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報告書&レポート

2015年5月28日 ロンドン事務所 竹下聡美
No.15-27

中国の環境規制が鉛バッテリーセクターに及ぼす影響

 2015 年4月22日、ポルトガル・リスボンにおいて国際鉛亜鉛研究会 (ILZSG)の春季定期会合が開催され、本会合の中で、中国の鉛バッテリーの最大生産地である浙江省の浙江大学の林由公共管理学院教授が中国における鉛バッテリーセクターへの環境規制の現状について報告を行った。中国では2015年1月に新環境法が施行されており、中国の環境規制がどのように行われたのか、中国の需給動向を踏まえながら林教授の講演内容を本稿で紹介することとしたい。なお、ILZSGによる鉛の2015年の需給予測については、こちらをご参照いただきたい。

1. 中国における鉛需給

(1) 世界における中国の割合

 まず、ILZSGによる中国の鉛鉱石生産量、地金生産及び消費量について全体を簡単に俯瞰すると、表1及び図1のとおり、中国が世界の需給に占める割合は需給両面でおよそ4割以上に及ぶ。

表1. 中国及び世界の鉛需給量推移(2013年~2015年)

表1.中国及び世界の鉛需給量推移(2013年~2015年)

(出典:ILZSG会議資料より作成)

図1.中国の鉛需給量の推移(2013~2015年)

図1. 中国の鉛需給量の推移(2013~2015年)

(出典:ILZSG会議資料より作成)

 ILZSGによれば、2014年は2013年に比してマイナス成長となっているが、2015年以降は中国の動向に伴って世界全体も需給ともに持ち直すと予測しており、中国の動向が世界全体に直接的に影響を及ぼしていることが分かる。

図2.中国の鉛バッテリー用途別需要

図2. 中国の鉛バッテリー用途別需要

(出典:講演資料から作成)

図3.中国の鉛バッテリー地域別生産

図3. 中国の鉛バッテリー地域別生産

(出典:講演資料から作成)

(2) 鉛バッテリーセクターの需要面での位置付け

 鉛需要については、バッテリー向け用途が最も多く、日本ではその割合は9割近くに及ぶ。次に工業用、医療用の放射線遮蔽材や防音材、無機薬品及びガラス向け等となるが、特に後者については鉛フリー化が進み、需要自体も減少傾向にある。そのため、鉛需要を見る場合にはバッテリーの動向を押さえる必要がある。

(3) 中国の鉛バッテリーセクター

 2014年の中国の鉛バッテリー総生産量は2.2億kVAhに達し、2004年から2014年にかけて、鉛バッテリー生産量は、年平均して18 %もの成長を遂げてきた。このうち、平均85 %から90 %が国内で消費され、残りは輸出されている。

 鉛バッテリー需要を用途別でみると、図2のとおり、中国では電動自転車向けが38 %を占め、最大用途となっている。電動自転車は日本の電動アシスト自転車とは異なり、ペダルを漕がずに走行することが可能で、都市部でのオートバイ規制に伴って2000年以降大きく需要を伸ばし、現在では1.3億台が中国国内で利用されているとされる。次に自動車向けが31 %、通信機器やバックアップ電源等の産業向けが19 %、電気自動車向けが6 %と続いている。

 鉛バッテリーは、浙江省が最大の生産地となっており、その比率は29 %である。湖北省、河北省、江蘇省が約1割を生産している。

2. 中国における環境規制の大改革

 中国政府は、鉛バッテリーセクターについて、第12次5カ年計画(2011年~2015年)において最も環境を汚染する5つの産業のうちの1つと位置付けている。中国では、過去10年間で50件以上もの重大な鉛汚染事故が報告されており、このうち約30件が鉛バッテリーセクターで発生し、さらにそのうち15件が鉛製錬所での事故とされている。こうした事態を受けて、中央政府は鉛バッテリーセクターの環境規制を強化し、鉛バッテリーセクターの企業再編を開始した。その結果、2010年末時点では、鉛バッテリーセクターには約2,000社もの鉛バッテリー生産企業、再生鉛生産企業が存在していたが、2012年末時点では約450社まで削減されたとしている。

 なお、当時のより詳細な中国の動向については、以下のカレント・トピックスにおいて報告がなされていることから、こちらも参照いただきたい。

『中国鉛蓄電池産業に関わる2012年の政策動向(2012年7月5日発行)』

『中国鉛蓄電池企業の環境検査による生産停止動向(2011年9月8日発行)』

(1)中国の鉛バッテリーセクターの問題点

 中国の鉛バッテリー生産企業は、その多くが中小規模の企業であるため、資本不足により、設備投資や管理体制に投資がなされず、設備の老朽化や生産管理体制が不十分なまま操業されており、環境配慮がなされていないことから、重大な環境事故を起こす大きなリスクを抱えている。

(2)中国政府による業界再編

 中国環境保護部は、国家環境保護特別対策(National Environmental Protection Special Action)と称して、2011年以降、次の3つの対策を講じた。

