閉じる

報告書&レポート

2016年5月19日 バンクーバー事務所 山路法宏
No.16-17

カナダ北部における鉱業の現状―前編:各準州の探鉱・開発動向―

はじめに

カナダ連邦は10の州と3つの準州から構成されており、そのうち、連邦政府が立法・行政権を持ち、自治が限定されるユーコン準州(以下、YK準州)、北西準州(以下、NW準州)、ヌナブト準州(以下、NU準州)は、全て北緯60度線を境にしてカナダの北部地域に位置している。3準州の合計面積は約4,000,000㎢にも上り、カナダ全土の約40%を占める一方で、人口はカナダ全土の約3.3%に当たる118,658名1しかいない。人口の多くは先住民(YK準州:25%、NW準州:50%、NU準州85%)であり、大きな産業もほとんどないため、経済貢献度はカナダ全体のGDPの0.5%(約80億C$)程度2となっている。そうした中で、鉱業はいずれの準州においても経済貢献の大きい主要産業であり、一時期のコモディティ価格の高騰を背景に探鉱や鉱山開発が進んだ結果、2014年にはカナダ北部のGDPを3.25%押し上げる原動力ともなったが、近年のコモディティ価格の下落により2015年には0.9%縮小すると見られている3

こうした中で、連邦政府及び各準州政府は鉱業活動を促進すべく、インフラ整備の強化、鉱物資源戦略の策定、鉱業促進策の実施等を通じて北部での企業による探鉱、開発活動を積極的に支援している。近年では、YK準州を皮切りに、連邦政府から各準州政府への土地や資源に関する権限の委譲(Devolution)が進み、準州政府による独自の鉱業法の制定も進んでいる。

近年のコモディティ価格の下落の影響を受けて、現時点では他の鉱業地域に比べて探鉱、開発コストが非常に高く経済性が劣ることから、各準州での探鉱や開発活動は停滞し、いくつかの鉱山は操業休止に追い込まれている。しかしながら、鉱物資源ポテンシャルは高く、また途上国と比べて地政学的なリスクも比較的小さいことから、インフラの整備が進み、市場が再び盛況を取り戻した時には、再び北部地域での探鉱・開発が活発化する可能性もある。

そこで、本稿では、前編にて各準州における鉱山操業や探鉱活動の現状を紹介し、後編にて連邦政府による北方政策や各準州政府による鉱業促進のための政策や取り組みについて紹介する。

図1. カナダの3準州

図1. カナダの3準州

図2. 州別のGDPにおける鉱業の占める割合(2014年)

図2. 州別のGDPにおける鉱業の占める割合(2014年)

図3. カナダ北部の天然資源開発プロジェクトとインフラプロジェクト(2016年1月5日時点)

(出典:CanNor)

図3. カナダ北部の天然資源開発プロジェクトとインフラプロジェクト(2016年1月5日時点)

1. 各準州の探鉱・開発動向

1-1 YK準州

カナダ政府は、1895年に当時の北西準州の中でYukonという地名を付け、恒久的な権威を確立すべく動き始めていたが、1896年にKlondike地方で金鉱が発見されると、一攫千金を狙う人々が大挙して押し寄せてゴールドラッシュが始まったことで人口が急増したため、カナダ政府は動きを加速させ、1898年にNW準州から分離してYK準州を設立した。そのため、YK準州の歴史は鉱業と共にあり、したがって同準州の鉱業は100年以上の歴史がある。なお、1899年に米国AK州で金鉱が発見されると人口が流出し、Klondile地方のゴールドラッシュは終焉を迎えた。現在のYK準州は、48万㎢に人口37,193名4が居住しており、22億C$以上の実質GDPのうち鉱業の占める割合は約19%(2014年)となっていることからも、同準州において鉱業が主要産業であることが分かる。

