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報告書&レポート

2015年11月12日 ロンドン事務所 竹下聡美
No.15-48

LME、新市場への展開を探る―LMEセミナー2015から―

 ロンドンで2015年10月12日の週に開催されたLMEウィークは、LMEが主催する『LME Seminar』からスタートを切った。LME Chief ExecutiveのGary Jones氏は、セミナー冒頭の挨拶において、LMEウィーク直前の10月9日にはLME電子取引高の最高記録を更新し、また今年のセミナー参加者は過去最高の500名を上回ったとして、LME市場への関心は依然として強いと自信を示した。

 2012年の香港取引所(HKEx)によるLMEの買収以降、中国からのセミナー参加者は年々増加し、セミナー冒頭には『一帯一路』と題して中国大使館参事官がスピーチを行った。また今年はベースメタルに加えて鉄鉱石及び貴金属についてもセッションが設けられたことから、これら講演内容を紹介することとしたい。

左:LME Chief Executive Garry Jones氏、右:HKEx CEO Charlies Li氏

左:LME Chief Executive Garry Jones氏、右:HKEx CEO Charlies Li氏

1. 英国外務連邦省大臣Hugo Swire氏によるオープニングスピーチ

<鉱業の重要性>

 金属鉱業はその生産収入が世界GDPの11 %、そのサービス関連事業が23 %を占める国際的に重要な産業である。またロンドンでは非鉄部門における金属先物売買の80 %が取引されており、ロンドンは世界金属取引市場において極めて重要な位置を維持している。この理由として、LMEのように19世紀に創設された国際取引所が 技術面、法制面において画期的に対応してきたことや、世界的金融都市として資金調達が容易にできること、法律や専門的な知識面で同産業を支える専門家が多く存在することなどが挙げられる。こうした有利なビジネス環境を背景に、ロンドンには資源メジャーが拠点を置き、多くの金属、鉱山会社が上場している。

 金属鉱業は、性質的にボラタイルな動きを示す産業であり、またリスクのある地域での事業活動が避けられない。英国政府は同産業を重要産業として位置付けており、市場の自由化や海外プロジェクトを支援し、事業環境を整えてより生産的で公平公正で透明性の高い産業発展を推進している。

<アフリカへの英国の位置付け>

 なお、アフリカには鉱物資源の40 %が存在すると試算されるが、英国政府は有形、無形の援助を通じて英国企業の海外における鉱山事業開発に貢献している。英国政府はGDPの0.7 %をアフリカの支援に充てており先進国では最大規模の支援を行っている。また英国企業の事業展開に間接的支援しており、輸出信用を供与するなどして資金面での援助も行っている。

2. Xu Jin – 在英中国大使館公使参事官 “一帯一路 (one belt one road)”

<中国経済の成長ポテンシャル>

 最近の中国株式市場の下落は、今後の中国経済の見通しに悲観論を招きがちであるが、大きな視点に立って中国経済を理解する必要がある。中国経済成長は減速しているものの、2015年前半GDPは前年同期比7 %成長率を維持しており、今後の成長を見通す上でその成長内容の質は極めて良好なものと言える。その一例として、輸出の伸びは落ちたが、国内の消費、サービスの50 %成長等は“新常態”といえる長期的な経済成長を確認するものである。特に中国の人口や更なるグローバル化を考えると今後の成長ポテンシャルは依然大きいものと言えるであろう。

<中国市場の自由化>

 中国政府は、過去30年間にわたる改革開放を通じて学んできた 多くの事を経済成長に活用しており、今後も更なる改革開放を経済成長のために前向きに活用していく方針に変わりはない。その意味において、外国資本に対して中国市場をより開放、自由化しているのは大きな前向きなステップと言えよう。最近の例として、2015年7月には外国人による中国国内銀行間投資額制限を撤廃し、8月には人民銀行主導で決められていた人民元為替相場を市場主導相場に移行させ、9月には外国中央銀行による中国国内での為替取引を認可した。

<一帯一路構想>

 中国は2008年の世界金融危機以降、投資、貿易を通じて世界経済に大きく貢献してきた。将来的にも中国は依然として大きな投資機会を世界に提供していくであろう。

 その一つに中国政府が打ち出したシルクロードの現代版とも言える“一帯一路”構想がある。これはアジアから欧州、アフリカまでにおよぶ大規模な経済圏構想で、これによりカバーされる国々は60ヵ国、世界人口の63 %に影響が及び、GDP総計は21兆US$に上ると試算される。

