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報告書&レポート

2017年11月1日 調査部 金属資源技術研究所 濱井昂弥、金属環境事業部 林健太郎
17-26

鉱業の環境保全に関する国際学会IMWA2017参加報告

<金属資源技術研究所 濱井昂弥、金属環境事業部 林健太郎 報告>

はじめに

2017年6月25~30日、フィンランド・ラッペンランタにおいて開催された鉱業の環境保全(鉱害防止)に関する国際学会「13th International Mine Water Association Congress(IMWA 2017)」に参加し、調査研究事業の成果発表ならびに坑廃水処理技術開発に関する海外の動向調査をはじめとした情報収集を行った。

当大会には開催国であるフィンランドを中心に、スウェーデン、イギリス、スペインなどの欧州各国や、南アフリカ共和国、チリ、オーストラリア、中国、韓国など、37か国から約380名が参加した。日本からはJOGMECの他、秋田大学からの参加があった。講演テーマは自然力活用型坑廃水処理(以下、パッシブトリートメント)技術の他、坑廃水処理全般、シミュレーションモデリング、閉山処理などがあり、約170件の講演と約50件のポスター発表が行われた。

本報では、情報収集の結果としてパッシブトリートメントに関連するいくつかの講演を報告する。

写真1.IMWA2017 メイン会場の様子

写真1.IMWA2017 メイン会場の様子

1.JOGMECの講演概要
(発表名:Compact Passive Treatment Process for Acid Mine Drainage Utilizing Rice Husk and Rice Bran – Process Optimization)

JOGMECでは、国内休廃止鉱山における坑廃水処理事業のコスト削減に資するため、微生物などの自然界の浄化作用を活用する、パッシブトリートメント技術の調査研究を行っている。この調査研究において、硫酸還元菌(以下、SRB)の働きを活用して坑廃水中に含まれる金属を硫化物として処理するプロセスを検討しており、これまで中性坑廃水・酸性坑廃水を対象に研究所内における基礎試験や、複数の現地実証試験を実施してきた。近年では国内休廃止鉱山への実導入のためさらなる適用性の向上を目的に、滞留時間の短縮とそれによる設備のコンパクト化に関する研究を行っている。

微生物を活用する当プロセスは、微生物の活性・菌叢の構成状況が処理性能に大きく影響することから、これらの解析は非常に重要である。そのため、従前より微生物解析に関する多くの取り組みがなされてきたが、近年は次世代シークエンサーの登場もあって、世界的に微生物解析による研究が進みつつある。

当講演では、JOGMECプロセス(SRBの栄養供給源として米ぬかを使用するもの)において、滞留時間を短縮した場合の菌叢変化に着目した微生物解析を行い、これを化学分析結果と照らし合わせることで、最適な運転条件を検討した結果を発表した。

海外では低温環境下(嫌気反応槽内部温度が5℃程度まで下がる条件)かつ滞留時間24時間以下の条件において無動力で処理する事例は少なく、聴講者からは「このような低温環境・短い滞留時間で処理が行われていることに驚いた」、「低温環境に強いSRBはどうやって用意したのか(注)」などのコメントが寄せられるなど、低温かつ短滞留時間で処理を行うJOGMECプロセスに対する聴講者の関心は高かった。

(注:JOGMECプロセスでは、特別なSRBを用意するわけではなく、嫌気反応槽内に混ぜる鉱山周辺の地山土壌や、処理原水である坑廃水中に存在するSRBが反応槽内で活動していると考えられている。なお、JOGMECプロセスの詳細については“坑廃水に関する国際学会10th ICARD参加報告(No.15-33)”を参照されたい。)

2.薬剤添加方式による自然力活用型坑廃水処理のケーススタディ

著者らが参加したショートコース“Advanced Passive Bioreactor Design and Operation”において、講師を務めたPh.D. André Sobolewski氏(Clear Coast Consulting, Inc. 所属)から、SRBが直接利用可能な低分子有機物を溶液で添加する、Semi-passiveともいえる薬剤添加方式によるフルスケール規模の研究事例について紹介があった。

SRBは低分子有機物(酢酸、乳酸など)を利用し硫酸還元反応を起こすため、嫌気反応槽内にはこれの供給源として、ウッドチップやコンポストなどの固体を一般的に混ぜ込んでいる。栄養供給源そのものはSRBが直接利用できないため、プロセス内では多種多様な微生物が徐々に低分子有機物まで分解した後、それをSRBが利用することで処理が行われている。このとき、栄養供給源が低分離有機物に分解されるまで、ある程度以上の時間を要し、また温度などの環境によって反応性が変化する。これに対し、低分子有機物を直接添加する場合は、その溶液の添加手法の工夫が必要となるが、栄養供給源を分解する必要がないため滞留時間を短縮でき、さらに処理性が安定するなどのメリットがある。

ショートコースにて紹介された事例では、カナダ BC州の休廃止鉱山におけるフルスケール規模の試験で、鉄・アルミニウム・銅・亜鉛・カドミウムを含む酸性坑内水を処理している。冬季は水温が5~7℃程度まで低下しSRBを含めた微生物の活性が低下する環境であるが、SRBが直接利用可能なエチレングリコールを直接添加することで、滞留時間6時間と、非常に短い時間での処理が可能となっている。また、エチレングリコールは凝固点が低いことから、同現場のような低温環境でも利用可能という特徴もある。

写真2.フルスケール試験装置外観(Ph.D. André氏の資料から引用)

写真2.フルスケール試験装置外観(Ph.D. André氏の資料から引用)

