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報告書&レポート

2015年3月19日 ワシントン事務所 村松秀浩
No.15-12

中南米鉱業セミナー参加報告

 2015年3月3日、中南米鉱業セミナー(Gowlings主催)がカナダ・トロントで開催された。パネリストを務めたアルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、ペルー、エクアドルの6カ国から来訪した弁護士の説明で興味ある内容を以下報告する。

1.概要

 中南米鉱業セミナーの参加者は約100名であった。中南米6カ国から集結した弁護士は、出身国の鉱業の探鉱開発を進める上での弱点や課題を比較的率直に曝け出す発言をしていたので、投資家の外国企業の立場から非常に参考になるセミナーであった。

2.主要な説明内容

 (1) アルゼンチン (Saul Ricardo Feilbogen弁護士)

 アルゼンチンの主要な課題を公平に言えば、①エネルギー料金及び②インフレである。アルゼンチンで活動する外国企業にとっては、配当送金及び製品輸入関税が問題となるであろう。これらの課題の存在が、外国企業によるアルゼンチンに対する信頼を損なっている面がある。

 現在のアルゼンチンは、次期大統領選挙を控えた過渡期にあるので、鉱業部門に対する米ドルによる投資誘致は難しい時期にある。公租公課により相当な部分を政府に持っていかれることがある。アルゼンチンの鉱業法制では、探鉱に対する税制上の優遇措置があり、探鉱には好都合であろう。

 外国投資家にとっては、アルゼンチンのリスクは非常に高いというのが一般的なパーセプションであろう。しかし、国営石油企業YPFの国有化を巡るスペインRepsolとの係争のような国有化のリスクは鉱業を含めた他の産業部門では起こらない。YPF国有化は極めて特殊な事情である。

 今2015年は大統領選挙の年であるが、次期大統領の有力候補のいずれもが外国投資家にとっては好都合な政策を採用するのではないかと考えている。

 南米大陸をアルゼンチンからボリビアにかけて「リチウム・ベルト」が南北に帯状に広がっており、日本や韓国の大手企業が投資決定するなど、アルゼンチンは世界の主要リチウム輸出国となる可能性が高い。

 社会問題の解決には、やはりプロジェクトから得られる利益・恩恵を地元住民に還元することが重要である。

 (2) ブラジル (Carlos Vilhena弁護士)

 ブラジル鉱業における探鉱ジュニア企業の活動は若干低調であり、資金調達では多額の資金を集めることができない。ブラジル北部の探鉱には巨額の資金調達が必要とされるが、幾つかの鉱種の探鉱のみに焦点が当てられている。鉱物企業は、ノンコア資産からコア資産を分離させている。ブラジル鉱業を取り巻いている雰囲気は、他の中南米諸国とさほど変わらないのではないかと考える。

 昨2014年のブラジル経済を俯瞰すると、インフレ上昇及び政府債務増加により、経済成長が減速したが、今2015年も低経済成長に留まるものと予測している。加えて、国営石油企業Petrobrasのスキャンダルにより、外国投資家の信認を得られ難い現状である。短期的に事態が改善できるとは考えていないが、同時にエキサイティングな時期である。

 ブラジルでは、小規模プロジェクトの割には大規模インフラ整備が必要となる鉱業プロジェクトが多いので、コスト高の要因となっている。

 アマゾン盆地等において、カリウム採掘プロジェクトが始動している。ブラジルは農業大国であるので、肥料の原料となるカリウムは重要である。しかし、環境上難しい地域が重なっている点が課題である。

 (3) チリ (Carlos Perez-Cotapos弁護士)

 アルゼンチン、ブラジルと鉱業の状況は同様であり、活動している鉱物企業は極めて少ない。コスト高の解消がチリで活動している鉱物企業の共通の課題であり、各社ともコスト削減に真剣に取り組んでいる。一時帰休者20 %を実行した企業もある。また、チリの従前からの大きな課題は、電力供給の安定性及び電力コストである。

 また、鉱物の需要では、中国の経済成長の減速がチリ鉱業界にとって懸念材料である。

 鉱業に対する課税は強化されており、電力供給及び水供給が課題である。チリにおいては、電力も上水も供給する場合にコスト高となる。労働賃金が安い点は長所である。電力料金が世界的に観て極めて割高であるため、金属鉱物の大企業は自前による電力供給を推進する動きが幾つか見られる。チリにおける電力コスト高は頭の痛い問題であり、鉱物企業3社が自社による発電所建設を進めている。

