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報告書&レポート

2017年5月19日 調査部 金属資源調査課 小嶋吉広
17-08号

アジアのインフラニーズと中国の取り組み(1)―アジア開発銀行によるインフラ資金ギャップの分析―

本レポート(3 回に分けて掲載)のポイント

  • ADB の試算では2030 年までに年間1.7 兆US$のインフラ投資がアジアで必要。国別に見ると中国が
    58%を占め、次いでインド(19%)。
  • セクター別では、電力が過半を占め56%、次いで運輸32%(地下鉄は除く)、通信9%。
  • 中国では、「先進国並み」の質の高い電力・道路インフラは依然不足。また都市化に伴う都市インフラ整備(道路、地下鉄等)も必要。
  • 世銀やADB 等、既存の国際開発金融機関により賄われている資金額はインフラ投資額のうち2.5%程度。資金ギャップを埋めるには、AIIB 等新たな国際金融機関からの融資の他、PPP やLand Value Capture(日本の私鉄会社による沿線宅地開発や中国での土地利用権発行システムが該当)も有効。
  • 中国主導でAIIB や新開発銀行(いわゆるBRICS 銀行)が設立されるとともに、既存の政策金融機関である中国輸出入銀行や国家開発銀行も一帯一路政策を展開するべく資金支援を拡大。
  • 中国は2020 年までに発電設備容量を21%増加させる計画(2016年165万㎿→2020年計画200万㎿)。電線用途等の銅需要増加が見込まれる。
  • 米国議会調査局のレポートによれば一帯一路の取り組みは一考に値(worth considering)。一帯一路政策によるアジア地域等の経済成長促進はベースメタル等コモディティ需要にも大きな影響を及ぼす。

はじめに

2016年から足元までのベースメタル市況をインフラ投資の観点で見ると、中国ではインフラ投資拡大により景気刺激が図られ、2016年3月よりインフラ関連の固定資産投資の伸び率(対前年同期比)が20%まで上昇した(図1・2参照)。インフラ投資の伸び率は2017年1月と2月に同27%までさらに拡大し、製造業の固定資産投資伸び率も2017年3月には同5.8%まで回復している。また米国では、10年間で1兆US$規模のインフラ投資を公約に掲げたトランプ大統領が2016年11月に当選し、大規模インフラ投資等の財政政策拡大の期待感が高まり、これらを背景に特に2016年11月以降、金属価格は回復を見せた。

図1.ベースメタルのLME価格推移(2016年1月=1)

図1.ベースメタルのLME価格推移(2016年1月=1)

図2.中国の固定資産投資とインフラ関連投資(前年同月比伸び率)

図2.中国の固定資産投資とインフラ関連投資(前年同月比伸び率)

1.本レポートの構成

本レポートでは、銅を始めとするベースメタルの需要に大きな影響を及ぼすアジアのインフラニーズと中国による取り組みの現状、またベースメタル需要への影響について3回に分けて報告する。第1回目の本稿では、2017年2月にアジア開発銀行(ADB)が発表した特別レポート「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」の内容を基に、今後アジアが経済成長を持続する上で必要となるインフラ投資額等について考察を行う。

第2回目では、中国によるアジア等でのインフラ整備プロジェクトについて俯瞰する。中国は自国経済が「新常態」に入り、成長が減速する中、一帯一路政策(図3参照)を掲げ、自国産品の新たな輸出先としてアジア地域、特に中央アジアや南西アジア地域の市場開拓を積極的に行っている。一帯一路政策推進に際しファイナンス面で重要な機能を担うアジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金、新開発銀行(NDB:New Development Bank、通称BRICS銀行)が近年設立され、また既存の国策金融機関である中国輸出入銀行や中国開発銀行を通じた一帯一路政策関連の案件供与も最近本格化しつつある。これら機関による供与案件を各機関のウェブサイトやアニュアルレポート等の公表情報に基づき概観することで、これら地域に対する中国による関与の態様を見ることとしたい。

出典:「Navigating the New Normal」中国国務院発展研究中心、Chatham House、2016 図3.一帯一路政策(シルクロード経済ベルトと海上シルクロード)

