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報告書&レポート

2017年10月3日 メキシコ メキシコ事務所 森元英樹・佐藤すみれ
17-24

パナマ共和国鉱業の見通し

―鉱業コンセッションの動向とCobre Panamá銅プロジェクトへの期待―

<メキシコ事務所 森元英樹・佐藤すみれ 報告>

はじめに

パナマ共和国(以下、「パナマ」という)では、2014年に大統領選挙が行われJuan Carlos Varela Rodríguez前副大統領が勝利し、2017年7月にはVarela政権誕生から3年が経過した。同大統領は、選挙中から、大統領選挙に勝利した暁には、新規鉱業プロジェクトの認可を一時凍結するとともに、既存プロジェクトの法的要件に係る調査を行うことを表明していた。Varela政権誕生後、国会議員により取りまとめられたモラトリアム法案が国会に提出され審議入りしたものの承認はされていない。しかし、Varela大統領が表明したとおり、就任後に新たに鉱業コンセッションが承認された実績はなく、パナマ鉱業界にとって厳しい状況が続いている。

このような中、パナマ鉱業の今後を占う試金石となるCobre Panamá銅プロジェクトの操業開始時期が報じ始められており、鉱山行政を所管する貿易産業省(Ministerio de Comercio e Industrias)、及び鉱業団体(CAMIPA)からパナマ鉱業の現状について情報を得ることができたことから、これらの情報を基にパナマ鉱業の現状及び見通しとして報告する。

1.パナマ鉱業をとりまく政治・経済事情について

(1)政治情勢

パナマは、大統領を元首とする複数政党制の議会を有する立憲共和制をとり、大統領が統括する行政府、一院制の立法府、司法府による三権分立制を確立している国である。大統領は、国民の直接投票により選ばれ、任期は5年、連続再選は禁止されている。

直近では、2014年5月に大統領選挙が行われ、2014年7月にVarela大統領が就任、その後3年が経過した。直近のパナマ政府の主要課題は、汚職撲滅、首都圏を含めたインフラ整備、2019年の統一選挙に向けた選挙改革があげられる。また、外交における注目点は、中国との国交樹立がある。2017年6月、パナマ政府は、「1つの中国」を支持し中国との外交関係を樹立させ、台湾との国交を断絶した。中国と国交が樹立したことから、パナマ国内では中国大使館の設置、及びあらゆる分野の両国間協定協議が進められており、今後、パナマにおいて政治、経済、文化をはじめ、多くの分野において中国のプレゼンスが拡大すると予想される。

パナマの鉱業分野の所管は貿易産業省であり、Varela大統領就任時には、国会議員であるMelitón Arrocha氏が貿易産業大臣に任命されたものの、2015年12月、Arrocha大臣(当時)は、議員としての職務専念を理由に大臣を辞職した。その後、2016年1月、大統領は、当時大統領府次官であったAugusto Arosemena Moreno氏を新大臣に任命し、現在に至っている。なお、同省には、商務産業、貿易を担当する副大臣ポストが設置されており、Varela大統領就任時から現在まで、鉱業を担当する商務産業副大臣にはManuel Grimaldo氏が起用されている。

(2)経済情勢

近年のパナマ経済は、外国資本の参入と高層ビル建設(写真1)、パナマ運河拡張(写真2)、メトロ1号線等の首都圏インフラ整備、アジア-米州間の貿易拡大によるパナマ運河、コロン・フリーゾーンの活況、金融及び観光セクターの成長がパナマ経済を牽引し、高い経済成長を記録してきた。しかし、第3次産業(現在はGDPの約8割)に依存する構造が長年続いていることから、パナマの産業構造は脆弱化が進み、さらには、燃料、鉱業製品を輸入に頼らざるを得ないことから恒久的な貿易赤字が続いている。この構造問題は、国民の生活に直結する雇用にも影響を与えており、パナマ政府の課題となり続けている。近年の政権が進めた雇用促進対策、公的投資により1990年代2桁台(IMF)であった失業率は、Varela政権誕生前年の2013年には4.1%まで低下したものの、Varela大統領は就任直後から、前政権が行った公共工事により膨れあがった公的債務を削減する必要があるとし、公共事業の見直し、財政責任法改正を推進した。その後、公共投資、インフラ整備に遅れが生じ、失業率は2014年4.8%、2015年5.1%、2016年5.5%と拡大している。

いずれにせよ、Varela政権は、貿易増加による運河・港湾産業の活況、観光業の拡大をパナマ経済の成長エンジンとし、同時に、現在進めているインフラ整備、第4運河架橋建設、道路拡張工事、トクメン空港第2ターミナル整備、上下水道設備整備等を順調に進め、失業率等の経済指標を改善させていく必要がある。

