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報告書&レポート

2015年2月5日 ワシントン事務所 佐藤陽介
2015年-5号

米国:国防金属備蓄政策の動向

 米国では国防の目的に資するための金属鉱物資源を含む国防備蓄制度が実施されている。米国の備蓄政策当局は国総防省の国防兵站局ストラテジックマテリアルズ(Defense Logistics Agency Strategic Materials: DLA-SM)であるが、幸い比較的多くの情報を発信しており、その活動の概要を伺い知ることができる。

 本稿では米国の国防備蓄制度に焦点を当て、政策の概要及び政策実施当局である国防兵站局の概要を紹介する。

1. 国防備蓄の概略史1

(1) 備蓄前史

 米国の国防備蓄制度は、国防産業を目的にしているためにその出自も先の大戦に由来している。第1次大戦後に次の戦争の可能性を踏まえて、金属鉱物あるいは戦略物資(Critical Materials)の備蓄の必要性が1930年代には提唱されていた。構想ではアンチモンやフェロマンガンなどの備蓄が提案されていたが、特にフェロマンガンは、鉄鋼の生産を目的とし純度78-82%のものが求められた。当時の米国は国内でこの純度のフェロマンガンを生産することができず、旧ソ連やインド、アフリカのゴールドコースト、ブラジルからの輸入に依存していたからである。

 1935年には省庁間委員会においてイタリアのエチオピア侵攻が戦争勃発の危機を想起させたために戦略物資の備蓄が提唱された。この時には2,500万US$をかけて国内及び国外の市場から物を購入すること、国内農業余剰品を支払対価として用いることなどが提案された。他方、1930年代には旧陸軍省(Department of War)2も国家備蓄に関する提言をまとめた。この提案では政府または政府統制の民間企業が物資を取得することや、物資調達に際して国内で生じた農業余剰品を対価として交換することによる物資取得も構想された。これらの提言は直接的には国防備蓄を設立するための法制には結びつかなかったが、アイデアを提供した点で重要であった。

 備蓄を創設するための法制の検討がなされるのは、1930年台の後半になってからであるが、1938年に成立した海軍歳出法(Naval Appropriation Act of 1938)が戦略的重要物資の備蓄のための予算を配分した最初のものとなるという。米国海軍は配分された350万US$の予算を用いて陸軍が緊急事態に備えて蓄積していた物資を購入した。この最初の備蓄は、錫、フェロマンガン、タングステン、クロマイト、光学ガラス、マニラ麻であった。その後、米海軍は次の2年間においても50万US$の予算の配分を受けた。しかし、概して歳出法は予算を承認するだけのものであるため一時的なものに過ぎず、そのため備蓄制度の恒久的な設立を目的とする備蓄法が依然として必要であった。議会の審議を受けたこれら国家備蓄を設立する法制は旧陸軍省においても賛同を得たが、その一方で民間産業のための備蓄の創設に関しては、国防に関係することではなく、意見する立場に無いと考えていたようである。

(2) 戦略的重要物資備蓄法の成立

 同備蓄制度は第2次世界大戦開戦年である1939年に創設された。現在の国防備蓄制度に繋がる戦略的重要物資備蓄法(Strategic and Critical Materials Stock Piling Act)の成立は行政当局の努力の賜物である。時のフランクリン・ルーズベルト大統領は、米国の大不況の最中、国防備蓄の設立には積極的ではなかったという。しかしそれでも先述の通り第2次大戦の起こる数年前からいくらかの活動がなされていた。1933年にルーズベルト大統領は国家資源委員会(National Resources Board)を設立させ、不足がちな物資の備蓄に関する提言を行わせた。次いでこの情報を基に旧陸軍省及び海軍省に対して特定の物資に関する詳細な備蓄に関する提言の作成を指示した。この2省は1936年以降に提案をまとめ、米国が特定の物資を戦争中の緊急時に備えて備蓄すべきこと、そのような備蓄は国家にとって最大の関心時になることを提言した。1938年には行政当局と議会はルーズベルト大統領に再び国家備蓄の設立を働きかけ、省庁間委員会は国家備蓄のための予算として2,500万US$を、国内探鉱のために50万US$の配分を求めた。旧陸軍省及び海軍省はまた、国防備蓄設立法案「トーマス法案」(起草者のエルバート・トーマス上院議員にちなんでそう呼ばれた)の成立を支援した。1939年3月にルーズベルト大統領は、国防備蓄設立法案が成立した場合に施行のための署名を拒否しない意向を明らかにし、そして同年6月7日に戦略的重要物資備蓄法は議会を通過、大統領の署名を得て成立することになった。

