閉じる

報告書&レポート

2015年1月29日 メキシコ事務所 縄田俊之
No.15-2

Grupo México社傘下の銅鉱山における銅浸出液流出事故の概要

 2014年8月、Grupo México社の子会社であるSouthern Copper社がメキシコのSonora州で操業するBuenavista銅鉱山において、SX-EW用の銅浸出液が流出し付近の河川に流れ込み、近隣の6つの自治体において飲料水の一時供給停止等に発展する事故が発生した。

 本事故に関しては、関係当局によるとメキシコ鉱業史上最悪の環境事故であるほか、事故後、同社による関係当局に対する報告が遅れたことに加え、同社が報告した事故原因に虚偽があったことが判明する等事故自体もさることながら、同社による事故後の対応にも問題が散見され、鉱業関係者のみならず関係各方面に対し衝撃を与えるものであった。このため、本事故直後から暫くの間、絶え間なく報道がなされていたが、11月に入り労働社会保障大臣による非常事態宣言の解除が出された結果、過熱気味の報道にも落ち着きが見られるようになった。

 今般、報道情報も概ね一段落したこと、また、本事故について鉱業関係当局から関連情報を聴取することができたことから、これまでに公表された情報とともに本事故概要について報告する。

1. Buenavista銅鉱山の概要

1-1. 沿革

 同鉱山は、Sonora州北部、米国国境から40㎞南に位置する(図1.参照)。同鉱山の操業開始は1899年と、北部米州大陸では最も古い部類の露天掘銅鉱山である(旧名はCananea)。1917年に当時のAnaconda Company社が買収後1940年代まで操業を続けていたが、1990年に公的競売にかけられ、Grupo México社の前身であるMinera México社が落札し、今日Grupo México社の子会社であるSouthern Copper社が操業するに至る。

1-2. 生産実績

 過去3年間における生産実績は、以下のとおりであり(表1.参照)、2013年に関して言えば、メキシコにおける銅生産量489.1千tの37%を占める。

表1 Buenavista銅鉱山生産実績

  2011年 2012年 2013年
粗鉱処理量(千t) 21,972 25,748 25,277
銅生産量(千t)(ⅰ) 172.4 200.1 182.2

出典:Grupo México社

図1. Buenavista銅鉱山の位置

出典:公共教育省

図1. Buenavista銅鉱山の位置

1-3. 拡張計画

 投資総額34億US$、開発工期5年をかけ、従来の銅生産量180千t/年から約500千/t年へと拡張する計画が2010年から開始され、現在も開発工事が進められている。

 なお、当初計画では2015年上半期に全ての工事が完了する見通しであったが、以下に記載する本事故の影響により、1年程度の遅延が予想されている。

2. 銅浸出液流出事故の概要

2-1. 報道による情報

(1) 事故概要

 2014年8月6日、Buenavista銅鉱山の銅浸出液貯留池から銅浸出液約4万㎥が近くを流れるSonora川に流出する事故が発生し、同鉱山近隣の6つの自治体において大規模な飲料水等の供給停止措置が実施された(ⅱ)。本事故直後には、飲料水の供給停止措置が実施された地域に対し、自治体等により給水車10台、大型水タンク50基、簡易浄水器10基を配備する等の緊急措置が施された(ⅲ)

 本事故から暫く経過した後における環境保護連邦検察庁(PROFEPA)のGuillermo Haro長官の談話によると、当該事故により、Sonora川の下流域では基準値を超えるヒ素、カドミウム、銅、クロム及び銀が検出されたほか、同鉱山近隣の広範囲において飲料水等の供給停止に至る等、本事故はメキシコ国内における過去最悪の環境事故に挙げられた。

 なお、同年10月に連邦衛生リスク対策委員会(COFEPRIS)は、当該河川近隣の井戸30か所の水質検査を実施した結果、衛生管理上のリスクとなる基準を下回ったことを確認したことから、飲料水に適した水質状態である旨を宣言したほか、11月にAlfonso Navarrete労働社会保障大臣が本事故直後に発した非常事態宣言の解除を実施した。

(2) 事故原因

 事故原因は、当初Grupo México社の発表によると、事故当時発生していた集中豪雨の影響により同鉱山の銅浸出液貯留池が氾濫し、銅浸出液が近隣河川に流れ込んだとしていた。