なお、前述のとおり6月の中国との国交樹立後、パナマ政府は台湾との経済関係維持を表明しているものの、パナマの海外直接投資額の約4%(国家統計センサス局:INEC)、アジアナンバーワンの直接投資国(約半分)である台湾との国交断絶は、投資構造に変化をもたらすことが予想される。

  • 写真1:パナマ市街(筆者撮影)

    写真1:パナマ市街(筆者撮影)

  • 写真2:パナマ運河(筆者撮影)

    写真2:パナマ運河(筆者撮影)

(3)エネルギー情勢

発電事業のコモディティ化の進展は、パナマのエネルギー構造にも変化を与え始めており、新エネルギー分野(水力、風力、太陽光)の2016年GDP成長率は8.9%(INEC)と非常に高い結果となった。また、天然ガス分野では、2016年5月からColón県Telfers島において中米初の天然ガス発電所(381MW)の建設工事がAES Colón社により進められており、2018年5月に発電を開始する計画である。加えて、2017年4月には、国交樹立を前に、中国のShangai Gorgeous社が900百万US$を投じ350MWの天然ガス発電所を建設し2020年に同発電所の操業を開始する計画を発表し、パナマを拠点とした中南米のインフラ進出の考えを示した。

このような中、パナマ政府は、天然ガスの利用促進(図1)を図るため、法制度整備を進めている。2017年4月、国営送電公社(ETESA)は、パナマでの石油・天然ガス開発を確約したものではないとしつつ、パナマ沿岸の石油・天然ガス埋蔵量調査の入札を実施した。さらに、同7月、公共サービス庁(ASEP)は、天然ガス供給の整備が不十分であるとして、「天然ガスの公共サービス提供に向けた制度・規制案」のパブリックコメント(意見募集)を行っている。なお、同案には、炭化水素資源の探査、開発に関係する条文も含まれている。

図1.2016年パナマの石油製品消費割合

図1.2016年パナマの石油製品消費割合

出典:貿易産業省

2.パナマ鉱業について

(1)パナマ鉱業行政

鉱業行政は、貿易産業省が所管しており、商務産業副大臣(Viceministerio de Comercio Interior e Industrias)が、鉱業、商務、産業・企業振興の3つの局を担当しており、同副大臣の管理の下、国家鉱物資源総局(Direccion Nacional de Recursos Minerales)が鉱業全般を管轄している(図2)。

図2.2017年パナマ貿易産業省鉱業関連組織図

図2.2017年パナマ貿易産業省鉱業関連組織図

出典:メキシコ事務所作成(貿易産業省提供資料)

パナマ憲法には、パナマの鉱物資源は、国家財産であり、法律に定める形式、条件により開発が可能であると定められており、鉱物資源法において、パナマでの鉱物の探査、採掘は基本的に民間主導と民間投資で行うことを奨励し、鉱業コンセッション、鉱業ロイヤルティなどを規定し、開発を促進する仕組みとなっている。なお、鉱業コンセッションは、地表踏査許可、探鉱コンセッション、採掘コンセッション、輸送及び選鉱コンセッションがある。その他、外国企業が鉱物資源開発を行うにあたり関連する法律としては、投資保護法、環境基本法などがある。また、公社は、Cerro Colorado鉱山開発公社が過去に存在したが、2012年のNgöbe-Buglé自治区資源保護法の成立により解散となり、現在、鉱業関連の公社は存在しない。そのため、金属、非金属及び鉱業サービス企業が加盟し1990年に設立されたパナマ鉱業会議所(CAMIPA)は、非営利団体としてパナマ鉱業の発展に向けた活動を行っており、同会議所会頭によると、2017年8月現在の会議所会員企業数は41社、うち金属鉱山企業は5社(表1)であり、パナマ政府に対し、違法鉱業への規制強化、エネルギー鉱山省の設立に関する意見書を提出するなどの活動を続けているとのことであった。

表1.CAMIPA会員企業(金属)

表1.CAMIPA会員企業(金属)

出典:メキシコ事務所作成(貿易産業省提供資料及び各社HP)
注)2017年8月、First Quantum Minerals社は、韓LS-Nikko Copper社が保有する10%分の株式購入に合意

(2)パナマ鉱業の現状

パナマの鉱業生産実績は、2013年にMolejon金鉱山(Colön県)が操業を停止(2014年第1四半期までストックによる生産は継続された。)して以降、パナマにおいて操業を行っている鉱山は1つもない。しかし、その他の中米諸国と同じように、パナマもスペイン植民地時代から、金の採掘が行われてきた歴史があり、1990年以降に開発された主な鉱山としては、パナマ企業(Transworld Exploration社)による合弁会社(Minera Remance社)が1990年に操業を開始したRemance金鉱山(Veraguas県)、加Greenstone Resources社が1994年に操業を開始し1999年に操業を休止したSanta Rosa金鉱山(Veraguas県)、加Petaquilla Minerals社が2010年に操業を開始し2013年に操業を停止したMolejon金鉱山などがある。

