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報告書&レポート

2016年1月7日 メキシコ事務所 縄田俊之
No.16-2

キューバにおけるニッケル鉱業の概要

 2015年7月1日、キューバと米国は、1961年から途絶していた両国間の国交を正常化する旨の合意を行った。これにより今後米国のキューバに対する経済制裁も解除される兆しが見えてきたことから、地政学的な戦略的位置付けを含む新たな市場としての注目を浴びることが推察される。

 我が国に関しては、同年4月末~5月初頭の岸田外務大臣によるキューバ訪問を機に、同年11月に両国間での官民合同会議が開催され、今後の両国間における経済的交流が進むことが期待される。

 一方、キューバは、世界的にも有名なニッケル生産を始めとして石油等を含む天然資源に恵まれていることから、今後世界各国との経済的な結びつきが深まるにつれ、その動向が注目されると思われる。

 こうした中、今般キューバ鉱業当局関係者よりニッケル鉱業に関する周辺情報を聴取できたことから、キューバにおけるニッケル鉱業の概略について以下のとおり報告する。

1. キューバにおける鉱業を取り巻く状況

(1) 政治

 キューバの政治体制は、1950年代に勃発したキューバ革命を経て、1959年にFidel Castro(前議長)が政権を樹立し、同時に国の最高権力機関である人民権力全国議会(立法機関)のほか、国家評議会(立法機関)、閣僚評議会(行政機関)及び人民最高裁判所(司法機関)を設置した。以来現在に至るまで、これら政府機関が国家としての意思決定や政策実施を担うとともに、社会主義体制を維持している。

 米国との関係については、1959年にFidel Castro(前議長)が政権を樹立後、キューバ国内にあった米国企業等の資産を接収したことに端を発し、米国が対抗措置として砂糖輸入禁止を実施したこと等により、1961年に両国は国交断絶となった。しかしながら、今般米国・キューバ両政府の話し合いにより、2015年7月1日に両国間の国交を正常化する旨の合意が行われたことにより、今後米国による対キューバ経済制裁の解除も視野に入ってきたと考えられる。

(2) 経済

 2014年における人口は1,137.9万人(世銀発表)、主要産業は観光業、砂糖、たばこ等農業、鉱業等である。マクロ経済は、2013年における国内総生産(GDP)が771.5億US$、GDP成長率が2.7 %、1人当たりGDPが6,789.8 US$、インフレ率が2.7 %(以上、統計データは世銀発表)である。

 同国経済の特色としては、主要産業が観光業、砂糖、たばこ等農業、鉱業等ではあるものの、農業のGDPに対する比率は1990年の14.0 %から2011年には5 %へと低下する一方、観光業を含むサービス産業のGDPに対する比率は1990年の67.4 %から2011年には74.5 %へと高まっている。一方、2010年以降インフレ率は5 %以下であり、GDP成長率も安定しているものの2~3 %程度と低調であり、同国の経済規模を考えると物足りない状況と思われる。

 鉱業に関しては、ニッケル等金属鉱物資源のほか、石油・天然ガス資源も賦存しており、1930年代から石油の生産を開始、2000年に入り海洋鉱区を解放するとともに外資系石油企業が参入し始め、探鉱開発も進められている。

 一方、前述の米国との国交正常化と前後して、2014年に外国投資法を改正し、原則全ての分野において外国企業の投資を認めるとともに、外国企業に対するインセンティブを導入する等により外国投資を積極的に誘致し、経済拡大に繋げる政策を展開している。特に2015年11月初頭には、外国企業に対し投資機会を付与する目的として326プロジェクトが記載された投資機会リストを公表した。

2. ニッケル鉱業の概要

(1) 鉱業所管官庁

 金属鉱業については、従前基礎産業省が所管していたが、省庁再編により同省は産業省とエネルギー鉱業省とに分割され、エネルギー鉱業省にて所管することとなった。なお、実際に鉱区の管理やプロジェクトの許認可等を行う行政機関としては、エネルギー鉱業省の傘下の国家鉱物資源事務所が担う。

(2) キューバ鉱業企業

 キューバの鉱業企業は、ニッケル及びコバルトを生産するニッケル公社と、金、銅、その他金属等を生産する地質鉱山公社の2社で、両社とも国営企業であり、エネルギー鉱業省が所管する。

 ニッケルに関しては、ニッケル公社が政府から全てのコンセッションを付与されていることから、外国企業がキューバ国内でニッケルのコンセッションに携わるためには同公社とJVを組まなければならない。なお、その場合、外国企業が保有することができる資本比率は最大で49 %である。

(3) ニッケル生産実績

 2014年におけるキューバのニッケル鉱石生産量は60.9千tで世界第9位の生産量であり、同じくニッケル地金生産量は27.9千tで世界第14位である。

 なお、ニッケル鉱石生産量及びニッケル地金生産量ともに、過去10年減少傾向にある(図1、図2参照)。

図1.ニッケル鉱石生産量推移
図2.ニッケル地金生産量推移

(4) ニッケル輸出実態

 キューバにおいてニッケルは主要輸出品目の一つであり、一部ロシア向けはあるものの主として中国向けに輸出を行っているとのことである。なお、具体的な輸出量(輸出額)は非公表である。