近年は、Alexco Resource社のBellekeno鉱山(銀)が2013年以降操業を休止しているのに続き、2015年1月にはYukon Zinc社もWolverine鉱山(亜鉛、鉛、銅、銀、金)をケア・アンド・メンテナンス状態としたため、現在YK準州で稼働する鉱山はCapstone Mining社のMinto鉱山(銅、金、銀)だけとなっている。Minto鉱山では、2015年8月に操業用の水ライセンスを取得し、2016年第2四半期にはミル選鉱を開始する高品位のMinto North鉱床からの生産によって、Minto鉱山での2016年の銅生産量は2015年の生産量16,500tから27,000tと大幅に増加する見通しだが、金属価格の低迷の影響を受けて、2016年8月にMinto Northピットの採掘が終了し、2017年第1四半期に貯鉱の選鉱も終了した後は、同鉱山も操業を休止することが発表されている。

一方で、休山中のBellekeno鉱山では周辺探鉱で新たな鉱床が発見されたほか、現在ユーコン環境社会経済評価委員会(Yukon Environmental and Socio-economic Assessment Board:YESAB)の審査中であるWestern Copper and Gold社のCasino(銅、金)、Kaminak Gold社のCoffee(金)、Victoria Gold社のEagle(金)、Chihong Canada Mining 社のSelwyn(亜鉛、鉛)、North American Tungsten社のMactung(タングステン)等開発に近い後期探鉱プロジェクトもある。しかし、Selwynプロジェクトについては、2016年2月に年内の許認可プロセス申請を保留することが発表され、2014年9月にYESABの承認を得たMactungプロジェクトにおいても、2015年6月にNorth American Tungsten社が日本の民事再生法に相当する企業債権者整理法(Companies’ Creditors Arrangement Act:CCAA)を申請したことで開発が頓挫している5。こうした操業・開発動向から、YK準州は2013年から3年連続でマイナス成長となっている。

2015年は、YK準州には85の探鉱プロジェクト6があったが、ボーリング調査を実施したのは16プロジェクトしかなく、1百万C$以上の探鉱費を投じたプロジェクトは11プロジェクトにとどまったため、探鉱支出額も2014年の1億C$から73百万C$(推定値)へ減少した。これは、Selwyn-Chihong Mining社のSelwynプロジェクトでの探鉱支出額が2014年の32百万C$から7.4百万C$まで減少したことが最大の要因である。この傾向は2016年も続くと見られ、2016年の探鉱支出計画額は更に少ない56百万C$となっている7

YK準州の鉱山を表1、主な探鉱プロジェクトを表2に示す。

表1. YK準州の鉱山

鉱山 操業企業 鉱種
2015年実績及び現状
Bellekeno鉱山 Alexco Resource 銀、鉛、亜鉛
2011年5月に生産を開始したが、2013年9月に操業を休止。Keno Hill銀鉱床地帯にある銅鉱山の周辺鉱床の探鉱・開発が進められており、Flame & Moth鉱床では2015年4月に1,638千t@506gtAg, 0.43g/tAu, 1.89%Pb, 5.4%Znの概測資源量を発表し、現在開発許認可待ち。Bermingham鉱床では2015年に1,000g/tを超える多数の高品位銀鉱脈を捕捉。
Minto鉱山 Capstone Mining 銅、金、銀
2007年に生産を開始し、2015年の銅生産量は16,500t。North Pitの採掘を2016年8月に終了し、貯鉱の選鉱を2017年第1四半期末まで継続した後に操業が休止される予定。
Wolverine鉱山 Yukon Zinc 亜鉛、鉛、銅、銀、金
2011年に操業を開始し、2012年3月に商業生産、2013年第1四半期にフル生産に達したが、2015年1月の操業を休止。

(出典:Yukon Exploration & Geology Overview 2015, 各社HP, YK準州鉱業大会講演等)

