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報告書&レポート

2017年4月28日 ロンドン事務所 ザボロフスキ真幸
No.17-05

REACH規則最新動向-Brexit後のREACH規制シナリオ-

はじめに

2017年3月22日に英ロンドンでMetal Events LimitedによるReach for the Metals Industry Forumが開催された。2007年6月1日に欧州連合により施行されたREACH規則は10周年を迎えようとしている。2018年5月には年間1~100tの段階的導入物質の最終登録が締め切られることになり、本セミナーでは登録の必要がある中小企業サプライヤー7社、輸入業者2社、コンサルタント4社が参加し、前半は登録に関する専門的な議論がされた。また、後半では英国がEU離脱を決めたことによるREACH規制への影響をNEVEK ConsultingのKeven Harlow Directorが講演した。本レポートでは、REACH規制の運用・調整を行うECHA(欧州化学物質庁)の講演及びNEVEK ConsultingのKeven Harlow Directorによる講演概要を紹介する。

1.ECHAによるREACH登録のロードマップ

(講演者:European Chemicals Agency (ECHA), Scientific Officer, Steven Buchanan氏)

REACH規則(Registration, Evaluation and Authorization of Chemicals、 REACH)は、2007年6月1日に欧州連合により施行された化学品の登録、評価、認可及び制限に関する規則であり、これらの手続きは加盟国の所轄官庁と欧州化学品庁 (European Chemical Agency、ECHA) により管理されている。REACH規則では製造業者及び輸入業者は、化学物質をEU域内で年間1t以上製造、または輸入する場合に化学物質の登録(既存・新規化学物質を問わず)が義務付けられている。登録する化学物質には非段階的導入物質と段階的導入物質の2種類があり、段階的導入物質は2008年6月1日から12月1日までに予備登録をすることによって、生産量または輸入量によって2010年11月、2013年5月、2018年5月という3段階の登録期限が設けられている。同氏は、目前に迫った最終登録段階である2018年5月を前に、製造業者及び輸入業者が現時点で実施すべきことを説明した。

1-1. 2018年登録ロードマップ

EU域内の事業者は、2018年5月31日までに年間の製造・輸入量が1t以上100t未満の化学物質を登録する必要がある。これまでに実施された2回の登録期限では、それぞれ年間製造・輸入量が2010年は年間1,000t以上、2013年は年間100t以上となっていた。ECHAのデータによると、2016年8月時点での中小企業の登録数はおよそ16%であり、2018年5月の最終登録時には前2回の登録時と比べて、中小企業の割合、個人登録者の割合の増加、小規模輸入化学物質の占める割合が高くなると予測されている。そのため、ECHAでは中小企業、個人登録者に焦点を当てた支援を展開しており、REACHの複雑な登録段階を2018年登録ロードマップとして作成、公表した。

図1.REACH登録期限(出典:ECHA

図1.REACH登録期限(出典:ECHA)

また、ECHAは2018年5月31日の登録期限までには最大2.5万の化学物質の登録、最大6万のドシエ(書類一式)が登録されることを予定している。

図2.REACH登録数(出典:ECHA)

図2.REACH登録数(出典:ECHA)

1-2. 2018年REACH登録ロードマップの7段階

ECHAでは、事業主に対し2018年最終登録に際し、円滑な登録手続きを促進するために7段階の登録プロセスを提示している。

  1. 自社製品を分類し、登録の要否、または物質がすでに登録されているかを確認する。
  2. 共同登録者を探す。一物質一登録原則(OSOR: One Substance, One Registration)に沿って、同一物質を製造・輸入する業者はSIFE(Substance Information Exchange Forum)に参加し、登録する物質に関するデータの共有を行うことが求められている。物質がすでに2010、2013年の登録時に登録されている場合は、既登録者に連絡し、SIEFに参加する。登録されていない場合は、潜在的共同登録者をREACH-ITのPre-SIEFページから探し、共に登録の準備を始める。
  3. 共同登録者と協働する。既登録者に連絡し、SIEFのメンバーとなり、重複した調査を避け、登録者間での物質の分類・表示について合意するためのデータ共有、登録等に係るコスト共有に合意する。
  4. 共同登録者と共に、REACH規制に則した有害危険性評価を実施する。
  5. 登録一式文書(Registration Dossier)をIUCLID6(International Uniform Chemical information Database)と称する専用ソフトウェアを利用して作成する。
  6. 登録一式文書の作成完了後、ECHAのREACH-ITサイトへ提出する。
  7. REACH登録番号が割り当てられる。登録後は、登録情報を更新していく。