出典:「Navigating the New Normal」中国国務院発展研究中心、Chatham House、2016
図3.一帯一路政策(シルクロード経済ベルトと海上シルクロード)

第3回目では、インフラ整備とベースメタル消費との関係について電力インフラと銅消費を例に考察を行う。中国は世界の銅需要の約半分を占め、また中国の銅需要の41%は電力セクター向けであることから(図4参照)、中国における発電能力と銅需要の関係を調べることで銅需要の今後の成長余地を考察する。

出典:中国有色金属工業協会 図4.中国の銅需要(用途別内訳、2016年)

出典:中国有色金属工業協会
図4.中国の銅需要(用途別内訳、2016年)

世界経済におけるアジアの位置付けを長期的な視野で俯瞰してみると、ADBのデータによれば(図5)世界のGDPに占めるアジアの割合は、19世紀には50%を超えていたが、その後、経済の中心が欧米に移ったことから1970年には15.9%まで低下した。しかしながら70年代後半からは、「東アジアの奇跡」に見られるように日本だけでなく、韓国やシンガポール、中国、ASEAN諸国の経済成長により、2010年にはアジアのシェアは26.5%まで拡大してきている。ADBの予測によれば、今後も世界経済におけるアジアのシェアは拡大を続け、2050年には再度50%に戻る見込みである。アジアがこれまでの「従属」から真に世界経済の主体となり、持続可能な成長を実現するためには、その基礎となるインフラ整備は極めて重要と言える。

出典:Asia 2050, ADB 図5.世界のGDPに占めるアジアの割合

出典:Asia 2050, ADB
図5.世界のGDPに占めるアジアの割合

2.アジアのインフラニーズ(ADBの特別レポートより)

2.1 2030年までのインフラ投資ニーズ

アジアの途上国が現在の経済成長を維持するとすれば、アジア45カ国において2016年から2030年の間に必要なインフラ投資額は、ベースライン予測(気候変動対応への必要額を考慮しない予測額)で22.6兆US$、年平均で1.5兆US$となる(表1)。気候変動対応を考慮した場合の必要額は26.2兆US$、年平均で1.7兆US$と見積もられる。内訳を見るとアジアの人口大国である中国とインドの割合が極めて大きく(図6)、アジア全体のインフラ投資必要額のそれぞれ58%、19%を占める。必要なインフラ投資額には、新規整備に加え、既設のメンテナンス費用も含まれており、中国の場合、既存インフラのメンテナンス費用も影響している。

気候変動調整済み予測の年間必要額1.7兆US$は、ADBが行った前回調査(2009年)での試算額(7,500億US$)の約2.3倍に増大したが、その主な理由としてADBは、前回試算よりも高い成長率がアジアで見込まれることや調査対象国の増加(前回は32カ国)を挙げている。1

表1.アジア(45カ国)における2030年までのインフラ資金ニーズ(所得階層別)

 出典:Asia 2050, ADB 図5.世界のGDPに占めるアジアの割合

(1) 所得分類は国連の基準による。低所得国:一人当たりGNI(国民総所得)1,025US$以下の国、低中所得国:1,026~4,035US$, 高中所得国:4,036~12,475 US$、高所得国:12,476US$以上
(2) カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム

1 対象国が前回調査の32カ国から45カ国に増加したことも理由として挙げられている。

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC 作成 図6.2030 年までに必要なインフラ投資額の国別内訳(ベースライン予測)

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC 作成
図6.2030 年までに必要なインフラ投資額の国別内訳(ベースライン予測)

セクター別に見ると(表2)、電力インフラが最も多く、ベースライン予測では11.7 兆US$、気候変動済み予測では14.7 兆US$とそれぞれ全体の51.8%、56.3%を占めている(図7)。

次いで運輸インフラ(道路、鉄道、港湾等)であるが、今回のADB の分析には都市部の地下鉄は含まれていない(中国の地下鉄需要については後述)。

表2.アジア(45カ国)における2030年までのインフラ資金ニーズ(セクター別)

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC 作成<br>図6.2030 年までに必要なインフラ投資額の国別内訳(ベースライン予測)

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC作成 図7.2030年までに必要なインフラ投資のセクター別内訳