 一方、ニッケル鉱石に関しては、キューバ国外に持ち出す(輸出する)ことは一切禁止されており、全てキューバ国内で金属に精製しなければならない。

(5) ニッケル鉱山

 キューバ国内にはニッケル公社が100 %権益を保有するニッケル鉱山を主として、一部外国企業の資本が導入されたニッケル鉱山が存在する。なお、ニッケル公社が100 %権益を保有する鉱山に係る情報は非公表であるため、参考までに以下にカナダ資本が導入された鉱山について紹介する。

○Moaニッケル鉱山

権益所有者:ニッケル公社(権益比率50 %)、加Sherritt International社(本社:トロント)(権益比率50 %)

操業開始:1994年

鉱山所在地:オルギン県モア

採掘鉱種:ニッケル、コバルト

生産量:ニッケル16,455 t、コバルト1,605 t(2014年)

出典:Sherritt International社ウェブサイト

(6) ニッケル製錬所(工場)

 現在キューバ国内で操業中のニッケル製錬所(工場)は、100 %国営企業のチェ・ゲ・バラ工場、及び、Sherritt International社との合弁によるペドロ・ソト・アルタ工場の2か所のみである。

 チェ・ゲ・バラ工場は、年間3万tの生産能力を有するが、現在稼働率は100 %に達しておらず、現在の生産量は2万t程度である。なお、同工場は、設備が老朽化している上、工場内で使用する燃料である石油の消費量が非常に多いことから、設備の更新が必要とされている。

 一方、ペドロ・ソト・アルタ工場は、年間38千tの生産量である。

(7) 新規ニッケルプロジェクト

 現在キューバ国内で計画中の新規ニッケルプロジェクトは、以下に示す4件のみである。

 これら4件は、何れも大量のニッケル賦存が確認されており、メガプロジェクトとして位置付けられている一方、より詳細な調査が必要であることから、今後3~5年間においてFSを実施する予定であり、結果が良好であればJVを計画する見通しである。

 なお、各プロジェクトは、地質サンプルを保有しているため、当該サンプルを用いた評価は可能であるが、より詳細な情報を希望する場合は、当該情報を閲覧するための契約を締結する必要がある。また、当該サンプルを海外へ持ち出し評価することと、新たにサンプルを採取することは可能である。

①サンフェリペ:

カマグエイ県カマグエイから2キロメートルに位置。予想埋蔵量300百万t、ニッケル含有率1.23 %、開発から生産、閉山まで大凡25~30年の見通し。製鉄所の建設も計画。北90キロメートルに積出港を建設予定。

②ピナレス・オエステ:

オルギン県モアとニカロとの間に位置。予想埋蔵量190~200百万t、ニッケル生産量30千t/年の見通し。ニッケル・コバルト製錬所の建設を計画、現在FS中であり、結果が良好であればJV先を探す予定。積出港としてモア港、ニカロ港を予定。

③サプロ・リタニカロ:

オルギン県モアとニカロ近郊に位置。予想埋蔵量50百万t、ニッケル生産量10千t/年の見通し。積出港として、モア港、ニカロ港を予定。

④カハル・バラ:

ピナル・デル・リオ県ピナル・デル・リオ村に位置。予想埋蔵量50百万t、ニッケル生産量10千t/年の見通し。

(8) その他

①外国投資法における鉱業関連事項

・鉱業を含む原則全ての分野において外国企業の投資を認めるとともに、外国企業に対するインセンティブを導入。

・投資開始から8年間は利益に対する免税等が適用。

②地質構造調査の実施方法

・外国企業がキューバにて地質構造調査を実施する場合、国際経済連携契約を締結し、プロジェクトの経済性を確認するための調査を実施。

・上記契約を締結した外国企業は、必要に応じサンプルを国外に持ち出すことが可能。

・当該調査の結果が良好であれば、外国企業は最高49 %の権益比率を有するJVに参加し事業実施が可能。

③コンセッションの付与

・ニッケルに関しては、ニッケル公社が政府から全てのコンセッションを付与されているが、JV相手に対し当該コンセッションを与えることは可能。ただし、第三者への譲渡は不可能。

おわりに

 キューバに関しては、今般米国との間で国交正常化が行われたほか、近年我が国との間でも政・官・民において関係強化に向けた動きが見られる等、今後我が国を含めた世界各国との間で経済交流の進展が期待できる。

 しかしながら、現在のところ社会主義体制が直ぐに変革する兆しは見えず、様々な社会システムも従前のまま暫くは維持されるものと推察される。

 こうした中、同国には世界的にも有名なニッケルやコバルトと言った豊富な鉱物資源が存在することから、今後の経済交流の進展を見据えつつ、同国の鉱業開発への取り組みに関し引き続き注視していくことが必要と思われる。

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