 しかしながら、その後、環境天然資源省(SEMARNAT)は、事故調査結果により事故原因を銅浸出液配管の施工不良によるものと断定するとともに(ⅳ)、同社が本事故原因に関する虚偽報告を行った旨を明らかした。

 また、この他に、国家水委員会(CONAGUA)は、同社が、法令上、定められている事故直後の速やかな関係当局への報告を怠った旨を指摘した。

(3) 各機関等による事故対応と評価

 環境天然資源省(SEMARNAT)は、事故直後、Grupo México社が当該事故による汚染除去費用として総額数十億ペソを支払う可能性を示唆した。

 環境保護連邦検察庁(PROFEPA)は、事故直後、同社に対し、銅浸出液貯留池からの更なる流出を阻止すべく同貯留池の封鎖措置を命ずるとともに、環境保護法令違反により同鉱山の一部閉鎖を命じた。また、同社の本事故に対する責任を追及すべく司法長官に対し関係調書を提出するとともに、環境法令に照らし、同法令で規定する罰金の上限となる40百万ペソ(約3百万US$)を科す意向を示唆した。なお、10月には、本事故による環境被害への対策費が18億ペソ(約134百万US$)に達する見通しを示した。Guillermo Haro長官は、新たな環境災害を回避するために、監督及び予防政策の改善を示唆した。

 国家水委員会(CONAGUA)は、事故直後、同社に対し事故責任として1.2百万ペソ(約92千US$)の罰金とともに、今後5年間にわたり15日毎に汚染河川の水質監視の義務を科す旨を示唆した。

 国家森林委員会(CONAFOR)は、本事故による被災地域への短期的、中期的、長期的な影響を考慮し、同社が恒久的に周辺の水質、土壌、大気及び家畜の状況を監視し、評価報告することを義務付けた。

 Ildefonso Guajardo経済大臣は、メキシコ議会下院経済委員会において、本事故を鑑み、鉱業に対する環境規制の強化を図る旨を表明した。

 民主革命党(PRD)のDolores Padierna Luna上院議員は、本事故を踏まえ、環境災害が発生した際の規制を整備することにより、鉱業の持続可能な発展を促すため、新たな鉱業法を制定する法案をメキシコ議会へ提出した。

 一方、同社は、事故直後、本事故の原因は集中豪雨による銅浸出液貯留池の氾濫によるものとするほか、事故後即座に関係当局へ報告を実施した旨を表明したが、関係当局からは何れも同社に対し事故原因の虚偽報告と報告遅延を指摘される結果となった。これに対し、同社は反論を表明するも、11月以降、その後の状況は一切報道されなくなった。なお、同社は、本事故による河川汚染に対する除染対策費用として20億ペソ(151百万US$)の信託基金を設立した。また、10月末までに本事故による環境被害等への修復計画と周辺地域等への補償計画を関係当局へ提出した。

2-2. 鉱業関係当局による見解

 事故後の緊急措置対応や事故調査に直接携わったSonora州経済省Almando Córdoba鉱業部長から聴取した本事故に関する見解を、以下に示す。

(1) 事故原因

 本事故の主要因は、既に報道されているSEMARNATの事故調査結果のとおり、銅浸出液配管の一部における継目金具(固定バンド)の取付不良により、当該部分が外れたことにより銅浸出液が外部へ放出されたものである。

 そもそも、本事故が発生した銅浸出液配管は、重機が走行する道路直下に埋設されていたが、本来道路から深い位置に埋設されるべきところ、比較的浅い部分に埋設されていたことに加え、当該配管がコンクリート等で保護されていなかった。このため、当該施工後、操業開始した2014年6月以降、重機の走行や降雨による地盤の軟弱化により、継目金具が徐々に緩み、遂には当該金具の外れに至ったものと推察する。

(2) 事故後の状況

 州政府としては、事故直後に周辺住民に対し上水道等による飲料水等の供給を停止する一方、給水車等による飲料水の提供を実施した。また、汚染水による農畜産物への影響を考慮して、収穫された農作物や畜産物(特に牛乳)を州政府が買い取るための集積所を州内各自治体に速やかに開設し、農家等に対する補償を行った。

