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報告書&レポート

2017年8月10日 金属資源技術部 特命調査役 阿部幸紀、金属資源技術部 大久保聡、 バンクーバー事務所 杉崎真幸
17−17

9th Lithium Supply & Market Conference 2017 参加報告

<金属資源技術部 特命調査役 阿部幸紀 報告>
<金属資源技術部 大久保聡 報告>
<バンクーバー事務所 杉崎真幸 報告>

はじめに

Lithium Supply & Market Conferenceは、Industrial Mineralsが主催するリチウムの需給動向、生産技術、新規プロジェクト、主要用途であるリチウムイオン電池材料や電気自動車に関する動向を主題にした会議である。これまで、リチウム産出国であるチリのサンティアゴやアルゼンチンのブエノスアイレス、近隣にリチウム探鉱プロジェクトを抱えるカナダのモントリオールや米国のラスベガス、リチウム大消費国である中国の上海などで開催されてきた。9回目となる今回は、2017年5月30日~6月2日にかけて、再び会場をカナダ・モントリオールに移して開催された。その会議結果の概要について報告する。

1.会議の概要

本年の会議では、昨年来の高水準なリチウム価格が継続していることから、参加者が前回(ラスベガス開催)の264名から80名弱増となる341名(事前登録者数)に増加した。開催地のカナダおよび近隣の米国が最も多くそれぞれ約90名、探鉱が活発化している豪州が約60名、欧州からも約50名、日本・中国からは約20名弱、その他では南米、韓国等から参加があった。参加者の業種はリチウム原料生産者、リチウム探鉱ジュニア、リチウム案件に出資している・出資を考えている商社、リチウム生産に関連するエンジニアリング会社、リチウムユーザー、リチウムに関心を持つ投資会社、金属素材系の調査会社、市場アナリストなど多岐に亘っている。中でも、商社、ユーザー、投資会社の存在感が強まっていた。

9th Lithium Supply & Market Conference 会場の様子

9th Lithium Supply & Market Conference 会場の様子

2.発表内容

会議を通じて全20件の講演があった。発表内容は、「リチウム生産者から見た2020年までの需給見通しとリチウム生産開始・生産が軌道に乗るまでの過程の関係」、「電気自動車(Electric Vehicle:EV)の今後の進展及びそれに関する戦略がリチウム等の二次電池原料需要見通しに与える影響」、「中国のリチウムイオン電池・電気自動車ブームでの役割」、「チリを含む主要リチウム生産国の資源政策動向が今後のリチウム供給に及ぼす影響」、「2020年まででリチウム供給に影響を及ぼす要因は何か」、「商業規模操業を目指す持続可能なリチウムイオン電池リサイクル技術」、「新規リチウム抽出技術とそれらがリチウム市場に与えるインパクト」といったテーマの他に8件のプロジェクト紹介があった。

本稿では、今後のリチウムの需給動向を見通す上で特に重要と思われるEV進展とリチウム需要に与える影響についての講演及び探鉱・開発プロジェクトの動向に関する講演を取り上げ、その要旨を概説する。

<自動車業界から見た視点:電動化の戦略が二次電池原料需要見通しに与える影響、
Roskill Information Services,UK>

まず昨年の会議開催時(2016年5月)のリチウム需給を巡る状況(:まだTeslaがEV進展の牽引役と言う見方)から本会議開催までの状況変化(:中国のEV化政策・バスEV進展、ドイツ・インドの積極的なEV導入策)を前提に、自動車の電動化を主眼に置いたリチウム需要動向・今後の見通しにつき発表があった。

EV進展に大きく関与する外的要因(①EV価格、ガソリン価格と二酸化炭素排出量制限、②リチウムイオン電池のサプライチェーン制約と容易なリチウムイオン電池設計・組み立て及び大量生産、③原料の調達しやすさと回収効率の改良・鉱山への投資、④充電インフラ拡充とインフラネットワーク拡張・走行距離向上など)を整理した上で、5年以内にEVは経済性においてガソリン車に対する十分な競合性を持つのではないかとRoskillでは分析している。その結果、2025年までという長期で見れば全自動車に占めるシェアは完全電池型EV(BEV)が9%、プラグインハイブリッド車(PHEV)が7%、ハイブリッド車(HEV)が10%、48Vマイルドハイブリッド車が7%でEV類合計で33%のシェアを見込んでいる。