  • 環境汚染リスクの高い法令違反企業を閉鎖する。
  • 環境基準値を下回る企業について設備の改善がなされない場合は閉鎖する。
  • 生産設備を工業地帯に移転する。

 この特別対策として、2011年2月から2012年12月にかけて、中国環境保護部と地方政府の環境保護局は、鉛バッテリー生産者及び再生鉛企業への実地検査を実施した。この実地検査は6ヶ月毎に行われ、2012年12月に最終的に公表された企業数は395社で、この他、約60社が新たな生産設備を建設中とされていることから、この約450社がこの実地検査を通過し、操業が政府によって承認された企業数とされている。

 さらに2013年6月には、中国環境保護部と中国工業情報化部は共同で、鉛バッテリー生産者及び再生鉛生産者は環境調査(Environmental Inspection)と参入条件(Access Condition)の要件を満たさなければ操業を許可しないとし、この期限を2015年12月までと発表した。実際に環境調査を通過した企業名は公表された後、パブリックコメントを受ける必要があり、ここで否定的なコメントを受けなかった企業のみが参入条件の検査を受けることが可能となっている。第1回目の環境調査の結果、約140社がこれを通過し、パブリックコメント手続きを経た70社が参入条件を受ける権利を得た。2014年末には、このうち27社が参入条件の検査を最終的に通過したとされている。

(3)中国政府による環境規制に向けた多角的な取組

 前項のとおり、中国政府により多くの鉛バッテリー生産者及び再生鉛生産者に対して実地検査がなされ、基準を満たさない企業は容赦なく閉鎖に追い込まれている状況となっているが、この他、中国政府は、環境規制に向けて後述のとおり多角的に取組を強化している。

①規制・法制化の流れ

  • 中国国務院が「重金属汚染の保護と管理」を第12次5カ年計画で承認。
  • 中国衛生部が「鉛バッテリーセクターの労働衛生基準」を2011年に公表。
  • 「重金属汚染削減に向けた管理手法と汚染物質基準値」が2012年8月に公表。
  • 中国史上最も厳しいとされる新環境法が2015年1月1日に施行。

②各種ガイドラインの提供

  • 2011年8月、中国工業情報化部が「閉鎖対象となる旧生産設備一覧」を発行。
  • 2011年11月、中国環境部が「最新環境保護技術目録」と「中国政府が症例する環境保護技術」の編集を開始。
  • 2011年12月、中国工業情報化部が「バッテリー産業における環境配慮の生産計画の実施」を発行。

③中央政府の実地検査への参加

 前述した実地検査は、中国人民会議や中国国家発展改革委員会が自ら専門家チームを編成して行っており、環境保護を国家レベルで重要視しているという意思表示となっている。

(4)鉛バッテリーの回収とリサイクルへの課題

 現在中国国内では、鉛バッテリーの回収とリサイクルの効率的な仕組みをいかに確立させるかが最も重要な課題となっている。中国政府は関係機関との調査、協議を行っており、鉛バッテリー生産者による回収の義務化や鉛バッテリーに出自を特定するチップを埋め込むといった手法の検討を行っているとされる。上海市では、独自の取組として、地方政府と鉛バッテリー企業による「鉛バッテリー回収上海連盟」が形成されている。

 ただし実際のところ、1.3億台もの電動自転車が中国国内で利用されており、定期的に発生するバッテリー交換は、個々人の自由に任されているのが現状である。講演した林教授も、より高い価格でバッテリーを回収してくれる業者を選んでバッテリーを持ち込むのが普通の感覚であり、政府がこれを取り締まる、又はシステム化することは非常に難しいのではないかと発言していた。

まとめ

 中国政府は、これまで先進諸国が30年間をかけて行ってきた鉛バッテリ生産における環境規制の取組を、いわば5年という脅威のスピード感で推し進めてきた。また2015年1月に施行された中国史上最も厳しいとされる新環境法にも改めて注視する必要がある。一方、興味深いのは、環境規制による鉛バッテリー及び再生鉛の生産設備の大規模な閉鎖がなされているにも関わらず、鉛バッテリー生産量の伸びが一切衰えないというところである。ここに中国の成長力が見てとれる。また需要サイドからは、世界の鉛需要の4割以上を中国が占め、そのうち大半がバッテリー需要、かつその4割が電動自転車という中国特有のファクターであるとことに注目したいと思う。電動自転車のバッテリーはリチウム電池への代替も一部では始まっているとされることから、環境規制の動向と合わせて注視していく必要がある。


(注記)国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)

 国際非鉄研究会(銅、鉛亜鉛、ニッケル)の中では最も古い歴史を持ち、1959 年に国連の招請・勧告によって発足した国際機関で、国際銅研究会及び国際ニッケル研究会のロールモデルとなっている。現在、鉛・亜鉛生産国、消費国及び貿易国からなる29カ国及びEUが加盟しており、生産及び消費に占める加盟国の割合は85%にも及ぶ。同研究会は、鉛・亜鉛市場の需給予測分析を始め、国際的な貿易取引に係る課題について研究するとともに、それらの課題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季の年2回開催されている。

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