閉じる

報告書&レポート

2015年7月2日 金属環境事業部 林健太郎 池田真奈美(現 評価部) 金属資源技術研究所 濱井昂弥
No.15-33

坑廃水に関する国際学会10th ICARD参加報告

 2015年4月21日~24日、坑廃水に関する国際学会10th ICARD(International Conference on Acid Rock Drainage)がチリ・サンティアゴで開催された。JOGMEC金属環境事業部及び金属資源技術研究所は、これに参加し、自然力活用型坑廃水処理(パッシブトリートメント)技術に係る調査研究成果を発表すると共に、世界各国から多くの発表があった坑廃水処理や環境保全、発生源対策などの技術動向に関する情報収集を行ったので、その概要を報告する。

1. 10th ICARD概要

 ICARDは3年に1度開催される坑廃水に関する世界最大級の学会であり、10回目を迎える本大会は、鉱業の環境保全に関する国際学会IMWA1(International Mine Water Association)の年会を兼ねて開催された。

 本大会はチリをはじめ南米各国、アメリカ、カナダ等の32ヵ国から、鉱山会社、環境系コンサルタント企業、大学関係者等400人以上が参加した。なお、アジア各国からの参加者は少なく、日本からの参加はJOGMECのみであった。

 取り扱われたテーマとしては、Passive Treatment(硫酸還元菌を利用したバイオリアクター、人工湿地)やARD Prediction(坑廃水の発生水量・水質に関する予測、金属除去に係る化学反応シミュレーション)、Mine Water Management for Closure(閉山処理に向けた坑廃水管理)、Geomicrobiology, Biogeochemical Cycles and Biomining(微生物による生物学的反応を利用した鉱山開発や発生源対策)等があり、180件の講演と31件のポスター発表が行われた。

坑廃水に関する国際学会の様子(写真)

2. JOGMECの講演概要

 パッシブトリートメントとは、自然界(植物や微生物)が持つ浄化能力を積極的に活用して坑廃水処理を行う技術の総称であり、1980年代から主に欧米での石炭鉱山坑廃水を対象として技術開発が進められているが、金属鉱山での実導入事例は少なく、日本では未だない。JOGMECは、国内休廃止鉱山に対する適用可能性を検討するため、2007年度より硫酸還元菌を利用した坑廃水処理プロセスに着目し、研究開発・現地試験を行ってきている。

 同技術は硫酸還元菌の働きを活用し、坑廃水中に溶存する金属元素を硫化物として析出させ除去するものであり、薬剤費・電力費・人件費といったランニングコストが極めて低いというメリットがある。また、通常の薬剤添加による処理では金属元素を水酸化物にするため、特定の金属はアルカリ領域までpHを上げないと析出しないのに対し、同技術では中性域で硫化物として析出させられること、かつ発生する殿物の嵩体積が小さいこと、などのメリットがある。

 このような硫酸還元菌を用いたプロセスは、硫酸還元菌の栄養供給源となる有機物、pHを調整する石灰石等のアルカリ剤、基材の3種類からリアクターが構成される。この内、有機物は硫酸還元菌の活性を保つだけの栄養(有機酸)を供給できるものでなければならないので、非常に重要なファクターである。そこでJOGMECでは入手が比較的容易な複数の有機物を対象とし、金属処理の長期継続性や冬季の低温環境下における栄養供給能等について比較検証した結果、日本国内で多く排出され無償で入手できる「もみがら」を基材に、「米ぬか」を栄養供給源として用いるプロセス(JOGMECプロセス)を考案した。

 講演では酸性でZn、Cd、Cuを含む坑廃水を対象とした、現地小規模実証試験の結果として、約2年間の処理結果やバイオリアクター内部の菌叢解析結果等について紹介した。試験の結果、滞留時間50時間の条件でバイオリアクターに通水することで、処理後水の水質は排水基準を満たすことが確認され、特に2年間にわたり処理が継続していることから、冬季の低温環境下(外気温が-10℃台、微生物の活性低下が懸念される)でも安定的に処理できることを説明した。これに対し、聴衆からは本プロセスでは廃棄物となる米ぬかやもみがらを用いていることや、滞留時間が50時間と短いこと、冬季も含めて2年間に亘って処理が継続している実績を上げていることなどから、「優れたプロセスであると思う」といったコメントが複数寄せられた。

3. その他の講演概要

3.1 基調講演

 坑廃水処理に係わる国際団体であるINAP(International Network for Acid Prevention)からは、「International Network for Acid Prevention's Path Forward」と題して、INAPの概要や活動等に関する基調講演が行われた。INAPは各国の鉱山会社が抱える酸性坑廃水の課題を解決するために1998年に設立された団体であり、世界各国の大手資源会社(Anglo American社やRio Tinto社、Antofagasta Minerals社、Barrick Gold社等)から構成される。

 このINAPからは2009年にGARD(Global Acid Rock Drainage) guideと呼ばれる坑廃水処理に係わるガイドブックが発行されており、この最新版のリリースに関する報告があった。このガイドブックには坑廃水の発生源メカニズムや、水質や水量に合わせた処理方法の選定、発生源対策等について、体系的にまとめられている。

∗ WEBにて無料で入手可能(http://www.gardguide.com/index.php?title=Main_Page)

3.2 パッシブトリートメント関連

 本大会にはパッシブトリートメント研究の第一人者が集まっており、ラボスケールからフルスケール規模まで、処理方法も硫酸還元菌を利用したものから人工湿地方式によるものなど、多種多様な事例の紹介がなされた。

