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報告書&レポート

2016年3月17日 ワシントン事務所 星 康嗣
No.16-7

米国:証券取引委員会による資源採取企業による対政府支出の開示規則案

 米国証券取引委員会(SEC)は、2015年12月に米国金融改革法いわゆるドッド=フランク法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)第1504条に基づき、鉱物の商業開発を行う企業による対政府支出の開示規則案(以下「2015年開示規則案」という)に係るパブリックコメントを開始し、約5年間にわたり懸案となっていた規則の施行に向けて動き出した。

 パブリックコメントは2016年1月25日まで実施され、2月16日までに返答がなされたうえで、規則は当該委員会の承認をもって2016年6月27日までに施行される予定である。しかし、2012年の規則案の公表から最終案の承認までは1年半以上かかったことを念頭に、SECは2016年6月の期限が非常に挑戦的なものであり、それまでに最終案を承認することが困難であるとの見解を表明している。予定どおり最終案が発効された場合、開示規則は発効日から少なくとも1年経過後の最初の年次レポートに適用されることから、該当する資源採取企業は2018年上半期に最初の情報を公開することになるものと見込まれる。

1. これまでの経緯

 2010年7月に成立したドッド=フランク法は、SECが資源採取企業の対政府支出の開示規則(以下「開示規則」という)を2011年4月までに制定することを定めていた。この開示規則は同法第1502条の紛争鉱物利用開示規則とともに、開示義務を負うこととなる資源及びエネルギー開発に関連する企業からの強い反発により、規則の制定が遅れることとなり、SECは2012年8月になってようやく同法第1504条を履行するための規則(以下「2012年規則」という)を公表した。

 しかし、アメリカ石油協会(API)などは規則が不利益な情報の開示を強制するものであり合衆国憲法修正第1条の表現の自由を侵害し、また費用対効果に関する不適切な分析に基づいたものであるとともに、公正な競争を制限することを控えるという米国証券取引法の義務に違反するものであるとして提訴した。コロンビア特別区連邦地方裁判所は、2013年7月に、レポート「公表」の義務を法の誤った解釈であり、例外を一切認めないSECの決定を専断的かつ恣意的であるとして規則を無効とする判決を下した。SECは控訴を断念する一方で、2014年9月にOxfam AmericaはSECの規則制定の法的義務の履行を求めて提訴し、判決ではSECが規則の公布を違法に保留しているとされた。これを受けてSECは工程表を提出し、これに基づき今般パブリックコメントを実施したものである。

2. 現行案における開示義務内容

 開示義務を負う発行体(issuer)は、米国証券取引法に基づきSECに年次報告書(様式10-K、20-F又は40-F)の提出義務のある米国内又は外国発行体、かつ石油、天然ガス又は鉱物の商業的開発に従事する発行体である。また、発行体の子会社又は支配下にある別法人による支出も開示の対象となる。なお、支配基準はSECに対する年次報告書の監査済み財務諸表で適用される会計原則に基づき決定される。

 該当する発行体の行った政府に対する、石油、天然ガス又は鉱物の商業開発を促進し、僅少でない(同一会計年度内で単一又は複数の支払いによる10万US$以上の支払い)支払いが開示の対象となる。政府は大臣などの個人、外国政府、外国の地方政府又は米国連邦政府を含むものとして、商業開発は探査、採掘、精製/製錬、輸出又はそれを含む活動のライセンスの取得として定義される。また、支払いとは税金、ロイヤルティ、手数料(ライセンスフィを含む)、生産権利金、ボーナス、インフラ改善のための支払いも含むものとされる。

 該当する発行体は、以下の情報を開示する義務を負い、会計年度末から150日以内にSECに所定の様式(Form SD)で該当する支出に関する情報を提出し、公表することが要求される。

  • 「プロジェクト」(政府との支払い義務を規定する法的合意を主たる内容とするアプローチとして定義され、複数の法的合意に基づく活動も含む)ごとの該当する支出の性質及び合計額
  • 該当する支出に係る政府ごとの種類及び合計額
  • カテゴリーごとの支出の合計額
  • 支出した通貨
  • 支出を行った会計期間
  • 支出を行った発行体の事業セグメント
  • 支出を受け取った政府及びその所在国
  • 支出に関連する発行体の「プロジェクト」
  • 支出の目的となる資源
  • 「プロジェクト」の概略位置

