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報告書&レポート

2015年3月12日 ロンドン事務所 キャロル涼子
No.15-10

需要の下降局面にある鉱業界の現状と対策(1)~『Mines and Money London 2014』参加報告~

 2014 年12月1日から5日の5日間にわたって、今年で12回目となるMining Journal誌主催の『Mines and Money London 2014』がロンドンで開催された。主催者HPによると、出席者は世界75ヶ国から3,000名で、鉱業事業者200社以上が展示ブースを出展、またスポットライトと呼ばれる探鉱プロジェクトの講演枠では、約100社がプレゼンを行った。

 12月1日に開催された事前会合では、投資家向けに世界の案件を紹介するセッションや、資源国の地域別(米・豪・アジア、欧・露及びCIS・アフリカ)分科会が設けられたほか、鉱業を基礎から学べる投資家向け集中講座も開催された。続いて2日から4日にかけてはメインの会合と展示が行われたが、講師陣には業界のトップアナリストをはじめ下降サイクル時の経験が豊富な業界の伝説的人物(legend)を迎え、バラエティに富んだ議論が繰り広げられた。会場には講師と個別に意見交換ができるスペースやネットワーキングのスペースも設けられ、参加者同士が熱心に懇談する姿も見受けられた。5日目は、事後会合として市況のリスクヘッジを論じるセミナーが開催され、5日間の幕を閉じた。

 今回のカレント・トピックスでは、12月2日から4日に開催されたメイン会合から、鉱業の大局と鉱業界が取り組むべき主な課題を論じた講演を抜粋して紹介する。また、鉱業を取り巻く投資環境に関する講演については、別号で取り上げる予定である。なお、本会合での講演資料等は、以下のリンクをご参照のこと。

図 1:展示会場(左)と主催者側開会挨拶を行うAndrew Thake氏(右)

図 1:展示会場(左)と主催者側開会挨拶を行うAndrew Thake氏(右)

ビジネスリスク管理とサステイナビリティの教訓

講師:国際金属・鉱業評議会(ICMM) 会長Dr, Anthony Hodge

【組織概要】

 ICMMは、90年代に「有史以前の恐竜」と揶揄された鉱業界への誤ったイメージを是正する目的で、持続可能な鉱業界の発展を目指して2001年に設立された比較的新しい鉱業の業界団体で、鉱業事業者21社と、世界35の鉱業系業界団体を中心に組織されている。世界70ヶ国に1,200以上の現場を有し、会員企業の従業員数は合わせて100万人に上ることから、鉱業界に与える影響力は少なくない。講演者のホッジ会長も、2008年に就任後は意欲的に関係機関との連携を重ね、業界における持続可能な開発の普及に取り組んでいる。

【講演概要】

 同氏は、世界的に鉱業のもたらす社会的・環境的・国家的影響が大きい反面、政治的影響力は小さく、業界の社会的貢献に関する認知度も低いことを挙げ、世界で最初に環境省(発足当時は「庁」)を設けたのは日本である、と日本の先駆的な公害対策を例示しつつ、業界の直面する課題と今後のあり方を論じた。

図 2:長期にわたる鉱業活動に反してステークホルダーの視野は短期的

(出所:プレゼン資料を和訳)u000b

図 2:長期にわたる鉱業活動に反してステークホルダーの視野は短期的

 図2にあるように、鉱業の活動周期は30年から100年の長期に渡るため、鉱山を抱える現地の住民や先住民の生活に与える影響は何世代にも及ぶことから、世代間においても調和の取れた共存関係を築くのは容易ではない。一方で、政府の鉱業政策は3から5年、投資家に至っては四半期や年間の業績のみが視野にあり、鉱山活動の課題に対策を講じようにも活動周期全体を俯瞰することが難しい。またコモディティの市場価格変動やコスト高など、業界を取り巻く環境は厳しい。鉱業環境の主要な傾向として、具体的に次の12点が挙げられる。