表2. YK準州の主な探鉱プロジェクト

プロジェクト 操業企業 鉱種
2015年実績及び現状
Carmacks Copper Copper North Mining 銅、金、銀
精測・概測資源量が15.69Mt@0.94%Cu, 0.38g/tAu。現在PEAを実施中。2018年第1四半期の生産開始に向け、資源量のアップデートと経済性の最適化を進めている。
Coffee Kaminak Gold
推定埋蔵量46.4Mt@1.45g/tAu、10年間で平均193Kozを生産。2015年1月発表のFSでは、税引き後のNPV(割引率5%)は455MC$,IRRは37%。今後許認可プロセスを開始。
Eagle Gold
(Dublin Gulch)
Victoria Gold
推定埋蔵量92Mt@0.78g/t。先住民とも協定を締結し、必要な許認可は取得済み。Oliveゾーンを鉱山計画に組み入れるため2016年4月からFSの更新中で第3四半期に完了予定。
Fyre Lake/Marg Minquest 多金属
概測・予測埋蔵量がFyre Lakeは12.57Mt@1.56%Cu, 0.09%Co, 0.63g/tAu、Margは9.8Mt@1.3%Cu, 1.8%Pb, 3.5%Zn, 46g/tAg, 0.75g/tAuで2016年にPFSを開始予定。
Hopper Strategic Metals 銅、金
試錐で2.65m@12.15g/tAu, 0.95%Cu等の鉱徴を新たに捕捉。
Klaza Rockhaven Resources 金、銀
13,738mの試錐で4.43m@5.89g/tAu, 75.6g/tAgを捕捉。予測資源量9.421Mt@4.48g/tAu, 89.02g/tAg, 0.75%Pb, 0.95%Zn。2016年3月発表のPEAでは、税引き後NPV(割引率5%)が86MC$、IRRが14%。2015年8月に地元先住民と探鉱利益協定を締結。
Plateau South Goldstrike Resources
11孔924.1mの試錐を実施。地下浅部で17.5m@13.5g/tを捕捉しており、深部にオープン。
Rackla Gold ATAC Resources
カナダで唯一のカーリン型金鉱床を含む。試錐で47.24m@2.79g/tや124.96m@3.02g/t等を捕捉。試錐、運搬道路建設許認可準備、Tiger鉱床の最適化調査等を進めている。
Selwyn Chihong Canada Mining 亜鉛、鉛
探鉱・開発に17MC$を投資。2020年頃からの建設開始、2022年頃からの操業開始を目指していたが、価格低迷を受けて2016年2月に許認可申請の1年間以上先送りを発表。
Wellgreen Wellgreen Platinum 白金族、ニッケル、銅、金
Phase1の試錐が終了し、今冬にPhase2の試錐やエンジニアリング、環境ベースライン調査、社会経済評価等を実施。2015年3月のPEAでは、露天掘りにより最初の16年間に年間209KozのPGE+Auと128MlbのNi+Cuの精鉱を生産する計画。2016~2017年のFS開始を目指している。
Wels Gorilla Minerals
5孔の試錐を実施し、97.5m@1.1g/tを捕捉。

(出典:Yukon Exploration & Geology Overview 2015, 各社HP, YK準州鉱業大会講演等)

1-2 NW準州

NW準州は、117万㎢の面積に小さなコミュニティが32あり、人口は2016年1月時点で44,291名8である。同準州の経済もYK準州と同様に天然資源の生産に大きく支えられており、2014年には37億C$以上の実質GDPの約25%を採取産業が占め、石油・天然ガスの生産を除く鉱業及び関連サービスでも約17%を占める。

準州内には3つのダイヤモンド鉱山(Ekati鉱山、Diavik鉱山、Snap Lake鉱山)と1つのタングステン鉱山(Cantung鉱山)が操業していたが、Cantung鉱山は、所有者であるNorth American Tungsten社が2015年6月にBC州最高裁判所を通じて企業債権者整理法(CCAA)を申請し、YK準州のMactungプロジェクトと共に売りに出されたものの応札額で折り合わなかったため、同年10月下旬に操業を休止し、11月からケア・アンド・メンテナンス状態となっている。また、De Beers社が操業するSnap Lake鉱山も、坑内掘りで年間に2か月しか操業できないという高コスト体質や、Snap湖の下部に鉱床が存在することによる地下水問題、ダイヤモンド価格の下落等の問題から、2008年の生産開始以来一度も利益を出せないまま、2015年11月に操業を休止した。そのため、現時点ではEkati鉱山とDiavik鉱山の2つのダイヤモンド鉱山のみが操業を行っている。

