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報告書&レポート

2015年12月3日 ロンドン事務所 竹下聡美
No.15-50

銅市場の短・中期見通し、LMEウィークを振り返る

 2015年10月13日の週にベースメタルの市場関係者、生産者及び需要家等が英国ロンドンに一同に集い、多くのセミナー、レセプションが開催されるLMEウィークが開かれた。

 ニッケルについて先般紹介したように、今年は世界需要を牽引してきた中国経済の失速が上期から顕著となったこと及びサプライサイドの供給過剰を背景に金属価格は低迷を続けており、各セミナーにおいても各専門家から短期的にはBearish(弱気)な価格の見通しが多く聞かれた。

 11月に入ってからベースメタル全般で価格の下落基調に拍車がかかっているが、銅の今後の短・中期的な見通しについて、CRU社、Wood Mackenzie社、豪Macquarie投資銀行の講演をベースにまとめた。

1. 銅需給の見通し

 LMEセミナーで銅について講演を行ったCRUのVanessa Davidson氏(Copper Research & Strategy, Director)は、銅価格は他の金属価格と同様に下降基調にロックされていると述べた。その要因としては、世界消費の伸びが中国を中心に減速していること、また米ドル高により生産コストの抑制が働いたことを挙げている。

(1) 高コスト鉱山から減産を開始する一方で新規案件の生産が開始

 Glencoreをはじめとして銅鉱山の減産発表がなされたが、これはあくまでも生産コストの高い採算性の低い鉱山に限られ、資源メジャーが有する優良鉱山は引き続き生産体制を維持する方向に変わりはないとみられている。CRUは、現時点での減産量では価格が上昇するには不十分で、さらなる減産が必要だとしている。

 Wood MackenzieのPaul Benjamin氏(Research Director, Copper market)は、2015年の生産計画量に占める減産割合は5 %でその量は122万tと推定し、このうち50万t相当が価格下落によるものだと見積もっている。この50万t分に相当する具体的な鉱山としては、アフリカが年産31万tと一番多く、ザンビアMopani鉱山、ボツワナBoseto鉱山、DRコンゴKatanga社鉱山等を挙げた。次いで多い地域は北米の9.5万t減産で、米Mineral Park鉱山、米Wolverine鉱山、メキシコAramzazu鉱山等、南米では6.5万tが減産され、チリEl Abra鉱山、チリCollahasi鉱山のSxEw生産分とした。中国については小規模鉱山が減産又は閉鎖するとして、その量は年産3万tとした。地域別で見ればアフリカの鉱山が突出していることから、高コスト鉱山が多いということが言えるだろう。

 また既存鉱山の減産がなされる一方で、CRUは、この1、2年で新規鉱山が立ち上がることも価格下落要因の一つとして挙げた。同社によれば、2015年には、メキシコBuenavista新規選鉱所、インドネシアGrasberg DMLZ(Deep Mill Level Zone)の立ち上がりにより約30万t/年が追加され、2016年には、ペルーLas Bambas鉱山、ペルーCerro Verde鉱山の拡張等により年産で約70万tが増加する見通しで、こうした追加増産が引き続き銅価格を押し下げるとしている。

(2) 生産コスト削減と収益の圧縮

 価格の下降圧力の一つとされる生産コストの削減については、米ドル高と原油安による燃料費の削減が貢献している。Wood Mackenzieによれば、2014年の平均C1コストは156セント/lb(3,439 US$/t)であったが、2015年には142.1セント/lb(3,133 US$/t)まで減少した。この差分は、為替分により9.6セント/lb(212 US$/t)、燃料費分5.1セント/lb(112 US$/t)が減じられたことによるものである。この数字からも米ドル高の影響が如何に大きいかがよく分かる。

 一方で、Wood Mackenzieは、価格が下落していることにより生産サイドの利益は圧縮されており、2011年の利益は1.64 US$/lb(3,615 US$/t)であったのが、2015年には26セント/lb(573 US$/t)まで減少したとしている。同社のデータによれば、2009年の世界金融危機時の利益は79セント/lb(1,742 US$/t)であったため、現在の利益率はその当時よりも圧倒的に低い状況にある。なお、価格が上昇すると見られる2019年までこの厳しい状況は継続すると見られている。

(3) 2019年以降、供給不足に転じ、その不足幅は拡大

 中期的には需給バランスが2019年に供給過剰から供給不足に転じる。図1のとおり、CRUの見通しによれば、この市況下で収益性を確保できず、鉱山開発投資が遅延又は中止されることにより、その不足幅は2020年に拡大する。MacquarieのVivienne Lloyd氏も同様の見方を示し、2016年の供給不足が在庫を消化し、これが銅価格を安定させることになるとコメントした。

 長期的な見通しとしては、Wood Mackenzieは2025年には需給ギャップがさらに拡大し、需要を満たすためには488万tもの新規生産能力が必要になるとして、これらは未だ開発が着手されていない、全くのグリーンフィールド案件から供給されなければならないとした。