同鉱山の坑内水は、当初は水量が多く、現場に設置可能なパッシブトリートメント設備の処理能力を超過する水量であった。これに対し同氏らは坑内の各地点で水量・水質調査を行い、坑内水の流路や主な発生源となるポイントを特定し、ここを地下水が通らないよう対策を施すことで、当初の半分以下まで水量を低減した。これにより、パッシブトリートメントによる全量処理が可能となった。

当事例では薬剤添加方式を採用することにより低温環境・短滞留時間の条件での処理を可能としており、また清濁分離により全量処理を可能にしたなど、非常に興味深い事例であった。

また、このショートコースではパッシブトリートメントの運転管理について紹介があり、山奥や坑内、積雪が深い現場などアクセスが困難な遠隔地に導入する場合には、太陽光発電等を活用した機器により水質モニタリングや流量・滞留時間の調整、反応槽内の水位調整、バイオフィルム除去などを行うことも重要であるとの話があった。

3.鉄・ヒ素を含む坑内水に対するフルスケール試験事例
(発表名:Passive Mine Water Treatment with a full scale, containerized Vertical Flow Reactor at the abandoned Metsämonttu Mine Site, Finland)

鉄・ヒ素を含む坑内水を対象としたパッシブトリートメントのフルスケール試験として、フィンランド ラッペンランタ工科大学のPh.D. Christian Wolkersdorfer氏から発表があった。

実証試験現場であるMetsämonttu鉱山は、フィンランドのサロ(首都ヘルシンキより西約110km)に位置する1974年に閉山した坑内掘りの銅・鉛・亜鉛鉱山であり、現在はその竪坑跡から10mg/L前後の鉄と0.055mg/L程度のヒ素を含む坑内水が流出(最大流量:35L/min)している。

同氏の研究では、この坑廃水をコンテナ仕様のVFP(Vertical Flow Pond、鉛直流型リアクター)により処理するプロセスを採用しており、VFPの内部は、底部に砂利が敷き詰められているのみでその大部分が処理水で満たされるという構造である。

その処理メカニズムとしては溶存する鉄イオンをFe3+に酸化させ、水酸化物として析出した鉄を底部の砂利層で捕捉し除去するシステムとなっている。鉄イオンの酸化や水酸化物としての析出反応は、pHやORP(酸化還元電位)、DO(溶存酸素濃度)のコントロールによる化学的要素と、鉄酸化細菌などの微生物学的要素が関係している。

写真3.etsämonttu鉱山における現地試験設備(VFP)

写真3.etsämonttu鉱山における現地試験設備(VFP)

試験開始後、低温環境になる冬季に処理性能が除去率90%から20%程度まで低下した。この原因として、鉄酸化のためのDO不足と底部に敷き詰めた砂利層の粒径に課題があると考えられ、例えば冬季でも利用できる太陽光方式の攪拌曝気装置や、水酸化鉄の捕捉に最適な砂利の粒径調査等の必要がある。

また水質分析結果からはヒ素がVFP内で除去されていることが判明しているものの、XRD(X線回折)やSEM(走査型電子顕微鏡)など分析結果からはどのように除去されているか不明であり、ヒ素除去のメカニズム解明も課題であるとのことであった。

4.地下の坑廃水に対するIn-situ方式によるパッシブトリートメントの適用

地下を浸透する坑廃水を対象としたIn-situ方式の処理方法に対する取り組みについて、ドイツ ブランデンブルク工科大学のPh.D. Ralph Schöpke氏より発表があった。

本取り組みは、人工湿地方式による坑廃水処理には広い設置面積の確保が必要となるという課題を解決するため、坑廃水が地表に湧水する前の地下(帯水層)で硫酸還元反応を起こし、帯水層内で処理をするというコンセプトの研究である。

鉱化帯を通過した鉄や硫酸を多く含んだ坑廃水が流れる帯水層に、SRBが利用する低分子有機物(グリセリン)と窒素・リン源を直接注入し、SRBの働きにより硫酸イオンを硫化水素イオンに還元し、これと鉄イオンを反応させることで硫化鉄として除去するメカニズムとなっている。(概念図を図4に示す)

同氏の研究では、実試験の他シミュレーションによる効果予測を行っている。シミュレーションにはPHREEQC(地球科学コード、アメリカ地質調査所)を用いており、化学反応と生物反応を定式化して平衡計算をモデル化し、1次元の移流拡散方程式により再現を行っている。

図1.概念図(Ph.D. Schöpke氏の資料より引用)

図1.概念図(Ph.D. Schöpke氏の資料より引用)

シミュレーションによる効果検証において、経年変化について調査を行ったところ、処理開始から900日経過時点で、帯水層内の鉄イオン濃度が流下に伴い上昇する現象が再現された。これは、それまでの処理により帯水層内に蓄積された硫化鉄が、アルミニウムやカルシウムとイオン交換を起こし、鉄が溶解したことによるものだと考えられている。

おわりに

この度参加したIMWA2017では坑廃水処理に係る発表が多く見受けられ、その中で遠隔地の休廃止鉱山での対策を考慮し、いかに恒常的な負担を減らすか、という観点から様々な研究がなされていると感じた。

そのような中、「2.薬剤添加方式による自然力活用型坑廃水処理のケーススタディ」に示した事例では清濁分離により処理水量をパッシブトリートメントでの全量処理が可能な量まで低減したわけであるが、この様に「パッシブトリートメントが有効に活用できるよう現場に対策を講じる」ということも非常に重要である。すなわち、季節変動や降雨などによる水量増加によりパッシブトリートメントの適用は困難という考え方ではなく、元より既往設備でも水量増加は課題であることから、そのようにならないよう現場に対策を講じるような計画も重要である。

海外においてもプロセスとして抱える課題・研究の方向性は同様であり、更なるプロセスの改良を目指す我々にとって、種々のケーススタディの情報収集ができた本大会は非常によい機会であった。

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