一方、上記3つのダイヤモンド鉱山が位置する地域では、Snap Lake鉱山の南東80㎞に位置するGahcho Kuéダイヤモンドプロジェクトが、De Beers社(51%)とMountain Province Diamonds社(49%)の共同事業として2016年第2四半期の生産開始に向けて開発が進められているほか、数多くのダイヤモンド探鉱が行われている。また、金属鉱物でも、Avalon Rare Metals社のNechalachoレアアースプロジェクトやCanadian Zinc社のPrairie Creek亜鉛・鉛・銀プロジェクト、Fotune Minerals社のNICO金・コバルト・ビスマスプロジェクト等、NW準州の中央及びYK準州との州境に近い南西部を中心に多くの探鉱が行われている。

NW準州における2015年の探鉱支出額(推定値)や2016年の探鉱支出計画額9は2014年とほぼ同額の約1億C$で推移しており、探鉱投資額の面では金属やダイヤモンド価格の低迷の中でも継続的に投資が行われているが、2015年に準州内で新たに取得されたのは21鉱区(20,329ha)とかなり低い水準にとどまり、2014年の412鉱区(343,012ha)から大幅に減少していることから、初期探鉱への投資は減少し、投資額は既存鉱山の拡張や開発プロジェクト、探鉱後期のプロジェクトが牽引していることが伺える。

NW準州の鉱山を表3、主な探鉱プロジェクトを表4に示す。

表3. NW準州の鉱山

鉱山 操業企業 鉱種
2015年実績及び現状
Cantung鉱山 North American Tungsten タングステン
1962年に生産を開始し、これまで何度も操業休止と再開を繰り返している。2015年のWO3生産量は約1,931tで、埋蔵量からは少なくとも2017年まで操業が可能。North American Tungsten社は現在CCAAの下での企業再建中で、同鉱山の売却に失敗し、2015年11月に操業を休止。
Diavik鉱山 Diavik Diamond Mines ダイヤモンド
Rio Tinto(60%)とDominion Diamond(40%)の合弁事業。2003年に生産を開始し、2015年は198万tの鉱石から641万ctのダイヤモンドを生産。新たな鉱床であるA-21パイプの露天採掘が2018年にも開始される予定。
Ekati鉱山 Dominion Diamond ダイヤモンド
1998年に生産を開始し、2015年は360万tの鉱石から370万ctのダイヤモンドを生産。2031年まで採掘可能な埋蔵量が確認されている。
Snap Lake鉱山 De Beers Canada ダイヤモンド
2008年7月に開山したが、2015年12月に操業を休止。2015年は124万ctのダイヤモンドを生産。

(出典:2015 Northwest Territories Mineral Exploration Overview, 各社HP等)