また、登録一式文書(ドシエ)には技術一式文書(Technical Dossier)及び化学物質安全性報告書(CSR: Chemical Safety Report)の2種類があり、CSRには化学物質安全評価(CSA: Chemical Safety Assessment)の実施結果が必要となる。CSR作成には、化学物質の製造・輸入業者である登録者は、化学物質の危険有害性、リスクなどの情報を、安全性データシート(Safety data sheets, SDS)、曝露シナリオ等を通して、川下ユーザーに情報伝達することが求められている。その一方、川下ユーザーは物質の使用用途、状況などの情報を登録者に提供することで、CSR作成を支援する。そのため、REACH登録においてサプライチェーンにおける円滑なコミュニケーションは非常に重要となる。

1-3. 第1、2回登録時でよく見られた点と改善点

2010、2013年の登録でよく見られた点は以下の通りである。

  • 登録時に潜在的な使用量を含めて登録しているケースが多く、明確な使用量が不明。
  • 安全使用への忠告が、包括的または非現実的すぎることが多く、化学物質使用の役に立たない。
  • CSRから曝露シナリオを安全性データシート(Safety data sheets, SDS)にコピー&ペーストする例が多い。
  • CSRデータの更新を実施する登録者が少ない。
  • 既登録者とSIEFメンバーとの情報共有がうまく機能していない。

このことから、不十分な安全性データシートによる顧客からの苦情、公表される化学物質使用の情報の一貫性の欠如、ドシエの維持及び更新に手間・コストがかかるといったビジネスに影響を及ぼす可能性がある。また、規制当局はドシエを元に今後の規制動向を決めるため、間違った情報を与えかねない。ECHAでは、登録者と川下ユーザーのサプライチェーン情報伝達の一貫性をもたせ、コミュニケーションの効率化を図るためにウェブサイト、オンラインセミナー、関連記事、会議、実用ガイド、無償ツールの提供及びアップデートといった支援の提供を積極的に実施している。

2.Brexit後の英国におけるREACH規制の影響

(講演者:NEVEK Consulting, Director, Keven Harlow氏)

 

NEVEK ConsultingのKeven Harlow Directorは、BrexitによるREACH規制への影響を及ぼす可能性を指摘。REACHの規制対象国、対象事業者を再度振り返った後、英政府が主張する“Hard Brexit”がREACH規制にも適用された場合のケーススタディを提示した。

2-1. REACH規制の対象国及び対象事業者

REACH規制の対象国はEU加盟国27か国とスイスを除くEFTA(欧州自由貿易連合)加盟国であるアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーからなるEEA(欧州自由貿易連合)域内計31か国。REACH規制では31か国を称してEU域内としている。(現時点では、英国も含まれる。)また、REACH規則の対象事業者は、EU拠点の化学物質輸入業者、EU拠点の化学物質製造業社、EU拠点の唯一の代理人(Only Representative, OR)となる。EU域外(EUに加盟していない国)は、REACH規則の対象外となるが、EU域内に製品を輸出している事業者は、EU域内の輸入業者がREACH対象となるためCBI/proprietary情報等を提供することでEUユーザーをサポートする必要がある。

2-2. REACH規制の登録状況

ECHA2017年1月時点のデータによると、全体の登録数は48,318となり、登録数の高い国順に、ドイツ12,412、英国5,836、フランス4,282、オランダ3,932、イタリア3,839となっている。英国は、欧州域内で2番目に高い登録数となっている。同様に、2017年2月時点で登録企業割合は、英国では化学物質製造業者が5%、輸入業者が10%、製造業者及び輸入業者が4%、ORが30%となっており、英国ではORの割合が高い。その理由として、英語でのアクセスが可能な点、豪州、ニュージーランド、南アといったイギリス連邦の国がイギリスをORとして選択する点、ロンドンが国際的なビジネスハブとして機能しており、多くの企業がHQ、支店、関連会社をロンドンに持っていることから、そのオフィスをORとして指名するといったことが考えられる。