 建設、地域開発を通じて恩恵を受ける新興地域は更なる世界的経済成長の牽引力になると考えられる。中国政府としてはこの大プロジェクトにおいて、方策、設備、貿易、財源、また人材面での協力を他諸国に呼びかけている。AIIB(アジアインフラ投資銀行)の創設もこの“一帯一路”構想の一環であり、英国が設立メンバーの一員として参加した事は 大きな投資機会として同国に資するものとなるであろう。

<英国と中国との関係>

 LMEと中国、英国民間企業との間で近く締結が予定されている覚書は、両者をビジネス上のパートナーとして認識するもので、一帯一路構想から生まれる新たな需要に対応する事業展開上の戦略的協力を確認するものである。10月に予定されている中国国家主席の国賓としての英国訪問も改めて中国と英国の間の密な協力を確認するものである。財務、ハイテク、技術革新などの上でも英国との協力が期待され、将来的な両国の関係に更に新たな進展をもたらすものであろう。

3. パネルディスカッション要旨:バリューチェーンから見る鉄鋼市場

Robert Fig – LME Head of Physical Market Sales、モデレーター

Servinaz Alemdar – Erdemir Group

Michael Lion – Sims Metal Management

Abe Ulusal – Mitsui Bussan Commodities Ltd

<LMEの鉄鋼市場への参入>

 現在、鉄市場は 大幅な過剰供給となり価格が低迷している。鉄鋼の取引量は非鉄金属全体の20倍にも達するにも関わらず、明確な価格ヘッジシステムがない。そのため、2015年11月にLMEが鉄スクラップと異形鉄筋において現金決済の先物契約取引をトルコ市場に向けて導入するのは大きな進展と考えられ、今後鉄取引関連業者のリスク管理に対する関心を高める事になるであろう。

<鉄鋼市場のリスクヘッジ方法>

 鉄鋼業界では鉄自体のヘッジ方法が存在しないため、取引関係者はそれぞれ価格の動きによるリスクを何らかの形で管理する努力を行っている。リスク管理の方法としては、例えば売買のタイミングを同時にする、業者関係者の間での連絡を密にして市場に対する理解を共有する等である。

 また合金鉄の場合、例えばステンレス鋼であればニッケル、亜鉛メッキ鋼であれば亜鉛、というように鉄をベースにした製品の付加的金属や、エネルギー価格、運送費、為替などインプットレベルで出来る範囲でヘッジすることで対処している。今回LMEが導入する先物契約は鉄スクラップ、また異形鉄筋という最終製品での鉄価格ヘッジに取組むものであり、現在の低価格かつ上下幅の大きな価格変動状況から見て特に歓迎される。

<鉄鋼市場参入への留意事項>

 今回のLMEによる鉄鋼商品先物契約の導入は試験的なものであり、今後の成行きを見て行く必要があるが、対象地域及びカバーする鉄鋼商品を広げ、さらなる先物契約の導入を期待したい。現物決済において問題と成り得るのは倉庫保管と鉄の酸化であり、現金決済において地域毎、鉄鋼商品毎におけるインデックス価格を元にした最終製品の先物契約が存在すれば、リスク管理において大きく貢献することになる。

<今後の見通し>

 鉄鋼業界は2008年とそして2015年は価格面において危機的ともいえる状況を経験している。

 2008年時は生産者価格での取引を見直すには至らなかったが、今回のLMEの先物契約導入により、インデックス価格とLME先物取引価格を組合わす事で消費者にとって、より明確に価格設定システムを構築できる状況にある。

 しかしそうしたシステムがうまく機能するには、まずは市場参加者が増え、取引量、流動性を増加させる必要があり、市場関係者がそこで出される価格を信頼するようになる必要がある。それにはまず生産者を積極的市場参加者として、先物契約価格、そしてそれをベンチマーク価格として認めさせる事が重要なステップとなる。そして流動性を持つインデックス価格はベンチマーク価格に反映される事になる。

 現在最も流動性の高い金属の一つであるアルミニウムを例に取ると現物価格から流動性が増えインデックス価格をベンチマーク価格として取引されるようになるまで15年から20年を要した。もし鉄鋼がアルミニウムと同じような経路を通るのであれば、現在はインターネットを通じて情報がいち早く伝わる時代ある事からも極めて早いペースで実現するのではないかと考える。

