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報告書&レポート

2015年8月21日 北京事務所 所長 森永 正裕
No.15-38

7th Lithium Supply & Market Conference 2015 参加報告

 Lithium Supply & Market Conference はMetal Bulletin が主催するリチウムの需給動向、生産技術、新規プロジェクト及び主要用途であるリチウムイオン電池材料や電気自動車に関する動向を主題にした会議である。これまでラスベガスやリチウムの生産国であるチリのサンティアゴ、アルゼンチンのブエノスアイレスやカナダのモントリオールなどで開催され、今回で7回目となり、2015年6月16~18日にかけて、リチウム需要が高まっている中国上海市で開催された。会議に出席したので、ここにその概要を報告する。

1. 会議の概要

 発表テーマは、リチウムのサプライサイド分析、リチウム探鉱・開発プロジェクトの進捗状況、炭酸リチウム生産コスト構造分析、水酸化リチウムの電解製造法、最大のリチウム用途になりうる電気自動車の今後の生産見通し等、リチウム需給、開発事例から下流の技術動向に至るまで多岐に亘った。

 リチウム市場が一服した感もあり、今回の参加者は前回(モントリオール開催)の91 名と同等の96名(事前登録者数)であった。参加国で見ると開催国の中国が約40名と最多であり、欧米から約20名、日本からも約10名、その他では豪州、韓国、チリから参加があった。参加者の業種はリチウム生産者、リチウム探鉱ジュニア、リチウム案件に出資する商社、リチウム生産に関連するエンジニアリング会社、金属素材系の調査会社など多岐に亘っている。

会場の様子

2. 発表内容

 会議を通じて全11 件の講演があった。発表内容は、まず、リチウム業界の2015年の見通しについてのパネルディスカッションから始まり、リチウムのサプライサイド分析、リチウム探鉱・開発プロジェクトの紹介、生産にかかる技術動向やコスト構造、電気自動車などユーザーサイドから見たリチウム需要見通しなどの講演が行われた。特筆すべきは探鉱・開発プロジェクトについての講演が昨年は8件あったのに対し、今回は3件に止まり、リチウム探鉱・開発活動が幾分停滞気味であることを暗示しているように見える。

 本稿では、特に興味深い幾つかのプレゼンテーションにつき、その要旨を記す。

(1) リチウム供給源の検証と需給バランスに及ぼす影響/ Roskill Information Services Ltd., UK

 本講演ではAlbemarle、Tianqi Lithium、SQM、FMCの4社をBig4と称して世界のリチウム生産を支配する企業として挙げ、特にこの4社の動向を説明するとともに、それ以外のリチウム探鉱ジュニアの動向についても述べられ、これら供給サイドが需給バランスに及ぼす影響についての発表があった。

①Albemarle(2014年、Rockwood Lithiumを吸収合併)はチリ、米国(Silver Peak)からのリチウム販売量が前年並みであった。米国からのリチウム販売は2/3が水酸化リチウムである。豪州Greenbushesからの生産も前年並みであった。Albemarleは3つの拡張計画を掲げている。それは①Atacama塩湖での濃縮かん水採取能力を年間80,000立方メートルから170,000立方メートルまで増加させること(環境認可は未入手)、②La Negra精製工場での生産能力を29千tLCE(Lithium Carbonate Equivalent:炭酸リチウム当量)から45千tLCEに増加させる。③米国での生産能力拡張(ネバダ州Silver Peakでの蒸発池の容量増加及びKings Mountainでの電池グレードの水酸化リチウム製造工場の建設)である。このほか米国あるいはアジアで電池グレードの水酸化リチウム製造工場を追加で建設することを検討している。

②Tianqi LithiumはTalison Lithium(Greenbushes鉱山)の権益51 %、Zabuye(チベットの塩湖)の権益20 %とJiangsu炭酸リチウム工場の取得により上流・下流の統合を強めた。Talison Lithiumの取得により年産30千tLCEの鉱石原料を確保し、Galaxy ResourcesからのJiangsu炭酸リチウム工場の取得により17千tLCEの生産能力を追加した。2014年のTianqi Lithiumの炭酸リチウム生産量は約19千tLCEであった。

③SQMの2014年のリチウム製品販売量は前年比9.4 %増の39.5千tLCEで、炭酸リチウムが32千tLCE、水酸化リチウムが3.8千tLCE、濃縮かん水が3.7千tLCEであった。濃縮かん水は中国のGanfeng Lithium向けに出荷される。SQMは過去5年間に電池グレードの炭酸リチウム出荷を増やしており、2009年の約7千tから2014年には約18千tとなっている。その結果、SQMの電池グレード炭酸リチウムの世界でのシェアは2014年に32 %となっている。

