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報告書&レポート

2015年4月16日 金属企画部国際業務課 西岡さくら
No.15-18

~包摂的な成長に向けて、持続可能な鉱業とコミュニティ開発~Mining Indaba 2015参加報告(その3)

 アフリカ最大の鉱業投資会議「Mining Indaba 2015」が、2015年2月9日から12日の4日間、ケープタウン国際会議場にて開催された。今年で21回目を迎えた本会議は、Tony Blair元英首相の基調講演で盛り上がりをみせたものの、コモディティ価格が低迷する中、全体の参加者数は昨年の約7,800人から約6,800人に減少し、若干のトーンダウンがみられた。

 日本政府からは、山際大志郎経済産業副大臣を代表とし、廣木重之駐南アフリカ共和国日本国大使、萩原崇弘経済産業省鉱物資源課長らが出席し、アフリカ各国の鉱業関係大臣との二国間会談を実施した。また、「非アフリカ政府セッション」において、アフリカ諸国との関係強化に向けた取り組みについての講演を行った1。日本企業からは、商社、非鉄会社の参加があり、その他、日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、秋田大学からの参加があった。

 今年で12回目の参加となるJOGMECは、JBICと共同でのブース出展と、辻本崇史金属資源開発本部長による講演を通し、JOGMECのアフリカにおける活動をアピールした2。「Mining Indaba 2015」での主な講演について、その概要を4回に分けて取り上げる。本稿では、その3として最終日に開催された「持続可能な開発セッション3」の概要を報告する。

はじめに

 今年で5回目となる「持続可能な開発セッション」は、例年にない盛り上がりをみせ、本会議のハイライトの一つとなった。進行役のICMM会長、Anthony Hodge氏の呼びかけにより、割れんばかりの拍手の中「ママ・マシェル」ことGraça Machel氏が登壇。Machel氏はモザンビーク独立直後に教育文化大臣を務め、同国初代大統領夫人となり、後に故Nelson Mandela氏の最後の妻となった「アフリカのアイコン」である。
 Machel氏による基調講演に引き続いて開催された2つのパネル討論では、各界のリーダー達がアフリカの成長と鉱業、特に鉱山会社とコミュニティとの関わり方について議論を繰り広げた。本稿では、Machel氏による基調講演と、2つのパネル討論の概要を紹介する。

1. Graça Machel氏による基調講演

 ~広範な視野でのコミュニティ開発を~

(1) 鉱業は包摂的で持続可能な成長のエンジン

 アフリカでは未だ貧困と不公平感が蔓延っている。全ての人々が尊厳をもって生きられる社会の実現のために、鉱業は大きく寄与できるだろう。経済成長をもたらしてきた鉱業を今後は、国とコミュニティを包摂し持続可能な成長に資するものにしたい。
 「政府・鉱山会社・労働者・コミュニティ」、これら4つのステークホルダー間の信頼関係構築と協働が重要だが、現状、相互のコミュニケーションが不足している。

(2) コミュニティ基金の設立を

 鉱山会社は、環境問題に対する真摯な取り組み、長期的な人材育成、基金設立によるコミュニティへの投資を通して、コミュニティの持続的な成長に寄与することができる。特に重要なのは、コミュニティ基金の設立だ。コミュニティ開発を、広範で長期的な視野で戦略的に進めるには、学校や医療施設の建設といった個々の取り組みだけでは不十分で、基金の存在が不可欠である。
 鉱山会社一社で、地域のあらゆる分野の開発を進めることは不可能だ。そこで、異なるステークホルダーとの協働が求められる。鉱山会社には、コミュニティをより広い視野で捉えてほしい。コミュニティとは、オペレーションの周辺地域だけではなく、国全体、そして将来世代も含まれる。コミュニティ全体の成長は、長期的にみれば会社にとっても利益となるだろう。新しいモデルを作っていこうではないか。

(3) 鉱業界は女性の活用を進めるべき

 ダイバーシティ推進のために、特に役員・管理職ポジションへの女性の登用が有効。企業が女性参画を進めることで得られる収益は、女性の参画推進に必要なコストの比ではない。企業は、女性の家庭での立場への理解と、働き方に対する柔軟な対応が求められる。また、女性投資家の活躍も期待するところだ。
 アフリカは「女性のリーダーシップ」という点では進んでおり4、鉱業における男女共同参画実現の牽引役になれるだろう。