 このほかとして、事故後周辺自治体における学校が一時閉鎖されたが、事故発生同月18日から授業が再開された。

 なお、同鉱山周辺の井戸やダム湖の水質や土壌に関しては、事故後2か月経過した時点において、特段基準値を上回る検査結果は出ていないことを確認した。これは、当該期間中にもたらされた豪雨が、汚染水を希釈したことに起因するものと推察している。

 以上を踏まえ、当局としては、事故後の緊急対応措置は終了するとともに、周辺住民の生活は平常に戻ったものと認識している。

3. おわりに

 本事故の概要については以上のとおりであるが、事故後の過熱した報道振り等を踏まえると、各関係当局が表明したように、メキシコにおける環境事故としては、少なくとも鉱業においては過去最悪の部類に属すると考えても差し支えない。その上、事故当事者であるGrupo México社による事故原因の虚偽報告や事故直後の報告遅延等が指摘される等、本来であれば大企業のスキャンダル事件として取り扱われても仕方がない状況であった。特に同社が主張する事故当時の集中豪雨に関しては、同鉱山近隣において当該集中豪雨による他の被害状況が確認されていないこと等から、虚偽報告である公算が極めて高いと推察されている。

 しかしながら、事故後5か月が経過しようとしている現時点において、本事故における最終的な事故原因、事故による被害総額の確定等正式な報告が明らかにはされていない。

 一方、本事故が発生したSonora州では、2009年に保育園の火災により園児38人が死亡する大事故が発生し、当時、事故原因究明と行政責任の追及等が州知事選挙に多大なる影響を与え、与野党が交代する結果に終わった歴史がある。一説によると、こうした状況を踏まえ、同州では今夏に知事選挙を控えていることから、政治的な駆け引きの中、関係者間において早期の幕引きが図られたのではないかとの憶測も流れている。

 本事故に関しては、幸いなことに死傷者が発生しなかったこと、また、9月にメキシコ南部Guerrero州で教員養成大学の生徒43人が誘拐、殺害される事件が発生し、国内外の注目がこれに集中したこと等により、事故発生直後ほど国民の関心が高まらなかったと考えられる。

 今後の展開としては、関係当局による刑事責任の追及や、地域住民等による民事訴訟が開始されるほか、本事故を踏まえて環境事故に対する規制強化の検討が進められることが予想される。一方、年明け早々には、同社が当該事故による環境被害への対策費用として創設した信託基金が計画通り機能せず、被害を受けた周辺住民に対する補償が未払いになっている旨をSonora州鉱業関係当局が明らかにしたとの報道がなされた。

 このように本事故に関しては、金属メジャーであるGrupo México社の今後の対応や、鉱業に対する環境規制強化といった可能性を含め、予断を許さない状況であることから、引き続き注視していきたい。


 (ⅰ) SxEwを含む。

 (ⅱ) 同鉱山周辺には、本事故により銅浸出液が流出したSonora川のほか、Bacanuchi川と約700か所の井戸が位置し、これら河川の飲料水用ダムや井戸を水源とする6つの自治体、合計約22,000人が居住するとともに、最下流域には人口70数万人を擁す同州州都のHermosillo市が控えている。なお、本事故による影響が極めて広範囲に及んでいるにも関わらず、テレビ、新聞等による報道に際し、事故現場等の写真、映像等の公開は実施されていない。

 (ⅲ)  最終的に、州政府当局や自治体は、100台の給水車と大小合わせて約20,000個の水槽を用意し、周辺住民への飲料水等の提供を実施。また、Grupo México社は、本事故直後の緊急補償対応として、周辺自治体に対し総額3.5百万ペソ(約10万US$)を提供したほか、ペットボトルで合計13千ℓ分の飲料水と約30,000個の家庭用飲料水(容量20ℓ)の提供を実施。

 (ⅳ) 環境天然資源大臣も同行した現地調査等による事故調査結果では、銅浸出液配管の一部における継目金具(固定バンド)の取付が不十分であったため、当該部分が外れたことにより銅浸出液が漏洩した所謂施工不良による人災事故と断定。

ページトップへ