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報告書&レポート

2015年12月17日 ロンドン事務所 竹下聡美 キャロル涼子
No.15-54

Mines and Money London 2015から―鉱業界はどこへ向かうのか―

 2015年12月1日から3日にかけて、今年で13回目となる『Mines and Money London 2015』が英国ロンドンで開催された。事務局によれば、40カ国から2,000名が参加し、うち1,000名が投資家サイド、100名が探鉱ジュニア企業を含む鉱山会社等の供給サイドとして参加した。現在の金属市況を反映した投資減退による影響を受けて、昨年の75カ国3,000名(公表値)から参加者数は大幅に減少し、展示ブースも昨年の200社から130社へと縮小したことから、残念ながら会場は活況さを欠いていた。ただし、業界で存在感を有する金融機関や資産運用会社等による講演には立ち見が出るなど、今後の鉱業界の行方について各社がどのような見方を示すかには注目が集まった。以下に関心が高かった事項について紹介したい。

展示会場(左)と注目を集めたFranco Nevada社の講演(右)

1. 金属価格は再上昇するのか

 金属価格は、2011年にピークを付けた後に下落基調を崩さず、2015年12月に入った現在も低迷又は下落を続けている。金属価格のスーパーサイクルは、現在底値にあるとも、サイクル自体が終焉したとも言われており、スーパーサイクル自体が存在するのかという議論もある。基調講演を行った、金に特化したロイヤルティ及びストリーミングを提供するFranco Nevada社ChairのPierre Lassonde氏は、現在の金価格は16年ぶりの安値をつけていると前置きした上で、金属価格のサイクルをハンバーガー店のロゴを比喩に引用して、このロゴのように延々と上昇と下降を繰り返していると会場の笑いを誘った(上記右写真参照)。Lassonde氏は、当ロゴが示すように、価格は下落した後には必ず上昇するとして、今後、金属価格は確実に再上昇するという見方に自信を示した。現在は、市場参加者や投資家等が訳も分からないまま、市場での売買を繰り返しており、需給ファンダメンタルから離れて行動する彼らの動きの中で多くの投資ファンド会社が廃業しているという。

 また世界有数の資産運用会社であるBlack Rock社Chief Investment OfficerのEvy Hambro氏は、世界金融危機以前の市場参加者は価格見通しに自信を持っていたが、現在は全くそうではなく、金属価格サイクルを予測するのは非常に難しいと述べた。ただし、現在の金属価格が今回のサイクルの底値であることには間違いないとしている。Hambro氏によれば、この価格下落は大惨事(Disaster)とも言える規模のものであり、企業マネジメント層は、資源メジャーも例外なく、相当なプレッシャーのもとに晒されている。これが鉱業ビジネス全体を減速化させる要因となっており、また株主からのリターンを求めるプレッシャーがこれに加わっているとした。Hambro氏は、株価に左右され短期的な収益を求めるこうした仕組みを根本から変えるべきであると主張している。

2. 中国経済は不安定な状況続く、インドは中国に代わるか

(1) 中国経済は内需型へシフト、上流投資に積極的な姿勢

 今回の会議では中国経済の動向が常に話題に上ったが、Rio TintoやNorilsk NickelのChief Economistの経歴を有するDaiEcon Advisors社のDavid Humphreys氏は開会講演の中で、中国はこれまでの輸出依存型経済から内需・サービス志向型経済への転換途上にあるとして、しばらくは不安定な状況が続くだろうと述べた。2020年までに世界GDPに占める新興国の割合は上昇していき、中国に代わる新興市場としてはインド、インドネシア等の台頭が期待されるものの、中国の減速分を相殺するには至らないとの見方を示した。

 中国企業の上流投資への参画に関しては、Dan Smith Commodities Research社CEOのDan Smith氏は、中国が生産国としてさらなる経験を積んできていることから、これまでのマイノリティ権益出資の立場から、今後は操業を主導する方向になっていくだろうとコメントしている。また中国の大手投資銀行である中国国際金融CICC(China International Capital Corporation)のHongyu Cal氏を囲んで行われたパネルディスカッションにおいて、Cal氏はこの価格下降局面において資源メジャーの案件を含めて幅広く買収案件を検討していると発言した。またCICCは、中国企業700社のアドバイザーも務めており、中国企業の投資嗜好は心得ているとして、参加者に対して、中国企業の参画を望む場合はCICCに案件を紹介するよう会場で呼び掛けた。このパネルディスカッションの中で、中国投資が特にアフリカ等で問題を起こしているのではという厳しい質問も会場から挙げられたが、Cal氏は、中国企業が経験値の高い技術者を有していないことがこうした問題の主な要因であると認識していると答えつつも、最近はパラダイムシフトが見られ、以前ほど問題は発生していないと説明した。パネルディスカッション終了後には、参加者が名刺交換を求めてCal氏のもとに長い列を作っており、資金調達が困難な状況下において、中国企業の更なる上流投資への進出も今後進展していくように思われる。