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC作成
図7.2030年までに必要なインフラ投資のセクター別内訳
内側:ベースライン予測(計22兆5,510億US$)
外側:気候変動調整済み予測(計26兆1,660億US$)

2.2 アジアにおけるインフラの資金ギャップ

次に、現在の投資額を把握し、上述の必要な投資額との資金ギャップを示す。2.1の分析ではアジア45カ国を対象としたが、この分析では十分な統計データが整備されている25カ国2を対象としている。当該25カ国の2020年までのインフラ需要は、ベースライン予測で1兆2,110億US$/年、気候変動対応を考慮した予測では1兆3,400億US$/年と見込まれる(表3参照)。これに対し現在(2015年時点)の投資額は8,810億US$と推計され、ベースライン予測額に対し3,300億US$/年、気候変動対応を考慮した予測額に対しては4,590億US$/年の投資資金が不足している。

国別に見ると、中国はこれまでの積極的なインフラ投資により、現状のインフラ投資額の対GDP比は他国より高い(6.3%)。このため、ベースライン予測での資金ギャップの対GDP比は0.5%と低いものの、気候変動調整済み予測で見るとまだ対GDP比1.2%の資金ギャップがあり、温室効果ガスの排出削減に資する発電インフラ等の整備は今後も必要と言える。

気候変動調整済み予測で見た、所要資金と資金ギャップの関係を図8に示す。全体の資金ギャップ(4,590億US$)のうち中国が33%(1,510億US$)、インドが31%(1,440億US$)を占め、中国とインドで全体の約2/3となっている。

2 以下25カ国が対象。対象25カ国でアジアの全人口の96%、またGDPの85%をカバー。以下の国のうち下線付きが高中所得国(一人当たりGNI(国民総所得)4,036US$以上の国)。下線なしが低所得・低中所得国。
アフガニスタン、アルメニア、バングラデシュ、ブータン、カンボジア、中国フィジー、インド、インドネシア、カザフスタン、キリバス、キルギス、マレーシアモルジブマーシャル諸島、ミクロネシア、モンゴル、ミャンマー、ネパール、パキスタン、PNG、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナム

表3.アジア(25カ国)における2020年までのインフラ資金ギャップ

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC 作成<br>図6.2030 年までに必要なインフラ投資額の国別内訳(ベースライン予測)

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC作成 図7.2030年までに必要なインフラ投資のセクター別内訳

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC作成
図8.中国・インドのインフラ資金ギャップ(気候変動調整済み予測)

2.3 中国における「先進国クオリティ」のインフラ不足

同レポートでは、中国のインフラ所要額について個別に分析を行っており、インフラストック密度(Stock Value Density)というアプローチから、OECD諸国と同レベルの質を有するインフラ(換言すれば「先進国クオリティのインフラ」)を整備するための所要額を試算している(表4)。

まず道路インフラについて見ると現在の中国のインフラストック密度は1,000㎢当たり282.76百万US$であり、OECDベンチマーク(1,275.6百万US$)の22%程度に留まっている(特に農村部の道路インフラ不足が顕著)。中国の道路インフラを先進国レベルまで質と量を引き上げるためには、9兆3,211億US$(中国の2015年GDPの86%に相当)の投資が必要と試算されている。

次に、電力インフラについて見ると、現在のインフラストック密度は人口1万人当たり79.55百万US$であり、OECDベンチマーク(174.33百万US$)の46%となっている。中国の電力インフラを先進国レベルに引き上げるためには、上述の道路インフラの所要額を上回る12.9兆US$(同119%に相当)の投資が必要と試算されている。

表4.インフラストック密度で計った現在の中国とOECDレベルとのギャップ

表4.インフラストック密度で計った現在の中国とOECDレベルとのギャップ

1 道路のインフラストック価値は1,000㎢当たり。
2 電力のインフラストック価値は人口1万人当たり。

また表4での記載はないが、水利インフラ(水源設備、洪水対策、灌漑、上下水道等)に関しては、例えば貯水能力は米国の約1/3の612.2㎥/人となっており(2014年)、水利インフラを先進国レベルまでに引き上げるためには7.2兆US$が必要と試算されている。これに加え、中国政府は別途水利インフラ整備に1.6兆US$が必要と見積っており、トータルでは8.8兆US$(対GDP比81%に相当)の投資が必要となる。