現在、金をターゲットとして登録されている鉱業コンセッションは11件(探鉱、採掘、移送)あり、操業停止後、パナマ企業(Vera Gold社)が鉱業コンセッションを保有しているSanta Rosa金プロジェクト、Cobre Panamáプロジェクトに続く開発が期待され、採掘コンセッションが既に設定されているCerro Quema金プロジェクト(Los Santos県)などがある。

また、銅に関しては、1960年代にパナマ政府及び国連開発計画(UNDP)により実施された調査により、パナマが南米から北米にかけて連なるポーフィリーカッパー鉱床(斑岩銅鉱床)ベルトに位置することが明らからになったことから探鉱が進められ、これまでCerro Colorado及びCerro Chorcha(ともにNgöbe-Buglé自治区)と言ったプロジェクトにおいて高いポテンシャルが確認されている。現在、銅をターゲットとして登録されているコンセッションは2件(探鉱及び採掘)あり、今後のパナマ鉱業の試金石となるCobre Panamáプロジェクトは2018年末乃至2019年初頭に商業生産を開始する計画である。なお、過去の調査において高い銅のポテンシャルが確認されているNgöbe-Buglé自治区は、2011に発生した先住民Ngöbe-Buglé及び環境保護団体による激しい反対運動により、前述の法案が国会で承認されたため、同自治区において鉱山、水力発電に関連した一切の開発プロジェクトは禁止されている。そのため、先住民Ngöbe-Buglé族の鉱業への考えに変化が起こり、同法案が改正又は廃止されない限り、同自治区において鉱業コンセッションが設定されることはないと考えられる。

その他、パナマでは、マンガンの生産実績があり、現在、Veraguas県、Colön県にマンガンの探鉱コンセッションが3件設定されている。

図3.主要鉱山・プロジェクト位置図

図3.主要鉱山・プロジェクト位置図

出典:メキシコ事務所作成(貿易産業省、CAMIPAヒアリング等)

(3)鉱業コンセッション承認件数(鉱業モラトリアム)

前述のとおり、Varela大統領は、大統領選挙中から新規鉱業プロジェクトの認可一時凍結(鉱業モラトリアム)、既存鉱山及びプロジェクトの法的要件の確認を表明し、2014年末にはパナマ議会議員の発案により、鉱業モラトリアム法案が国会に提出され、審議が開始されたものの、審議は終了せず同法案は承認には至っていない。また、2015年11月には、Manuel Grimaldo副大臣が非金属の鉱業コンセッション付与の再開を示唆したものの、これは、パナマのインフラ整備に必要な砂利、砂等の確保のための措置と考えられており、引き続き、金属に係る鉱業コンセッションの承認プロセスは停止している。そのため、2014年以降に申請された鉱業コンセッション(金属)は1件もない(図4)。

貿易産業省HP(http://www.mici.gob.pa/base.php?hoja=homepage 新しいウインドウで開きます)では、前述した鉱業コンセッション承認16件及び申請中の鉱業コンセッション136件(2017年7月現在)が確認できるが、貿易産業省国家鉱物資源局に同内容を確認したところ、申請中の136件中のうち2件は鉱業申請書が同省に存在しないため正確な申請件数は134件とのことであった。また、現在、鉱業コンセッション申請者の確認作業を進めており、鉱業申請者が不在の案件は、今後、申請の取り下げ措置を講じ、鉱区開放に努めていきたいとのことであった。

一方、パナマ鉱業会議所によると、貿易産業省に鉱業コンセッションを申請したとしても、環境影響評価書の受け取りを環境省が停止しており、貿易産業省も申請手続き後の延長等の措置を認めないため、鉱業コンセッション制度が全く機能しない状況が続いているとのことであった。

図4.鉱業コンセッション申請件数

図4.鉱業コンセッション申請件数

出典:貿易産業省

(4)鉱業資源法改正(鉱業ロイヤルティ)の動向

2012年の鉱業ロイヤルティ利率の見直しに係る鉱業資源法改正以降、2013年に当時の貿易産業大臣が、鉱業ロイヤルティの地方自治体への配分比率を高めるため、鉱業ロイヤルティの引き上げを示唆したが、CAMIPA会頭によると、Molejon鉱山の操業停止以降、パナマにおいて鉱業生産実績がないことから、法改正を行うモメンタムがないとのことであった。しかし、同会頭は、パナマ政府の対応、規制が十分機能しなく違法採掘が横行している現状を踏まえVarela大統領宛てに書簡を発出しており、同書簡には、貿易産業省による鉱物資源に関する適切な監督がなされていないこと、また、同省には鉱山技術や地質専門家が不足していることを指摘するとともに、膨大な鉱業コンセッションの申請案件については、法令上の全ての要件を満たしているにもかかわらず承認されない上、承認が下りない理由も不明瞭であると政府の対応を痛烈に批判し、新たにコンセッションが承認されないことが違法採掘を助長する結果に繋がっているとの意見を示し、鉱業の大幅な成長を促進するための緊急措置を講ずることを政府に具申したものの、回答は未だにないとのことであった。