2. 国防備蓄の制度

 米国国防金属備蓄制度の枠組みを規定するのは戦略的重要物資備蓄法である3。その条文の分量はそれほど多くはなく、全16セクションから構成されている(表1参照)。以下では機能別にこれら条文の整理を行う。

表1 戦略的重要物資備蓄法の構成

セクション 項 目 サブセクション
(a) (b) (c) (d) (e)
§1 名称
§2 議会の所見・目的 一部の戦略重要物資の不足の認識 国防備蓄の設立 国防が目的
§3 国防備蓄の設立 備蓄物資、備蓄量の決定 大統領の権限行使の仕方 数量変更、議会への通知
§4 国防備蓄物資 国防備蓄に含まれるもの 国防備蓄の移転・償還 国防備蓄の移転・処分
§5 国防備蓄の権限 取得・移転のための基金の配分 備蓄物資の処分 予算の承認
§6 備蓄の管理 大統領の権限 連邦調達慣行の遵守 バーター 適用除外 借用の利益
§7 大統領の特別権限 使用、売却、その他処分のための放出 議会軍事委員会への報告
§8 物資の開発と研究 鉱石その他物質の開発、採掘、準備、処理、利用 物資製造のための農業コモディティ供給源の開発 ・その他物質の供給源の開発
・製錬・精製のための代替手法の開発
戦略重要物資の保存を促進するための契約の利用
§9 国防備蓄取引基金 財務省内に国防備蓄取引基金を設立 基金の運用 物資売却収益の基金への回収とその使途 備蓄物資の交換
§10 諮問委員会 諮問委員会の設立と目的 諮問委員会の費用 市場影響委員会の設立
§11 議会への報告書 操業実績報告書の提出 次年度及び後続4年間の備蓄計画の提出
§12 定義 戦略的重要物資の定義 緊急時の定義
§13 戦略重要物資の輸入 戦略的重要物資と定義された物資の輸入制限の禁止
§14 備蓄物資要求報告書 備蓄物資要求報告書の議会への提出 報告書の内容①:
分析の想定
報告書の内容②:
物資回復の期間
報告書の内容③:
異なる想定
報告書の内容④:
報告書の提案に対する大統領の計画
§15 国内資源の開発 国内資源の購入・処理のための国内資源の開発と保全 契約の条件 備蓄計画と基金の利用 備蓄物資の輸送その他費用 当セクションの活動の操業実績報告書への記載
§16 国防備蓄管理者 大統領による備蓄管理者の指名 指名者の職務上の肩書 権限の委任

出典:Strategic and Critical Materials Stock Piling Act (50. U.S.C. 98 et seq.)から作成

(1) 国防備蓄制度の目的

 米議会は、法制定時に特定の物資が米国の国防上の必要性を満たすためには供給が不足しているか、あるいは、国内において十分に開発されていないとの認識を得ていた(§2-a)。そのためにこれらの物資の取得や備蓄を進め、米国内におけるこれらの物資の保存と開発を促進し、可能であればこれらの物資の供給の外国や単一の供給地点の依存の低下あるいは解消を本法の目的としておいた(§2-b)。そして本法によって設立される国防備蓄は、専ら国防目的にのみ仕え、経済的目的や予算の目的のために用いられないように制度を確立した(§2-c)。

(2)大統領の権限と委任

 大統領は行政府の長として、本法の執行に責任を持つ。第1にこの法律の目的のためにいずれの物資が戦略的で重要であるのかを決定し、そのような物資を取得する数量や品質、備蓄される形態を決定しなければならない(§3-a)。なお、これらの決定を下す際には大統領は議会に予め通知しておかなければならない(§3-b、c)。