図3.登録事業者割合 2017年2月時点(出典:ECHA)

図3.登録事業者割合 2017年2月時点(出典:ECHA)

2-3. REACH規制において「Hard Brexit」となった場合に考えられるシナリオ

  1. 英国拠点の製造業者及び輸入業者は、REACH規制の義務が無くなる。
  2. 既存の英国登録者もしくは予備登録者は“無効”になる。
  3. ドシエの評価・承認、アップデート、新規物質の登録等が必要なくなる。
  4. 英国拠点のORは、それ自体が無効となり、登録自体が無効となる。
  5. 英国から化学物質をEU域内へ輸出する場合は、EU域内の輸入業者がREACHへの登録をする義務がある。もしくは、英国製造業者はEU域内30か国内でORを指名する必要がある。つまり、EU域外(たとえば日本)の事業者と同じ条件になる。

ケーススタディ① 英国拠点の化学物質輸入業者の場合

REACHを順守する義務は無くなる可能性があり、その場合は化学物質の輸入をこれまでのように世界中で行うことができる。

ケーススタディ② 英国拠点の化学物質製造業者の場合

REACHを順守する義務は無くなる可能性があり、その場合は化学物質の輸出をこれまでのように世界中で行うことができる。
しかし、EU域内へ輸出する場合は選択肢として以下3点が挙げられる。

  1. 通常通りのT&Cに従い、輸出を行う。
  2. REACH義務を順守するためにEU輸入業者を支援する。
  3. EU域内にORを指名する。

ケーススタディ③ 英国拠点の唯一の代理人(OR)の場合

ORを英国拠点で設立している場合、ORの存在自体が無効となる恐れがあり、英国拠点ORによるREACH登録を行ってきたEU拠点の川下ユーザーは、REACH規制を順守していない事業者と見做される可能性がある。そのための解決案として、EU域外の化学物質製造業者は、EU域内に代替ORの設立、また、Brexitが完了前にOR事業主の法人移転を勧める。

 

その他懸念点として、もし製造、輸入業者及びORの登録者が英国拠点の既存登録者であった場合、共同登録者はEU域内(30か国)に代替既登録者を立てる必要が出てくる可能性がある。その際、共有データ等の所有に関する問題等の新たな課題が出てくる可能性があり、EUバリューチェーン内で今後の状況を共有しあい、滞りの無いビジネスが継続できるようにすることが各登録者にとって必要である。

おわりに

ECHAの講演でもあったように、2018年5月31日の物質登録締切では中小企業及び個人の対象者が増えることから、同セミナーでも中小企業サプライヤー及び輸入業者から専門的な質問が飛び交った。その中でも、NEVEK ConsultingのKeven Harlow氏 によるBrexit後のREACH規制シナリオの講演は非常に注目を集めた。特に、英国拠点の予備登録者は、2018年5月31日までに複雑なREACH登録にコスト、時間を費やさなくてはいけない一方、英国がEUを2019年に離脱しKeven氏が提示したようなHard Brexitシナリオ通りREACH規制自体が無効となった場合を考慮し、登録の準備を進める必要があることを懸念する声が多く聞かれた。しかし、10年を経過するREACH規則を運用してきたECHAの提供する情報の充実化は参加者から非常に高く評価されており、Brexit移行期間中の登録者に対する十分な情報提供が期待されていた。2018年5月の登録締切に併せてBrexit移行期間中のREACH規制動向に注目していきたい。

1EU域内に化学物質を輸出するEU域外の企業は、EU域内の代理人を「唯一の代理人」に指名することができる。EU 域外の企業は、「唯一の代理人」と契約し、登録だけでなく、REACH規則の義務などを順守の代理をさせることになる。

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