持続可能な開発セッションの様子

持続可能な開発セッションの様子
左:Graça Machel氏 右:Anthony Hodge氏

2.パネル討論Ⅰ

 2030年のアフリカ鉱業 ~変わりつつある鉱業界~

<パネリスト>

Tom Albanese氏 Vedanta社
Kwabena Opuni-Frimpong氏 Christian Council of Ghana
Anita Marangoly George氏 世界銀行
Johan Ferreira氏 Newmont Mining社
Albert Chama 氏 Zambia;Central Africa, Bishop;Archbishop

<概要>

(1) CSRは向上したが、ステークホルダー間の摩擦は増加

 20年前に比べ、安全・環境対策など、鉱山会社のCSRは大きく向上した。しかしその一方で、労働争議など、ステークホルダー間の摩擦は増えた。これは、ビジネスの拡大にともなって影響力も増大したことと、グローバル化により情報の共有が進み、企業活動に対する期待と生活水準の向上への欲求が高まったことに因る(Albanese氏)。

(2) アフリカの成長のため、鉱業が担う役割は依然として大きい

 これまで、鉱業はアフリカの経済成長に寄与してきた。しかし、その成長が持続的なものであったかというと、疑問符がつく。閉山後も成長が持続するよう、基盤強化、特に人材の育成が重要だ(Chama氏 他)。
 (人材育成といっても、鉱山会社は鉱山技師の養成ばかりしている、との聴衆からの声に対し)鉱山会社は、様々な奨学金プログラムを通して幅広い分野の人材育成に貢献している。また、どの人材育成プログラムであっても、得られるスキルは他分野でも応用可能なものだ(Ferreira氏 他)。
 2030年のアフリカを考える上で鍵となる5つの課題「電力供給の拡大、雇用の創出、保健環境の向上、水管理の改善、性平等の実現」に対し、鉱業は大きな影響力をもつ。2000年にミレニアム開発目標が採択された際、貧困率の半減(筆者注:1990年の値を基準とする)は非現実的に思えたが、この目標は既に達成された。現在、世界人口の15 %が1日1.25ドル未満で生活しているが、鉱業の在り方次第では、さらなる貧困削減も期待できる(George氏)。
 国の成長はサッカーと似ている。一つの戦略に基づき、複数のプレーヤーがそれぞれの役割を果たし、ゴールを目指す。全員が攻撃にまわっても、そのチームは勝てない。鉱業はサッカーでいえばフォワードだが、試合に勝つためには他セクターとの連携が不可欠だ(Ferreira氏)。

(3) 鉱業の変革とは、コミュニティとの関わり方の変革のこと

 鉱山会社とコミュニティの関わり方は過渡期にある。鉱山会社、政府、コミュニティ、パブリック・マインドを形成するメディア、それぞれが開発の初期段階から互いに耳を傾け、充分な相互理解に基づくパートナーシップを構築し、協働することが求められる(Opuni-Frimpong氏 他)。

3.パネル討論Ⅱ

 信頼関係の構築 ~コミュニティと企業~

<パネリスト>

Tod Donhauser氏 Edelman South Africa社
John Capel氏 Bench Marks Foundation
Kieren Moffat氏 Commonwealth Science and Industrial Research
Organization(CSIRO)
Ven Pillay氏 AngloGold Ashanti社
Janina Gawler氏 Rio Tinto社

<概要>

(1) 南ア国民によるビジネスに対する信用度は高め

 Edelman社の調査報告「2015 Edelman Trust Barometer」によると(筆者注:日本、アメリカ、UAE、シンガポールなど中進国以上の27ヶ国を対象)、南ア国民の、NGO、メディア、政府に対する信用度は近年下降している一方、ビジネスに対する信頼度は緩やかに上昇している。南ア国民の対ビジネス信用度(63 %)は調査対象国平均と比較して高めで、これは、南アではビジネスの社会経済発展への貢献が広く認知されていることを表わしている。「企業は自社利益の追求のみならず、社会発展に貢献すべき」と考えている南ア国民は84 %で、これは他国に比べて非常に高い数値だ(Donhauser氏)。