 いずれの物資が戦略的で重要であるか、その他購入数量や品質を決定した後には、これらの物資の実際の購入をはじめ、備蓄施設の設置やそれらを維持するために警備やメンテナンスを行わなければならない(§6-a)。特に備蓄物資に関しては、品質維持や国家の緊急事態における必要性に応じて、形態の転換や入れ替えを行って利用可能性を確保しておかなければならない。

 大統領はこれら一連の権限と責任について、国防備蓄管理者を任命して委任することができる(§16)。現在大統領に代わって国防備蓄政策遂行の任に当っているのが、DLA-SMである。但し、委任することができない2種類の大統領の専権事項がある。1つは、備蓄物資の放出命令である(§7-a)。もう1つは、戦略的に重要と判断とされた物資の米国への輸入に関する事項である(§13)。

(3)備蓄の運営資金

 国防備蓄の運営に当たっては、財務省内に個別に設置した基金を用いる(§9)。この基金は国防備蓄取引基金(Defense Stockpile Transaction Fund)と呼ばれ、備蓄物資の取得・維持・処分をはじめ、移送・備蓄関連活動、備蓄物資のアップグレードや品質検査などの品質維持、備蓄施設の維持・改善、国内資源の開発に関する活動、危険物の処理、職員の給与など、国防備蓄プログラムの推進に必要な全ての経費は全てこの基金から支出される。また、備蓄物資の売却・処分によって得られた収入はこの基金へと納められる。なお、毎年の予算要求によっても基金への予算配分を受けることができる(§5)。

(4)備蓄物資の放出

 備蓄物資は、使用、売却、その他の処分のために放出することができる(§7-a)。放出命令の発令は大統領の専権事項であるが、この権限の発現の形態としては以下のものがある。

✓ 大統領自らが国防目的のために必要と判断する備蓄物資の放出命令

✓ 議会による宣戦布告宣言がなされた場合、又は国家緊急事態において、大統領が任命した者が発令する、国防目的のために必要な物資の放出命令

✓ 大統領が放出権限を委任した国防次官(取得・技術・調達担当)が行う、国防目的のための使用、製造、又は生産のために物資の放出が必要と判断した場合に行う放出命令

 これら以外にも§6に規定する備蓄物資を維持するための処分や交換が通常行われている。このような物資の処分あるいは取得に当たっては、連邦調達の実務に従い基本的に競争的手続き(入札)を用いなければならないが、競争的手続きに付すことが現実的ではないと判断された場合には、そのように判断した理由を上下両院の軍事委員会に通知して、別の方法を用いることもできる(§6-d)。

(5)研究・開発活動

 大統領は、米国内に賦存しているが分量・品質面で不十分であり、しかし、米国の国防・産業・市民の必要性に不可欠であるような鉱石その他鉱物資源について、それらの開発、採掘、処理、使用等に関連した科学的、技術的及び経済的な調査を実施しなければならない(§8)。このような調査は、そのような鉱石や鉱物資源の新規の供給源の発見・開発、アップグレード等の処理や利用方法の新しい手法の開発、あるいはそのような鉱石や鉱物資源の代替物の開発を行うことを目的にしている。また、国内資源の開発あるいは保存、サプライチェーン構築を促進するために、国内を起源とする備蓄物資の購入や処理・精錬のための企業との契約の締結が奨励されている(§15)。

(6)諮問委員会と議会への報告

 大統領は国防備蓄の運営に当って必要な助言を得るために外部専門家などで構成される諮問委員会を設置することができる(§10-a)。他方で、各行政省(国防総省、商務省、国務省、財務省、エネルギー省等)の代表者で構成される市場影響委員会を設置しなければならない(§10-c)。当該委員会は、国防物資の取得又は処分が国内及び国外に及ぼす経済的影響について大統領に助言を行い、それらの取得又は処分についての委員会の提言を行うことを任務とする。

 また、大統領は国防備蓄の運営に関して、以下の3種類の報告書を議会に提出しなければならない(§11、§14)。

 ① 国防備蓄の運営に関する年次報告書(Strategic and Critical Materials Operations Report to Congress)

 当該報告書は毎年1月15日を期限として議会に提出され、備蓄物資の購入や交換による取得、処分の状況や研究開発活動の状況、国防備蓄取引基金の財務的状況、国防備蓄政策の有効性評価や追加法制の必要性の判断に必要な関連情報を議会にインプットすることが目的とされている。