もう一つ、着目すべきは自動車の自動運転化やカーシェアであり、双方が進展すると全車種について販売数が減少する可能性がある。

このようなEV化の予測シナリオの下、まずリチウムイオン電池需要は2009年-2019年に10GWh→100GWhへ、2019年-2023年には100GWh→1,000GWhまで増加するとRoskillは算定している。

EV化に関わるリチウム需要に影響を与える、予想される要因(シナリオ)として、Roskillはインパクトが大きい順にEUと日本がドイツ並みの排ガス規制*を導入した場合、中国でのEV化が加速すること(以上リチウム需要にプラスのインパクト)、EVのパフォーマンスの向上による原料削減、中国経済の失速と周辺国への影響(以上リチウム需要にマイナスのインパクト)といったものを挙げており、インパクトは小さいものの、LFP(リン酸鉄リチウム)型正極材がEV向け電池市場でのシェアを失うこと(プラス)、コバルト供給制限によりリチウムイオン電池生産が限定的になること(マイナス)といったものも挙がっている。

2017年以降リチウム需要は年率17.7%で成長するという、かなり大胆な予測がなされていた。この予測シナリオによればリチウム全用途に占める二次電池向け需要の割合は2018年に50%、2025年には85%に達する見込みである(現況の二次電池向け需要の割合は30~40%程度)。筆者は、このシナリオはあまりに極端なものに感じられ、今後の検証が必要と思われる。

乗用車EV等向け各正極材、種類別シェアの予測を示す。今後はニッケル水素電池が減少の一途をたどりNMC(ニッケル-マンガン-コバルトの三元系)、LFP正極材のリチウムイオン電池が主導的になるという見方である。

なお、EV向け電池用正極材のシェアに関連して、①NMC、NCA(ニッケル-コバルト-アルミナのニッケル系)が多くの自動車メーカーの選択となる、②LFPについては特に他の正極材の禁制が進む中国で商用車や一部乗用車向けに用いられる、③高エネルギー密度ではNi含有量が増え、水酸化リチウムの消費が増える、と言う点に留意する必要がある。

このようにRoskillではリチウムの需要増大を見込んでいる訳であるが、需要(≒供給)とリチウム開発に要する投資の関係としては以下のとおり算定している。およそ数万t/年の生産能力の1件のリチウム開発プロジェクトにCAPEXとして数億$かかるのが通常であり、仮に1tLCE/年の生産能力に12,500$のCAPEXを要すると算定すると、先ほどの予測の2026年に1百万tLCE/年の需要を満たすには120億$の投資が必要と算定され、この金額はGigafactoryの初期設備投資額50億$と比べると大きく乖離した金額にも映る。

* EUではEU圏内統一ガス規制に倣い排出ガス規制値を設定しているが、ドイツでは旧西ドイツ時代の1985年より独自に厳格な規制値を設定している。

<新規プロジェクト紹介>

今回の会議で8件の開発中のプロジェクトにつき紹介があった。各プロジェクトの概略を表1にまとめた。8件中とりわけ重要と考えられる6件の概略を以下に記す。

図2.La Oroya製精錬所の銅、鉛及び亜鉛処理プロセス

表1.会議にて発表のあったリチウム探鉱・開発プロジェクト一覧

①Whabouchi鉱山-Shawinigan精製工場(カナダ、鉱石)、Nemaska Lithium, Canada

本プロジェクトはNemaska Lithiumがオペレーターで、カナダQC州のEeyou Istchee James Bay地域にWhabouchiスポジュメン鉱床を保有する。埋蔵量はLi2O平均品位1.53%、27.3百万t(推定・確定埋蔵量)となっている。Whabouchi鉱山では粗鉱処理量1.1百万t/年、6%のスポジュメン精鉱213千t/年を生産する計画で、鉱山(採掘場・選鉱施設)のCAPEXは239百万C$となっている。精鉱をトラックと列車で、モントリオールから北東に100㎞に位置するShawiniganの湿式精製プラントまで運搬する。同精製工場は製紙工場跡地に建造されており、近隣にHydro Quebecの水力発電所があり、安価な電力の供給を受けることが可能(発電所の発電容量100MWhで精製工場の消費量は1MWhとなる見込み)。また、操業に必要となる天然ガス、用水、鉄道といったインフラも整備されている。