(a) Newcastle大学のAdam Jarvis氏からは「Metal Removal and Secondary Contamination in a Passive Metal Mine Drainage Treatment System」と題して、イギリスの金属鉱山坑廃水を対象としたフルスケール規模の導入事例に関する発表があった。この事例で対象としている坑廃水は弱酸性~中性であるが、イギリス国内における初のフルスケール規模の導入事例である。2014年3月より稼働し、硫酸イオンを16.0~39.5 mg/L、Znを1.73~4.66 mg/L含む坑廃水を、図1に示すリアクター(鉛直流型の池、約400立方メートル)に滞留時間15~20時間通水することで、1年以上にわたりZnイオンが約97 %除去されるという結果であった。

図1 処理プロセスの構成(図中左部分がリアクターにあたる)

図1 処理プロセスの構成(図中左部分がリアクターにあたる)

(Adam Jarvis氏の講演資料より引用)

(b) Hedin Environmental社のR. Hedin氏からは「Passive Treatment of Toe Darin Discharges from a Tailings Storage Facility using an Oxic Granite Bed」と題した、ラオスの銅鉱山から発生する坑廃水を対象としたフルスケール規模のパッシブトリートメント実導入事例に関する発表があった。処理対象としている坑廃水は中性でFe、Mnをそれぞれ2~10 mg/L含んでおり、これを1,800平方メートルの人工湿地と4,200平方メートルの好気性花崗岩透水層に、約3 L/minの条件で通水することで処理を行っている。本試験は2013年6月に開始されており、約2年間、溶存するFeとMnの95 %以上を継続的に除去しつづけている。また、析出したMnは花崗岩の表面に付着し、目詰まり等で処理性が悪化するが、ユンボ等で掻き混ぜることで解消できるため、ランニングコストが現行の処理と比べ、大幅にカットできるとのことであった。

 その他、硫酸還元菌を利用するリアクターの構成物にMussel Shells(ムール貝の貝殻)のみを利用したベンチスケール~フルスケール規模の研究事例や、鉄酸化細菌を用いたFeを100 mg/L含む酸性坑廃水への現地試験事例、16ヘクタールの好気性人工湿地による処理事例など、様々な研究事例に関する発表があった。

3.3 発生源対策関連

 休廃止鉱山からの坑廃水は半永久的に発生するため、発生源そのものを改善することによる対策技術も多く研究がなされており、Sovereign Consulting社のJ. Gusek氏からは「Case Study: 19 Years of Acid Rock Drainage after a Bactericide Application」と題し、坑廃水発生メカニズムに関与するバクテリアに着目した発生源対策事例の紹介が行われた。

 坑廃水は、地中に残存する硫化鉱物が、好気環境下で地下水・雨水と接触することで、化学的に、また鉄酸化細菌等のバクテリアにより生物学的に溶出することで発生する。そのため、Gusek氏は燃焼の3要素(酸素、燃料、熱源)に見立て、坑廃水発生メカニズムを「硫化鉱物」、「水」、「酸素」、「バクテリア」の4要素であるとし(図2)、この内の1つであるバクテリアの抑制を目的とした現地試験について講演(他の研究者による試験結果をGusek氏が整理し紹介)した。

図2 坑廃水の発生メカニズム(4要素)

図2 坑廃水の発生メカニズム(4要素)

(J. Gusek氏の講演資料より引用)

 その手法は、硫化鉱物が残存する地表部分の覆土植栽を行い、地下へ浸透する酸素及び水の量を低減すると共に、界面活性剤を注入することでバクテリアの活性を抑制する(殺菌する)ものであり、試験の結果、発生する坑廃水のpH上昇やFe、Mn、硫酸イオン濃度の低減といった水質改善の傾向が見受けられるものの、データ欠損が多く、今後の試験継続・データ取得が不可欠である旨を指摘していた。

 この他、発生源対策である覆土植栽に関するセッションでは、標高の高い鉱山における植栽や実導入事例における成果報告などが行われた。

3.4 坑廃水予測関連

 坑廃水の予測については、発生する水量・水質予測の他に、シミュレーションソフトを用いた化学反応モデリング等の研究が行われている。講演では化学平衡計算ソフトであるPHREEQCを用いて、硫化鉱物からの金属元素の溶出に関するモデリングをした事例や、褐炭の堆積場における地下水へのFeの溶出をモデリングした事例があった。またポスターでは、DHI(デンマーク水理環境研究所)からFEFLOWと呼ばれるシミュレーションソフトを用い、地下水挙動のシミュレーション事例について紹介されていた。

3.5 坑廃水処理技術

 坑廃水処理に係わる技術開発として、酸性坑廃水(pH 2.1~2.4、Cuを約34 mg/L、Znを約11mg/L含む)を対象に、海水を用いて処理を行う研究についての発表が行われた。この事例はイギリスの坑廃水を対象としたものであるが、海から約2 kmと近い立地条件を生かし、薬剤添加を行わずに処理をする研究事例である。また、イオン交換膜や吸着剤に係る開発事例についても発表があった。

おわりに

 本大会では、各国の大学や環境系コンサルタントの研究者、鉱山会社の関係者が多数参加し、様々な発表が行われた。海外においても半永久的に発生する坑廃水の処理に頭を悩ませている実情に触れることができ、“薬剤コストや人的コストをかけて処理をする(アクティブ処理)”より、“コストをかけず自然の力を利用して処理をする(パッシブトリートメント)”、さらには“処理をせずとも問題が無いようにする(発生源対策)”ことに着目している傾向が見られ、パッシブトリートメントや発生源対策に係る発表が多かったという印象を受けた。特にパッシブトリートメント技術については、フルスケール規模の実導入事例も数件報告されるなど、世界的に同技術が進んできたとの印象を持った。


1 IMWAには、JOGMECは2009年の南アフリカ以降、毎年参加しており、今回で6回目の参加となった。

ページトップへ