 ② 年次物資計画(Annual Materials Plan)

 次年度における備蓄物資の取得や処分に関する計画で、毎年2月15日を期限として議会に提出される。

 ③ 備蓄要求報告書(Strategic and Critical Materials Report on Stockpile Requirement)

 国防備蓄に必要な物資に関する提言書で、隔年で1月15日を期限として議会に提出される。備蓄物資の要求の提言の他に、そのような判断に至ったベースとなる事態についても記述することが義務付けられている。

(7)定義

 この法律では、「戦略的重要物資(Strategic and Critical Materials)」とは、国家の緊急事態に米国の軍事、産業、市民の必要を満たすために供給が必要とされるが、米国内に賦存していないか、或いはそのような必要性を満たすためには米国内での供給では不十分であるような物資と定義されている(§12)。

3. 国防備蓄の現況4

(1) 備蓄物資、備蓄施設

 国防備蓄として備蓄されている物資は下表の通りである(2013年度末:2013年9月30日時点)。25品目、合計市場価値換算で約13億US$(約1,500億円)となっている。これらの物資は、米国内の5箇所の施設に分散して保管されている。これらの備蓄施設は、インディアナ州ハモンド(Hammond)、ニューヨーク州スコティア(Scotia)、オハイオ州ウォーレン(Warren)、ウェストバージニア州ポイントプレザント(Point Pleasant)、アリゾナ州ウェンデン(Wenden)に位置している。なお、この内、DLA-SM職員が常駐して直轄管理されているのは大規模なハモンド、スコティア、ウォーレンの3備蓄基地であり、そのほかの中小規模の備蓄基地の管理は外注されている。

表2 国防備蓄在庫(2013年9月30日時点)

備蓄物資 在庫合計*
(t)
備蓄(積増)目標*
(t)
市場価値
(100万US$)
1 ベリル(緑柱石) 0.91 0 0
2 ベリリウム(金属) 79 47 38.345
3 ベリリウム(金属粉) 0.73 0 0.666
4 クロム(フェロ:高炭素) 88,582 0 127.060
5 クロム(フェロ:低炭素) 45,646 0 126.899
6 クロム(金属) 4,093 718 73.860
7 コバルト 301 0 9.815
8 ニオブ(金属) 10 0 1.237
9 ゲルマニウム(金属) 16 16 24.754
10 インコネル718 0.24 0 0.003
11 マンガン(フェロ:高炭素) 346,552 0 366.134
12 マンガン(鉱石) 292,135 0 1.482
13 水銀 4,437 0 0.000
14 プラチナ 0.26 0 13.501
15 プラチナ-イリジウム合金 0.018 0 0.568
16 水晶 7 0 0.157
17 タルク(ブロック、塊) 865 0 0.230
18 タルク(野積) 621 0 0.148
19 タンタル(炭化物粉) 1.71 1.71 0.426
20 タンタル(金属スクラップ) 0.086 0 0.030
21 4,020 4,020 94.175
22 チタニウム(合金スクラップ) 0.070 0 0.000
23 タングステン(金属粉) 125 0 2.786
24 タングステン(鉱石・精鉱) 11,959 5,120 409.192
25 亜鉛 7,251 0 14.867
市場価値合計 1,306.335

出典:Strategic and Critical Materials Operations Report to Congress, Jan 2014

 *: トン(t)に換算して記載している

 *: 備蓄目標量は備蓄要求報告書で規定された目標数量との差を示す。

表3 国防備蓄施設

備蓄施設 ハモンド
(IN州)
スコティア
(NY州)
ウォーレン
(OH州)
Pt.プレザント
(WV州)
ウェンデン
(AZ州)
配置 有人管理 有人管理 有人管理 無人管理 無人管理
主な備蓄品目 ・FeCr
(低炭素)
(高炭素)

・W
(金属粉)
(鉱石、精鉱)

・FeCr
(低炭素)
(高炭素)

・Cr
(金属)

・W
(鉱石、精鉱)

・タルク

・錫

・FeCr
(低炭素)
(高炭素)

・Cr
(金属)

・FeMn

・W
(金属粉)
(鉱石、精鉱)

・タルク

・FeCr
(低炭素)
(高炭素)

