で最もポジティブである。軽量化を目指す自動車セクターでの需要増や再生利用可能といったメリットもあることから、この先5年から6年間は、年6%程度の需要増加が見込めると思われる。

 供給サイドでは、2014年Q1以降、精錬所閉鎖というニュースはなく中東、中国でアルミニウム地金生産が増えていることから、地金生産量に関しても2016年までは年6%前後の成長を見込んでいる。

 価格に関しては、中国経済の減速、欧州経済の低迷といったマクロ経済の先行きが必ずしも明るくないことから、短期的には発表される経済指標データにより価格は上下するだろう。米国の金利上昇に伴い価格は下落し、2014年Q4は1,950 US$/tになると予測する。2015年は、金融絡みの取引が減少し、1,995 US$/t程度に落ち着くとみている。

(2) アルミニウム②-需要は堅調も供給が追いつかず需給はタイト化

(Natixis社、Head of Commodities Research、Nic Brown氏)

 中国ではアルミニウム精錬所の収益が回復していることから、2014年後半の同国のアルミニウム生産量は増大し、短期的には価格面が弱含む可能性を示唆している。一方で、同国はボーキサイト輸入の大半をインドネシアに頼っており(2013年輸入量のうち68%)、同国からの供給が困難となったことで、中国のボーキサイト在庫は2015年前半に全て放出される可能性がある。ボーキサイト不足から原料価格が上昇し、生産コストが上昇すれば、中国での増産は短期で終わってしまうかもしれない。また、中東の地金生産も既に生産能力に達していること、欧米は精錬事業から撤退していることから、アルミニウム地金の増産は今後見込まれないと思われる。

 需要サイドでは、自動車業界が最重要ファクターとなっている。米国では自動車燃費(CAFE)基準をクリアするべく車体軽量化のためアルミニウム使用量を増やしており、欧州においても同様な動きがみられる。中国でもアルミニウムは低エネルギー使用技術の一環として広く用いられていることから、自動車産業においてアルミニウムが広く使用されるのは時間の問題と思われる。アルミニウム需要は今後年平均5.5%強の成長が見込まれるだろう。

 一方で、アルミニウム地金供給は、年3%以上の増加はあり得ないと推定される。2016年以降、需給がタイト化し、アルミニウム価格の下支えとなるであろう。2014年には2,070US$/t、2015年には2,240US$/tと予測する。

(3) 銅①-供給過剰幅は想定より抑制され、価格下落も限定的

(CRU社、Copper Team、Group Manager、Vanessa Davidson氏)

 銅市場は、大規模な供給過剰を共通認識として、その量とタイミングを予想することに関心を向けていたが、ここにきて予想されていた大規模な供給過剰状態が現実化せず、かなり抑制された少量の供給過剰レベルに落ち着くとみる動きが強まっている。

 需要サイドでは、世界経済成長の鈍化と中国の輸入量減少により、世界の銅地金消費量の成長率は、2014年に4.0%、2015年に3.3%となると予測しているが、引き続き中国が世界の消費の半分以上を占め、全体を牽引することに変わりはない。中国では、これまで需要の牽引役であった不動産投資が鈍化するが、空調関係、配送電設備、電化製品の伸びが銅消費を下支えする。世界全体では成長は鈍化するものの、北米、西欧、北東アジアでの消費は増加すると見込まれる。

表1. CRUによる地域別銅消費成長予測

地域 全世界 北米 南米 欧州 中国 日本 韓国 その他
アジア
2014年 4.0% 2.4% 5.0% 2.2% 5.5% 4.9% -0.5% 5.0%
2015年 3.3% 2.8% 5.1% -0.3% 4.0% 3.8% 1.1% 6.2%

(出典:講演資料より作成)

 供給サイドでは、2014年の銅鉱山生産量の伸びは前年比0.9%増にとどまるが、2015年は6.2%増が見込まれている。これは既存プロジェクトの拡張やGrasberg鉱山やBatu Hijau鉱山のフル生産回復に加え、新規鉱山の計画が進展していることから、堅実な数値とみている。銅地金生産に関しては、2014年の伸びは4.3%、2015年は4.0%と予測している。

 中国に関しては、銅地金輸出分を差し引いた銅地金純輸入量は、2009年から2014年にかけて約300万tであったが、2015年には250万tに減少し、自給自足の体制に動くと見られている。理由としては、

1)国内需要が軟化する中、国内精錬所による地金生産量が増加すること
2)青島港での不正事件以降、融資が難しくなり、金融目的の需要が減少すると見込まれること、
3)中国国家備蓄局からの購入が見込まれないこと、が挙げられる。

 価格を含めた見通しについては、通常、鉱山会社は生産コストが価格の9割を上回るようになると減産に動くが、2015年はこの採算性がどうにかクリアできるレベルの価格が維持されるとみている。中国の鉱山会社の収益は引き続き低く、改善は期待できないが、減産に踏み切るほどではないことから、中国の地金生産量には差し当たり影響はないと見込まれる。こうした状況から、供給過剰状態は依然続くが、2015年の供給過剰幅は16万トンと想定よりかなり抑えられ、価格下落を限定的にする。2014年末には6,900 US$/t、2015年は6,760 US$/tに下落すると予測する。

(4) 銅②-中国経済は減速化を避けられず世界消費に影響

(INTL FCStone社、Senior Independent Commodity Consultant、Edward Meirs氏)

 現在、在庫が極めて低い水準にあるが銅価格は下落基調となっている。これは 2008年の金融危機以降、超低金利政策と景気刺激策にも関わらず、米国を除く中国、EU、日本、BRICs等の主要国経済がほぼ同時に経済減速状態に陥ったマクロ経済状況を反映したものである。