上記3インフラに係る所要額のGDPに対する比率を図9に示す。

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」, ADB 図9.各インフラの整備の所要額とGDPに対する割合

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」, ADB
図9.中国での「先進国クオリティ」のインフラニーズ

2.4 中国の都市インフラ

近年、中国の都市部では急速な人口増加に対しインフラ整備の遅れが顕在化している。例えば、2013年の中国の都市人口10,000人当たり上下水道の管路延長(Pipeline Length)は日本の2006年時点のわずか17%であり、家庭等から出る排水のうち処理されている割合は18.2%となっている。

ADBは、2030年までに必要な都市インフラの整備資金は6.3兆US$と見込んでおり(表5参照)、内訳を見ると都市部の道路が2.2兆US$、地下鉄が1.9兆US$となっている。

表5.中国の都市インフラの所要額(2016~2030年)

表5.中国の都市インフラの所要額(2016~2030年)

地下鉄の所要額については、世銀と中国国務院発展研究中心による分析レポート「Urban China : Toward Efficient, Inclusive, and Sustainable Urbanization」4での試算に基づいている。具体的な試算方法は、2040年までの整備計画距離(14,187㎞)から、2011年時点の整備済み距離(1,672㎞)を引き、期間(29年間)で割ると、1年当たり整備する距離(432㎞)が算出される。これに建設単価(300百万US$/㎞)と2016~2030年までの年数(15年間)を乗じると1.9兆US$となる。なお地下鉄の建設単価は国や都市により大きく異なり、50百万US$/㎞~500百万US$/㎞の幅があるため本試算では中位の値(300百万US$/㎞)を用いている。

今回のまとめ

このように中国をはじめとするアジア諸国でインフラ資金の膨大なニーズが発生しているが、世銀やADB等既存の国際金融機関により賄われている投資額はそのうち約2.5%であり、ADB等による融資が比較的少ない中国とインドを除いてもその割合は10%程度に留まる。ADBのレポートでは、このインフラ資金ギャップを埋めるためにはPPP(Public Private Partnership)が有効であり、各国にPPP推進に向けた法制度や入札制度等の整備をアドバイスしている。

また民間資金の導入にとともに、政府によるインフラ投資も引き続き重要であり、投資財源確保に当たってはLand Value Captureが有効であると提言している。これはインフラ整備による地価上昇の利益をインフラ投資資金に充当する方法であり、例として日本の私鉄会社による沿線宅地開発のビジネスモデルがレポートで挙げられている。

同様に、中国における土地利用権の発行システムもLand Value Captureの取り組みの一つとして紹介されている。中国では、国有資産である土地の利用権の発行権限は地方政府に属し、宅地開発等に際し土地利用権を発行する対価として、土地利用権発行収入を得ている。この土地利用権発行収入は、地方政府収入の約3割を占める財源となっており(図10)、地方政府による省内のインフラ投資や、また地方政府所管の国有企業等を通じた財政政策実施の際の主要財源となっている。このため、鉄鋼や非鉄等コモディティの需要に大きな影響を及ぼす中国のインフラ投資状況を理解するに当たっては、地方政府の動向に注視する必要があると筆者は考える。

4 以下URLよりダウンロード可。https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/18865

出典:CEIC DataよりJOGMEC作成 図10.中国の地方政府財政と土地利用権発行収入

出典:CEIC DataよりJOGMEC作成
図10.中国の地方政府財政と土地利用権発行収入

次回(5月下旬発行予定)は近年、中国主導により設立され、上記の資金ギャップの一部を今後補完する可能性のあるAIIB、NDB(新開発銀行、通称BRICS銀行)及びシルクロード基金による供与案件等について報告する。また、中国の既存の政策金融機関である中国輸出入銀行と中国開発銀行も一帯一路政策の具体化に向け、近年、アジア・アフリカ地域での資金支援を拡大させていることから、これら機関の動向についても併せて報告する。第3回目(5月末頃発行予定)は、今回の報告でその重要性が改めて明らかになった中国のインフラニーズに関し、最大の需要セクターである電力に焦点を当て銅需要との関係について考察を行う。

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