・Cr
(金属)

・FeMn

・Mn
(鉱石)
対応輸送手段 トラック
鉄道
トラック トラック
鉄道
トラック
鉄道
トラック

出典:DLAホームページ情報

 (注)FeCr:フェロクロム、Cr:クロム、W:タングステン、FeMn:フェロマンガン、Mn:マンガン

(2)売却実績

 DLA-SMは毎年10月に発表する年次物資計画(Annual Materials Plan)に基づき、会計年度(10月から翌年9月)において、過剰品目の売却を行っている。

図1 国防備蓄2013年度物資売却実績

 2013年度は年次物資計画で売却対象とした10品目に対して、5品目の売却に成功している。図1が示すように、これらはタングステン(鉱石、精鉱)、クロム(フェロ、低炭素)、クロム(フェロ、高炭素)、ベリリウム(金属)、マンガン(フェロ、高炭素)であり、売却合計金額は約1億800万US$となった。このうちタングステン(鉱石、精鉱)の割合が大きく、全金額に占める割合は70%になっている。

 なお、2013年度に売却の対象であったが、売却に成功しなかった物資は、マンガン(鉱石)、タルク、錫、タングステン(金属粉)である。DLA-SMによれば、1998年度から2013年度までに売却額の合計は56億US$になるという(図2)。

図2 国防備蓄物資売却実績(1998年度-2013年度)

出典:Strategic and Critical Materials Operations Report to Congress, DOD, Jan 2015

図2 国防備蓄物資売却実績(1998年度-2013年度)

(3)備蓄要求報告書(2013年)

 最新の備蓄要求報告書は2013年1月に議会に提出されたものである5。この報告書の中では76種類の物資に関して評価がなされ、23種類の物資に関して特定のシナリオの下で不足が生じるとの結論がなされている。この特定のシナリオとは、米国が何らかの軍事紛争に突入することを想定しており、そこでは特に紛争継続期間やその厳しさ、動員される軍事力の構成、敵の行動によってもたらされる損失、紛争中の軍・産業界・民生利用の需要、紛争からの物資等の回復期間などが考慮に入れられているが、詳細は明らかにされていない。

 なお、米国の国防計画や毎年の予算要求においても、同様の特定シナリオがその前提として用いられる。2013年の備蓄要求報告書では、不足が生じる物資に関して、そのほとんどが民生利用の必要について生じ、米軍にとって不足が生じるのはベリリウム、3種類の炭素繊維、レアアース酸化物になると述べている。

 国防総省は、想定される物資の不足事態に対して、物資の代替、信頼できる諸外国からの輸入、輸出製品に用いられるこれらの物資使用量の減少などの不足緩和策を検討し、不足が生じる物資の大部分がこれらの対応策によってコスト効率的に不足の緩和がなされると評価している。

 下表4は、国防総省が19種類の物資に対して「追加購入・代替・輸出減・備蓄」による対応策を適用した結果で、19種類中13種類の物資に備蓄が必要ということになった。国防総省はここから更に優先付けを行い、取得コストやリスク等を勘案した上で、備蓄提案物資を絞っている。これらの物資は、既存の国防備蓄在庫によって補われるベリリウム(金属)、ゲルマニウム、タングステンを除いた10品目であり、優先順にツリウム、エルビウム、ガリウム、ジスプロシウム、ビスマス、タンタル、イットリウム、炭化ケイ素、アンチモン、粗溶融アルミナが備蓄としての取得が提案されることになった。