4. パネルディスカッション要旨:貴金属市場の戦略的改革

Matthew Chamberlain, Head of Business Development, LME、モデレーター

Ross Norman – Shaarps Pixley

Tom Kendall – ICBC Standard Bank Plc

Philiop Newman – Metals Focus

<白金とパラジウム>

 白金とパラジウムは、主として自動車産業における需要動向が価格に影響している。パラジウムは米国と中国が大きな市場であり、白金はディーゼル車の多い欧州で浄化触媒としての大きな市場となっている。昨今の原油価格の下落から米国自動車市場が著しく回復していることや、中国自動車市場が年平均10~12 %で伸びていることにより、パラジウム需要が白金需要より拡大している。

 また価格面では、パラジウムは中国経済動向に主に影響されるが、白金は供給サイドに影響を受けやすく、アルミニウムのように価格の動きに生産量の反応が鈍いことが低価格の原因となっている。

 南アフリカでは鉱山閉鎖などにより白金減産の動きとなっているが、現在のところ白金価格にはその効果は現れておらず、また白金は南アフリカの重要輸出品という政治的要因に加え流通事情また南アフリカ為替要因もあって白金価格は低迷状態である。需要サイドで見れば、ジュエリーとしての白金は現在の低価格、特に金に対して割安となっているにもかかわらず需要喚起しているとは言い難い。

 米国においては白金の割安感から小売業者の関心が呼び起こされたが、中国、インドにおいては宝石部門においては価格が下がると需要が増えるといった動きは見られない。逆に値引きに動くと今後価値が下落するのではという見方も出ており、本格的な需要喚起には市場回復が必要と思われる。

<金>

 金取引量は世界経済成長の低下に伴い減少し、2011年をピークに比べて40 %減少している。過去数ヶ月間に価格は回復したが、ショート分をカバーするというもので本格的な回復ではなく、金市場は底を打ったとは言えない。投資家は慎重に市場を静観する姿勢を取り続けている。

 1,170 US$/ozが一つのテクニカル上のバリアとして存在しており、これを上回れば投資家の注意を引くようになり、さらに1,240 US$/ozを上回れば、本格的に投資家が入ってくると考える。これは2008年の金融危機以前には見られなかった状況だが、現在の金価格は米国金利“期待”動向と強い相関性を持つ動きを示している。

 また中国中央銀行が人民元を国際通貨として位置付ける為にも金をリザーブとして買う事になれば金需要かつ市場センチメントを前向きにする、という見方もあるが同中央銀行はそのような表立った動きには出る事はないものと予想する。

<銀>

 銀価格は2015年8月以降大幅に上昇している。対金価格から回復期に入ったと見る向きもあるが、今回の上昇はショートをカバーするテクニカルなもので投資家は依然慎重な姿勢を崩していない。銀価格は一時50 US$/ozを着けた後下落し、現在は16 US$/ozの水準にあるが、現水準でも供給サイドによる生産調整等の反応が鈍く、また銀の工業需要が旺盛ではないことから、当分市場が回復するとは予想されない。

<指標価格はロンドンで在り続けるか>

 中国が貴金属市場において重要性を増すなか、今後もロンドン市場価格が指標価格であり続けるか、または指標価格設定が地理的に東へ動いていくのかという疑問がよく呈される。以下の理由から、ロンドン市場価格が指標価格であり続けると考えられる。

1) ロンドンは地理的にアジア市場とアメリカ市場の間に位置しており、両市場を反映できる

2) 中国は国際市場というよりは自国市場であり指標価格としては適切とは言えない

3) 市場を規制する法整備や指標価格決定メカニズムがロンドン市場においては確立されている

4) ロンドン市場には潤沢な流動性があり、効率かつ公正を期せる市場システムが構築されている

5) 中国、インドは大きな需要を擁しているが、豊富な流動性があるということではないため価格設定に対しての重要要素欠落と言える。

5. LME及びHKExのCEOセッション

Garry Jones – LME Chief Executive

Charlies Li – HKEx CEO

質問1) 中国におけるLME倉庫の開設の進捗について教えてほしい。

HKEx Charlies Li氏による回答)  中国においてLME倉庫を開設、展開していく計画は正直のところ進展は図られていない。中国当局は依然としてLMEに限らず海外業者をオンショア国内倉庫業者として認めておらず、LMEとしては、中国で事業展開する為には中国監督当局と良好な関係を維持する事が得策と考えている。HKExがなぜLMEを買収したかと言えば、LMEをただ強化するということではなく、LMEによりHKExが中国内での多様なコモディティ市場をフランチャイズ化を可能とするポテンシャルを有しており、LME倉庫はその中での一つのオプションに過ぎない。長期的な視点で事業を拡大していく予定である。