 このうち、「プロジェクト」の定義については2012年規則には含まれていなかったものである。2015年規則案では明確に契約を基準とすることが示された。また、2015年規則案ではSECが発行体に対して個々の事例に応じて適用除外の例外を認めることができるとされた。これは、2012年規則に対する無効の判決において一切の例外を認めないことが問題視されたことから認められたものである。しかし、SECは例外を認めたが、適用除外の類型化を否定し、外国政府との契約に基づく守秘義務についても適用除外を認めるに足る事由ではないとしている。

3. 業界内の反応

 米国鉱業協会(NMA)は、「プロジェクト」ごとの支出を開示することにより資源国政府との守秘義務違反となるおそれを指摘してきた。また、米国証券取引法ガイドでも「プロジェクト」は探査を含まない鉱山の開発として定義されており、探査は慣行上も関心地域として国又は地域レベルで扱われていることから、SECもそのように開示規則を制定すべきと主張していた。

 さらにNMAは、加盟企業の資源国政府に対する支出の透明性向上を支持し、資源採取企業だけでなく資源国政府も参加する採取産業透明性イニシアティブ(Extractive Industries Transparency Initiative:EITI)に基づく情報開示を進めている。EITIは自主的な多国間の協力の枠組みであり、米国政府や日本政府など49カ国、資源メジャー5社以外にも本邦法人を含む主たる鉱山会社やチリの国営鉱山会社であるCODELCOも参加している。2015年に開示された最初の米国EITIに基づく報告書では、資源国政府に対する税金の支払いが十分に開示されなかったとされ、資源採取の透明性向上を求める団体などから失敗として批判されている。

 2015年規則案の適用を受ける企業は1,100社以上とされ、米国株式市場に上場する多くの鉱山会社も含まれる。そのうちRio TintoとBHP Billitonは既に自主的に資源国政府への支出を開示している。Rio Tintoは2015年時点で5回目のレポートを開示している。また、BHP Billitonは欧州連合の採択したSECの開示規則と同様の内容のEU Directive(EU Accounting Directive and EU Transparency Directive)の加盟国である英国に拠点を有することから同規則が適用されることになるため、2015年に自主的に開示したものと思われる。

 一方で、世界の鉱山会社の半数以上はカナダに拠点を有し、そのうちのほとんどの鉱山会社がトロント証券取引所及びトロントベンチャー証券取引所に上場している。2014年12月にカナダ政府もSECの2012年規則と同様の内容のESTMA(Extractive Sector Transparency Measures Act)の導入を決定し、これによりカナダの証券取引所に上場する鉱山会社は2016年11月27日までに最初のレポートを開示する予定である。ESTMAでも「プロジェクト」を単一の契約やライセンスに基づく活動として定義されており、国や地域レベルの開示は認められていない。

 「プロジェクト」レベルでの対政府支出の公開については、マーケットにおける投資判断にとって有益な情報になるとの指摘がある。資源国においてはインセンティブとして法定の税率とは別の税率が契約で定められることがあるが、そのような条件は概ね非公開であり、投資家が通常アクセスすることができない情報である。複数の「プロジェクト」を有する鉱山会社の公開情報からは合計の納税額のみが開示され、一般的に「プロジェクト」ごとのフリーキャッシュフローやNPV(正味現在価値)の算定におけるインカムタックスなどはあくまで法定の税率によることになる。しかし、「プロジェクト」ごとの対政府支出情報の公開により、「プロジェクト」ごとの経済性をより正確に把握することができるようになると思われる。

4. 今後の見通し

 EUとカナダは、ドッド=フランク法第1504条を参考にして同様の資源採取企業による対政府支出開示規則を米国に先行して制定した。米国内でも資源採取の透明性向上に係る主導権を失ったという批判がある一方で、今般発表された2015年規則案は、無効の判決を受けた2012年規則に対して微修正されたに過ぎず、判決の主たる理由の一つである公表義務に対してもほとんど緩和されていないことから、2015年規則案に反対する企業団体が2015年規則案に対して再び提訴する可能性は十分にあるものと思われる。

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