 国防総省は、これらの物資に関して備蓄による対応を提案し、戦略的重要物資備蓄法第5条に基づく備蓄物資取得のための議会の承認を求めることにしている。

表4 不足19種に対する緩和策のカバー範囲

不足物資19種 単位 緩和策
(右欄は緩和策によって不足がカバーされる割合)
合計
(想定不足量)
追加購入 代替 輸出減 備蓄
粗溶融アルミナ ST 18,562 8% 212,923 92% 0 0% 0 0% 231,485 100%
アンチモン ST 4,321 19% 3,918 17% 2,372 11% 11,964 53% 22,575 100%
ベリリウム(金属)* ST 0 0% 0 0% 0 0% 52 100% 52 100%
ビスマス Lb 983,537 27% 90,714 2% 582,474 16% 1,972,933 54% 3,629,659 100%
クロム(金属) ST 0 0% 705 98% 13 2% 0 0% 718 100%
ジスプロシウム(酸化物) MT 0 0% 9 19% 18 38% 20 43% 47 100%
エルビウム(酸化物) MT 0 0% 14 11% 12 10% 98 79% 124 100%
蛍石(アシッドグレードCaF2≧95%) ST 56,322 100% 0 0% 0 0% 0 0% 56,322 100%
ガリウム Kg 2,656 15% 5,757 33% 5,340 30% 3,933 22% 17,686 100%
ゲルマニウム* Kg 4,649 16% 4,562 16% 3,849 13% 15,828 55% 28,888 100%
マンガン(金属-電解) ST 7,406 100% 0 0% 0 0% 0 0% 7,406 100%
スカンジウム(酸化物) Kg 0 0% 551 96% 21 4% 0 0% 572 100%
ケイ素(炭化物) ST 13,599 17% 42,094 51% 16,802 21% 9,373 11% 81,869 100%
タンタル(炭化物) Lb(Ta純分) 0 0% 0 0% 331,542 53% 291,764 47% 623,307 100%
テルビウム(酸化物) MT 0 0% 6 86% 1 14% 0 0% 7 100%
ツリウム(酸化物) MT 0 0% 7 35% 2 10% 11 55% 20 100%
MT 17,208 89% 2,221 11% 0 0% 0 0% 19,428 100%
タングステン* Lb(W純分) 4,299,459 38% 1,891,508 17% 2,296,359 20% 2,800,942 25% 11,288,268 100%
イットリウム(酸化物) MT 63 3% 217 11% 163 9% 1,456 77% 1,899 100%

出典:Strategic and Critical Materials 2013 Report on Stockpile Requirements, Jan, 2013, DOD

 *:  並びは英文のA-Z順で原文まま

 *:  ベリリウム(金属)、ゲルマニウム、タングステンは2012年6月時点の国防備蓄在庫でカバー可能

 *:  3種類の炭素繊維、レアアース酸化物は同推計には含まれていない。

4. 最近の動向

(1) 2014年度国防授権法

 国防授権法(National Defense Authorization Act:NDAA)は、毎年の国防総省及び米軍の計画と予算規模を承認する重要な法律の一つであり、2014年度の国防授権法においては次の国防備蓄物資の追加取得が承認されている6

・ フェロニオブ

・ ジスプロシウム(金属)

・ イットリウム酸化物

・ テルル化亜鉛カドミウム基板材

・ LiB(リチウムイオン電池)前駆体

・ トリアミノトリニトロベンゼン低感度爆薬成形粉

 承認された購入数量は価値相当で4,100万US$分、取得に当たっては国防備蓄取引基金の使用が承認されており、基金使用期間は2014年度から2019年度までが認められている。

 なお、2015年度国防授権法も2014年12月に成立したところである。議会上院案には国防総省にレアアースのサプライチェーン構築状況の分析を義務付ける条項が組み込まれていたが、成立した法案では本条項が削除されたほか、国防備蓄に関する特別な政策条項は含まれていない。

(2) 2014年度物資売却状況7

 先に述べたとおり、DLA-SMは物資売却を毎年行っている。2014年度の物資売却計画は既に完了していると見られ、表5はこれらの結果を集計したものである。

表5 2014年度物資売却実績(推計)

物資 FY2013
在庫数量
(t)
FY2014
売却計画量
(t)
FY2014
売却実績
(t)
FY2014
売却額
(100万$)
ベリリウム(金属) 79.24 15.9
クロム(フェロ) 88,047 40.127
クロム(フェロ、低炭素) 45,646 8,146
クロム(フェロ、高炭素) 88,582 11,298
クロム(金属) 4,093 454 130 1.626
マンガン(フェロ) 346,550 90,718 15,422 12.90
マンガン(鉱石) 292,135 90,718
タルク 1,639 907
4,020 804
タングステン(金属粉) 125 90
タングステン(鉱石、精鉱) 11,944 3,574 321 12.021
合計 66.674