1 ) 混乱度が増す : 若い労働者・移民の流入、失業問題で地理的・経済的に生活に影響

2 ) 懸念が増える : 不公平、先住民の貧困緩和、安全面、水資源、気候変動、生態系や文化多様性の喪失

3 ) 懸念が権利に摩り替わる : 水資源、権益・税負担、環境への権利とその訴訟

4 ) 成果の評価基準が推移し実績が追いつかない : 国際的な投資が増えると同時に、国際NGOが企業に対する抗議活動をグローバルに展開するため、地域における鉱業受け入れリスク意識が向上し、企業・地域間の対立がこれまで以上に激化

5 ) 理解度の低下 : 説明責任が不明確で鉱業の利点とリスクの全体像の認知度が低下

6 ) 確執の増加 : 多国籍企業=悪者、手に負えない存在という誤解がはびこる

7 ) 鉱業対象NGOの勢力増強 : 2011~14年で3割増加。西側環境NGOが南米に流入し、地域グループの攻勢が活発化

8 ) サイバー脅威 : オンライン上で誤った情報が氾濫、ネットセキュリティが優先課題に

9 ) 協働体制の向上 : 利害関係者の共通の利益を求めるメカニズムの活発化(例:EITI等)

10) 透明性と説明責任の向上への期待の高まり : 反腐敗運動、認証制度を求める動き、消費者志向の企業運営、役員各人の責任増加への動き

11) 開発の活発化 : 低所得国で鉱業の果たす役割が拡大、経済活性化の鍵に。持続可能な開発に向けて鉱業活動を進化させる機会が到来。新ビジネスモデルの台頭

12) 需要の増加 : 中産階級の拡大と都市化で金属や資源への需要増(例:中国)

 2014年8月4日には、カナダのMount Polley鉱山でテーリングダムが決壊する大事故があり、鉱業界への不信が募ったが、未然に防げた可能性はあった1。今回の事故を含め、業界の課題から学ぶべき教訓は3つある。

 一つは鉱業における成功の秘訣が変化している今、高潔、信頼、信用に基づく関係構築が大事であるということ。二つ目に規制だけではその関係構築を促進できないということ。真の変化は競合関係に触発されて自発的に行動を起こすときに起こるからだ。三つ目に、その答えは問題の中心でなく外縁にあるということ。木を見て森を見ずではいけない。長期的視野で対策を講じることが大事だ。その教訓を今後に活かしていかねばならない。

鉱山会社が配当を最大化するには:全ステークホルダー共通の価値を構築

講師:Randgold Resources社 最高経営責任者 Mark Bristow

 金鉱床の世紀の大発見があってからすでに100年が経過し、近年では世界の金鉱山の品位の低下が課題となって、生産量が伸び悩んでいる。現在、金生産を下支えするのは新興国である。1990年以降、サブサハラアフリカでは40の鉱山が開発されたが、そのうち利益をもたらし納税に至ったのは5鉱山のみである。本来ならばホスト国と地域住民の利益に資することが鉱山会社の第一の使命であるはずだが、地域の期待に応えられないケースが多い。

 その使命を果たすために、鉱山会社は全ステークホルダーを重要視し、持続可能な採算性を追求しなければならない。ステークホルダーの中でも生産国政府との連携が非常に重要で、ステークホルダーというよりもむしろパートナーと位置付けるべきと考える。もちろん投資がなければプロジェクトの進行もないため、投資家の役割も重要だが、投資を誘致し株主の利益を保証するという目的は、生産国政府と共有する利点であるからだ(図3参照)。

 金鉱山会社は、持続可能な採算性を追求するために、整然たる戦略を持って複雑な要素をバランスよく考慮し、経営の安定化を求めなければならないが、そのためには長期的視野を持って一過性の市場価格に惑わされないことが重要である。鉱業のような周期性を伴う業界においては、金価格がいつまでも上昇し続けることを前提として企業価値を高めようと考えるのはナンセンスである。金価格が低い時こそ生産力を拡大し、次のピークで利益を得るよう備えるのが生き残りの決め手となる。

図 3:利益あるパートナーシップの創造が鉱業の中核

(出所:会議プレゼンを和訳)

図 3:利益あるパートナーシップの創造が鉱業の中核

 当社は全ステークホルダーの期待に応えるために、資産の純粋価値こそが評価基準と考え、世界的な鉱床の開発に注力している。ここではFSの正確さこそがものをいう。さらに我々は、FS案件の手持ち数を貯めておくことが成功の秘訣と考え、金価格については1オンス1,000 US$を基準値として、内部利益率が20 %以上あることを条件に投資の意思決定を行っている(図 4)。当社はこれからも利益を生み続けることが可能だ。