表4. NW準州の主な探鉱プロジェクト

プロジェクト 操業企業 鉱種
2015年実績及び現状
Howards Pass Selwyn Chihong Mining 鉛、亜鉛、金
YK準州と国境を跨いだSelwynプロジェクトの一部。価格低迷を受けて2016年2月に許認可申請の1年間以上先送りを発表。
Indin Lake,
Colomac, Kim,
Cass
Nighthawk Gold
試錐で32.95m@4.19g/t, 341.2m@3.89g/t等を捕捉。Colomac鉱床の予測資源量は39,815千t@1.64g/t(カットオフ品位0.6g/t)。
Nechalacho Avalon Advanced Materials レアアース
2014年の冶金試験や技術的研究の完了後は活動停滞中。精測資源量は125.6万t@1.71%TREO, 0.38%HREO。2013年4月のFSでは、CAPEX15.75億C$、税引き前のNPV(割引率10%)は13.5億C$,IRRは22.5%。
NICO Fortune Minerals 金、コバルト、ビスマス
2017年6月から20年間で年間54,500tの硫化精鉱を生産し、Au:1.3t, Co硫酸塩七水和物:1,615t, Bi:1,750t, 銅セメント:265tを生産。許認可等取得済みでオフテイク契約や建設資金調達を進行中。
Prairie Creek Canadian Zinc 亜鉛、鉛、銀
21孔約5,484mの試錐を実施し、9月に精測・概測資源量870万t@9.5%Zn, 8.9%Pb, 136g/tAgを発表。山命17年、年間平均生産量亜鉛39千t, 鉛37千t, 銀53tとして、ベースケースで税引き後NPV(割引率8%)は約3億C$、IRR26%のPFS結果を2016年3月末に発表し、現在資金調達手段を検討中。
Terra Mine DEMCo 金、銀、レアアース
チャネルサンプリングで23.73m@0.15g/tAu, 0.51%Cu, 3.4g/tAg, 19.32m@0.14g/tAu, 0.41%Cu, 1.4g/tAg、グラブサンプルで0.68g/tAu, 1.88g/tAg, 0.53%Cuの分析結果を取得。
Yellowknife City
Gold
TerraX Minerals
試錐で14.09m@2.96g/tAu, 15.50m@2.89g/tAu, 7.00m@10.23g/tAu等を捕捉。2016年冬の試錐でも、49.70m@1.00g/tAu, 30.70m@1.33g/tAu, 40.85m@1.03g/tAu等を捕捉。

(出典:2015 Northwest Territories Mineral Exploration Overview, 各社HP等)

1-3 NU準州

NU準州は1999年にNW準州より分離されて誕生した非常に若い準州である。カナダ全体の5分の1を占めカナダ最大となる約204万㎢の面積がありながら、その多くが北極圏に位置する過酷な生活環境から、人口は2016年1月時点において国内で最も少ない37,174名10に過ぎない。YK準州やNW準州と同様に、同準州の経済における鉱業の貢献は大きく、2014年には約20億C$の実質GDPの約17%を鉱業及び関連サービスによって生み出している。そのため2015年は、近年の資源価格の低迷の影響を受けたことに加えて、更にBaffinland社のMary River鉄鉱石鉱山の開発完了によってNU準州の経済活動の約13%を占める建設業界が約5分の1も縮小したことで、NU準州の経済成長に悪影響を与えた。2015年にはMary River鉄鉱石鉱山から欧州市場に向けて鉄鉱石が初めて出荷されたが、一方でAgnico Eagle社が操業するMeadowbank金鉱山の生産量が前年比で約16%減少した穴を埋めることはできず、NU準州の実質GDPは0.8%減少した11

NU準州では、2010年に生産を開始したAgnico Eagle社のMeadowbank金鉱山に続いて、2015年夏にBaffinland社のMary River鉄鉱石鉱山から欧州市場に向けて鉄鉱石が初めて出荷されたため、2015年の鉱業生産高は8.8%上昇した。しかし、Meadowbank鉱山は2018年第3四半期に閉山予定であり、2016年以降は徐々に生産量が減少することから、2016年は3.6%減少すると予想されている12

一方で、Meadowbank鉱山の衛星鉱床であるAmaruq鉱床が2019年にも生産を開始する可能性があり、2016年には26百万C$を投じた試錐が予定されているほか、許認可プロセスに向けてエンジニアリング調査や環境調査が進められている。Amaruq鉱床から採掘された鉱石はMeadowbank鉱山の選鉱場で処理する計画であり、それによりMeadowbank鉱山のマインライフは数年延長される見込みである。また、2020年の生産開始を目指すAgnico Eagle社のMeliadine金プロジェクトも近く許認可が得られる見込みで、2016年には坑内の開発に焦点を当てた96百万C$の資本支出が計画されている。2017年の生産開始を目指して開発が進められているTMAC Resources社のHope Bay金プロジェクトなども含め、2015年には、金10、ベースメタル4、鉄鉱石1、ウラン3、ダイヤモンド11の合計29のプロジェクト(鉱山含む)で活動が行われた。NU準州における2015年の探鉱支出額(推定値)は215.1百万C$と2014年の158.0百万C$に比べて大幅に増加したが、これにはMary River鉱山の開発投資額が大きく貢献しており、2015年に開発は完了していることから、2016年の探鉱支出計画額13は109.9百万C$と大幅な減少が見込まれている。