出典:DLA Strategic Materialsプレス発表

 *:  各月発表の売却実績を集計。但し2014年度は9月売却を実施していない模様。

 *:  表中では単位をトンに換算している。

 *:  「-」売却公告自体を行わなかったもの。「0」売却公告を行ったが買い手がつかなかったもの。

 2014年度9月売却実績は発表されていないため、9月売却を実施していないとも考えられる。結果として、2013年9月から2014年8月までの2014年度の売却額として総計6,667万US$を得たものと推定される。2013年度の1億800万US$から減少し、過去数年の売却実績に比べると幾らか低水準の結果となっている。

(3) 2015年度物資売却計画8

 2014年10月2日、2015年度に係る年次物資売却計画が発表された。2015年度の物資売却対象は前年同様10品目(フェロクロムの低炭素と高炭素をカウント)となっている。2014年度の売却計画と比べると全体として規模が縮小されているほか、2014年度計画に見られたアップグレード計画は見られず、代わりに入れ替えや廃棄の可能性が示唆されている。2015年度物資売却計画は既に実行されており、現時点で10月、11月、12月の売却計画が執行された。

表6 2015年度物資売却計画

物資 FY2015
売却計画量
(t)
FY2014
売却計画量
(t)
中期計画
FY2015
(t)
計画数量
増減
(%)
ベリリウム(金属)*1 15.9 15.9 15.9
クロム(フェロ) 21,319 88,047 ▲76
クロム(フェロ、低炭素)
クロム(フェロ、高炭素)
クロム(金属) 136 454 454 ▲70
マンガン(フェロ) 45,359 90,718 80,776 ▲50
マンガン(鉱石)*2 90,718 90,718
タルク*3 1,487 907 +64
804 804 804
タングステン(金属粉) 35 90 ▲61
タングステン(鉱石、精鉱)*3 1,359 3,574 ▲62

出典:DLA Strategic Materials, Annual Materials Plan for FY2015, Oct 2014

 *1:  入れ替え(Rotation)の可能性あり

 *2:  廃棄の可能性あり

 *3:  法律上の授権次第

(4) 2015年度物資取得計画9

 DLA-SMは2014年10月2日、21年ぶりとなる本格的な物資取得計画を発表し、対象品目と計画数量が明らかになった(表7)。

表7 2015年度物資取得計画

物資 単位 計画数量
テルル化亜鉛カドミウム(CZT)*1 SQ cm 40,000
コバルト酸リチウム(LCO):LiB正極材・前駆体*1 Kg 150
ニッケル系正極材(NCA):LiB正極材・前駆体*1 Kg 540
黒鉛(MCMB):LiB負極材・前駆体*1 Kg 648
トリアミノ-トリニトロベンゼン(TATB)*1 Lb 16,000
ジスプロシウム(金属)*3 MT 0.5
ニオブ(フェロ)*2 MT 104.5
イットリウム(酸化物)*1 MT 10

出典:DLA-SM, Annual Material Plan for FY2015 for possible acquisition of New NDS Stocks, Oct 2014

 *1:  FY2014NDAAにて承認。取得承認期間FY2015-FY2017

 *2:  FY2014NDAAにて承認。取得承認期間FY2015-FY2018

 *3:  FY2014NDAAにて承認。取得承認期間FY2015

 同計画の中には、備蓄要求報告書、国防授権法で示された物資としてジスプロシウムとイットリウムが見られる。しかし、この三様の文書で示された物資は、必ずしも一対一の対応関係にはなっていない。それはこれらの文書が作成される時期や検討時点の様々な考慮事項の変化による。

 備蓄要求報告書は必要な物資に関する検討の最初のステップであり、DLA-SMによれば、その策定後、同報告書は実際の調達に関する提案とともに、国防総省幹部に諮られ、その後、物資取得計画の策定が進められる。同計画の策定は、その時点における利用可能な最善の情報や評価に基づくため、必要とされる物資の評価も変わる場合がある。この間、かなりの時間が経過するが、通常、年度取得計画の策定は同計画の執行の18ヶ月前に作業が進められるとのことであり、それは必ずしも国防授権法制定のタイミングと咬み合わないことを意味する。従って、DLA-SMによれば、年度取得計画の策定と国防授権法の制定は常に一致して進められる訳ではなく、従ってまた、そこで規定される物資も必ずしも常に一致するとは限らない。ただし、DLA-SMの行う物資の取得には議会の立法を通じた授権が必要である。そして、議会の専門委員会はDLA-SMの提案を支持する場合もあるし、そうでない場合もある。やがて、物資取得を承認する法律(国防授権法等)が成立するが、DLA-SMは、物資年度計画の策定・実行や必要な資金を確保でき次第、その執行に当たるということになる(図3)。