(2) インドは中国に取って代わるか

 インドを中心にザンビア等で鉱山事業を展開するVedanta Resources社CEOのTom Albanese氏は、中国と同様に注目を集めるインドの台頭に関して、中国に比して政府の主導力が弱く、またGDPの規模も圧倒的に小さいとしつつも、インドのGDP成長率は加速化しているとして、長期的には大きなポテンシャルを有する市場であることに自信を見せた。また、中国は人口増加のピークを過ぎたがインドでは今後も引き続き人口増加が続くことや、都市と地方の格差や一人あたりGDPの上昇ポテンシャルを考慮すると、同国の実需の増加が期待されるとしている。

(3) 海外から見る日本企業のビジネス傾向

 現在Kaizen Discovery社CEOで、かつてIvanhoe Mines社においてExecutive Vice Presidentを務めたB. Matthew Hornor氏は、これまでの経験を踏まえて日本のビジネスモデルを紹介した。Hornor氏によれば、日本企業は素晴らしい仕事を成し遂げるが、プロジェクトそのものより両社の関係性にいくら投資すべきか考える傾向があるとして、その信頼を得るために時間を要することから、日本企業の意思決定は遅く、またプロジェクトのため企業のためといった自己犠牲が買われるという興味深い見方を示した。さらに別の鉱山投資に係るパネルディスカッションでは、現在鉱山投資の主流となっているのは、オフテイクと出資を兼ね合わせた日本式の投資手法であり、投資ファンドからは大変好ましい手法だというコメントも聞かれた。

3. コモディティ見通し

(1) 金価格は米国の金融政策次第

 金価格については、Roundgold Resources社CEOのMark Bristow氏がFinancial TimesのJames Wilson氏のインタビューに壇上で答えた。Wilson氏は、金に代わる投資先の代替が存在しないとして、中期的には強気(Bullish)の価格見通しを示した。金は、中国需要を満たすために生産を増やした結果、需給バランスを崩したことが価格低下に繋がったとしている。Bristow氏は、過去10年間は金業界全体として収益性がない状況が続いており、これにより生き残り策として緊急の企業買収・合併が増加しているとして、金業界は様変わりしたと述べた。

 またFranco Nevada社のPierre Lassonde氏によれば、金価格と米ドルの価格変動性は過去5年間で80 %の相関があることから、米国の金融緩和政策が金価格に影響することは間違いないとした。金消費国としては当然ながら中国とインドの存在が大きく、金価格が下がれば買いが入り、市場への反応が非常に早い。中国での金需要は年7 %の上昇を続けており、インドも中流階級による宝飾品需要が堅調であるとして将来の金需要に強気な見通しを示した。

(2) 白金需要は宝飾向けが台頭

 世界白金投資協議会(World Platinum Investment Council)CEOのPaul Wilson氏は、白金需要について、中国を中心に宝飾向けが全体の35 %に達し、自動車触媒向けと並ぶ大きな需要先となったとする一方で、白金価格は3年ほど前から金価格との相関が見られなくなり独自の値動きとなったことから、投資家の白金離れが進んでいると最近の動向について紹介した。またWilson氏は、白金需要の4割を占める自動車(特にディーゼル車)触媒向け需要の減速について市場で懸念されていることは認識しているが、縮小していくとは考えられないとして、引き続き自動車触媒向け白金需要は維持されるという見方を示した。加えて、白金ETFが需要面で無視できない規模に成長しているとして、投機筋による市場の影響は免れないものと見られる。

(3) 銅需要は電力消費増加に伴って堅調に成長

 Copperbank社Executive ChairmanのJ.Gianni Kovacevic氏は、我々の生活には電気が必要不可欠であり、世界人口の増加に伴って電力需要は今後確実に増えるとした。石油やガスが再生エネルギーに代替されることがあっても、例えば、発電には銅を大量に使用するモーターが必要不可欠であり、送電、配電など電気のあるところには必ず銅が必要であるため、銅需要は確実に成長すると力説した。またGoldman Sachsは銅価格について非常に弱気な見通しを示しているが、これにはチリの水問題、ペルーの環境問題、ザンビア等カッパーベルト地帯の電力問題がしっかり考慮されているかは甚だ疑問であり、供給サイドの問題を鑑みれば、将来的に、7,000 US$/t以上まで上昇するという自説を紹介した。

 今後のベースメタル全体の見通しについて行われたパネルディスカッションにおいては、Dan Smith Commodities Research社のDan Smith氏が、市場関係者は何より中国市場を短期的ではなく長期的な視点で見る必要があり、銅需要は引き続き成長するだろうと述べた。また次の5年間で見た場合、銅は金属の中で投資対象としてベストなコモディティであり、必ず銅価格は回復すると明言していた。

(4) アルミニウムは減産が進めば鉄鋼よりポジティブ

 アルミニウムについては、上述のDan Smith氏によれば、中国需要は減速しているが鉄鋼に比較すれば未だポジティブな局面にある。中国政府はアルミニウム生産者に減産を呼びかけているため、今後さらなる減産が起こるとしている。またこうした動きは経済原理として当然であり、世界的に生産者が収益を喪失している中で中国もこの原理に従うべきであると述べた。