リチウム製品の生産方法としては①精鉱を焙焼後、硫酸で溶かし→②不純物を除去(2段階+イオン交換)→③膜電解→④水酸化リチウム化、で最終的には水酸化リチウムと炭酸リチウムが製品として得られる。水酸化リチウムの生産コストは約2,200US$/t(キャッシュコストベース)を見込んでいる。生産能力は水酸化リチウムが28千t/年、炭酸リチウムが約3千t/年を見込んでいる。マインライフは26年を見込んでいる。鉱山・湿式精製プラントのCAPEXは549百万C$(鉱山:239百万C$、精製プラント:310百万C$)である。

本プロジェクトの実施に当たってNemaskaは第1段階(Phase 1)の小規模水酸化リチウム製造プラント(500t/年)の建造済みで、2017年第1四半期に始動している。このプラントは商業規模の設備を最小限の容量で運転させるものである。このプラントの目的としては、連続的に均質な商業的な製品サンプルを世界中のユーザーに供給可能にし、潜在的な顧客にプラントを訪問しサンプリングすることを可能にし、多くの顧客との複数のオフテイク契約を確保させることであり、Johnson Matthey Battery Materials Ltd(JMBM)との供給契約を満たすことにある。

この第1段階プラントの初期設備投資と2年間の操業費用を含めた予算額は38百万C$であるが、カナダ持続可能な発展技術基金(SDTC)から13百万C$の補助金を、QC州のTechnoclimatプログラムから3百万C$の補助金、ケベック資源公社(Resources Quebec)から10百万C$の出資を得ており、さらにJMBMが12百万C$を前払いする見返りに第1段階プラントから生産される同価額相当の製品やサービスをJMBMに提供する契約を締結しており、合計で38百万C$の資金調達済みである。なお、オフテイク先にはJMBMの他、FMCも挙がっており、この2社で生産量の50%を占める。実規模の生産は2018年後半に開始予定である。

今回の会議はNemaska Lithiumが共催者となっており、徐々にリチウム生産者としての地位を築きつつあることが見て取れた。

図1.Nemaska Lithium、Shawiniganの湿式精製プラントの概観

図1.Nemaska Lithium、Shawiniganの湿式精製プラントの概観

(Nemaska Lithiumホームページより引用)

②Pilgangooraプロジェクト(豪州、鉱石)、Pilbara Minerals, Australia

Pilbara Mineralsがオペレーター(権益100%保有)である。豪州WA州のPilbara地域のHedland港から南に120㎞に位置する。埋蔵量はLi2Oが1.26%、Ta2O5が132ppmで69.8百万tとなっている。粗鉱生産量は年間2百万tでLi2O品位6%のスポジュメン精鉱を314千t/年、タンタライトを321千lb(124t)/年、生産する計画である。なお、粗鉱生産量を4百万tに倍増することも計画している。マインライフ36年間を通じた生産コストは副産物のタンタライトの収入を含めてスポジュメン精鉱1t当たり207US$(CFR)である。初期設備投資(CAPEX)は234百万A$、スポジュメンの平均価格456US$/tという前提で税引き後IRRが44%となっている。2016年12月より鉱山施設の建設中で、生産開始は2018年3月を見込んでいる。オフテイク先としてはGanfeng Lithium(精鉱160千t/年)、General Lithium(精鉱140千t/年)(ともに中国資本)を想定している。

③Clayton Valleプロジェクト(米国、かん水)、Pure Energy Minerals,USA

Pure Energy Mineralsがオペレーターである。道路・電気網などのインフラが整ったNV州に26,300エーカー(106.4㎢)の鉱区を保有する。現在探鉱(ボーリング)段階にある。Li分が最大で209mg/LでMg/Li比が1.96と比較的低い。かん水を蒸発池で濃縮する代わりに、Tenova Batemanが開発した溶媒抽出法による炭酸/水酸化リチウム製造法であるLiSXの適用に向け検討を進めている。現在ボーリング結果の解析、資源量の算定、エンジニアリング調査、コスト試算を進めており、2017年6月以降にプレFSに着手する。

図2.Clayton Valleyにて検討中の生産プロセス

図2.Clayton Valleyにて検討中の生産プロセス

(Pure Energy Mineralsホームページより引用)

④Mt Marionプロジェクト(豪州、鉱石)、Mineral Resources Ltd, Australia

Mineral Resources ltd.がオペレーターで権益43.1%を保有する。この他、中国のGangfeng Lithiumが43.1%の権益を、Neometals ltd.が13.8%の権益を保有する。Neometalsは徐々に保有権益を減じる方向で、この13.8%の権益についても売却を検討中である。プロジェクトは豪州WA州のEsperance港から北に約250㎞に位置する。資源量はLi2O 1.39%で23.2百万t(概測+予測資源量)となっている。鉱山施設は建設済みであり、2017年2月より精鉱(月産15千t程度)を中国に向け出荷している。