図3 物資取得計画に至るフロー(2015年度取得計画の例)

出典:各種情報に基づき筆者作成

図3 物資取得計画に至るフロー(2015年度取得計画の例)

5. むすびに

 本稿では、米国の国防備蓄制度について概観した。その歴史は古く、現在の国防備蓄政策当局である国防総省国防兵站局の前身は、第1次世界大戦後以来、戦時中の物資不足に備えるべく構想が持たれ、国防備蓄制度は第2次世界大戦の開戦年である1939年に創設された。そのような出自であることから、国防備蓄制度の目的も国防及び国防産業に特化したものであり、米国市民にとっても一般的にはあまりなじみのない政策・政府機関であると言える。とは言え、国防兵站局は金属鉱物関連政策を遂行する連邦政府機関として、エネルギー省、内務省米国地質調査所と並び重要な位置を占めており、戦略的重要物資の開発等に係る研究開発も行っている。現在は沈静化したと見えるレアアースの供給問題に関しても、その問題意識は脈々と受け継がれており、追加物資の取得計画が策定されたところである。備蓄物資の観点からは、技術の進展や代替物資の開発などにより備蓄が必要な物資も時とともに変遷してきた。今回承認された追加取得計画どおり取得されれば、1994年以降、実に21年ぶりの本格的な取得となる(注:2013年度にインコネル718(Ni-Cr等複合高合金)を一部取得している)。この点、2015年は次の備蓄要求報告書の提出年であり、国防総省が戦略的重要物資についてどのような評価を行っているかがわかるため、その内容は非常に興味深いものになるだろう。

(了)


 1 本項目の執筆には、DLA-SM, “Defense National Stockpile Center: America’s Stockpile: An Organizational History or An Organizational History of the Defense National Stockpile Center: America’s National Stockpile” を参考にした。

 2 旧陸軍省は陸軍と空軍を組織していた。1947年、旧陸軍省は旧海軍省とともに国家軍政省に編入。1949年、国家軍政省は国防総省に改称。本レポート中では、国防総省管轄下の現・陸軍省と区別するため、1949年以前の陸軍省につき、「旧陸軍省」と表記する。

 3 Strategic and Critical Materials Stock Piling Act, 50.U.S.C.§98以下

 4 毎年の国防備蓄の操業状況は、DLA-SM, “Strategic and Critical Materials Operations Report to Congress”で開示されている。本項目執筆には2013年度報告書を参照した。http://www.strategicmaterials.dla.mil/Report%20Library/TAB%20B-FY13%20NDS%20Operations%20Report.pdf

 5 DLA-SM, “Strategic and Critical Materials 2013 Report on Stockpile Requirements”, Jan 31, 2013, http://www.strategicmaterials.dla.mil/Report%20Library/2013%20NDS%20Requirements%20Report.pdf

 6 HR3304/PL113-66, National Defense Authorization Act for 2014,http://beta.congress.gov/113/bills/hr3304/BILLS-113hr3304enr.pdf, Section 1412参照。

 7 毎年の売却実績はDLA-SM, “Strategic and Critical Materials Operations Report to Congress”において集計されているが、本項目執筆に当たっては毎月発表されている売却結果を集計した。DLA-SM, Announcements Archive, http://www.strategicmaterials.dla.mil/Pages/PressReleaseArchive.aspx

 8 DLA-SM, “Annual Materials Plan for FY2015”, Oct 2, 2014,http://www.strategicmaterials.dla.mil/Press%20Release%20Documents/3087%20FY15%20AMP.pdf

 9 DLA-SM,“Annual Materials Plan for FY2015 for possible acquisition for new NDS stocks”, Oct 2, 2014,http://www.strategicmaterials.dla.mil/Press%20Release%20Documents/3088%20FY15%20AMP_ACQ.pdf

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