NU準州の鉱山を表5、主な探鉱プロジェクトを表6に示す。

表5. NU準州の鉱山

鉱山 操業企業 鉱種
2015年実績及び現状
Meadowbank鉱山 Agnico Eagle Mines 金、銀
2010年に生産を開始し、2015年は金約12tと銀約7tを生産。2018年第3四半期に閉山予定だが、2019年には衛星鉱床であるAmaruq鉱床からの採掘開始が計画されており、それにより数年マインライフが延長される見込み。
Mary River鉱山 Baffinland Iron Mines
365Mt@64%Feと高品位で選鉱が不要な直接船積鉱石(DSO)。2014年10月に鉱石の生産を開始し、2015年7月に欧州市場向けに初出荷。

(出典:Nunavut Mineral Exploration, Mining and Geoscience Overview 2015, 各社HP等)

表6. NU準州の主な探鉱プロジェクト

プロジェクト 操業企業 鉱種
2015年実績及び現状
Amaruq Agnico Eagle Mines
Meadowbank鉱山の衛星鉱床で鉱石はMeadowbank鉱山の選鉱場に運搬。378孔108,000mの試錐を実施し、2015年末時点で16.9Mt@6.05g/tAuの予測資源量を確認。2015年後半にMeadowbank鉱山と結ぶ全気候型のアクセス道路の建設許可を取得。道路が建設されれば探鉱活動が加速される見込み。
Back River Sabina Gold & Siver
2015年9月に発表したFS結果では、11.8年間にわたり年間平均6.2t(鉱石平均品位6.3g/t)を生産する計画で、税引き後NPVが480MC$(割引率5%)でIRRが24.2%。現在許認可プロセス中。
Hope Bay TMAC Resources
確定・推定埋蔵量が14.2Mt@7.7g/tAu。2016年に選鉱場の試運転を開始し、2017年の生産開始を予定。20年の山命でNPV626MC$(割引率5%)、IRR40%。
Meliadine Agnico Eagle Mines
2015年は探鉱予算を85MC$に増加し、探鉱坑道を延長。10月に開発前作業に関する許認可を取得しており最終許認可取得も近く取得できる見込み。2020年の生産開始を目指し、2016年は96MC$の資本支出で約3,000mにおよぶ坑内の開発を進める予定。
Pistol Bay Northquest
2015年に34孔8,090mの試錐を実施し、73.4m@1.09g/tAu等を捕捉。2016年は6.8MC$の探鉱予算で15,750mの試錐を予定。
Coppermine River Kaizen Discovery 銅、銀
2015年に9孔2,060mの試錐を実施し、銅の鉱徴を捕捉。
Izok Corridor MMG 亜鉛、銅、鉛、銀、金
MMG社は2012年の終わりごろにヌナブト影響評価委員会(NIRB)にプロジェクトの提案書を申請したが、2013年4月に提案内容を修正する意向を示した。しかし、その後修正計画や環境影響声明等は提出されておらず、2015年は探鉱活動も行われていない。
Storm/Seal Aston Bay 銅/亜鉛、銀
過去の試錐で110m@2.45%Cu, 56m@3.07%Cu, 49m@1.79%Cu等を捕捉。2015年は地上重力探査で2か所の優先度の高い試錐ターゲットを確認。2016年1月にBHP BillitonとLOIを締結。BHPは最終契約(第2四半期末予定)の締結後9年以内に最低40MC$の探鉱費を負担することで75%の権益を取得する。
Angilak Kivalliq Energy ウラン、銀、モリブデン
2015年に9孔958mの試錐を実施し、1.3m@2.34%U3O8, 44.0g/tAg, 1.13%Mo等の鉱徴を捕捉。
Kiggavik Areva Resources Canada ウラン
Areva、Daewoo、JCUの合弁事業。2015年に29孔8,333mの試錐と重力探査を実施。2015年春にNIRBが基本データの不足やプロジェクト開始日の不確実性から生態系や社会経済への影響を評価できないとして現時点では認可すべきでないと連邦政府に進言したが、大臣の判断は示されていない。