4. 探鉱事業は将来成長の鍵

 Rio Tintoで Global Head of Explorationを務めるStephen Mclntosh氏は、自社の探鉱戦略について講演を行った。Mclntosh氏は、世界の探鉱費は年々上昇しているにも関わらず、それに反比例して鉱床発見率(Discovery Rate)は下がっているとした。Rio Tintoの成功率は0.1 %とのことであり、つまり、1つの鉱床を発見するために1,000件の案件を評価したということになる。Rio Tintoは、この成功率を高めるためには、地質学的知見に加えてデータの分析・統合が重要であり、この二つが同社の強みであると紹介した。同社は世界規模のデータ分析設備を有し、約1,440万個もの地化学サンプルのデータを保有している(RTX Global Public Geochemical Database)。また同社によれば、世界規模の鉱床を発見した探鉱企業はその後マジョリティシェアを保有したまま操業まで事業を展開しているケースが多く、鉱山会社として体力を高めることが可能であるとして、探鉱・鉱山企業にとっては、何よりも優良案件の発見が大事だと強調した。同社は最近の傾向としてブラウンフィールドに注力しているものの、探鉱能力は将来の企業成長を確実にもたらすものであるとして、探鉱投資についても引き続き継続していくとした。

 Vedanta Resources社CEOのTom Albanese氏は、現在の価格状況下は非常に厳しくキャッシュフローを失っていると言えるものの、探鉱案件はザンビアで順調に進展しており、中国経済は失速しているが消失したわけではないとして、この状況をどう乗り越えるかが鉱山会社にとって非常に重要だと述べている。Albanese氏は、「探鉱事業から離れてはいけない」と、探鉱が将来的な成功の鍵となることを強調した。

 また鉱業界リーダーによるパネルディスカッションの中でも、鉱山会社は引き続き上流投資を継続すべきだとの意見が多く出ており、Black Rock社のEvy Hambro氏は、探鉱事業については、各企業はビジネスモデルを変える必要はなく、この状況をマネージすることにより成功を収めている企業もあるとして、探鉱事業が企業にとって重要な位置を占めていることを示した。

5. 投資家サイドの上流投資の見方と今後の資金調達市場

 Silver Streaming社が示したデータでは、鉱山プロジェクトのファイナンスは年500億US$以上であり、2015年はこのうち73 %が債券、14 %が出資、13 %がポートフォリオ最適化(内訳は資産売却、ロイヤルティ、ストリーミング)によって資金が調達され、債券の比率は年々上昇している。Black Rock社のEvy Hambro氏は、2016年の一つのトレンドとして債券市場が引き続き活発化することを挙げ、市場にとってはポジティブに評価されるとしつつも、2016年も引き続きチャレンジングな年になるという見方を示した。

 今後の資金調達に関しては、パネルディスカッションの中で、10年以上前であれば鉱山会社は地質ポテンシャルやインフラリスク等に集中すれば良かったが、現在は金属価格の下落により、ファイナンスリスクやアップサイドリスクが高まっているという意見が出された。そのため、例え良いプロジェクトを発掘したとしても、市場の関心を得られないという新しい局面を迎えているという。また一方で、価格下落を好機に捉えて投資したいという投資家はいるものの、適切なキャッシュフローを示せる探鉱企業があまりにも少ないという声があり、探鉱企業は自社のマネジメントを見直す必要があるとの発言もあった。それに対して、市場の過剰反応が探鉱会社や鉱山会社を厳しい立場に追いやっているのではという反論もあったが、今後は、プライベート・エクイティ側が、資金だけでなくM&Aを含めたガバナンス全般についてもある程度の発言権を有する新しい方向性が開かれるのではないかという興味深い意見も出されている。

 また、鉱山会社は短期的な株価及び配当に左右される株主目線のマネジメントを改めるべきという講演もある中で、投資ファンドを集めたパネルディスカッションでは、探鉱・鉱山企業の経営陣は株主のために働いているという意識がなく、株主は資金を提供するばかりでリターンがないということでは、鉱業セクターから投資家が離れていっても仕方がないと厳しいコメントが出された。また新株発行による資金調達についても、既存の株主への配慮が足りないとの厳しい意見が出された。

 今回の会場で最も明るい話題を提供したのは、クラウドファンディングの可能性についてであった。Klondike Strike社CEOのOscar Jofre氏は、資金調達の全く新しい形としてクラウドファンディングを提案した。クラウドファンディングは全業界に渡って2014年に65億US$もの資金を集めることに成功したとして、同社は鉱業セクターへの新規参入を模索している。クラウドファンディングは個人とのソーシャルネットワークを中心として成り立っており、既存の資金調達手法とは全く異なるスキームであることから、プラットフォームを作ることから始める必要があるものの、会場での注目度も高く、今後の展開を注視していきたい。

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