 チリ政府は、風力・太陽光・地熱の再生可能発電の導入を進めるエネルギー政策を主導している。現在までに、地熱発電は未だ導入できていないが、チリ北部に発電容量300MWの風力発電所が操業している。

 (4) コロンビア (Francisco Urrutia弁護士)

 政治環境は大きく好転してきた。しかし、鉱業省、環境省その他の関係省庁の許認可及び各省連携には課題が残されていて、なお改善を要するので、問題解決までには数年間を要するであろう。環境省は、許認可手続の簡素化・迅速化にコミットしているので、近い将来改善の成果が眼に見えるようになるであろう。

 中国の経済減速は、鉱業界にとっては危機であると同時にチャンスであると捉えるべきである。

 コロンビアの鉱業の採掘コストが高い。石油に関しては、今2015年2月から大水深掘削が開始されている。

 鉱業促進を目的とする新規立法の可決までにはこれから相当な時間を要する。

 全般的に言えば、原油及び金属の商品市況が持ち直すことが鉱業部門の回復の前提であり、商品市況の低迷により幾つかの鉱業プロジェクトが中断した。金属等の商品市況の上昇が投資誘致には何よりの朗報である。

 コロンビアで兎角取り上げられる問題は、インフラ未整備である。2014年はインフラ・プロジェクトに対する支出額が150億ドルに達したが、今2015年から今後5年間で500億ドルが支出されるであろう。

 許認可権限の中央集権化が進んでいるので、ライセンス発行等の許認可取得は段階的に迅速化されるであろう。

 (5) ペルー (Luis Carlos Rodrigo Prado弁護士)

 ペルーの国土全体の1 %しか探鉱されていないので、探鉱機会は極めて大きい。ペルー政府はライセンス取得等の許認可手続に要する時間の短縮に取り組んでおり、これは正しい方向であるが、段階を踏みながら実施していかなければならない。ペルー政府は、外国からの投資を容易にするための努力をしている。

 鉱業の低調は、金属等の商品市況の低迷に起因するものであり、これはペルーに限らず世界共通の問題であろう。

 ペルーの国際的な評判は上々である。幾つかの重要な鉱業プロジェクトが成功裏に立ち上がり、今後数年間は生産段階に移行する。国内には、環境問題や社会問題の難しい地域はあるが、成功事例もあり、日常の努力の積み重ねが重要である。ペルー鉱業の主要な課題は、社会問題であるが、①少数民族の扱い、②水質汚染に対する懸念が社会問題の最たるものである。

 (6) エクアドル (Sebastian Perez-Arteta弁護士)

 エクアドルでは従前より、原油が生産されてきたが、金属鉱物採掘は新規産業である。コレア大統領は実務家であり、金属鉱業の振興を目的とする新規立法に着手しているが、外国投資家にとっては依然として厳しい投資環境であることは認めざるを得ず、ペルーやチリとは異なる。現在、国内企業と外国投資家を対等に取り扱うための法改正を検討中である。しかし、エクアドルは、法的安定性の観点から懸念を呈されている。

 エクアドル国内で鉱業プロジェクトを進める場合、地域共同体との関係及び環境問題は大きな課題であり、特に社会問題には留意しなければならない。

 金属鉱物のポテンシャルは、エクアドル北部の高原地方にある。エクアドルの鉱業振興に果たすエクアドル政府の役割は大きい。しかし、エクアドルの鉱業開発には未だ時間がかかるであろう。

 エクアドルにおける米ドルの通貨採用は、外国企業に対する為替差損リスクの軽減に資する。また、エクアドルのインフレ率は、過去10年間毎年2~3 %に抑制されており、物価安定も外国資本にはメリットである。

 エクアドルの石油輸出収入を財源として、国内インフラ整備を推進している。また、水力発電所や港湾ターミナルのプロジェクトには、外資導入に成功している。

 エクアドルの鉱業法は機能しているものの、ライセンス取得には1年間以上を要する。また、共同体問題が依然として最重要問題である。

おわりに

 全般的に言えば、昨2014年来の原油価格下落及び金属等の商品市況低迷により、現時点では、外国企業による中南米諸国の鉱業部門に対する新規の対内直接投資は難しい時期にあるという若干悲観的な見解が多い。

 社会問題や共同体問題という表現をしているが、中南米諸国における鉱業開発では地元住民の社会的ライセンスの解決が大きな比重を占めている。

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