④FMCのリチウム製品の出荷は2014年に前年比38.5 %増の18千tLCEとなった。主に中国、米国、日本向けに出荷される。濃縮かん水はかつては金属リチウム原料として米国に出荷されていたが2014年には中国が主要な輸出先となった。2014年にはHombre Muerto塩湖での生産能力拡張により増産となった。2015年に新規のガス・パイプラインの完成によりエネルギーコストの減少が見込まれる。FMCは今後もブチルリチウムや電池グレード化合物などの高利潤の下流リチウム製品の生産に焦点を当てる。FMCの利潤はアルゼンチンでの生産に抑制されているものの、FMCは第三者原料の購入により下流のリチウム事業を拡張させようとしている。追加で水酸化リチウムの生産施設を米国あるいはアジアに建設することを検討中である。ただし、アルゼンチンの高いインフレ率と外貨コントロールの引き締めにより操業コストが増加し、さらにこの状況が進むとFMCの事業にもかなりの影響が出るとしている。

表:リチウム生産Big4の拡張計画

表:リチウム生産Big4の拡張計画

(出典:Roskillの発表をもとにJOGMEC作成)

⑤Big4以外の有望な探鉱ジュニアとしてはOrocobre(アルゼンチンOlarozプロジェクト、2015年4月に生産開始)、Lithium Americas(POSCOと共同でアルゼンチンCauchari-Olarozプロジェクトを開発中)、enirgi group(アルゼンチンRinconプロジェクトを開発中)が挙がっており、その他合計14の探鉱プロジェクトにより最大で287.6千tLCEの生産能力が追加される見込みであることが示された。ただし、プロジェクトファイナンスの手当てが完了しているのはOrocobre(生産能力17.5千tLCE/年)、RB Energy(生産能力20千tLCE/年、但し企業清算手続き中)、enirgi group(50千tLCE/年)、Neometals(生産能力17.5千tLCE/年)の4社のみである。他方、2015年から2020年にかけてリチウム需要は電気自動車(EV)向けの需要が年率平均43 %増が見込まれ(57.2千tLCE/年)、他の電池向け需要が年率平均12.8 %増の90千tLCE/年、電池以外の用途(ガラス添加、窯業向けなど)は年率平均3.4 %増の143千tLCE/年で合計290千tLCE/年となる見込みである。楽観的な見通しとしては2020年に需要の合計が420千tLCE/年となる。Roskillでは既存の生産者の拡張や新規生産者による追加の生産能力により楽観的な見通しの需要量420千tLCE/年を満たすことが可能であるとしている。少なくとも実働中の生産施設は通常の需要予測290千tLCE/年を満たすことが予想される。

(2) 探鉱・開発プロジェクトの例

 今回講演があった探鉱・開発プロジェクトの概要を一覧表にまとめた。

 各プロジェクトの概要は以下のとおり。

<カナダWhabouchiプロジェクト(Nemaska Lithium)>

 Nemaska Lithiumはカナダ・ケベック州にLi2O平均品位1.53 %、推定・確定埋蔵量27.3百万tのWhabouchi鉱床を保有する。リチウム製品の生産方法としては①鉱石を硫酸で溶かし→②不純物を除去(2段階+イオン交換)→③膜電解→④水酸化リチウムの水溶液 で最終的には水酸化リチウムと炭酸リチウムが製品として得られる。水酸化リチウムの生産コストは3,105 US$/t、炭酸リチウムの生産コストは3,771 US$/tを見込んでいる。

 本プロジェクトの実施に当たってNemaskaは第1段階として年産500 tの水酸化リチウム製造プラントの建造を計画している。このプラントは商業規模の設備を最小限の容量で運転させるものである。このプラントの目的としては、連続的に均質な商業的な製品サンプルを世界中のユーザーに供給可能にし、潜在的な顧客にプラントを訪問しサンプリングすることを可能にし、多くの顧客との複数のオフテイク契約を確保させることであり、Johnson Matthey Battery Materialsとの供給契約を満たすことにある。

 この第1段階プラントの初期設備投資と2年間の操業費用を含めた予算額は38百万C$であるが、カナダ持続可能な発展技術基金から12.87百万C$の補助金を、ケベック州から3百万C$の補助金を得ており、残りの資金については戦略的パートナーと交渉中である。建設は2015年の第3四半期に開始し、最初のサンプルは2016年の第3四半期には供給可能となる見込みである。

<豪州Mt Marionプロジェクト(Neometals)>

 Neometals(旧称Reed Resources)はLi2O平均品位1.35 %、資源量14.5百万tの西豪州Mt Marionスポジュメンプロジェクトを保有し、ELiプロセスと称するクロールアルカリ電解法により水酸化リチウムの生産を目指している。Mt Marionでは採鉱・選鉱のみが行われ、精鉱はマレーシアに運搬され、そこでELiプロセスにより電池グレードの水酸化リチウムが製造される。