(4) 需要サイド、中国需要に左右される状況続く

 2015年の銅消費成長率について、CRUは、世界全体で前年比1.0 %増、中国2.5 %増、西欧、北米及び北東アジアで0.7 %増、その他地域で1.2 %増と予測した。2016年については、世界全体で2.4 %増、中国3.2 %増、北米及び北東アジアで1.4 %増、その他地域で2.1 %増と、需要成長の伸びは限定的で、2015年と同様に厳しい年となるとしている。

 これに対してMacquarieは、2015年の中国需要成長率について、年初に5.3 %と予測していたものの、中国の経済統計値が弱く好転しないとして、その最新の成長率予測を2.5 %まで下方修正させている。2016年については、中国政府主導により住宅市場が好転し、スマートグリッド投資が促進されるとして、3.5 %と2015年より僅かに回復すると予想した。

 また用途別需要についてWood Mackenzieは、昨今の価格下落がアルミ等への代替移行を緩やかにしているとコメントした。その中でも代替リスクを高く位置づけている分野は、建設用管、インターネット・データ回線、熱交換器で、特に自動車用ワイヤーハーネスについては、日本でアルミ代替技術が大幅に進展しているとのコメントがあった。一方で代替リスクを低く位置づけている分野は、建設用銅線、送電線、工業用機械モーター向けであった。

2. 価格見通し

 CRUは2016年の銅平均価格を4,800 US$/tと予測し、Macquarieは2016年に供給不足に転じることから、2016年には6,000 US$/tに向けて銅価格は上昇すると予測した。このため、慎重な生産者は5,500 US$/tから価格ヘッジするだろうと予想している。Macquarieが主催したセミナーにおいて行われた参加者による価格予想では、参加者の4割が5,800 US$/tを選択し、2016年の価格上昇への期待感が垣間見られた。

 長期的な見通しについては、CRUは2020年には7,000 US$/tを上回ると予想しており、Macquarieも2017年以降については供給不足が拡大し、新規開発案件が不足していることを理由に上昇基調を崩さないとして、7,763 US$/tと予想している。各社が2020年以降については需給ギャップにより価格が上昇するとの同様の見方を示していることが分かる。

図1.Macquarie及びCRUの需給バランス及び価格予測

図1. Macquarie及びCRUの需給バランス及び価格予測

3. 鉱山会社の配当優先の短期的戦略への疑問を呈す

 Wood MackenzieのAlex Bevacqua氏(Head of Metals and Mining Consulting)は講演の中で、金属価格が低迷を続ける中で、鉱山会社はどのように資本配分を行うべきか、また長期的な企業価値をどのように創造すべきか、困難な選択に直面していると述べた。

 投資家は昨今の少ない配当に不満を覚えており、企業のマネジメント層はこれを気にするあまり、多額の配当に力を注ぎ、資本配分の戦略が欠如しているという。同氏によれば、歴史的に株価のパフォーマンスは配当よりもキャッシュ・フローに影響されてきたにも関わらず、現在の多くの企業はキャッシュ・フローを無視し、高い配当利回りを支払う戦略を採用し続けている。これにより、企業は成長機会を失い、また高い配当利回りが企業のバランスシートの柔軟性をも阻害させている。ある鉱山会社は、短期的戦略を追い求めて、今日の株価総利回り(TSR)を増加させるために時価総額の損失を生み出しているという。

 Alex Bevacqua氏は、鉱業界の将来について、マネージャー層が一時的な株価上昇ではなく、長期的な価値をどう生み出すかを選択するかに掛かっているとした。更にその上のボードメンバーはマネージャー層に対してこれをクリアーにさせる必要があり、Chief Executiveは短期的なプレッシャーからボードメンバーを解放する必要があると述べている。

4. 最後に、Macquarie LME Base Metals Summitにおける参加者アンケート

 豪Macquarie投資銀行が主催した『LME Base Metals Summit』では、セミナーの最後に参加者に対して多くの質問が投げかけられ、参加者は手元の機器で回答を選択する形でそれに答えた。業界関係者が多く参加しているだけに、その回答結果も市場をよく反映していると言えることから、その回答結果を以下に紹介する。

(回答比率の高い順に表示)

Q1.1年後の銅価格を予測してください。

Q1. 1年後の銅価格を予測してください。

① 10 %上昇し、5,800 US$/t(39.7 %)

② 変化なく、5,300 US$/t(25.1 %)

③ 10 %下落し、4,750 US$/t(20.1 %)

④ 20 %上昇し、6,350 US$/t以上(8.4 %)

⑤ 20 %下落し、4,250 US$/t以下(6.7 %)

<参考>

セミナー開催時の価格              5,335 US$/t

2014年セミナー時の価格予想   6,663 US$/t

Q2.2016年の銅地金市場の最大リスクは何か。

Q2. 2016年の銅地金市場の最大リスクは何か。

① 中国建設セクターの失速再び(49.3 %)

② 他の新興市場が後退(22.2 %)

③ 減産が実際に起こらない(17.4 %)

④ 生産量が予測値を上回る(11.1 %)

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