質問2) 香港取引所と上海取引所の株式取引を相互接続した“コネクト”について、同様なスキームをロンドン、中国間で考えているか。

HKEx Charlies Li氏による回答)  Gary氏と回答は同じだと思うが、香港取引所と上海取引所の株式取引を相互接続した“コネクト”について、今後他のコモディティー市場においても同様に展開できるかとの質問には、まずコネクトを実現するには同じ時間帯に両市場が開いている必要性を改めて指摘したい。そのため、もしクリスマスなどでどちらかの市場が閉まっていればコネクトは機能しない。コネクトとは同じ時間帯で異なる商品を取引するというのが眼目である。したがって、例えばロンドンと上海にコネクトを適用するのは物理的に困難と言える。加えて、昨今の中国株価暴落によりコモディティーへの事業展開は後回しとなっており、現在のところ、香港でのミニ先物市場の導入に留まっている。我々としてのコネクトを通じて中国国内資本を香港に注入していくことがまずは重要事項と考えている。

LME Garry Jones氏による回答)  LMEが中国市場に対して何もしていないということではなく、実際に香港でのニッケル及び錫のミニ先物市場の導入はすでに行っている。LMEは国際的な指標価格を提供しているが、中国市場では国内の価格提供に留まっている。中国市場は最大の需要家として自ら影響力を有する価格メカニズムを生み出したいと考えているが、現状では、LMEに参画するか又は独自に新市場を作り出すしかない。またXu Jin – 在英中国大使館参事官から紹介のあったように、一帯一路構想に基づく中国政府及び企業とのMOUの締結を来週予定しているところである。水面下では多くのことが起きており、それは表には出てきていない。時間がかかるものもあるし、規制当局、クライアント、政府と協議をしながら進めているところである。

質問3) 最近の流動性プロバイドプログラムについてのメリットは何か。

LME Garry Jones氏による回答)  LMEは流動性を増加させる事と目的として3ヵ月取引契約と第3水曜取引契約分についてLMEメンバーに対し取引額の大きさにより取引手数料を下げる事で取引を奨励するプログラムを導入した。例えば、LMEメンバーは契約日に建玉がある投資家などに対してこのプログラムをもとに連絡、取引する事で流動性を高めることができるものである。このプログラムは実際の現物取引と金融投資家両方にとって好都合なものである。

質問4) 上海先物市場ではボラタイルな市場の動きに対して一日辺りの値幅制限等を設けているが、LMEも同様の制限導入を考えているか。

LME Garry Jones氏による回答)  LMEは原則その様な措置をとる考えはない。取引所は常に市場に対してオープンであるべきであるし、基本的には需給によりコモディティ価格は決定されると考えている。上海先物市場のように制限を設けたり、取引所を閉じたりするようなことはロンドンでは起こりえないし、それは市場を助けることにはならない。LMEは市場価格が需給関係と資金の市場流入額によって決まることを大前提としており公正に価格が動くように監視していくことがより重要であると考える。

HKEx Charlies Li氏による回答)  中国の市場参加者の8割が小売業者という点から、規制当局はこうした小規模業者を保護する必要がある。また中国市場は“興奮”しやすい市場で一旦興奮すると冷静になるまでに時間がかかるため、こうした制限を設けていると思われる。

質問5) 中国以外に金属産業に影響を及ぼすファクターはあるか。

LME Garry Jones氏による回答)  今までは中国成長がLMEにとっても大きなファクターであったが、インド、米国、またアルミニウム分野では中東も引き続き好調で欧州もそのうち回復に戻ると思われる。一国に頼ることなく地理的に広くカバーしているのはLMEの強みであり、額面金額で15兆ドルの取引、店頭取引と加えると40兆ドルにものぼる取引額はLMEの力量を示している。基本的に金属の需給がLMEの事業成長の根幹となっているが、取引所の取引量というのは自然体として増加していく物ではなく、新製品を投入する又は組織をより新しいものに作り変えていくことにより、より成長需要を喚起できる物と考える。

質問6) 南米について需要サイドも含め将来的にどう考えているか。

LME Garry Jones氏による回答)  当然ながらチリは最大の銅生産国であるし、需要サイドでみても南米は非常に重要な地域である。現時点では供給サイドでの位置付けが大きいが、引き続き南米関係者とは協議していきたいと考えている。

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