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報告書&レポート

2015年6月25日 ロンドン事務所 竹下聡美
No.15-32

世界のクロム市場概観

 国際クロム開発協会(International Chromium Development Association、ICDA)より世界のクロム市場について、2015年4月にリスボンで開催された国際ニッケル研究会(INSG)の春季定期会合において講演がなされたことから、その講演内容をもとに近年のクロム市場を概観する。なお、クロムについては、JOGMECが発行する『鉱物資源マテリアルフロー2014(クロム)』リンク及び金属資源レポート『クロム資源の供給ポテンシャルについて』リンクにおいて詳細を報告していることからこれらレポートもご参照いただきたい。

1. クロムの需要サイド

 ICDAによれば、クロムの世界需要については図1のとおり、96 %は特殊鋼、2 %が化学品、2 %が耐火煉瓦等向けに使用されている。この96 %を占める特殊鋼向けのうち、94 %を高炭素フェロクロム及びチャージ・クロムが占めている。またフェロクロムの77 %がステンレス鋼に使用されていることから、クロムは大半がステンレス鋼に使用されていることが分かる。

図1. 2014年のクロム需要(出典:ICDA講演資料より作成)

図1. 2014年のクロム需要(出典:ICDA講演資料より作成)

2. クロムの供給サイド

(1) クロム埋蔵量

 クロム資源はどの国に賦存しているのか、ICDAによれば、図2のとおり、クロム鉱石埋蔵量は南アが世界最大の72 %を占め、次にジンバブエ12 %、カザフスタン5 %、フィンランド1.6 %と続いている。なお、米国地質調査所(USGS)の2015年公表の統計によれば、世界の資源量は精鉱量で120億t以上あるとされ、この先数世紀に渡って需要を十分に満たし得るとしている。なおUSGSの埋蔵量統計では世界のクロム資源の95 %が地質学的に南部アフリカとカザフスタンに集中している。

図2. クロム鉱石国別埋蔵量(出典:ICDA講演資料より作成)

図2. クロム鉱石国別埋蔵量(出典:ICDA講演資料より作成)

(2) クロム鉱石生産

a) クロム鉱石生産地域別推移

 クロム鉱石生産量は、1987年の1,250万tから2013年には143 %増の3,030万tに拡大した。アフリカの生産量は1987年時に475万tで世界生産の38 %を占めていたが、2013年には生産量1,667万tと3.5倍、生産比率も世界の過半を占めるまでに成長している。一方で、東欧地域の生産量はほぼ横ばいで推移している。

図3. クロム鉱石生産地域別推移(出典:ICDA講演資料より作成)

図3. クロム鉱石生産地域別推移(出典:ICDA講演資料より作成)

b) 2014年のクロム鉱石生産

 世界のクロム鉱石生産の4割を消費する中国は、クロム埋蔵量は世界の0.1 %と資源賦存が極めて少ないため輸入に依存している状況である。2014年の中国の輸入量は1, 060万tで前年比4.3 %減となった。これは中国でのフェロクロム価格が下落したことが影響している。クロム鉱石の輸入相手国とその割合は、南ア61 %、トルコ14 %となっている。中国国内の在庫も減少しており、この数年で最低レベルの180万tを下回っているとされる。

c) クロム鉱石の最大輸入国である中国の動向

 2014年の世界のクロム鉱石生産量は、ICDA推定値によると2,940万tで、前年比3 %減となった。これはアジア・欧州地域で前年比38 %減と大幅に減産したことが影響しており、印Tata Steelによる採掘権更新がインド政府から認められず、インドが減産したことが影響したとされる。中東、東欧及び米州地域では前年に比べて増産し、アフリカでは最大生産量を記録した。

(3) フェロクロム

a) フェロクロム生産国別推移

 次にフェロクロム生産について見ると、1987年のフェロクロム生産量は370万tで、およそ30カ国以上で生産がなされていたが、2013年には生産量は1,080万tと189 %増加した一方で生産国は半減し、生産地域・生産者の集中化がなされている。特に中国については、1987年時の生産量18.5万tから2013年には400万tまで22倍も急成長し、世界最大のフェロクロム生産国となっている。

図4. フェロクロム生産国別推移(出典:ICDA講演資料より作成)

