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報告書&レポート

2015年6月25日 ロンドン事務所 キャロル涼子
No.15-31

中国の統計手法の課題と今後の銅の需給見通し―2015年春季国際銅研究会(ICSG)統計委員会参加報告―

 2015年4月23日と24 日の2日間にわたって、リスボンにて国際銅研究会(ICSG)*の春季定期会合が開催された。参加者は、ICSG加盟国や産業団体、企業、専門家等の約70名。会議開催時には、ドル高原油安等の影響で下落するコモディティ価格にもれなく、銅価格も下落を続けていたことから、23日の第88回環境経済委員会及び第43回統計委員会においては銅価格の今後の動向と中国需要の行方が議論された。本稿では、統計委員会で注目を集めた中国の銅統計手法の課題と中国の今後の銅見通しに関する講演概要を紹介する。

1. 中国の銅生産・輸出入・消費統計の現状と課題

講師: China Nonferrous Metals Industry Association, Vice Secretary-General,
Mr. Wang Huajun
CNIA, Deputy Director General, Mr Li Yusheng

1.1 銅の統計管理機関と統計手法と課題について

 中国の銅鉱石生産と地金生産に関する統計は、データ収集方法と情報源が特殊で、各企業から統計監督機関へ報告された後は、データの変更や訂正ができない決まりである。

 政府が管理する統計には、国家統計局(National Bureau of Statistics、以下NBSとする)による数値と、業界団体である中国有色金属工業協会(China Nonferrous Metals Industry Association、以下CNIAとする) が取りまとめる統計との二種類がある。前者は各企業から市町村や省・県・郷へ提出された数値をそのまま取り纏めるのに対し、後者は国家統計局の数値を考慮しつつ生産者の報告書を基に情報収集を行って統計データとしているため、両者の最終統計数値には差が生じる。

 前述のとおり、NBSは企業から入手した情報の変更や訂正ができないため、企業が提出した情報に誤りがあってもそのままの数値を使わざるを得ず、体制上の技術的課題として認識されている。例えば、業界に新規参入した企業の中には統計手法に詳しくないものも多く、複数行政区にまたがる企業活動がある際に、生産量の報告に重複が見受けられる。また、統計は銅純分量として提出するべきところ、銅精鉱量で報告する企業もある。さらに二次生産者の報告漏れもままあるほか、最終生産物の生産量のみを報告し鉱山や製錬所からの生産量は提出しない企業や、取引量を生産量と勘違いして報告する企業もある。

 CNIAでは、以上の課題を克服するため、生産量データ、輸出入量と消費データを常に確認・見直し・分析できる体制をとる必要があると認識している。さらにNBS統計データに異常がある場合は、生産者から正しい情報を確実に取り寄せ、信頼度の高い統計データの公表に努めるべきと考える。

1.2 統計頻度と精度について

 統計は月間・年間で取り纏めており、年間統計については予備統計、調整後の統計、最終統計の三種類を公表している。なお、毎月の集計ごとに前月の修正を加えるため、月間統計値を積み上げても年間値とはならないことに注意が必要である。表1は、2013年と2014年における銅地金生産量の各統計数値である。

表1. 2013年と2014年における中国の銅地金および銅鉱石生産量の統計例

年間統計種別 予備生産量(百万t) 調整後の生産量(百万t) 最終生産量(百万t)
地金生産 鉱石生産 地金生産 鉱石生産 地金生産 鉱石生産
2013年 6,839 1,773 6,490 6,667 1,681
2014年 7,959 7,644

(出所:ICSG会議資料を基に作成)

 近年では予備生産量と最終生産量との差は5 %以下となっていることから、NBSとCNIAが公表する数値はほぼ中国の現状を反映していると考える。

 なお中国の銅消費量については、月間の公的な統計制度が確立していないため、地金消費量の月間値は公表していない。民間の発表する統計値も存在するが、各集計主体の判断基準に基づいて銅生産者やエンドユーザー、トレーダー、保税倉庫、中国国家備蓄局(SRB)やその他民間企業の銅在庫量数値などを収集して検討されるため、数値にばらつきがある。また鉱石生産量に至っては、各社独自の市況判断で変更が加えられることがある。

 CNIAでは、統計値の信頼性を高めるために在庫量を適切に把握することが重要であるとの認識の下、銅の半製品販売量と見かけ消費量、銅在庫量等の情報を用いて銅地金の年間消費量を把握する統計システムを確立した。これにより生産者が提供する情報にエラーがあった場合、CNIAが責任を持って直ちにNBSへ報告し、迅速に訂正する体制が整ったことから、より信頼性の高い正確な銅統計データの提供が可能となる見込みである。

1.3 2014年の銅生産量と2015年および2016年の予測

表2. 2014年の中国銅生産量

製品別 生産量 前年比成長率
銅精鉱 192万t 5.7 %
銅ブリスター 510万t 20.0 %
銅地金 796万t 13.7 %
銅半製品 836万t 13.3 %

(出所:ICSG会議資料を基に作成)

CNIA公表による中国国内の2014年銅の製品別生産量と前年比成長率は、表 2にまとめたとおりである。また、中国の銅地金主要生産者を表3に示す。

表3. 中国の銅地金主要生産者一覧 (単位:千t)