図 4:FSの持ち数こそ成長の鍵

(出所:会議プレゼンを和訳)

図 4:FSの持ち数こそ成長の鍵

基調講演「都市化する地球:環境影響とこれからの将来に不可欠な金属戦略」

講師:IVANHOE Mines社  創業者兼会長  Robert Friedland

【講演内容】

 我々が手にするものは、すべて栽培したか採鉱したものだ。だが、人々はモノがどこから来たのかを知らな過ぎる。

 中国の急速な都市化で、北京などではディーゼルエンジンの排ガスによる大気汚染が深刻化し、自動車排ガス規制の動きがある。ロンドンのNO2レベルはEU内では最悪で、パリの大気汚染も健康被害の一因である。WHOの統計では、2012年に大気汚染を原因とする死亡者数は700万人に上る。都市化が進む地球上で、人々の健康を守るためにはきれいな空気が欠かせず、排ガス対策として水素自動車等エコカーの導入策が世界的に活発化する傾向にある。現にカリフォルニアをはじめとする米11州で、水素自動車を義務化する動きがある。この時期を逃すまいと、トヨタの「MIRAI」をはじめ、ヒュンダイなどもエコカーの世界展開を計画している。

 一方で都市間交通の変化は、日本の先端技術によって革新が進むとみられ、リニアモーターカーの普及も世界で進むだろう。日本は円安政策を促進して輸出体制を整え、政府を挙げた産業支援に動いている。このことから当社では、触媒として不可欠なプラチナのほか、リチウムバッテリー素材の75 %を占める銅についても、今後さらに需要が増すものと見込んでいる。

 さらに銅については、その殺菌効果に着目したNHS(英国の国民医療システム)が医療設備の銅コーティングを推奨しており、今後医療分野での銅需要の増加につながるとみている。また、都市人口を支える食物生産という点から、亜鉛の肥料使用も、今後の亜鉛需要を押し上げる要因と考える。

 当社では、日本も出資する南アのPlatreef(Pt, Au, Ni, Cu)、DRコンゴにおけるKamoa (Cu)とKipushi(Zn,Cu)のプロジェクトに注力し、今後の主要鉱物の安定供給に向けて、技術革新を大胆に用いた完全自動化鉱山を展開する。地域対策としては、地域住民1,200人に株式提供(Equity Share)という方法を採用している。

結び

 参加者からは中国の需要の伸びの鈍化が鮮明化していることを反映し、本会合にもスーパーサイクルの頂点の時のような勢いがないとの声も聞かれたが、最終日には参加して得たものはあったという参加者の感想も多かった。

 探鉱ジュニアや投資家が集まる会場で注目を集めたのは、下降気運にある鉱業界を生き抜く術を語る、業界では伝説的人物と言われる面々たちの企業運営手法と、投資環境の見極め術であった。中でもIvanhoeのFriedland氏は、昨今の業界のカリスマ的存在(Mogul)として知られ、その軽快な語り口は聴衆を大いに魅了した。聴衆数で言うと一番の目玉講演だったこともあり、予定時間を大幅に超過しても、聴衆が気に留める様子は確認できなかった。

 筆者は今年の会議について、コモディティ価格低下と下降気味な需要を背景に、悲壮感に満ちた会場を懸念したが、鉱業界全体はあくまでも前向きに、そして淡々と次の上昇気流に備えている雰囲気がつかみとれた。一時的な価格低下に惑わされず、継続的な投資の必要性を訴える市場へのよびかけの場であったように思う。


 1 2015年1月30日の独立パネルによる調査結果は、事故原因をテーリングダムの設計ミスと判断。2月4日現在捜査令状が出され、Imperial Metals社のバンクーバー事務所で家宅捜索中。
(出所:独立パネル最終報告書https://www.mountpolleyreviewpanel.ca/mount-polley-review-panel-delivers-final-report、捜査令状関連記事:http://www.cbc.ca/news/canada/british-columbia/mount-polley-spill-search-warrants-executed-at-imperial-metals-1.2944169)

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