図4. フェロクロム生産国別推移(出典:ICDA講演資料より作成)

b) フェロクロム生産者

 フェロクロム生産者については、世界トップ20社のうち6社は南ア企業が占め、その生産能力は470万t、次に中国系企業が8社を占め、その生産能力は250万tとなっている。その中でも突出しているのは、GlencoreとMerafe Resources社との共同事業体である南アGlencore-Merafeで、2014年の生産能力は200万tを超える。次にカザフスタンのENRCが約150万t、3位は南アのSamancorで約120万tとなっている。4位以降は50万tを前後して推移し、この3社が生産者の中では突出している。

c) 2014年のフェロクロム生産

 2014年のフェロクロム生産量は、ICDA推定値で前年比5.5 %増の1,140万tである。アフリカの生産量は前年比20 %増加した一方で、アジアについては中国の減産により前年比1.3 %の減少となった。オマーンは2013年7月からフェロクロム生産を開始しており、2014年には増産拡張を行っている。南アのフェロクロム生産量は、需要拡大に従って前年比18 %増、第2位の鉱石生産国であるカザフスタンのフェロクロム生産量はほぼ横ばいで0.2 %増であった。

d) 中国のフェロクロム動向

 中国の2014年フェロクロム生産量は前年比3.2 %減の385万tで、国内の環境規制強化と国内フェロクロム価格の低迷により、複数の生産企業がフェロクロム生産から撤退し、また多くの生産企業が減産に転じた。中国は2012年にフェロクロム生産で南アを抜いて1位の生産国となったが、今後また順位が入れ替わる可能性もある。

 一方、中国の輸入動向については、2014年の高炭素フェロクロム輸入量は前年比9.4 %増の200万tと増加傾向にある。中国政府は高炭素フェロクロムの輸入税を4 %から1 %に引き下げており、国内のフェロクロム生産業については環境問題とエネルギー消費の観点からさらなる拡張は支持しない方針とみられている。この他、近年フェロクロム輸入量が伸びている要因としては、輸出国である南アのランド、インドのルピーなど現地通貨安と2014年にクロム鉱石輸入が減少したことが挙げられる。

3. 需要サイドからステンレス鋼の動向

 フェロクロムの最大用途であるステンレス鋼について、2014年生産量は前年比5.9 %増の4,040万tで、特に中国生産量は前年比で14.3 %成長すると見られている。国際ステンレススチールフォーラム(International Stainless Steel Forum, ISSF)によれば、米州地域の2014年1月から9月期のステンレス鋼生産量は15 %増と非常に上向きで、住宅及び商業施設の建設増加が期待されている。また西欧の2014年ステンレス鋼生産も前年比5 %増と堅調だが、東欧については15 %減となる見通しである。

4. 2014年の概観

 2014年のクロム鉱石生産量は前年比3 %減となったが、その要因は、インドの採掘権更新問題による減産、南アの増産が白金ストの影響を受けて限定的であったこと、中国のクロム鉱石の輸入減が挙げられる。フェロクロムについては、2014年生産量は前年比5.5 %増で、これは最大生産国の中国が国内フェロクロム価格の下落や環境規制により減産する一方で、南アを始めとする中国外での生産が堅調であったことが影響している。ステンレス鋼に関しては、東欧を除き全ての地域が増産したことにより2014年は前年比5.9 %増と好調であった。

5. 2015年の見通し

(1) クロム鉱石

 クロム鉱石の生産動向を見通す上での着目点は、中国がフェロクロム生産国としてクロム鉱石輸入国であり続けるのか、またはフェロクロムの輸入国を選択するのかという点である。またイラン、アルバニア及びオマーンといった鉱石生産国の生産動向や、南アのUG2精鉱がクロム鉱石に対してコスト的に良いポジションを維持しうるか、という点も影響するとみられる。

(2) フェロクロム

 フェロクロムに関しては、南アについて2015年も引き続きエネルギー価格上昇とEskomの電力問題が生産に大きく影響し、中国については生産コストの上昇と環境規制、国内フェロクロム価格低迷に中国生産者がどの程度耐えられるのかが焦点となるとみられている。

(3) ステンレス鋼

 米国のステンレス鋼生産は強い需要に支えられて増産を継続すると期待されているが、欧州については未だ不透明な状況である。またEUは中国・台湾が生産するステンレス鋼に反ダンピング課税を課す方針を示しているが、これが実際にどのように運用されるのか、また中国は引き続きステンレス鋼の輸出増を継続するのか、今後の動向に注目したい。

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