 ELiプロセスは通常の水酸化リチウム製造法に比べ中間産物である炭酸リチウムを製造する工程を省いているため、生産コストが通常の5,700 US$/tに比べ4,057 US$/tと安価になっている。また石灰も不要、ソーダ灰の使用量も極小で、酸(塩酸)もリサイクルされるため薬剤費も削減される。

表:発表のあった探鉱・開発プロジェクトの一覧

表 1:テキスト

(出典:各社発表資料をもとにJOGMEC作成)

 Mt Marionの鉱山開発はELiプロセスプラントに1-2年先んじて行い、安定した鉱山でのキャッシュフローと利潤はELiプロセスプラントへの資金供給を確保する。またマインライフを通したオフテイク契約は鉱山への資金調達を支え、市況によるかく乱を減じるとしている。スケジュールとしては2014年第3四半期までに広範囲に渡る試験とFSを完了させ、2015年の第1-2四半期にOPEX、CAPEXの詳細な見直しをし、オフテイク契約につきJVパートナーと交渉中である。

<アルゼンチンOlarozプロジェクト(Orocobre)>

 Orocobreが保有するOlarozプロジェクトは6.4百万tLCEと豊かな資源量を誇る。かん水のLi濃度は690 ppm、プラントの生産能力は17.5千tLCE/年である。

 生産フローは①かん水に生石灰を加えMgを除去、②天日蒸発、③ソーダ灰を加え粗炭酸リチウムを生成、④CO2を加え再溶解、Bなどの不純物を除去、⑤加熱し炭酸リチウムを結晶化というものである。

 また本プロジェクトはOrocobreが66.5 %、豊田通商が25 %、JEMSE(Jujuy州鉱業公社)が8.5 %とそれぞれ権益を持ち合うという協調関係の下、豊田通商が製品の引き取り権100 %を保有するという安定した土台に乗ったものである。

(3) 電気自動車はその発火点を失ったのか? LMC-Automotive Shanghai

 世界のハイブリッド車(HEV)・電気自動車(EV)の自動車全体の販売台数に占める割合は今後成長が見込まれる。現状ではHEV/EVの自動車市場でのシェアは3 %程度であるが2020年には6 %近くまで成長することが見込まれている。地域別に見るとHEV/EV販売台数はアジア・太平洋地域が最も多く、北米、欧州がそれに続く。このうちアジア・太平洋地域と欧州では年率15 %の伸びが見込まれるが、米国では伸びが鈍化する見込み。

 車種としては外部電源につなぐことが出来ないものの、通常のエンジンとモーターが並行して働き、短距離であるがモーターだけで走行可能なフルHEV(FHEV)、モーターだけで走行できないマイルドHEV(MHEV)が現在主だったものである。今後は外部電源につなぐことが出来るプラグインHEV(PHEV)、エンジンを搭載していないBattery EV(BEV)が進展していくものと考えられる。現状HEV/EVを先導するメーカーはトヨタ、ホンダ、日産といった日本勢が優勢であるが、今後BYDといった中国メーカーやFord、Volkswagen、BMWの欧米勢が販売台数を増やすと見られる。

 中国では2014年第4四半期に税優遇措置のお陰でHEV/EV販売台数がそれまでの2倍ぐらいの水準となっている。EVの販売台数が多いのは東部沿岸地域と北部沿岸地域と揚子江中流域であるが、PHEVは東部沿岸地域が抜きん出て多い。今後の傾向としてはFHEVが現状(2014年)HEV/EV市場シェア50 %程度であるものが2019年以降はPHEVが50 %程度にとってかわることが予想される。中国のHEV/EV市場規模は2019年に1百万台となることが見込まれる。

 他方日本ではFHEVが2014年の時点で75 %、2019年の時点では約90 %となりPHEVはそれほど進展しないと見られる。韓国は日本と中国との中間の傾向であり2019年にはFHEVが50 %以上であるがPHEVも23 %となる。韓国は政府が電池産業への強い関与を表明している。

3. おわりに

 昨年の会議では今後の電気自動車(EV)の進展への期待を背景にリチウム需要の見通しに対して、楽観的な見方が見受けられた。今回の会議では特に大きなテーマとなる話題も見当たらず、リチウム業界が方向性を見失っている様な印象を受けた。また、会議では大きく触れられることもなかったが、2013年に操業開始したものの資金繰りの悪化から操業停止しているRB EnergyのQuebec Lithiumのようなプロジェクトがある一方で、アルゼンチンのOlarozの様に新たに生産開始したプロジェクトもあり、市場は明暗を分けている。

 依然としてリチウム市場は、EVの進展に頼る部分が大きく、それなしにはリチウムの探鉱ジュニアが実を結ぶことは困難であるという印象を引き続き受けた。

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