(2) コミュニティ開発は利益優先であってはならない

 鉱山会社とコミュニティのパワーバランスは不均衡。そのため、情報力、資金力、ノウハウを有する会社側がイニシアティブを握り、当事者であるコミュニティの意思を汲み取らない「コミュニティ開発」を進めることが往々としてある。その結果、期待を裏切られた人々が違法または暴力的な手段で抗議行動を起こすこととなる。このような状況を回避するためには、会社側はコミュニティに対する敬意に欠ける態度を改め、真摯に耳を傾けること、そして、意思決定プロセスにコミュニティを取り込むことが必要だ。短期的観点での自社利益優先のやり方は、結局はブーメランのように鉱山会社に跳ね返り、自らの首を絞めることになる(Pillay氏 他)。

(3) コミュニティとの信頼関係構築の方法

 信頼関係を如何に構築すべきか、その取り組み方は地域によって異なる。システマティックな対応は通用しない(Moffat氏)。
 鉱山会社は、コミュニティとの関係構築や問題解決のため、自治体のトップや政治的な力を持つ人物に近づこうとするが、このやり方は近道のようにみえて、実はそうではない。時間はかかるが、個々のコミュニティを、近場に住むなどして熟知し、抱える問題を浮き彫りにし、長期的な視野で本質的な解決にあたる方が、よりよい結果を生む(Capel氏 他)。
 同一コミュニティ内でも、人によって、立場や意見、目指す結果が異なる。そのため、関係者を一同に集め、同じテーブルで議論すると効果的であろう。双方向の対等な議論を成立させるために、企業側からの充分かつ正確な情報発信が不可欠である。幅広い層へ企業のメッセージを行き届かせるためには、質の良いスポークスマンの存在と、現地語での情報発信がポイントになろう(Capel氏 他)。
 信頼関係の構築には時間がかかり、良い評価も悪い評価も、世代を超えて引き継がれる。今現在のコミュニティとの関係が、将来のビジネスに影響を与えることになる(Gawler氏 他)。

(4) 長期的な操業のために

 政府が発行する鉱業ライセンスはただの紙切れにすぎず、明確な定義やガイドラインが存在しない「社会的操業認可権」こそが、長期的な操業を可能にする真のライセンスではないか。政府からのライセンスを手に、コミュニティの意に反した操業をしても、長期的なビジネスの継続は困難だろう(Pillay氏)。
 コミュニティの反対により、操業開始を諦めるケースも多いが、致し方ない判断だ。環境保全を含めたコミュニティへの貢献は、もはやビジネスの中核となった(Gawler氏 他)。

4.所感

 アフリカでのプロジェクトは操業地域により諸状況が大きく異なり、普遍的な「成功モデル」の確立が難しい。2つのパネル討論からは「Short-term pain, Long-term gain」の考えのもと「社会的操業認可権」を手探り状態で目指す、一部業界大手の姿が感じられた。
 「2012年8月、英Lonmin社が操業する南アのマリカナ白金鉱山にて、警官隊の発砲によりストライキ参加の鉱山労働者34人5が死亡する悲劇的事件が起こり、その後約5ヶ月に及ぶ一連の労働争議の発端となった。ステークホルダー間の摩擦の激化により引き起こされたこの衝突から3年が経とうとするいま、同じ轍を踏むのは避けたいという機運が、政府、業界ともに芽生えている。この機に、業界による「コミュニティ開発」の追い風になる強いコミットメントを政府が示せれば、Machel氏が言うところの「包摂的な成長」への大きな一歩となろうが、いまのところ、その兆候はみえていない。


  1. 2015年2月12日 経済産業省ニュースリリース「山際経済副大臣が南アフリカ共和国及び英国に出張しました」
    http://www.meti.go.jp/press/2014/02/20150212005/20150212005.html
  2. 2015年2月19日 JOGMEC ニュースリリース「アフリカとの更なる関係強化へ~マイニング・インダバにて JOGMECの活動をアピール」
    http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_000193.html
  3. 本セッションはMining Indaba事務局とICMM(国際金属・鉱業評議会)の共催で、2011年から毎年開催されている。
  4. 世界経済フォーラムによる「The Global Gender Gap Report 2014」の Global rankings 2014 で、南アは世界18位に位置する。
  5. Alexander 2012a, 36-40; Alexander 2012b, 175; Business Report, 16 August 2013

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