番号 企業名 2012年 2013年 2014年
1 銅陵有色金屬集團控股有限公司 906 1,201 1,309
2 江西銅業 1,191 1,217 1,246
3 金川集団 617 708 771
4 大冶有色金属公司 370 500 520
5 雲南銅業有限公司 372 423 511
  合計 3,456 4,049 4,357

(出所:講演資料より)

 一方銅消費に関しては、2014年こそ建築業界の伸び悩みと電力系統における超々高圧(UHV)グリッドの普及が進み新規銅需要が緩んだが、空調製品向けの需要と鉄道分野への投資が増えていることから、引き続き中国が世界の銅消費をけん引することは確実である。ただし中国政府によるマクロ経済的なてこ入れや量的緩和の経済効果には限りがある。また銅半製品については、大企業が市場を席巻し、中小企業の生存競争が厳しくなっている。

 中国の銅地金生産量および需要は今後も成長を続けるが伸びは鈍化し、今後数年間は平均5 %程度に留まるとみられる。生産量のうち製錬能力については、2015年の末までに655万t、精錬能力が1,086万tに達する予測である。但し2015年の新規製錬能力については、投資不足と環境規制強化の影響から74万t程度の増加にとどまると見込んでいる。一方で銅ブリスター生産は前年比7.8 %増の550万t、銅地金生産は前年比7.4 %増の855万tに達する見込みである。

 表4に2012年から2016年にかけての銅地金の需給をまとめる。

表4. 2012年から2016年までの中国の銅地金需給

(単位:千t)

  2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
生産量 5,879 6,667 7,959* 8,550 9,100
輸入量 3,402 3,206 3,590 2,800 2,600
輸出量 269 293 266 300 350
消費量 7,900 8,300 8,760 9,200 9,700
需給バランス 1,112 1,280

*予備データ(出所:講演資料より)

 今後は中国の銅輸入量は減少し、中国国内における銅地金の余剰感は減少するとの予測である。また環境規制の強化により、製錬所の閉鎖や操業停止が増加する見込みで、銅地金生産への影響が懸念される。

 中国の銅業界は「新常態1」(New Normal)への移行で、生産と消費の成長が中程度で推移する状態にあるため、銅需要の伸び率よりも、銅地金消費の実質増加量が重視されるようになってきたといえる。

おわりに

 中国の統計に関しては、銅の輸入量と消費量に限らず、国内総生産(GDP)の算出においても国家統計局の公表値と中央地方集計値との間にかい離があることがかねてから問題視されている23

 集計値の違いにはCNIAが主張するとおり技術的・構造的な課題がある一方で、地方指導部の人事考課制度において評価指標として成長率が重視されることから、上方修正圧力が存在するという政治的・体質的な課題もある4。海外専門家らは、特に後者の政治的圧力が統計に及ぼす影響を重視しており5、現政権が地方指導部とどのように折り合いをつけるか、その指導力に期待が寄せられている。

 需給の伸び率こそ減速しているとはいえ、成長を続ける中国は、今後もしばらくは世界最大の銅消費国として注目を集める。本会議においてもその動向を見極め、現実を反映した需給予測を公表していくうえで、より信頼性の高い情報を求める生産者側の姿勢が強く主張された。ICSG側も、その認識に基づきCNIAをはじめとする中国の統計主体とのさらなる連携を図っていく模様であることから、引き続き注視していきたい。


(注記)

国際銅研究会(ICSG)

国際銅研究会は、国際非鉄3研究会の中では最も新しい研究会で、国連の招請・勧告によって1992年に発足した国際機関である。世界の銅経済に関する情報の提供、政府間協議の場の提供及び銅に関する諸問題について国際協議・協力を推進することが目的で、世界の主要銅鉱石生産国、地金生産国及び消費国の23カ国及びEUが加盟している。事務局は、2006 年からポルトガル・リスボンに設置されている。
同研究会は、主に銅市場の需給予測に関する統計分析を始め、国際的な貿易取引に係る環境・経済面の課題について研究しており、統計等の刊行資料は、世界的に一定の評価を得ている。通常、定期会合は春季、秋季の年2回開催されている。次回の秋季会合は、2015年10月5日から7日の日程で開催予定である。

  1. 新常態(New Normal)経済の減速、重工業からハイテク産業、投資主導から消費・サービス産業主導への構造転換。(参考:JOGMEC調査部 竹原美佳 報告「中国:石油・天然ガス消費鈍化の要因と今後の見通し」P4より)
  2. 新常態(New Normal)経済の減速、重工業からハイテク産業、投資主導から消費・サービス産業主導への構造転換。(参考:JOGMEC調査部 竹原美佳 報告「中国:石油・天然ガス消費鈍化の要因と今後の見通し」P4より)
  3. 日本総研アジア・マンスリー(2011年11月5日掲載)「中央と地方の乖離が広がる中国のGDP統計」三浦有史著(アクセス日2015年6月8日)
  4. 環太平洋ビジネス情報 RIM 2013 Vol.13 No.48「中国の地方GDP統計の信頼性」(アクセス日2015年6月8日)
  5. Bloomburg 2014年2月18日掲載記事「China Tackles $1 Trillion Data Gap as Xi Changes Metrics」(中国1兆ドルのデータギャップへの取り組み、アクセス日2015年6月8日)

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