(5)Cobre Panamáプロジェクトの最近の開発状況

パナマシティ西約120km、カリブ海沿岸まで20㎞のColón県に位置する。鉱業コンセッション面積13,600ha、過去にMolejon金プロジェクトとの分離、カナダ企業間での買収、2009年の韓LS-Nikko Copper社の参画等を経て、2013年4月、加First Quantum Minerals社が加Inmet Mining社を買収し、First Quantum Minerals社80%、韓国鉱物資源公社(KORES)10%及び韓LS-Nikko Copper社10%の割合で権益を保有する現在のMinera Panamá S.A.社体制となった。

なお、2017年9月、同社は、加Franco-Nevada社と同プロジェクトから生産される貴金属の引取契約を締結、また、同8月には、韓LS-Nikko Copperが保有する同プロジェクトの権益10%を買収し、加First Quantum Minerals社の保有割合は90%に引き上げることとなった。なお、残り10%は、引き続き、韓国鉱物資源公社(KORES)が保有することとなっている。

表2.CobrePanamaプロジェクト精測・概測鉱物資源量

表2.CobrePanamaプロジェクト精測・概測鉱物資源量

出典:加First Quantum Minerals社HP

これまで鉱山開発に関し慎重な姿勢を示してきたVarela大統領であったが、2017年9月、同大統領は、同プロジェクトの開発状況(投資額:5,480百万US$)と関連設備の建設工事を視察した。視察後、工事進捗率は62%まで進展しており、2019年1月に商業生産が開始されると述べるとともに、同プロジェクトはパナマ運河、観光業と並ぶパナマの貴重な収入源になるものであり、投機的なものから、パナマ経済、労働者への利益といった現実性のあるものに変化していると同プロジェクトの重要性を強調した。

また、CAMIPA会頭へのインタビューでは、現在資金調達、開発ともに順調に進んでおり、数か月後には自家発電設備が完成する予定である。労働者の約25%が地元からの雇用者であり地域の貢献度は大きい。しかし、同プロジェクト開始後には、巨大なロイヤルティが政府に入ることとなるが、政府の体制、ロイヤルティ管理機関、使用方法などに問題があり、不安が残るとのコメントであった。

おわりに

Varela政権が誕生してから3年以上が経過し、パナマ鉱業は、鉱業生産がないことから、ロイヤルティの引き上げを含めた鉱業資源法の改正及び環境規制の強化等の動きはないものの、過去の環境問題、反鉱山運動の動きを背景としたVarela政権の方針により、鉱業コンセッションの承認プロセスは全く機能していない状況が続いている。

今回、情報を聴取した全ての関係者が同じコメントを述べているが、過去の反鉱山運動の記憶が鮮明に残るパナマにとって、Cobre Panamá銅プロジェクトの成功、具体的には、同プロジェクトがパナマ経済を牽引し、雇用創出などのプラス要因を先住民及び世論が理解し、鉱業に対し一定の評価を与えるものとなり、その動きを政府が適格に捉え、鉱業コンセッションの承認に向けたアクションを起こす必要があると考えられる。9月のVarela大統領のCobre Panamáプロジェクト視察後の発言は、このようなメッセージ性が含まれるものであると捉えざるを得ない。

そのため、短期的にパナマ鉱業を把握するためには、Cobre Panamá銅プロジェクトの動向を把握し続けることが重要である。同プロジェクトは、2018年末乃至2019年初頭に商業生産を開始する計画であることから、今後は、同プロジェクトの開発状況のみならず、Minera Panamá社のCSR活動、パナマ政府の鉱業PR活動及びその他の既承認プロジェクト、特にCobre Panamáプロジェクトに続く案件として期待されているCerro Quema金プロジェクトの状況について、適宜、情報収集を図りつつ、パナマ政府及び世論が鉱業全般をどのようにパナマの持続的成長の枠組みに組み込んでいくのか、また、石油・天然ガス鉱業の開発に向けた動きが出始めていることから、金属のみならず、石油・天然ガスを含めた資源開発全体の動向について情報収集を進めていくことがパナマ鉱業を理解する上で重要であると考える。

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