現在の計画ではLi2Oが6%のスポジュメン精鉱の生産能力は400千t/年となっている。Mount Marionからの精鉱をGangfengに供給する他、Neometalsが70%、Minerals Resourcesが30%出資しReed Advanced Materials Pty. ltd.を設立し、WA州での水酸化リチウムの製造を目指す。水酸化リチウムはスポジュメン精鉱を塩酸で溶解しLiCl溶液を得た後に不純物を取り除き膜電解により生産される。Neometalsはこの生産方法をELiプロセスと称している。ELiプロセスの生産コストは水酸化リチウム1t当たりAlbemarleやSQMと同等の4,000US$以下との報告があった。ELiプロセスは2017年の第2-3四半期にMt Marion精鉱を原料に生産試験を、その後OPEX概算・投資判断(2018年第3四半期)をし、2020年第3四半期の始動を目指す。

またNeometalsは下流精製事業として、かん水にELiプロセスを適用することも検討するとともにリチウムイオン電池からのリサイクルについても検討している。

図3.Mt Marionからのリチウム製品

図3.Mt Marionからのリチウム製品

(Neometalsホームページより引用)

⑤Desert Lionプロジェクト(ナミビア、鉱石)、Desert Lion Energy

ナミビア・Erongo地方のKarabibから南東30㎞に位置し、240㎞離れたWalvis Bay港にリチウム精製工場を建造する計画である。鉱区内に過去にベリリウム、タンタルなどを生産していたHelikon,Rubicon他合計3鉱山を擁する。近い将来はこれらの鉱山の貯鉱、ズリ等からのリチウム精鉱生産を目指す。同社によればlepidolite鉱量10~15百万t(Li2O:1.2~2.0%)を目標に探鉱する。現在は予備経済性評価(PEA)の途上で2017年第4四半期にFSに着手し、2018年前半までに資源量を確定する。

⑥Rhyolite Ridgeプロジェクト(米国、鉱石)、Global Geoscience

Global Geoscienceが100%権益を有する米国NV州の鉱石プロジェクトである。TeslaのgigafactoryがあるRenoから350㎞、Albemarle(旧Rockwood)のSilver Peakリチウム鉱山(かん水)のごく近傍に所在する。リチウム鉱石としては一般的なスポジュメンと異なり、searlesite(ナトリウム-ホウ素-シリカ鉱物:NaBSi2O5(OH)2)が主要鉱物(鉱床の40%を占める)である。そのためホウ素に富んだ鉱床で硬度3.5と比較的軟らかい。発表によれば、粘土分が低く、不要成分の炭酸塩は比較的粗粒で浮選により除去可能である。酸浸出のみで有用成分(Li、B、Kなど)を抽出可能で、焙焼は不要とのことである。鉱区は北部層(20㎢)と南部層(9㎢)の29㎢からなり、過去に探鉱された経緯がある。資源量(予測+概測ベース)で393百万tで、Liが0.9% LCE、ホウ酸2.9%、硫酸カリウム1.7%、高品位帯では資源量65百万tで、Liが1.0% LCE、ホウ酸9.1%、硫酸カリウム2.2%となっている。

おわりに

昨年の会議では、明確な根拠不在でありながらも、直近のリチウム価格が高水準なこともあり、今後のリチウム需給に対して強気な見方が大半を占めている様な印象を受けたのに対して、今年の会議では中国でのEV化の進展(特にEVバス)といった明確な根拠の下、引き続きリチウムが「魅力的な」コモディティと受け取られている様である。それはリチウム案件に出資しようとしている商社や投資会社の参加が目立ったこと、プロジェクト紹介でもかなり「浅い」ステージの案件が散見されたこと、EV化の進展が軌道に乗りつつあり、今後の需要予測がかなり「強気」なものが多かったことなどにも見て取れる。

他方、豪州案件(鉱石生産)で生産開始にこぎつけたものもあるが、引き続きかん水の新規案件が期待されている状況であり、生産開始のタイミングが需要の高まりより歩調がやや遅い印象を受ける。

このように、様々な見方が錯綜する中、今後の需給がどのように推移するか注視していきたい。

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