 中国の経済成長鈍化は幾多のデータが示している。例えば、2014年9月の工場生産高は過去6年間で最低となり、固定資産投資も下降基調を示し、発電量も2014年9月に4年ぶりに前月を下回っている。またGDPの20%を占める不動産部門では、70都市のうち68都市において、2014年8月の不動産価格が前年より下落しており、新規不動産価格もかろうじて上昇しているという程度である。

 中国政府は経済回復に向けて政府の介入を控える形で軌道修正を図っていくだろう。具体的には、国有企業の役割減少、エネルギー、アルミニウム、鉄鋼等の主要セクターへの補助金停止、人民元の変動相場制への移行、輸出・投資主導形から国民消費主導形への中・長期的な移行、環境保護政策、汚職防止政策などが挙げられる。

 需給見通しに関しては、2014年には15万tの供給不足となるが、2015年には10万tの供給過剰に転換すると予測する。3ヶ月先物価格の予測としては、2014年は6,300US$/tから7,500US$/tのレンジで、2015年には6,000US$/tから7,450 US$/tのレンジで値動きし、2015年の3ヶ月先物平均価格は6,700 US$/tと予測する。

(5) 亜鉛-大規模鉱山閉山も供給不足には転じず

(Noble resources International社、Hard Commodities、Global Research Manager、Duncan Hobbs氏)

 2015年の亜鉛市場を展望すると、需要サイドは堅調に推移すると見込まれる。供給サイドは、ここ1、2年での大規模鉱山の閉山が予定されており、多数の小規模鉱山が生産を開始するものの、ギャップをどこまで補えるか算定するのは困難である。また価格が上昇すれば中国で増産に動くと見込まれる。いずれにせよ、精鉱及び地金の両方で供給不足になることはないと予測する。

3. 世界金属市場におけるアジアの影響

(1) 欧米金融機関から見るアジアの金属市場の可能性

(JP Morgan、Co-head of Global Commodities、Michael Camacho氏)

 欧米金融機関がアジアの金属市場でここ数年に進めてきたことは、欧州市場インフラ規則(EMIR)といった規制やアジア市場での法規制関係が多く、例えばLME契約上に別勘定を設けて規制をクリアできるよう図ることや、規制でコストが増大するなか引続き融資を継続するといったものであった。欧米金融機関が提供してきたこうした専門知識はアジアや豪州の金融機関が今後経験し蓄えていくだろう。

 今後短期的に注視しているのは、上海・香港証券コネクトの導入に伴い、中国国内投資家がオフショア市場に投資できる商品の開発、また既に多くの地金取引商品が導入されているが、更なる流動性の高い地金商品のアジア市場への導入、また、鉄鉱石については、アジアにおいて確立した市場メカニズムに基づく取引市場が必要であるとみている。欧米金融機関は活気のあるアジア市場の取引において今後もサービスを拡大していくとみられる。

(2) 中国の大転換期が世界市場に及ぼす影響

(BOCI Global Commodities社 CEO Arthur Fan氏)

 中国は世界の金属消費量の半分を占め、必然的に世界市場に影響を及ぼしてきたが、過去1~2年を振り返ると明らかな変化が見てとれる。その主な変化は、経済的過渡期に伴う変化、金融面の改革、産業市場の開放の3つである。

 現在見られる経済的変化は、中国経済が政府主導の投資経済から消費経済に移行していく過程上の変化である。これはGDP上2桁成長の終焉となるものであるが、今後より持続可能な経済成長を意味するものである。短期的には、この移行に伴って経済成長が上下に振れ動く事もあろうが、中国国民一人当たりの平均所得、平均金属消費量は現在も先進諸国を大きく下回っていること、同国で進行中の都市化の動きなどを見ても、中長期的に中国は今後も上昇基調の成長を維持し続けるものと見込まれる。この経済的変化にあって鉱工業で使用されている金属は各々独自に異なった動きを見せると思われる。

 金融面での改革とは金利、規制緩和、人民元の国際化、資本市場の開放といった動きを意味する。資本市場開放の一例として、上海先物市場へ外国人投資家参入が可能となること、株式発行、香港取引所・上海取引所間の相互乗入れ(上海・香港証券コネクト)、投資規制緩和があげられる。こうした動きは中国経済がより市場経済へと動いて行くこと、また中国国内市場と世界市場がより一体化へと動いて行くことを意味している。

 また金融市場でここ数年みられる変化の一つとして、市場参加者の顔ぶれが変わりつつあることが挙げられる。例えば、ヘッジファンドや年金基金等がコモディティ市場により積極的に参加するようになり、これは今までにはなかったビジネス機会があることを示唆し、市場関係各者はこうした機会をフルに活用できるビジネスモデルを創作していく必要があるであろう。それには、今までは国内市場でしか取引経験のない市場参加者を海外でも取引できるような国際取引サービスの導入や、人民元商品の導入など新しい発想が求められる。

 中国は今後も世界の金属市場で多大な影響を与え続けるであろうが、従来とは違った一桁経済成長に基づくことが新しい局面といえるであろう。

おわりに

 これまで金属市場は、中国の動向が他の主要国を一気に飲み込む影響力をもって牽引してきた。LMEセミナーでは、中国が政府主導の投資経済から国内消費経済に移行し、GDPの二桁成長が一桁成長に切り替わる過渡期にあるとの発表があり、金属市場もこれにより新たな転換期を迎えるだろう。欧米等主要国が金融危機以降、回復途上の調整時期にあるなかに中国も加わって、しばらくは世界全体での低空飛行が続くのか、又は持続可能な成長を見せるのか、今後の動向に注目する必要がある。

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