(出典:2015 Northwest Territories Mineral Exploration Overview, 各社HP等)

まとめ

いずれの準州においても、近年のコモディティ価格の影響を大きく受け、複数の鉱山の操業停止が相次いでいる。一方で、インフラ不足や過酷な環境によるコスト高である中で、金、銅、鉄鉱石を中心に高品位の鉱床も多く見つかっており、そうしたプロジェクトでは資金が調達でき、引き続き探鉱・開発活動が活発に行われており、5年以内に生産開始を計画するプロジェクトも複数存在している。民間調査機関であるFraser Institute社が毎年行っている世界各国、各州における鉱業投資環境調査のレポートの最新版「Survey of Mining Companies 2015」14によれば、純粋な資源ポテンシャルを示すベストプラクティス環境下での地質ポテンシャル指数(Best Practices Mineral Potential Index)15において、対象とした全109の国・州の中でYK準州が第4位(カナダ国内で第1位)、NW準州が第21位、NU準州が第8位と非常に高い評価を受けている。僻地や遠隔地であることから経済性の観点ではマイナス要素も多いが、近年は鉱業が発展した地域で高品位な鉱床を発見することは難しくなっている中で、カナダ北部では今後も新たな大規模高品位鉱床が発見される可能性もあり、資源ポテンシャルの点においては将来の鉱業投資先の候補となり得る地域であると思われる。

後編では、そうした資源ポテンシャルを最大限に引き出すための取り組みとして、連邦政府や州政府等が進めている、又は検討している鉱業政策や戦略策定、刺激策について紹介する。

1 カナダ統計局(2016年1月時点)

2 カナダ統計局(2014年GDP)

3 PDAC2016期間中に開催されたカナダ北部投資セミナーでの連邦北方経済開発庁(Canadian Northern Economic Development Agency:CanNor)の講演資料より。

4 カナダ統計局(2016年第1四半期)

5 2016年11月19日、NW準州政府がYK準州にNW準州にまたがるMactungプロジェクトの鉱物権に対するリース権を取得し、監視者の下で行われる環境面でのケア・アンド・メンテナンス活動に対して資金供給を行うと発表した。

6 砂鉱(placer mining)を除く。砂鉱は、2015年は12月15日までで70.3百万C$に相当する59,830ozの粗鉱が生産され2014年の58,700ozを超えた。これは、原油等エネルギー価格の下落による燃料費の減少や米ドル高が大きく貢献。

7 Exploration Plus Deposit Appraisal Expenditures, by Province and Territory, NRCan(2016年2月)

8 カナダ統計局(2016年第1四半期)

9 Exploration Plus Deposit Appraisal Expenditures, by Province and Territory, NRCan(2016年2月)

10 Statistics Canada人口統計(2016年第1四半期)

11 Territorial Outlook Economic Forecast, Winter 2016, The Conference Board of Canada

12 Territorial Outlook Economic Forecast, Winter 2016, The Conference Board of Canada

13 Exploration Plus Deposit Appraisal Expenditures, by Province and Territory, NRCan(2016年2月)

14 https://www.fraserinstitute.org/sites/default/files/survey-of-mining-companies-2015.pdf

15 投資環境があらゆる面(規制、環境、税務等)で最高の状態であると仮定した場合の鉱物資源のみの状況でみた投資可能性を示す指数。

ページトップへ